感じるな!考えろ!
【用語】
『考えるな!感じろ!』
:「後ろに眼をつけるんだ!」並みのムチャぶり。それがアムロで用語はリーやヨーダ。拳法の達人やらフォースの超人やらとのディスコミュニケーション。同じ世界に住んでいないのだから仕方がない。それこそ先進国ローカルルールが半世紀前の日本で通用すると思ってる人が大半なので、割り切るのは無理だろう。それこそ日が暮れた後で蝋燭の灯りだけで生きていけるか試してみれば解らないと判るかも。副作用としてありとあらゆるフィクション・自称ノンフィクションが現代先進国人のコスプレ・ロールプレイに視えてしまいますが。
世界を文字に起こせる者を覚者と呼ぶ。
解釈なしに世界を視ることが悟りである。
其は世界に繋がれず而して繋がる者也。
――――――――――仏教の基本知識。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
佳い物を観た。
――――――――――視たとはとても言えない。
善いかどうかに興味がなく。
良いのかとはなんとも。
佳いのは間違いないけれど。
判ることは多いけれど解らない。
どの様には観えた。
どうやっては視えない。
どの様な、に至っては論外。
偉大な戦果。
・・・・・・・・・・ではあるが、認めまい。
結果ではないから。
過程に過ぎない。
結論にはまだ早い。
独り占めにしておくべき段階だ。
何処かで知られているか。
誰彼が秘しているのか。
自分は、知らないが。
怪しい彼女は内心だけで北叟笑む。
北辺で馬に逃げられた老人ではないけれど。
そも馬は肢体の一部なのだから。
逃げられることはあり得ない。
例えば視得ない処に居ても。
必ず馬は逃げたりしない。
まさに北辺の稀にしかいないほど麗しく魅力的で男が欲して止まないという意味で美女であることを常に自覚し続けている怪しい彼女、の馬は更に北で休んでいる。
禍福は糾える縄の如し?
常に幸運な者には他人事。
人生に釣り合いなどない。
怪しい彼女も、そんな中の一人。
楽しくもあり。
愉しくもあり。
――――――――――――――――――――――――――――――痛い。
うん。
元気な証拠。
だから痛い。
麻痺せずに。
なにもしなくても痛い、のは好都合。
動かして確かめる必要がない。
傷を悪化させるリスクが減る。
ただ痛みに意志を向けるだけで済む
傷の輪郭どころか構造まで解る。
慣れれば誰にでも出来ること。
斬られ。
穿たれ。
潰され。
繰り返して考え感じて習得する。
治癒魔法が日常ならば簡単だ。
傷付く前から侍っていて。
傷の種類を予定してあり。
傷付く刻から後まで準備。
いつでも癒せるように複数の魔法使いが備える。
だから癒されるまでは安心して苦しんで構わない。
裏付けある技能と経験に管理された苦痛というモノ。
怪しい彼女は幸運だ。
――――――――――知っているから。
幸運とは知性に拠る。
意図的に加えられる怪我と苦痛。
それは選ばれた者にのみ許される。
怪しい彼女の様な者たちのことだ。
金を積んでも、どうにもならず。
そもそも買えないモノだから。
魔法使いは少なく、市井の街にはいない。
都市にならいる、こともある。
さもなければ人知れず隠れ住むあたりか。
いずれもマレビト。
帝国以後の当たり前。
――――――――――魔法使いは集中して運用する。
そう考える帝国が、産まれから魔法使いを独占。
そんな帝国、帝国軍でも、治癒魔法使いの備えは十分ではない。
魔法使いは才能が全て。
魔法の効果。
魔法の強弱。
魔法使いの好不調まで。
技術として確立してなお、才無くば擦ることすら出来ない。
歳を経て開花することもあれば歳若い刻だけもある。
こうなると魔法というカテゴリーで纏めて良いのかどうか。
そんな世界で治癒魔法使いを常に同行させること。
不測の事態に備えるのではない。
予測の事態に控えて対処する。
経験豊富な魔法使いと患者たち。
刻に想定を越えることもあるけれど、それも想定。
現代医学には望めない再現。
斬られ溢れた臓物ごと肉筋を癒す。
その間、わずかに数分単位。
地球人類の医学者たちが狂気乱舞して導入する訳だ。
魔法が無い故に蓄積された医学知識を組み合わせれば?
――――――――――何が出来るかわからない!
何が出来るか判っている。
怪しい彼女の青春時代、その日常。
いやまだ十代半ば、過ぎ。
青春真っ盛り。
特に女性ならば、最盛期。
ちょうど成長が終わるのが15歳前後。
ピークが5年ほど。
怪しい彼女は真っ盛り。
以降の老衰期まで、まだまだ間がある。
男性は5年遅いが。
異世界人でも地球人でも変わらない。
成長して。
成熟して。
老衰する。
成熟完了から老衰開始までが最盛期。
そんな肢体の最盛期を生かした肉体的訓練。
もちろん個人や閉鎖集団の体験ではない。
世代を重ね社会的に積み重ねられた体系。
殺すことを、殺されるに足ることを、学ぶ。
傷痕など遺らない。
魅力的な肢体のまま。
流石に先天的な貴重な美しさや可愛らしさと、後天的な技能を引き換えたりはしない。
痛みに耐えるだけ。
それは容易いことだ。
そこから先を掴む。
痛みを最大限感じる。
強度ではなく細部。
痛覚が本来目指す処。
そう。
痛みとは本来、身体から与えられる警報だ。
・・・・・・・・・・警報にビックリして死んだりするが。
異物への拒絶反応が過剰でアレルギー。
病因を滅ぼす為の免疫反応こそが症状。
対症療法とは免疫を弱めることなのだ。
外敵を自分自身ごと破壊する免疫に堪えることでのみ、生き残ることが出来る。
自分を殺すのは自分の身体。
いやはや、人体は拙く出来ている。
それは異世界でも同じこと。
だが痛み程度ならば、意志の力でコントロール出来る。
どこが。
どのように。
どのくらい。
どうなって。
どうなるのか。
知識と体験に照らし合わせ、考えずとも解る様に。
意識に昇り判るのは、結論だけであるべきだから。
手持ちのカードが視えれば役を組める。
なんならコールをかけた瞬間に斬り付けるまで。
少なくとも怪しい彼女の周りでは、当たり前の基礎技術。
今がソレ。
――――――――――怪しい彼女のセルフチェック。
脚と腕の筋痙攣は、収まっている。
治まっては、いない、から痛い。
筋に傷はついていないと判る。
まったくツイてた。
肢体の中枢から確認。
頭は苦しくない。
酸欠の影響は最小限。
肺にも異常なし。
水は、入らなかった。
体温も上昇中だ。
しばらく時間が掛る。
鼓動は既に安定。
平常値に戻せた様子。
手足をイメージ。
血流が末端まで届く。
次は動作テストにかかる。
動かさない様に。
動ける様に。
周りに気取られ無い様に。
肢体の力を抜く。
肢体に力を入れる。
――――――――――全て思い通り。
周りは無反応。
敵はいない。
寝耳に水。
聴覚はダメ。
肌感覚も無理か。
顔、以外は覆われている。
毛布で包まれているのだ。
振動は、川面の響きだけ。
自分の鼓動は邪魔だけど。
だいたい解った。
状況。
経過。
予定。
溺れた自分は掬い揚げられた。
意識があるから生きている。
痛みがあるから致命傷はない。
此処は河岸、河の北岸だ。
振動が少なく音も静か。
街を更す作業の気配がない。
河の真ん中で溺れたのだ。
河岸南北どちらからも、等距離。
だからこそ北岸に揚げられたのだろう。
乗っていたのが北岸行きの舟。
一番近くにいた舟に掬われたのだろう。
河に跳び込む前に乗っていた。
南岸から北岸へと向かう渡し舟のこと。
なら進む向きを変えずに進む。
その方が手間暇を減らし溺者を救える。
河の近くなら溺れる者はいる。
ならば普段から備えはしてあるだろう。
今居るのは、その類いの場所。
――――――――――それはそれとして。
怪しい彼女は考える。
解ったことは、どうでも良い。
解らないことにこそが、重要。
あの河水中少女は何だろう?
・・・・・・・・・・そこからである。
どうやら掬い揚げる必要は無かった様だ。
動く前に、そこまでは考え無かったが。
・・・・・・・・・・溺れていなかった。
気付いた刻には自分が溺れていたのだけれど。
水中に可愛らしい少女が居た。
だから、水面に導こうとした。
船乗りに引き揚げさせるなり。
河岸どちらかに曳いてくなり。
息さえ継げれば、どうにでも。
為る訳が無かった貴重な教訓。
怪しい彼女は自覚しなおした。
――――――――――自分が溺れる可能性。
産まれた刻から馬に乗り。
土竜に乗せられたり。
飛竜を駆ったり。
走る。
走らせる。
跳ぶ。
飛ばせる。
肢体は自由で届く範囲に不自由などない。
怪しい彼女の様な人々が、しばしば陥る。
世界は自分の道具である、という、確信。
劣っていない者にとっては、現実なのだ。
ましてや優れて恵まれている怪しい彼女。
河の流れに限らず従えるのは、当たり前。
世界という道具は使う側に限界を定める。
劣って無い程度の者ならば自得すること。
その程度ではないからこそ期待し過ぎる。
我と我が身と道具が揃っているのだから。
世界を曳き寄せようとして引摺り混まれ。
それを知ることが出来たとすれば事後だ。
自分は環境の一部でしかないということ。
それに気が付くことが出来るという強運。
死にかけることの得難き価値よ!
――――――――――生き残れたということなのだから。
いや、生き残こる力があった、というべきか。
お陰で、あの少女を間近で視ることが出来た。
豊かで丈夫な肢体に恵まれ鍛練を重ねたお陰。
要らぬことを考えずに動いてから考えたお陰。
仏教が無い世界故、お陰もなにもないが、意味合いはそのまま。
怪しい彼女は噛み締める。
正しい行動と正しい判断には素晴らしい成果が得られるものだ。
まったく自分はツイてる。
――――――――――あの人魚は何か?――――――――――
人はパンのみにて生きるに非ず。
パンなんかあって当たり前。
人の大半にとって、どうあれど。
そんなつまらないことに感謝出来るのは不幸な輩。
はい、わたしですね。
一度崩れた姿勢を建て直すのにこんなに時間がかかろうとは!
これからは普段から小まめに補強して崩れる前に手を打つようにいたします。
という訳で、わたしにとって残念なことに、今週も一話のみ更新です。




