106
一カ月ぶりくらいの更新となります。
クリスマスイブからずっと風邪で寝込んでました・・・。
読んでくださる皆様に感謝を。
私が居るにも関らず、二人の言い争いは続いている・・・。
いや、もう本当に何なのだろう?口から魂が抜け出して昇天しそうな位ショックを受けているのに
二人には私の方を見向きもしない。
「だからあ!私は結婚しない。そりゃ付き合ったりはするよ?でもね身を固めるとかは無し。
まあ?私の事ビッチだとか言ってる奴はいるけどな、余計なお世話だよ。
そんな奴は抱きたくもないし!」
「円、女性として・・・抱きたくないとかその発言は私でも引くぞ?」
「いや、ライド。あんた私に抱かれたのよ?」
ドン引きである。王が。何言ってんだこいつ?みたいな顔をしている。滅多に見られないであろう
表情だ。ついでに私も引いた。だが円様はドヤ顔である。
私はとうとう居たたまれなくなってしまい手で顔を覆ってしまった。
円様を女性として愛しているし、当然どんな性格なのかは知っている。だがこの開き直りは・・・。
あーもう逞しいな・・・。あれだ、男らしい。とは言うものの男が逞しいとは限らない。
たとえばうちのあるクラン員、名前は連歌屋。奴は女々しい全く連歌屋も円様を見習えばいいのに。
連歌屋か・・・そう言えば中央に来る前日の夜・・・。
「う~エルちゃ~~~ん・・・ぐう」
そう言ったきり連歌屋は寝てしまった。
クランの食堂で久々に皆で酒を飲んでいたのだが、連歌屋はいい感じに出来上がってしまい、
しきりにエルちゃん、エルちゃん、と誰かの名前を言い続けたのだ。
「いや~エルちゃんはねえ・・・」×数十回。
を繰り返し、雄二や優子から白い眼で見られていた。何だエルちゃんって。
最初は雄二、優子の二人そして希、帰還者の佐野 京也&三咲夫婦、その他も居たのだが、
連歌屋のエルちゃん褒め褒めに呆れた者から一人一人と食堂から消えていった。
うざかったのだろう、連歌屋が。
「じゃあ紅玉様、後は宜しくお願いします」と、部下の一人が私に声掛けて行ったが・・・
私は逃げてはいけないらしい・・・。中間管理職はつらいよ。
私達のテーブルに居た佐野夫婦は早めに切り上げて部屋に帰ってしまっていた。
京也はまだ飲み足りない感じではあったが、三咲が飲みすぎは駄目だと言い聞かせ帰っていった。
良き夫婦である。
「なあ、希。エルちゃんとは何だ?」
「ん~それについては雄二達のほうが詳しく知ってるはずだよ。会った事無いし、私は又聞きでしか
知らないから」
「成る程・・・。ん?実在している人物なのか?てっきり連歌屋の妄想かと・・・」
「何気に酷いね、紅玉。実在してるよ」
「うちのクラン員ではないのだよな?別のクランの人か?」
「いやいや、あれだよ現実世界での話」
「ああ・・・そうなのか。・・・なあ雄二、連歌屋の言うエルちゃんとは何なのだ?
連歌屋の恋人か何かなのか?ずっとエルちゃんとやらの事を言っていたが、私には半分も内容が
判らなかった。あちらの世界独特の内容だったのか?」
「んにゃ、ネットゲームの話だよ。紅玉が判らないのも当然だよ。ゲームの話聞かされても
判るはずないだろ?」
「そうか、そうだな。で、エルちゃんとは?」
「当時連歌屋が熱を上げていたプレイヤーだよ。うん・・・」
「何か歯切れの悪い感じだが何かあるのか?」
「う~ん・・・」
雄二が話していいのか?と考えてる風だったのだが、優子は普通に話しかけてきた。
「連歌屋がゲーム内で付き合ってたのよ。でも別れちゃったからね。酒飲んだらごく稀に連歌屋が
思い出してこうなる訳。将とか京也や三咲さんとかがエメラルドに帰ってきたから当時の思い出が
蘇ってしまったのかもしれないね。判った紅玉?」
「そうか・・・何か悪いことを聞いてしまったな、興味本位で聞いて言い話ではなさそうだ。
連歌屋には今度謝っておこう。すまないな、優子。変な話をさせて」
人の恋愛話は苦手だ。連歌屋の恋愛話など正直微妙すぎて困る。
他の者は名前呼びの私だが、連歌屋だけは苗字呼びである。まあ、大抵の者は連歌屋を名前の真樹夫
とは呼ばない。彼はそういう立ち位置の男なのだ。
「う~ん・・・いやね紅玉、エルちゃんってネカマなのよ。つまり男」
「は?」
「ああ、別に連歌屋がゲイとかそういう訳じゃないの。連歌屋は異性愛者だよ。うん、紅玉が困惑の
顔を浮かべるのは当然よね。じつはエルちゃんは男で詐欺をするキャラだったのよ。
ネットゲームの中で人を騙してアイテムとかお金を巻き上げるの。大体男の人が騙されるのよね。
女キャラに入れ込んだりしてね。そして連歌屋はそれに引っかかったの。ゲームの中で恋愛って
結構あったりしたのよ。ほら、ゲームだと相手はキャラクターだから性別や性格も偽れるからね」
「私にはイマイチ判らないのだが・・・連歌屋はその詐欺師の事を好きだったと?詐欺なのだろう?
しかも男。そこのところはどうなのだ?」
「うん、連歌屋はコロっと騙されてね?アイテム&お金貢いだのよ。いやあ思い込みって怖いね。
連歌屋は今でもエルちゃんの事女の子だと思ってるし、普通に付き合って普通に別れたと思ってる。
泣けるでしょ。それでこのザマですよ」
そういって優子が指差したのは涎を垂らしてテーブルに突っ伏してる連歌屋。起きる気配は無い。
涎の湖はそろそろ決壊寸前である。どうしようこの生ゴミ。
現実から逃げたくなってふと視線を逸らすと同じく視線を逸らした希と目が合った。
二人共一緒に口を少し歪めて笑った。
希もこの話は始めて聞いたのだろう曖昧な笑いしかでてこないようだ。
「最後はエルちゃんがゲームを引退するって事で連歌屋との恋愛?は終わりを告げたんだけど、
その後ゲームの掲示板に「ひゃっはー!童貞キャラを騙すのは簡単だったぜー!ハッハ-!」
って書き込みがあってね・・・。数Mのゲーム通貨を騙し取ってアイテムもかなりのレアアイテムを
貢いで貰ったとかなんとか・・・。「ばっかじゃねーの?女キャラですぐ騙されるとか
超うけるんですけど?!リアル男だし~」とか書いてあってね・・・。
しかも複数の人騙してたみたいで「エルちゃんってキャラは詐欺師だ、気をつけろ!」って
書き込みが。まあ・・・アイテムとかで人の関心買おうとした連歌屋も脇が甘いっていうか・・・
あんまり同情できないんだけどさ・・・」
そこで何故か優子が言葉を溜めた。ぷるぷる震えているが何だろう?
「な~んでか連歌屋はそれをいまだに詐欺だと思ってないのよ!ずっと今の今まで
「あれは素敵な恋愛だったんだ。俺の愛のメモリーにという心の引き出しに今も入っているよ。
そう、永遠にね」とか気っ色悪い台詞言うんだよ!さぶいぼ出るわ!アフォかと!いくら説明しても
「おいおい、俺の恋愛話が美しいからって嫉妬するなよ?フッ」って鼻で笑うし!ムカつく!」
「まあ・・・こんな訳で俺も優子も何度も連歌屋には説明したんだが、思い出補正と初めての恋人、
・・・まあ、ネカマとの恋愛なんだが・・・そう、初めての恋人ってのが忘れられないんだとさ、
連歌屋は。いるんだよ、酒飲んであいつしか居ないとかクダまく酔っ払い。大体初めての恋人とか
初エッチの相手とかな?初恋の女の子とかも含むな。思い出ってのは厄介でな、いい部分しか
残らない。いや、悪い部分は切り捨てるというか忘れるんだよ。連歌屋にとってエルちゃんが最高の
女の子で至高なんだろうな、ネカマだけど。多分だけど他の女の子と付き合っても連歌屋の中には
エルちゃんがいつでも居るんだよ怖いよな」
「別れても好きってやつだね、いいのか悪いのか・・・」
「希、それって昔あった例えで女は付き合う度に新しく引き出しを作って古いのは捨てる。
男は付き合う度に新しく引き出しを作るけど、それを貯めていくって奴。あれ、これで合ってる?」
「いやそんなの覚えてないし。優子よくそんな話覚えてたね」
「私の隣に引き出し一杯持ってる屑がいるからね」
そして優子は目線を雄二に向けた。まあ、タラシの雄二の心には引き出しいっぱいありそうだ。
成る程、言い得て妙な話だ。誰かと付き合う度に心に引き出しを作るか・・・。
私の心には円様への恋慕が引き出しに入っているのだろう。しかし・・・。
片思いでしかないこの心の引き出しは増えることは無いだろう。
あの人は私の想いに答えてくれる事はないと思う。今まで円様は誰も受け入れなかった。
・・・。
「連歌屋じゃないが円さんも似たような感じだよな、今でも将の事想ってるんだろ?」
「あ~確かに誰でも抱・・・げふん・・・関係は持つけど、深い仲にはならないよね。
やっぱりそうなの?あの人も深情けだよね」
雄二と優子は単なる話題として話したのだろうが、私としては単なる話題ではなく知りたくない
事柄だ。将とはあの帰還してきた『あの』人だろう。細かい話などは私には判りかねるが、
昔は男で今は女というあの人で合っているだろうか。
そうか・・・円様はあの人を・・・。
なるべく動揺した心を表に出さないようにしていたら、希が心配そうに此方を見ていた。
大丈夫・・・私は大丈夫・・・。
そう、そんな事があった・・・。
ん、未だにライド様と円様の言い合いは続いている・・・。
いつ終わるのだろうか・・・。
あと一話くらいで一区切りとしてこれまでを一章としようと思います。