死臭に非ずして殺す匂い。
【用語】
『香水』
:人体に香りを付けることは日常でもなければ普遍的なことでもなく人類史の中でも極めて特殊な事態に置ける極少数派の中でも例外的事例だった……過去形ではあるが、例によって例の如く現代地球人類の極ではないがかなり少数派である先進国だけの極最近に生まれ普及しつつある例外。なぜ普及しつつあるのかと言えば香辛料が普及したのと同じ理由でありアンチエイジング(笑)などと同じ方向性の詐欺ってバレるのを利用者が鏡を見るくらい絶対に許せないあたり信仰の一種。まあ若さと容姿と美しさだけに価値があると思う女ほど、それら全てに縁が最初から最期まで無いのは御約束。それら全て、あるいは一つを持っていれば更に価値を上乗せしたがるのはパンの代わりにケーキを食べる女なら普通フツーで同性がナニに渇望し永久に続けているのか判らない……そういう女は「女なら」って発想に永遠に至らないしね。
死神。
それは馬に乗り、馬と一緒に水を喰らう。
モンゴル帝国が通り過ぎる前。
通り過ぎたと気が付く前か。
何人もの旅人が。
幾つもの街々で。
少なからぬ人に。
だが大勢ではなく。
馬の水桶から一緒に水を飲む姿が観られた、という。
軍とは名ばかりの武装集団
――――――――――欧州諸侯には解らなかった。
斥候が行き過ぎたらどうなるのか。
・・・・・・・・・・掃討戦が始まる。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
五月の北邦。
暖かさには乏しい。
だからこそ良い匂いで満ちている。
クリアな匂いは善い匂い。
夏と冬は汗をかく。
衣服なしで。
衣服の下で。
人が多い都市では尚のこと。
代謝が勝り老廃物が増えれば、無駄と言う名の悪臭が増える。
悪臭とはノイズのこと。
耳障りならぬ鼻障り。
無駄と余裕は真逆なモノ。
鼻腔が捉える化学物質。
朝。
飛散する前。
夜。
飛散した後。
春と秋。
人体からの飛散が少ない。
服屋の館を出て、深呼吸する、怪しい彼女。
殺しの薫りがした。
死の臭いじゃない。
確かな技術で、意図的に、知的生命を壊す。
香りは人工的。
薫りは天才的。
匂いは自然に生じて、臭いは不愉快だ。
天才というのは割りと良く居る。
馴染む天才。
目立ぬ天才。
連なる天才。
才が集まり一つの命を狙ってる。
―――――――――ホビットが一人―――――――――
人の子供に混じって。
丁稚小僧を装って。
ホビットとすら気付かせず。
皆を観ないで視せている。
布巾を被せた籠の中。
硝子細工の煌めき。
その中で眼を凝らす。
街往く人々の表情か換わる瞬間を狙っている。
・・・・・・・・・・斥候だ。
さて、巧くいくかどうか?
――――――――――旨そうだから期待している怪しい彼女。
におい。
匂い。
臭い。
それだけで解る。
意識を向ければ誰にでも判るありふれたこと。
香辛料に価値が生じたのは「腐った肉」を食わねば生きていけなかったからだ。
酒にしなければ飲めない水しかなく、実りを待たずに狩らなければ食えず。
実際、室町時代には持ち込まれていた香辛料が、日本では普及しなかった。
山海の恵みに溢れており水にも不自由しないとなれば、それも当然のこと。
事情を考えれば食えない黄金より価値が上がるのも、無理からぬことだろうに。
異世界にて香水が普及しないのも、それが理由。
老廃物の臭いを誤魔化したところで意味がない。
性の禁忌が無い世界なら肌を合わせればバレる。
つまりは非先進国の、人類の大半であって異世界も例外ではないということ。
腐っているから食べさせられない。
腐っているから食べ物を選ばせない。
腐っているから食べ比べさせられない。
ましてや新鮮な食材を市場に上げるなど、腐った食材にとって殺されるに等しい。
異世界には偽装、いや化粧は無い。
美容と呼名を換えた自己満足も。
逆効果にしかならないから当然だ。
他人への働きかけが、そうはならない。
主に自分に対する効果となる。
経済的には他者を潤すけれど。
不要無用が産業を為すあたり。
合理性や必然性は無いので、地球人類の一部少数派の詐欺が多世界に拡がることは無いと思われる。
―――――国際連合異世界文化不干渉原則―――――
地球先進国ローカル迷信の汚染を防いだ。
・・・・・・・・・・勝利を目指して結果的に、だが。
多世界の未来に万歳三唱!
とはいえ、香りを楽しむ文化が無いではない。
むしろ、ある。
香道のように、非日常を楽しむ香りは普遍的。
そう、非日常。
香り。
香料。
香油。
それは特権階級の演出。
服や鎧や装具に焚きこむ。
脱がせる外すつど香りを替える。
肌に馴染ませ質感も変える。
擦り合わせ汗をかいて落としてゆく。
最後に残るのは、そのモノの匂いだけ。
――――――――――最高の肢体を持つ者だけの愉悦。
エルフのように最高の肢体以外あり得ない種族には、想像も出来ない世界。
・・・・・・・・・・だからこそ、敢えて発散させることを前提にした、ありとあらゆる化学物質の異世界持ち込みは禁止。
香りなど、その最たるモノ。
文化的な影響以前のコト。
直接的生死に繋がりかねない。
そこまで逝かずとも吐かれるのは確認済み。
異世界でゴブリンに襲われたら化粧水を投げましょう。
・・・・・・・・・・メイクしてれば近づかれないか。
ゴブリンには限らないけど。
異世界に限らないけど。
・・・・・・・・・・偽装の習慣が無い世界一般では。
そんな世界の一角。
血の臭い。
香草の匂い
材木の香り。
人の臭い。
撒き散らされる化学物質。
鼻を生かして楽しむ怪しい彼女。
嗅覚は脳に直結しているという。
神経を経由しない為に速く鋭い。
見なくとも視える。
存在。
動き。
正体。
眼は口ほどにモノを言う。
匂いがしない者が居れば、目立つくらい。
周りの動きに生じる空白の位置でわかる。
エルフの耳より役に立つ、と自負してる。
眼を向けずば聴き取れまい。
馬車に乗り風を受けても判る。
ある程度は。
だが歩いていれば詳しく解る。
日暮れまで時間が少ないが、敢えて馬車を待たない理由。
拉致されたお陰で宿探しの手間暇が省けた。
両替商人のお陰で資金準備の手間暇が省けた。
河に溺れたお陰で青龍のガン見に気付けた。
まったくツイてる怪しい彼女。
――――――――――好事魔多し。
怪しい彼女に都合よく出来ている世界。
それは怪しい彼女を無知にしてしまう。
それで不都合が無いのか、不都合に気付かぬのか。
今日で言えば、自然に街を視廻る機会を逃すところ。
目的地から目的地へ。
所要から所用へ。
まっすぐ往き来するのが商人の慣い。
目指す先を探して視察巡回するのは、領主か騎士だ。
既に知られている青龍にはともかく、領民には秘密。
目立たぬ様に街の空気を掴みたい。
だから都合良かった。
服屋の前で別れた馬車。
一巡して再会の予定。
服を買い終わった後で。
・・・・・・・・・・即終了とは誰も思わず。
店に入って出た刻。
当然、馬車は戻っていない。
常ならば、馬丁を走らせる。
一走りすれば、追い付ける。
二人は店の前に待機していた。
馬車の周回時間潰しコース。
馬丁は当然、把握している。
軽く市内を流しているだけ。
近道を先回りして馬車に合図すればいい。
すぐに全力で店の前に戻ってくるだろう。
怪しい彼女は、それを遠慮しただけ。
――――――――――両替商人が、すぐに対応。
馬車は戻って来るに任せる。
着いたら店から服の山を受けとる。
二時間後に河の渡しで合流し宿舎に帰る。
それまでゆっくり徒歩で移動。
それならそこまで不自然ではない。
それで為すべき、こともなし。
服の注文をした以上、全て込み。
下着から靴に帽子やアクセサリー。
組み合わせもサイズ合わせもだ。
もちろん採寸などしたりはしていない。
視て判るのが当たり前。
店主か。
職人か。
店内の誰かや誰かたち。
コーディネート、デザインと同じ者がやる必要はない。
だが余程に特殊な注文以外で肢体のサイズを測らない。
服を着ていても靴を履いていても、視えない訳がない。
歩けば重心が判る。
重心から体積が測れる。
裾や布地の揺らぎは見える。
靴に至っては音が響き易いくらい。
スリーサイズは疎か指先までのラインも眼に浮かぶ
・・・・・・・・・・国際連合統治軍大尉の解説でした。
度量衡が帝国にしか理解されない世界。
メジャーが無くとも職人芸が在れば良い。
優れた者が滅びても無難な物で済むのだが。
異世界では特権階級の利便性に世界が合わせる。
だから職人芸が滅びることは無いだろう。
現代地球でも大衆化以前の社会では、以下略。
職人の世界。
現代先進国基準を持ち込めば、どうなるか。
・・・・・・・・・・嗤われる前に相手にもされない。
目測で服を仕立てて当たり前の世界でメジャーを出しても理解されない。
ただし、その職人芸で百万人の服を仕立て続けることは望みえない。
互いに「何で?」となるばかり。
個々の優劣は、しばしば全体の優劣の逆になる。
百発百中の砲一門より、百発一中の砲百門とは。
先進国に在る個々人の技量は、先進国という背景無しでは全く通用しない。
会社を辞めたサラリーマンの如く、個人の無価値こそ組織を強くするのだ。
肩書や知識を自らの力と勘違い
――――――――しばしば途上国援助でしくじる原因。
魔法使いに学び。
被征服者に学び。
教え方が悪いと斬り捨てた。
怪しい彼女たちには関係が無い話。
学ぶことは奪うこと。
代々重ねた略奪者の血が騒ぐ。
それを征服と言い換えたことすら忘れて。
迫り来る血の臭いにワクワクしてしまった。
・・・・・・・・・・両替商人は諦め天を仰ぐ。
知らせて来る丁稚もいない。
嗅覚も人並み。
道行く人々も、気が付いた。
さて?
人々は道の端に駆け寄り、伏せる。
頭を抱えて身を丸めて。
どう観ても、敬意の表明ではない。
恐れているが、逃げ出さず。
――――――――――殺されない方法が、在るらしい。
ならば観ていても、大丈夫。




