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「まあ、冗談なんだけど。ドラゴンにはちょっとした実験体なんだよ。
ほら、僕らっていま不老って事で見た目変わらないでしょ?まあ怪我したらそれは
回復魔法である程度消えるけど。筋肉付けようとトレーニングしたとする。
見た目は全く変わらないけど能力はアップする。トレーニングをサボると能力は落ちる。
爪や髪の毛なんかは伸びるが身長は伸びない。便利な反面、身体の成長が無いのが
欠点だよね。だが、それがいい。と、いう一部の危険な思想のお友達もいるけど、
成長が止まっている本人には深刻だよね。それにさ、子供の頃にエメラルドに来て
ここに留まる事になって成長せず生活してるんだが・・・えっと僕達に子供ができるでしょ?
そうするとね、その子供達はエルフ達みたいに成人辺りぐらいまで成長できるんだよ。
そうなるとね、見た目が変わらない子は生まれた子よりも年下にしか見えない悲しみが
あるんだよ。これはちょっと予想外だったんだ。
エルフ、ノーム、ドワーフ達は恐らく緩やかに歳をかさねていくはずだと予測される。
生まれた子供達も同じだろう。
予測なのはまだ歳を重ねた人物ってのが殆んど居ないからなんだけどね。ほら、そこの
おやじエルフのライド見ればわかるでしょ?こいつ多分最高齢」
「最高齢だったのか、僕は」
「しょうがないじゃない、君くらいしか高齢のエルフ知らないし。まあ何歳かは
判らないけど。君自身知らないんだよね?」
「そうだな、少なくても60以上だと思うが・・・」
「それだと僕より年下じゃん・・・」
昴さんがショック受けてる・・・年齢聞いたら・・・
「古希過ぎた・・・」って返事が返ってきた・・・。聞いてごめんなさい。
古来稀なりってやつね。
「で、でも君初めて会ったときから容姿大して変わってないよね?て、ことは
もっと歳でしょう?大抵60台のエルフって僕らの20代くらいの容姿だから。
て、事はもっともっと歳なんだよ」
なるほど・・・じゃあ軽く100歳は超えてらっしゃるって事ね。
エルフさんって若い容姿の人多いけど王様は40歳以上の容姿してるし。
当たってるかはわからないけど。
「そうかも知れないね、なにせ記憶が無いから自分でもわからないし」
え、記憶が無い?どうしてだろう
「そうだったねえ。ま、そこは仕方ないよね。あ、君達はそこらへん知らないよね。
僕がエメラルドに呼ばれたのってこいつのせいなんだよ。転移装置をライドがいじくって
どこをどうしたのか不明だけどその結果僕を召還してしまったって訳。
いやあ懐かしいね。あの当時君等って石器時代みたいな文化水準だったもんね」
「そう考えたら今の発展ぶりは凄いね、考えられないよ」
「そのくせ生活魔法は使えるってどういう事!?って最初思ったの覚えてるよ」
「それが普通だったから不思議にも思わなかったんだがね・・・」
二人の昔語りに誰も割って入ることが出来ないでいる。私と響さんでも初耳な話が
あったりして聞き入ってしまっていた。
「あの~それでドラゴンの話はどうなったんですかね?」
・・・そんな中発言できる夏樹さんって凄い物怖じしない人なんだなあ。
「あ!そうだった実験体の話だったね、ドラゴンから人間に変身できるという特性を
持たせてあるんだけど、これは変身という能力を研究してる訳だ。それと同時にさっきの話の中の
成長しないって話があったでしょ?肉体を成長させるのは色々実験したんだが難しくてね。
成長が駄目なら新しい肉体に魂を入れ替えるのはどうか?ってのを・・・考えるよね?
それだと、既に元の肉体に馴染んでいる魂が新しい肉体を拒否してしまって
魂が消耗してしまう結果にしかならず更には消滅の可能性すらあるんだ。
現実世界の臓器移植手術のような感じだと思ってくれ。あれ?違う?まあいいや。
そんな状態で肉体の変更なんてお薦めできないよね。
以前、青山さんの話をしたよね?あの時を教訓にして研究は進めていたんだけどやっと最近
消耗する事が無い魔法技術が確立してね。長かった・・・。更には、
魂が消耗していても新たな肉体に宿らせる事が可能になったんだ。まあ、魂が消耗している
状態には変わりは無いわけだけどさ・・・。でも現状維持のまま消耗する事なく肉体の変換によって
成長という結果を得られるわけだ。その技術を応用しドラゴンの仕様に組み込んだんだよ」
へえ~そんな事ができるようになったんだ。て、ことはうちのクランの芳野はやっと成長
できる訳ね。天国にいる竜輔さん!芳野がおっきくなるそうですよ!よかったですね!
大変だったでしょうに、よく技術確立しましたよね。ちょっと昴さんを見直しましたよ。
皆も同じな様で昴さんを見る目が暖かくなってる。ちょっと前まで冷たかったのに。
「何言ってるんだろうね・・・ドラゴン製作中に偶然出来た魔法技術じゃないか・・・
前後を逆に話して良い話に置き換えるんじゃない。「ドラゴンになる為の魂の
移動技術能力の研究してたら偶然できちゃった!」って私の執務室の扉壊してまで
飛び込んで来たのは誰だったのかね?それをいかにも人の為に研究して成功しましたって
感じで話すなよ・・・・・・まあ僕も一枚噛んでるんだけどさあ・・・」
「ライドさっきから、私と僕って公私の区別がばらばらだぞ?」
「話を逸らそうとするなよ・・・いいんだよ、私でも僕でも」
見直した私が馬鹿だった・・・あ、皆の目が絶対零度に低下してる。
「ま、いいじゃないか。ドラゴンは結果的に人の為になったじゃない。
実際にドラゴンを実戦投入出来ればこの膠着状態も打破できるってもんだろ?」
「それはまあ否定しないし、実際そうなんだが・・・そうだよな、そろそろこの闘いを終わらせて
平和にしないとな・・・」
「でないと僕らがこの世界にいる意味が無いからね。40年以上戦わせる事に
なった仲間達をもう現実世界に帰らせないとね。その為にはまずは平和、その後帰還出来る
ように転移装置を完全に修復しないといけないからね」
本当にそうだよね。現実世界に帰れなくなってどれだけ皆が絶望したか私には判らないから・・・
浮遊霊っぽい何かだった私には想像もつかない。
「それに変身能力が実現したら肉体を変えずに見た目を成長させる事も可能になるわけだ。
だから君達メインスタッフには期待してるよ!あとで他のスタッフも紹介するから!
これから頑張ろうね!宜しく!」
「はい!頑張りましょう!」
「ちょっと夏樹!」
あれ、いつからメインスタッフに組み込まれてるの!?
「ついでに言うと君等の肉体の中にいるもう一人の魂を新たな肉体に移し変えるって奴だけど
この技術が生かせると思うんだよね。だ・か・ら・・・頑張ろう?
冗談抜きで・・・成功させてほしい。お願いする、手を貸してくれ」
「私からもお願いする。崋山派には私から連絡を入れるからこの実験に協力してくれ」
今までわりとおちゃらけた雰囲気だった昴さんがシリアスな顔して私達に頭を下げた・・・
更には王様からもお願いされちゃったよ。これはもう断る選択肢は消滅したな。
うーん・・・あんまり乗り気ではなかったんだけどうちの子(中にいる魂)の為にも
頑張らないといけませんね。まっててね中の人お姉さんが助けてあげるから!
まあ、実際にはおじいちゃんなんだけど。
「そういう事ならお手伝いします。なので魂の事宜しくお願いします」
「私もお手伝いします、勿論、夏樹もよね?」
「勿論、こちらからお願いしたいくらいですよ」
「千景は?」
「断る選択肢なんて僕にないじゃないか・・・ふふ・・・皆となら喜んでお手伝いしますよ
僕だって僕の中の魂に早く会って見たいですから」
「そうだね!千景君いい事言った!お姉さんが響との交際を認めましょう!よかったね響
姉より先に彼氏持ちだよ、くぅ泣ける!なので百合花ちゃん慰めて・・・?」
「オチを私に持ってきてセクハラするつもりですね?もうぱふぱふは封印です」
「しょんな!」
夏樹さんがこの世の終わりを見たようか顔してるけどそんなにしたいのか・・・
もしかしたらこの人の中身って男なんじゃないの?だとすると体は女、中身は・・・
あ、デリケートな案件っぽいから思考止めないと。それに体は女、中身は男は私の方だった。
「ところで中の魂って呼びづらいね何かもっといい名称はないかな?」
「そうですね、何かあったら提案するって事で後にしましょう」
「百合花・・・昴様やライド様に騙されて・・・もう止める事はできないのね・・・
すみませんマスター。翡翠はクラン員を守ることが出来ませんでした・・・
お詫びとしてカステラ買って帰りますね・・・」
「円へのお詫びがカステラなのか・・・安いね」
昴さんの呆れでお昼の時間は終わった。
その後ドラゴンの実験室に戻り丁度スタッフの皆さんが集まっていたので紹介して貰い
自分達も実験に参加する事を伝える。ノームさんが結構いるのね。
逆に人間が一番少なかった。
「そうだ、どうせならもうドラゴンに魂として入ってみる?今ならすぐ用意できるよ?」
「なにか準備万端ですね、狙ってましたよね。だから言ったでしょう?騙されてるって」
「まあまあ翡翠、いいじゃない。こちらも実験が進むし、そちらも魂の件が進むんだから
良い事ばかりでしょ?」
「危険は無いんですよね?そこだけはしっかり教えて頂きたいんですが」
「うん、響君。今まで事故や危険な事態というのは確認されていない。勿論人体にも魂にも
何の影響も無かった。安全だと言えると思うけど」
「そうですか・・・不安はありますが一応判りました」
うん、不安ですよねー不安だらけですよねー。
「さて、準備も完了したようだし・・・やっぱり夏樹君から始めるかい?」
「そうですねー私が先鋒ですよねー百合花ちゃん」
「何です?」
「安全を祈願して祝福のキッスを・・・」
「お断る」
「ですよねー。じゃあ行って来ます」
おちゃらけた夏樹さんだったけど表情は固く緊張してるのが分かる。
やっぱり不安なんだろうな。午前中と同じく緑光の中に入って準備完了。今回は魂が抜けるので
肉体を光の中に残す事になるのでベッドが用意された・・・って、そうか肉体は残るのよね。
本当に大丈夫なのかしら・・・?不安しかない!
「それじゃあ気分を落ち着かせてそのままでいてね。皆、いつも通りだ。さあ、創めよう」
夏樹さんの居る場所の緑光が赤く変化し、球体の中のドラゴンも赤く光を発し始めていく。
夏樹さんとドラゴンの周りには小さな光が何個も浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返して
いる。しだいに赤い光は目を開けていられないほどの明るさになっていく。
「おおお、これほどの光は今まで発生しなかったぞ!大丈夫なのか昴!」
「問題ない!これはドラゴンとの相性が好い証拠だよ、しかしここまでいいとは思わなかったが!
なあに、心配するな一国の王がこんなことでうろたえるなど情けないよ!」
赤い光が消え始めると共に球体が消滅していく・・・というより吸収してるのかな?
どんどんドラゴンの姿が鮮明に浮き上がっていく。そして地面に降り立った。
ドラゴンは四肢を伸ばし翼を広げた。でっかい!ちょっと怪獣映画みたいで興奮する!
うわあ・・・本物って迫力あるわあ・・・。
赤いドラゴンはゆっくり目を開け首を伸ばしながら辺りを見渡す。
「うわー本当にドラゴンになってるー。ってか皆ちっちゃいね!うわー不思議な感覚~
背中に翼があるって面白いね!肩甲骨を動かす感じなのかな?ああ、ごめんごめん
風起こしちゃったね。皆大丈夫?うん、手足も変な感じだね。でもこれ歩いたら相当
地面が揺れそうだねどうしよう。ね、ちょっと空飛びたいんだけどいいですかね?
え?駄目?どうしてもですか翡翠さん?まだデータが取れてない?スタッフさん休憩してて。
王様そんなの後でいいじゃないですかー
なので宮前 夏樹いきまーす!あ、お供に百合花ちゃん連れていくね(はあと)」
「まってえええええええええええええええええええ!いやあああああああ」
夏樹ドラゴンはそう言って私を右手で鷲掴みして飛び出してしまった。
昴さん、貴方ドームの開閉装置動かしましたね!見てましたよ?
そんな訳でワタクシ絶賛空の旅を満喫中です。泣いていいですか?