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お待たせしました、全然話が進んでません・・・。
「この世界を蹂躙し犯してくれないか?昔のようにさ」
「はあ・・・?何言ってんだお前?」
「いや、なに。君の好きなように生きてくれればいいって事だよ。どうせエメラルドに居たって
碌な事しないだろう?襲う、奪う、攫うくらいしかやらないだろ?お前等は」
「手前・・・」
ハルダはウェルキンに殺気を向けるがそれを気にせず牢屋の鍵を開け外に出ろと促す。
「じゃあこれは返すよ」
「・・・ありがとよ・・・」
なんの警戒心も無く剣をハルダに手渡して、くるりと背中を向けたウェルキン。
「じゃあ、すぐにでも此処から逃げてもら・・・おや?どうしたんだい?」
ウェルキンがハルダの方を見ると、袈裟懸けにでもしようとしたのか剣を振りかぶり今にも斬りつけ
る姿勢のまま固まる男がいた。全く体が動かないのか、苦しそうに顔を歪めている。
「手前・・・何をしたんだ!?」
「いやあ期待通りの反応で嬉しいよ!君は恩なんて感じないだろうし、俺の事も気に食わないだろう
し、自由にさせたら殺しにくるって思ってたよ!全く単純だ!素晴らしい!」
「ふざけんな!何をしたか聞いてるだろ!」
ハルダの罵声反応してなのかウェルキンの表情が人好きのする笑顔の仮面を脱ぎ捨て、死神のような
冷たい表情の無い面を見せる。目には光無く、反対に唇にはぬらりとした怪しい光が浮かぶ。
「呪いだよ、俺にしか使えないスキルだ。お前にかけたのは俺を害せない。だ。これには俺を攻撃
出来ない、尋問されても俺の事を言えないってのを剣に付けておいたのさ。便利だろ?
まあ他にも後付けしとくか?お前どんなものがいい?」
「ふざけんな!なめてんのか!早く解除しろよ!」
「そう言われて解除する馬鹿は居ないよね、それなのにそんな台詞言うなんて小悪党だねえ。
嬉しいなあ。俺の頼み聞いてくれる?さっき言った奴。いうとおりにしてくれたらこれ以上呪い
かけないけど?どうする?OK?NO?どっち?」
「・・・・・・・・・俺になにをしろっていうんだ?」
「とりあえずブリテンのミッドランド地方に行って貰おうかな?そこに武装勢力がいるからさ」
「なんだそりゃ?」
「反体制派とでも言えば良いかな?テロリスト、反乱者、革命者、反政府組織って呼び方もいいかも
しれない。まあ、そんな集団だよ。そいつらなら君も受け入れてもらえるよ、確実にね」
「・・・わかった。そこに行けばいいんだな?それにしてもざっくりな説明だな。そんなに簡単に
会えるものなのか?」
「ああ、大丈夫だよ。俺が連絡入れて迎え寄越すように指示するから」
「!?お前・・・?」
ウェルキンの言葉に驚くハルダ。
反応に満足したのか口角を上げて微笑みながら、
「さあ、時間は無いよ。さっさと中央から出て行ってくれ。ああ、転移門[ゲート]の門番は君の事を
認識出来ないようにしておいたから。とはいえ、記録は残るから指示したミッドランド以外の所に
行ってもすぐ足がつくよ?大人しくミッドランドに行ってくれよ?これは君の安全を約束すると共に
君の望む事も実現出来る唯一の道だと認識しろ。いいな?」
「・・・ああ・・・わかったよ」
そうして二人の姿は夜の闇に消えていった。
その後、詰め所から炎が上がり辺りは騒然となる。消防士による消火活動によって火は速やかに
鎮火し、焼け跡から警邏隊の遺体が見つかった。しかし、牢屋に投獄されていた男の遺体はどこにも
無かったという。
・ ・ ・
夜明けと共に朝日が聖堂の窓から中に差込み、幻想的な光景を現出させる。
それは幾日も幾千も幾万も繰り返されてきた、そして今日も同じように繰り返される。
小さな七色の光がほの暗い聖堂の壁に星のようにちりばめられていく。
その光源は巨大な生物の鱗に朝日がプリズムのように反射して七色に冷たい石壁を鮮やかに彩って
いた。そしてその光は一人の人物にも優しく照らし出している。
神官らしき白いローブと七色の光に包まれたその女性はいとおしそうに生き物の鱗を撫でため息を
洩らす・・・。
「未だ始祖様はお目覚めになりませんか・・・?」
「ええ、未だその兆候はありません・・・」
不意に声を掛けられたにも関らず驚く様子も無く、よく通る声で返答する。
返事は壁に当たって反響していき、やがて消えてしまう。
女性の視線の先、つまり聖堂の入り口には豪奢な衣服に身を包んだ若い男性が複数の臣下を
引き連れて立っていた。軽装ではあるが装飾品や生地から高い身分だと判る。
耳はエルフのように長く尖っているが耳の後ろにはドラゴンのような角が見える。
「お久しぶりですね、陛下」
「ご無沙汰しております、大おば・・・大姉様」
大おばまで発言した所で女性のこめかみに血管が浮き出たのを目撃し、言葉を修正する。
何故か直そうとしても思わず大おば様と言ってしまいそうになる癖はいつまで経っても直らない。
愛想笑いで誤魔化し、話を進める男。
「出来れば私の治世でお目覚めになって欲しいのですがねえ・・・」
「ふふふ・・・こればかりは誰にも予測できませんので・・・。しかし、私は信じています。
いつか必ず訪れる目覚めの日を。私はその為にいるのですから・・・」
(そう微笑むその顔は・・・って!夏樹ちゃんぢゃん!?綺麗な夏樹ちゃんぢゃん!
え、何?何コレ?さっきまでの語りは何?なんかこの声聞いた事があるんだですけど!?
驚きで噛んじゃったわ。それよりも夏樹ちゃん何してるのさ!そんな服きてコスプレかな?撮影?
あ、夏樹ちゃんが撫でてたのってドラゴンよね、でもレインボーなドラゴンって居たっけ?)
ほっほっほ、それは内緒じゃ。
(って今度は話しかけてきた!誰よ!)
じーちゃんだよ。
(じじいー!!!!またか、またなのか!?)
え、何のことかのう?
(いや、何でとぼけるの。三途の川で会ったじゃん)
ああ、それ魂のほうじゃな。
(ドコが違うの!?)
優しく微笑む女性だが、その笑みには寂しさが滲み出ていて見る者を切なくさせる。
陛下と呼ばれた男性も女性を見て同じく憂い顔を浮かべる・・・。
(さらっとナレーションに戻るなー!!!)
まあまあ、ちょっとしたジョークなんで気にしないで♪
(気にするわー!!!)
(じじい・・・いや、おじいちゃん・・・そんな性格だったっけ・・・?それにそんな声だったっけ
?)
あ、私おじいちゃんじゃないよ。
(さっき、じいちゃんだって言ったじゃん!)
嘘。
(ふざけんなー!!!)
むしろ貴女がおじいちゃん。
(え、何で?)
まあ、これ夢なんで難しく考えないほうがいいよ~。
(私の夢自由すぎるでしょ・・・)
私は夢じゃないけどね(はあと)
(じゃあ、あんたはなんなの?私の脳に寄生してるサナダムシとかなの?)
何で虫なの・・・嫌すぎる・・・。
(で、正体は?)
そんな、いきなりネタバレとかするわけないじゃ~ん。
それよりそろそろ起きたほうがいいよん。
「百合花ちゃん・・・そろそろ目覚めてよ・・・寂しいよ・・・」
夏樹はいとおしそうにをドラゴンの鱗を撫でる。撫でた所が淡い光を放ち消えていく。
ほ~ら夏樹も起きろって言ってるし。
「夏樹様・・・」
イケメン国王が悲しそうな顔で(雰囲気ぶち壊しの語りすんな)んもう邪魔しないでよ。
(誰のせいよ!)
目覚めない百合花のせい。
(キー!!!!!!)
はいはい、ジョークジョーク。
それよりも早く起きないと駄目だからね。
じゃあね起こしてくれるのを待ってるからね、百合花。
(ん?私が起こすの?起きるんじゃなく?意味が判らないんだけれど)
夢とはそういうものでしょう?中国の物語でもそんな感じだし。辻褄とかアバウトだったりする
じゃない?中国とか香港の映画とか日本人にはとても理解出来ない終わり方するし。
そんな感じ。
(そう言い残し謎の声は聞こえなくなった・・・今思うと、その声は私がカラオケに行ったとき
マイクを通じて聞いた声に似ていた・・・って何で私がナレーションしてるのよ!あっあれっ?
もしかして私があのドラゴンなの!?)
さ~どうだろう?夢だし。し~らない。
(まだ居た!?変な夢見せてし~らない。とか可愛くいっても騙されないし!)
もしかしたら未来を夢見ているのかも知れないし、百合花の夢の空想かもしれないね!
(どっちよ!)
胡蝶の夢といえば大抵の事は誤魔化せるから!言ってみるテスト。
これは胡蝶の夢です。
(逆に意味不明感が増したわ)
ええ~。本当に目覚めの時間が来たみたいだよ?さあ、目を覚まそう!そして私を目覚めさせて!
(え、ちょっとまってー!)
朝、ゆったりとしたまどろみから目が覚めた。
遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる・・・。
ああ・・・これが朝チュンだ・・・。エメラルドにも雀いるんだ・・・。ああ変な夢見た気がする。
さきから頬に緩やかな風を感じる・・・けど・・・何だろう?
そう思い瞼を開ける・・・?と、
目を開けた先に至近距離から見つめる二つの目玉と穴が二つあった、そして緩やかな風は鼻息だ。
「ぎゃ~~~~~~「きゃあ~~~~~」~~~ん?」
あれ?私が悲鳴あげたと同時に他のだれかもどこかの部屋で悲鳴をあげたみたい。
ちなみに「ぎゃ~」のほうが私だ。我ながら女子力ひっくいな。
「きゃあ~」の方は絹を引き裂く乙女の悲鳴って奴だった。
こういう時にこそ本性が出るよね・・・流石俺。元おっさん・・・。
「百合花ちゃん・・・おはよう・・・凄い悲鳴だったね・・・」
私の寝顔を覗いてたのは夏樹ちゃんだった。何してるの・・・?鼻の穴でかくして。
「ああ・・・汚い夏樹ちゃんだ・・・」
「何それ!?ひどっ!何でそんな辛辣な事を言うの!?百合花ちゃん!」
「まあ、間違ってないよな。人の寝顔を至近距離から眺めている変態だしな」
「ああ、さっき夢で夏樹ちゃんが出てきたんだよね。んでその夏樹ちゃんが綺麗だったの」
「んまあ!それはそれは!じゃあ出演料を頂かないと!代金は・・・」
「綺麗な夏樹なんて悪夢だろ」
「そんな事ないもん!私は何時でも綺麗だもん!」
朝から茉莉花さんと夏樹ちゃんの漫才が始まった。朝イチから濃いな~。
それで夏樹ちゃんだけど、どうやら私が朝になっても一向に目覚めないから寝顔を観察して
たんだって。ちょっと怖い。そして恥ずかしい・・・。
「あの・・・私、いびきとか、かいてなかった?歯軋りとかは?」
「天使の寝顔でした、眼福だった。しかし起きた瞬間の声がおっさんだった」
「うっさいわ」
汚い夏樹ちゃんは置いといて、未だにチュンチュン言ってるけどこの世界にも雀っているのねえ。
そう思って窓の方を向いたら・・・。恐怖の光景がそこにあった。
ハゲタカのような顔をした翼竜が群れを成して隣の屋根に群がって獲物を取り合う姿だった。
そうよねーここエメラルドだもんねー。
雀に歯が生えてるとか無いよね~口が血まみれとか無いわ。
まあ、気を取り直して寝巻きから服に着替えるんだけれど、ちょっと気になった事が。
「ねえ、夏樹ちゃん?昨日服買ったって言ってたよね?ついでに私の服も買ったって」
「うん、そうだよ」
「夏樹ちゃん今着てる服って?」
「うん?自前だよ想像して創造した」
「だよね、ドラゴンになって服着た自分想像してそれに着替えられるようになったんだよね。
で、服買ったの?」
「買ったというか・・・デザインを見て終わり。これいいな~とか着たいな~とかおもった奴を」
それってデザイン泥棒では?とか思ったけれど・・・私の服買って貰ってるしなあ・・・?
あ、そうだ。
「夏樹ちゃん、私の服買ってもらったお礼に私が夏樹ちゃんの服選んであげてプレゼントするから
今日にでもそのお店に行こうよ?ね?」
ちょっと自分でもどうかな?と思うくらい媚を売った声とポーズを取り夏樹ちゃんに提案してみた。
「まじで!?行く行く!!うわ~あ楽しみだなあ!」
よし、これでちょっとは夏樹ちゃんの悪行(そこまではないかな?)も少しは差し引かれるでしょ。
ほっとして、ふと茉莉花さんを見たら、
何してんだ?こいつら可哀想って目で見られてた。媚び媚びポーズが恥ずかしい。
その後こそっと夏樹ちゃんがお店でデザインだけ見て服を買わないで自前で変身している事を
茉莉花さんに説明した。「それはいけない事なのか?」と茉莉花さんに言われたが、「デザインを
盗んでいる事にはなる」という事を説明した。その後、
「お前、泥棒」
「何で!?」
と、茉莉花さんにいきなり言われた夏樹ちゃんは驚いていたが、説明すると「そっか・・・」と
納得してくれた。が、
「じゃあ今度はデザイン見た後アレンジ入れて想像して創造するね!」と言った。
・・・いいのかなあ・・・?
お読みいただきありがとうございます。