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「と、いう事は響君の肉体は魂の修復に使用されて既に消失してしまったと・・・。
これは拙いなあ、アイネアス6番体の状況は?何か判ったか?」
「バイタルは正常、魂も安定しています。今のところ問題は見られません」
「そうか、引き続きモニター宜しく。なにかあればすぐ報告を」
その後、色々調査が続いたが異常は見つからなかったがスタッフの皆さんは困惑顔。
まあ、今の状況が既に異常なんだけどそれは言わないほうがいいよね。
真面目にしてるところ邪魔しちゃ悪いし。ついでに夏樹さんの肉体も保全するみたい。正直忘れてた。
「昴、これはもう中止して響君の状態をなんとかしないといけないぞ?それにあのちいさな竜も
・・・・・・何で子供なんだ?」
「いや、僕にもさっぱり。響君、精霊はあの竜について何か言ってるかい?」
「待ってください。・・・・・・・・・魂の情報量が殆んど無い・・・そうです。
それ以上は何も」
「情報量?それは記憶が、という事なのかな?」
「そうみたいです」
「そうか、う~~~~~~ん、よし!今日はこれであがり!おつかれさん!」
「投げた」
「投げましたね」
「無責任だなあ」
「う、うるさい!僕にだって考える事があるし!正直、考える時間が欲しい。このままだと
先に進めないだろ、夏樹君が帰ってきたときにまた同じ事が起きる可能性があるし!
そうならないように・・・しないとね」
「そうか、それもそうだな。今日はこれで中止にしよう。じゃあ響君には人間に・・・なれるのか?
すまないが響君、ドラゴンのままじゃまずいよね。人間になる練習だと思って変身しようか?
服を着た自分を想像しながら人間になって貰えるかな?一応僕らは後ろ向いているね」
「判りました。ごめんね、ちょっと離れててね。うん、良い子」
言葉が分かるのか、黒いドラゴンはちゃんと響さんから距離を取る様に下がっている。
飛びながらバックって出来るんだ。
響さんに背を向けて目を瞑った。べ、別に残念とか思って、な、ない・・・よ?
思ってないったら!紳士ですしおすし。
「お~ちゃんと人間に戻っているね。よかった・・・ん?」
響さんが人間に戻ったのを見たんだろう、黒いドラゴンが・・・人間の子供に・・・
変身して・・・いき・・・。僕らの目の前には3歳ぐらいの子供が立っていた。
お、女の子かな・・・?顔もなんとなく響さんに似ているかな。
響さんの子供の頃ってこんな感じかな。服が響さんが着ている服みたいなデザインだ。
もしかして真似したんだろうか。生まれたばかり?なのに偉いなあ。
器用な子だね。とてとて歩く姿がとても愛らしい・・・んだけど、響さんと並ぶとまるで
親子みたいでちょっと複雑な気分になる。
響さんもまるで自分の子供をあやすように抱き上げた。いいなあ・・・絵になるなあ。本当複雑。
「千景君、千景君ちょっとこっち来て」
「へ?、あ、はい」
「そう、そこに立って。あ、響君は横」
昴さんに呼ばれて何故か響さんも横に並んだ。なんなの?
「夫婦だね、若夫婦」
「たしかに、そう見えますね。響さんが子供抱っこしてるのがポイントですね」
そ、そですか?昴さんも翡翠さんもそう思いますか!?
うわああ・・・照れる、けど嬉しい!恋人飛ばして夫婦になってもうた!
人生最良の日です!ん?なんだい、僕に向かって女の子が手を伸ばしてきた。
そっかそっか、パパのところに来たいのかい?しょうがないねえ。ほら、おいで!
そう思って子供に手を伸ばした時、僕は見てしまった。
悲しそうな、響さんの顔を・・・。
「響さん?」
「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
そう言って響さんは走り去ってしまった。
そして僕の手の中には女の子が無邪気な笑顔を浮かべていた。
「昴様、やらかしましたね」
「そうみたいだね、すまん」
響さんは転生前の事を思い出したのだろうか?そうだとするとやはり竜輔さんの事だろう。
何て残酷な事をしてしまったのか。浮かれた自分がとても情けなくて申し訳ない気分だ。
その時の僕は酷い顔をしていたんだろう。僕の腕に抱かれた女の子が心配そうに見上げていた。
「大丈夫だよ。でも、ごめんなさい!翡翠さん、この子お願いします!」
「え、はい!任せてください!」
僕は女の子を翡翠さんにお任せして響さんの後を追う事にした。
そうしないといけない気がしたんだ。
ドームを出て外へ続く道を辿ってき十字路の右を曲がった先に響さんは居た。
渡り廊下で立ち竦んで夕日を見る姿はとても綺麗だけど、儚く悲しい姿だった。
「響さん!」
そう声をかける僕の顔を見た響さんは目元を拭って何も無かったように振舞ってくれた。
勢いで追いかけてしまったけどそれでよかったのだろうか?
本当は一人にしたほうがよかったのでは?そんな考えがぐるぐる浮かんでは消え、
正直これからどうしたらいいか分からなくなってしまった。
「ごめんね、ちょっと昔の事おもいだしちゃって・・・」
「すみません、僕が無責任でした」
「ううん、千景君は何もしてないから。気にしないでねって言っても気にしちゃうよね、君は」
響さんはそう言ってぎこちなく微笑んだ。
その笑顔が僕の心に何よりも堪えた。
「もう吹っ切れたと思ってたの。だけど、そうじゃなかったみたい。一瞬で昔の思い出が
浮かんできちゃうのね、ああいうときって。驚いちゃった。もう40年も前なのにね。
それに子供抱っこしてたから芳野の小さい頃も思い出しちゃった。ごめんね、しんみりさせちゃって」
「いいえ・・・」
「うーん、私ね夏樹にいつも重いって言われるのよね、ついでに暗いって。
自分ではそんな事ないって思ってるんだけど・・・こんなところが重いのかしら」
「あ、あはははは・・・」
やばい、愛想笑いしかできない。でも響さんって憂いを帯びた顔がいいって友達が言ってた。
もちろん僕もですが。夏樹さんと響さんは有名だったからなあ、美人姉妹って。
太陽と月とか呼ばれてたし。響さんが月・・・似合うなあ。
「懐かしいね、こんな夕日。千景君が告白してくれたのもこんな夕日だったよね。
嬉しかったのよ?本当にね。あ、この話蒸し返しちゃったら駄目だよね、私本当に駄目だなあ・・・」
」
「い、いいえ。気にしてないんで」
いいえ、嘘です。気にしまくりです。この話出るたびへこみます。
「そ、そういえば姉さん達まだ帰ってきませんね?どこいったんだろう。困ったもんですね」
「本当にうちの姉がごめんなさい」
「あ、そんなつもりじゃないんです。すみません!」
「こちらこそごめんね、本当にどこにいったのかしら。まさかあそこで百合花ちゃん拉致するなんて
信じられないね。夏樹はホント百合花ちゃん好きすぎでしょ・・・。将君の事話過ぎたのかな」
なんでおじいちゃんの話がここで出てくるんだろう?分からない。
「千景君そろそろ陽も落ちる事だし、これからどうするか翡翠さんと相談しましょうか?
あの子もどうするか話さないとね」
「そうですね、そうしましょうか?」
「そういえばあの子は?」
「翡翠さんにあずけてきました・・・子供のあやし方上手そうだし」
「あら、ふふふ・・・」
「青春だなあ・・・」
「ああ、そうだな・・・?」
「でも・・・」
「でも?」
「青春するにしても、もうちょっと場所考えて欲しかったな」
「ああ、確かにな。宿舎に帰る道ここが近道だから・・・」
「邪魔したくないよな?」
「だよな・・・ちょっと遠回りして帰るか?」
「そうすっか」
・・・聞こえてます、ごめんなさい。アイネアスさん。