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ELEMENT 2017冬号  作者: ELEMENTメンバー
セッション・ソロ
11/16

発明☆パニック(作:葵生りん)



(ぜっってぇ、ミワは譲らねぇ!!)


 湯気の立つコーヒーカップに口をつけながら、ちらりと横目にマルオの様子を伺う。


 オレは知ってる。

 ミワの奴が幼なじみののオレを差し置いてマルオなんかを好きなことも、最近惚薬を発明したってこともな!


 マルオはミワの気もオレの気も知らずにのんきに目の前に置かれたカップを手に取り、口へと運ぶ。そしてミワは恐る恐るお盆に残っているカップを手に取っている。



 ミワは直前でくるりとお盆を回した。あれはきっとマルオが取るように、だ。ということは、一番右のカップに例の惚薬が入っているとオレは睨んだ。

 こぼれそうになったところをオレが取ったのは一番左と真ん中のカップ。


(惚薬を飲むのはミワ、お前だ! そしてオレに惚れるがいい!存分にな!!)


 さながら悪の帝王のようにくくくくくっと心の中で笑いながらカップに口を付け、あっつあつのコーヒーを一気に飲み干す。


「飲まないのか?」

「う、うん……まだ熱いから」


 カップを鼻先に近づけたまま、漆黒の液体を睨んでいるミワが、コーヒーを飲み干したオレを疑わしげに睨んでいる。

 そんな姿もかわいい。かわいいなぁ、おい!まるでふさふさしっぽのリスだぜ!?

 マルオはカップに口をつけたまま、ふぅふぅと息を吹きかけているだけでまだ飲んでいない。


「マルオ君、猫舌なんだ?」

「うん」


 照れ笑いを浮かべたマルオにミワの奴、頬を赤らめてうつむきやがった。気に食わねぇ……。

 憤然と沸き上がる気持ちを、今だけだと宥めて平静を取り繕う。


「ふたりともさっさと飲んで(その惚れ薬入りのコーヒーをな!!)買い物行こうぜ?」


 うっかり口から滑り出そうになった心の声を押しとどめて取り繕う。

 口に出したら台無しだ。

 ミワがあれを飲んだら、ギャルゲーでしか見ないようなうるんだ瞳でオレを見上げて……ぐふっ。


「そうよね!買い物、楽しみだわ~!!」


 やたらと力一杯、両手でカップを握ってコーヒーを睨んだミワが、おっさんのビール一気呑みかよ!という勢いで腰に手を当てぐいっとコーヒーを飲み干した。

 ふ、そういう潔いところも大好きだぜ!


「よっし! ミワ、オレを見ろっ!!」

「ふっ、ふふふふふ……」


 ガッツポーズを決めながらミワに声をかけるオレの隣から、不気味な笑い声があがった。


「……マルオ……?」


 いつもは出来杉みたいな奴なのに、俯いて歪んだ口元だけがうっすらと見える姿は怪しい薬を試そうとしているマッドサイエンティストそのもの――はっ!まさか!?


「マルオくん……」


 ばっと返り見たミワは、胸の前で両手を組んでうっとりとマルオを見つめていた。

 ちぃっ! マルオに気を取られて出遅れたぁ!!


「マルオ、お前なにをした!?」

「ボクは別になにもしていないさ」


 気障ったらしく前髪をかきあげる仕草、心底ムカつく。


「ただボクの開発した惚れ薬をミワちゃんが偶然大発明するようにお膳立てをしたくらいだね」

「なにが目的でそんなことを……!」

「ふっ、これぞマッドサイエンティストの夢!人体実験さ!!」

「……うふっ、そんなマルオ君もス・テ・キ☆」


 堂々と悪事を宣言したマルオに、ミワはぞっとするほど熱い視線を送り続ける。


「あーんなことやこーんなことや……うふっ、うふふふふ♪」

「………………っ!?」


 なんだか怪しげなことを呟きながらゾンビのようにフラフラと近づいてくるミワに、マルオは後ずさった。


「ふっ、バカめ。ミワの本性も知らずに惚れ薬の実験体にするからだ!」

「ほっ……本性?」


 ピカーン☆と光る両目はまさに獲物を狙う鷲のごとし。

 獲物のほうは逃げ腰で椅子の裏に隠れたが、


「うふふっ。マルオくんったら、かくれんぼ?」


 不気味な声でゆらりと椅子を回ったミワは、目の輝きをさらに強くする。


「見ィつけたァァァ……」

「ヒィッ! た……助けてくれ!!」


 ぐわしっ!と肩を掴まれたマルオが悲鳴をあげ、助けを求めてオレをみる。


「解毒薬とかないのかよ?」

「はっ、そうか! これだ!これを……」


 押し倒されたマルオがジャケットの胸ポケットを探って、オレに手を伸ばす。受け取ると怪しいくらいショッキングピンクの粉の入った包み紙だ。


「頼む、それを……飲み物に混ぜて、口移しで……」

「くっ……口移しだとぉぉっ!?」


 どういう設計だ?

 まあいい、ミワの唇を奪ういい口実じゃないか!

 ふっ、ふふふふふ。


「ミワ!」


 残っていたマルオの分のコーヒーに溶かして口に含むと、ぐいっとミワの肩を掴んでマルオから引きはがし――いわゆる、アレだ。女の子の憧れ、床ドン。……の、体勢を取る。


「ぎぃやぁぁぁぁぁっ!」


 解毒薬を与えられたミワは光を浴びた吸血鬼のような断末魔の叫び声をあげた。


「なにしてくれてんのよ! ショウジの、バカァァッ!!」


 渾身のアッパーを食らったオレは、一瞬意識が遠のいた。


(ふっ、相変わらずいいパンチだぜ、ミワ……)


 虹色の空を移す美しい川岸で死んだバアサンが帰れっていう夢を見たが、今はおいておこう。


「もう、マルオくん行こっ!」

「あんだよ、魔の手から救ってやったのに。人工呼吸みたいなもんじゃないかよー」

「ショウジはついてこないでよね!!」

「おーいー、話し聞けって――」


 ぐいぐいとマルオの腕を引きずって出かけようとするミワを、のんびりと追いかける。


 この程度の騒動、ミワが以前作った人の心の声が聞ける薬の時の修羅場に比べたらかわいいもんだ。他にも触った物を凍らせる体質になる薬に、一瞬だけ未来が見える鏡に服が透ける眼鏡……いろいろ作ったが、さて次は誰がどんな発明をするかな。





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