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「ふむ、姉妹なのにドラゴンの種族は違うんだね。夏樹は赤なのに響さんは金色なんだね。
ドラゴンの形は違うけど人になったときは同じ顔かあ・・・。不思議だー」
「いえ、私達はドラゴンとして生まれてないので・・・」
「ああ、そうだったね。夏樹は実験でドラゴンになったんだっけか。そうかあ、響さんも実験に
参加したんだ。私もドラゴンになれないかな?駄目かな」
「私からはなんとも・・・それよりも竜輔さんの事を話してもらえませんか?」
「ああ、そうだったね。ここで話す?それとも移動する?」
僕らはアイネアスさんに断ってドラゴンの塒の休憩室を使わせて貰った。
すでに勝手知ったる感じになってきた場所なのだけれど、既に夜も更けてきたので
一応断りをいれた。
アイネアスさん自身はこの件に関係ないけれど部外者(茉莉花さん)がいるのでお目付け役として
話を聞くことになった。
その前に姉さんに本当に竜輔さんの子供なのかを聞いてみたのだが、「嘘つく意味が無いし、話も
合っていた」との事。成る程。正直僕には本当か嘘かの判別がつかない。
それよりも響さんは大丈夫なのだろうか?先日の事が思い出されてしかたない。
僕と和音ちゃん、響さんで夫婦みたいだと言われたときの動揺した姿が忘れられない・・・のだが、
先ほどの竜輔おじいちゃんと夏樹さんが発言したときは何も反応していなかった。
本当におじいちゃんとしての反応だった。もしかしておじいちゃんの竜輔さんは擬似魂だからという
区別がついている、という事なのだろうか?
「さて、私が貴女達の叔母だって話だね。こうやって会えたことが嬉しいよ。じゃあ、どこから
話そうかな・・・そうだね・・・私の父は小路 竜輔だ。そして母なのだが・・・」
「私の母は君達がオークと呼んでいる存在だ」
茉莉花さんは確かにそう言った。
「私が父から聞いた話は、あなた達が転移装置と呼ばれるものが破壊されたときの闘いで敵に
囚われる事になり、奴等の元へ連れていかれたという話だった。
奴等というのは勿論、オークだ。父は最初奴等に捕虜にされるという事に驚いたそうだ。
それまで殺される事はあっても生かしておく事などしなかった種族だったから自分が生かされて
いるのが不思議だったと言っていた。まあ、その理由は・・・。
捕まったときの怪我も手当てされ、食事すら出されたそうだ。だが・・・この後、父は・・・」
「奴等の相手をさせられたそうだ・・・つまり奴らの種馬とされたんだ。後になって判った事らしいが
父が転移装置をは・・・いや、転移装置が破壊されたときに起きた衝撃でそこにいた[雄]が死亡した。
つまり父はその代わりにされたんだよ。その為に生かされた・・・私が生まれたのは父がオーク『達』の相手をした。その結果私が生まれた、そういう事だ」
「そんな!何故人とオークが交配できるなんて!?いえ、貴女はエルフなんでしょ!オークから
生まれて何故エルフになるの!?」
響さんが堪らず茉莉花さんに反論する。アイネアスさんも茉莉花さんの話に絶句している。
僕も、翡翠さんも。変わらないのは夏樹さんと姉さんだけだ。そして和音さんの三人だ。
姉さん達二人は先に話を聞いていたのだろう。和音さんはじっと話を聞いている。
オークと交配などという話も驚いたが一番僕が驚いたのは[雄]の話だ。
僕もこの世界に来てまだ浅い。でも敵と呼ばれる主な種族のオーク、コボルト、ゴブリンには
[雌]しか確認されていないと聞いている。なのにこの話には[雄]が出てきた。
生き物である限り雄が居て雌がいるのは当然だ。でも・・・確認はされていなかった。今までは。
「そう、私はエルフだ。しかし肌が黒い。ここにいるエルフとは明らかに違う。
私達の種族は皆肌が黒い。夏樹と百合花が私達の事をダークエルフと呼んだ。だから私もそれに習おう。父と交配したオークは皆ダークエルフを産んだ。何故だかは解らない。しかし事実だ」
「・・・オーク共は異種間でも交配可能なのか・・・?君はそれが可能か知っているのか?
いや、君の話が本当なら可能なのだろうが・・・」
アイネアスさんは既にこの話が事実として写っているのだろうか・・・?
僕は・・・まだ信じられない。
「可能ですよ、ドワーフ、エルフ・・・そして貴方、ノームともね。さてここで問題だ。
奴等が異種間で交配して生まれるのは何だと思う?」
「それは・・・」
質問を質問で返されたアイネアスさんが苦悶の表情を浮かべた。当然だよね・・・。
「済まん、私には分からない・・」
「いえ、意地の悪い質問をだして済みません。答えは『母親と同じ種族が生まれる』です」
おかしい、それならば何故竜輔さんの子供は『オーク』ではないのか?
それはおかしいだろう。
「貴女はダークエルフなのよね、何故オークではないの?おかしいじゃない。矛盾している」
「そうね響さん、矛盾しているの。でもね、私が『異常』であって他は正常なのよ。
それが結果なのよ。あいつらが繁殖した理由でもあるの。貴女たちも知ってるわよね?
奴等は雌しか確認されてない。そうよね?夏樹から聞いたわ。でもね、雄が居ない訳じゃないの。
雄は数十年に1体しか生まれないの。そして女王と交配して種族を増やす。
貴方達が来た世界にいる虫である蟻や蜂のように繁殖するのよ。そして繁殖の時期に生まれるのが
『雄』。そして同時に生まれるのが新しい『女王』。即ち巣立ちの時期だったのが40年前」
「待って・・・もしかして転移装置をオークが狙ったのは・・・」
「そう、奴等が転移装置を使って『巣立ち』をしようとしていたのよ」
「そんな馬鹿な・・・」
翡翠さんが呟いた「そんな馬鹿な・・・」というのはここに居る皆の総意だろう。
そして恐ろしい事に気がついた。
『女王』という言葉だ。茉莉花さんはオークを虫に例えた。ということは繁殖能力が同等という
事なのだろうか?・・・いや、情報が足りない。茉莉花さんの話をもっと聞かないと・・・。
「響さん、私『達』が生まれた理由は判って貰えたかしら?」
「ええ・・・でも『達』って・・・」
「そう、『達』私を含めダークエルフは23人居るわ。全て竜輔お父さんの娘よ・・・」
「・・・それで竜輔さんは・・・今・・・?」
「・・・ずっと前に亡くなったの・・・」
余りにもショックだったのだろう、響さんは崩れるように気を失ってしまった。
とっさに和音さんが支えなかったら地面に突っ伏していただろう・・・。
響さんが倒れたことによって話はここまでとなった。翡翠さんによるとショックによる失神だと
いう事だ。問題はないそうだ。明日になったら目が覚めるだろうだって。
まあ・・・仕方ないよ・・・僕にとってもショッキングな話だったし。
オークの交配相手って・・・種馬って・・・。
「あれ」を強制されたんだよね・・・。怖い・・・。
姉さんがぼそっと呟いた「強制ハーレム」という言葉が戦慄ものだ。・・・しかし、
こんな時になんて事言い出すんだろう。エロゲ脳なのかな?うちの姉。嫌な脳だな。
夜も遅いので解散という事になった。明日は昴さんにも話を聞いてもらう事になるだろう。
かなりの新事実が判明したな。それにまだ話半分って所だろうし。姉さん達と知り合った
経緯も聞いていないし。
ホテルまで僕が響さんをおんぶしていく事になった・・・。こうなった元凶は夏樹さんが言い出した
からだ。「響おぶってね」と・・・。
茉莉花さんは翡翠さんと話しこんでいる。主に崋山派についての話のようだ。
ところで僕は・・・喜んでいいのか?駄目だ。申し訳なさと嬉しさで
もう困惑しかない。だって年頃の男だから。彼女の温もりがこうダイレクトに・・・。
「千景、キモい」
姉さんが僕の顔見て言いやがった。くそ・・・反論できない。
「百合花は弟に容赦ないねえ・・・」
「まあまあ、百合花ちゃん千景君だって男の子なんだよ~仕方ないじゃ~ん。響の胸が千景くんの
背中にダイレクトに当たってるんだよ~。男の子なんだからきになるじゃ~ん。許してあげようよ~
ぷぷぷ。うほっ響さんのおっぱいやわらけ~とか思ってても許してあげようよ~うくく・・・
思わずお尻触っちゃってもバレないよな!とか思ってても許そうよ!」
殴りたい、その笑顔。
「千景君、ご愁傷様・・・」
ありがとう翡翠さん・・・。
「ところで、今まで黙ってたんだけど、その子誰?」
夏樹さんが指さしたのは僕に寄り添っている和音さん。響さんが心配なのか僕の横にいたんだよね。
あ、和音さんの事説明してなかった。
「あ、やっと私の自己紹介ですか。遅くなりましたが私、宮前 和音と言います。
響さんの魂からサルベージされたもう一つの魂です。つまり夏樹さんと響さんと姉妹ですかね。
妹として扱ってくださいね。百合花さん、茉莉花さんも宜しくお願いしますね」
「「「あ、はい?」」」
茉莉花さんと夏樹さん、おまけに姉さんの頭に?マークの幻影が見える。
いきなり姉妹ですとか話されてもまあ、そういう反応だよね。
「あ、ついでに闇ドラゴンを拝領いたしました」
和音さんがドラゴンに言及したら?マークが二つになったような・・・幻影が見える。
響さんならもっと上手く説明できたのかな。
残念ながら僕の背中で気を失ったというか寝ているけど・・・。
やれやれ・・・ここ数日穏やかな日々だったのにな。姉さんと夏樹さんが帰ってきたら
いきなり慌ただしくなってしまった。明日から大変そうだ。
でも・・・
お帰り、姉さん、夏樹さん。無事でよかったよ。