歌姫の探し物②
セイレーン。私の記憶が正しければ、それは神話に出てくる人魚か何かだった気がする。海に住んでいて、歌声を聞かせて人を惑わす存在。そんな感じの。
しかし、目の前の彼女は人魚ではない。鱗はあるが、体は私のイメージするハーピーに限りなく近い。
「ヘビさん、セイレーンって人魚じゃないんですか?」
ここは博識なヘビさんに聞くのが手っ取り早い。
「サキのいた世界では人魚として描かれることが多かったかもしれないけど、元は海鳥。『海に住む美声の妖魔』のイメージから人魚になったのかもね。美声で人を惑わすんだから、魚より鳥の方がしっくりくるだろ?」
確かに、セイレーンと聞いてイメージしたのは歌で人を惑わすということ。それを前提に考えれば、声の無い魚よりも、鳥であった方が納得できる。
「ちなみに、ハルピュイアは人を貪る怪鳥。セイレーンはその美しい声で人を惑わし魂を喰らう海神の使いっていので、全くの別物」
「はるぴゅいあ?」
「ハーピーのことだよ」
なるほど、さすがに詳しい。
蒼いセイレーンは静かに水面に立った。そして、大きな翼で私を指した。
「すまない、人間。お前の髪と瞳の色が友に似ていたもので、つい悪戯をしたくなってしまったのだ」
謝罪はしてくれたものの、その表情には申し訳なさなどひと欠片もない。それどころか、どこか楽しそうにも見える。
「それより、海にいる筈の『歌の君』が何故ここまで?」
それよりとは何だ、それよりとは。私を引き込もうとしたのがただの悪戯だと知って安心でもしたのだろうが、私はその悪戯でびしょ濡れにされたのだ、もう少し気にしてくれてもいいだろうに。
ヘビさんの目からは先程の刺すような鋭さは消え、いつも通りの柔らかさを取り戻していた。
ヘビさんの問いに、セイレーンは目を細めた。
「探し物だ。友から預かった、黒真珠の首飾り。空を飛んでいるとき魔物に出会し、争っているうちに落としてしまったのだ。それを探している」
「魔物が……?」