終末の過ごし方/Who Stole the Tarts?
【用語】
『生きる』
:死ぬまでの過程。であるならば殺されるまでの過程は生きると言えるのかどうか。大口径弾頭が額に突き刺さり骨を砕き脳を破壊し自律神経が停止し内臓が機能停止し細胞が壊死し終わるまでどの瞬間が生の終了なのか。脳死の概念に従うなら機能が停止し回復不可能になれば死であるらしい。じゃあ死刑囚は執行前に人としての機能が停止し回復不可能だから殺されたことになるし2009年に異常な放射性物質の循環過程に組み込まれている自分は殺されたことになるしどの段階を機能停止とみるかと言えば新陳代謝の回数制限が組み込まれる生成段階で停止し始めたと言えるんですがそれは……本作だけではなく書きたい作品を全て書き終える為には百年ぽっちじゃたりないから生きても死んでも殺されてもおなじことか。
いつ死ぬかわからない。
明日かもしれない。
今かもしれない。
今、生きてる?
それは戦場?
いや日常。
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣/青龍の水飛竜横下/若い参事】
僕らには常に期限があり限度があった。
いや
――――――――与えられている――――――――
今も。
辺境の太守領。
青龍の侵攻。
僕らの元。
戦が始まってから青龍がやって来たのは、ずいぶん後だ。
いきなり攻め潰された大港湾都市とは違う。
何も気取りようが無かった皆々様
何かは観聴き出来た僕たち。
何であるかは解らずとも。
何かが在るとは判った。
地力の有無や多寡より、知識の多寡より。
知識の有無こそが意味の有無。
ツイていた僕ら辺境の民。
太守の留守家臣らから知らされていた。
――――――――――彼らの逃走予定以外は。
青龍の侵攻。
帝国の敗走。
各地の混乱。
・・・・・・・・・・彼らの主観ではあるが。
魔法を使った伝達でも限度はあるモノ。
帝国の公知。
帝都が下す命令。
地方軍本営の確認。
地域太守の共有情勢。
魔法の即報。
僕らの取引。
決済休止の連絡。
出港停止の報告。
資金繰りの相談。
順番待ちの非帝国魔法と伝書鳥。
地理的に孤立した太守領。
宿駅の馬郵便は内部でしか使えない。
だが速報なら元々これだ。
帝国の言葉に嘘はない。
誤認誤報の範囲。
後で商業網で裏書する。
だから、とも言う。
僕らが相手だからな。
騙せる相手なら価値がない。
騙せる相手へ嘘すら吐かん。
僕らを相手にしてる。
そこが青龍とは大違い。
帝国は勝利する。
未だに信じてる。
帝国らしくある。
そう思っている限り嘘を吐くことはない。
嘘とは弱者の方便。
糊塗すべき弱気の告白。
隠せば良いにわざわざ表す。
詐欺が貧乏人の生業である様に。
強者に弱点など武器でしかない。
隙に誘い込むなど、商いの常道。
流石に問えば答える青龍はアレ。
僕らを必要としている帝国。
隠し事をするからこそ嘘はない。
支配とは取引だという常識。
そう思っている時代が僕らもありました。
だから不安は懸念で済んだ。
太守の留守家族が逃げても。
次はどうするとだけ考えた。
前太守の家族が直前まで粘っていた。
逃げる素振りすらせず居座っていた。
存在そのものが皆を油断させていた。
お互いにとって都合が佳い。
変化を恐れる僕ら参事会。
変化を認めたがらぬ領民。
変化を起こす太守の家族。
いつ逃げ出すか?
―――――僕らが斜に構えて居られたのも余裕の現れ。
逃げだされた後は?
・・・・・・・・・・誰一人それを企む者が居なかった。
それが起きた刻は?
―――――領民たちは僕らを観、僕らは笑顔を造れる。
備える時間が在ったからな。
慌てていたのは王城勤めくらいか。
帝国の氏族に加わろうとしていた氏族。
そりゃ置いていかれたら困るわな。
帝国の体制に加わっていた僕らとは違う
――――――――――はずだったんだが。
総執事とメイド長以外は逃げた。
二人が残ったのは意外だったが。
残されたのではないということ。
その方が都合に合うからかもな。
退く氏族に棄てられた奉公人ら。
帝国氏族にだけじゃないあたり。
出身氏族からすら見棄てられた。
元支配者の配下など厄札だから。
切り札として送り込まれたのに。
序列外として匿われたらマシだ。
氏族を守る為に敢えて逐われた。
そりゃ落ちれば叩くが当たり前。
これ観よがしに突き出すのもな。
氏族全体を守れたら安いものだ。
恵まれない連中の、鬱憤晴らし。
大氏族の落ちこぼれまで加わる。
それが意外だから、耳に入った。
それを聴き流して冷汗かいたが。
太守領支配に欠かせない僕らとは違う。
・・・・・・・・・・と思っていられた。
前太守家族が逃亡すると青龍が来た。
あれは青龍の女将軍だった。
――――――――――らしい。
というのは御多分に漏れず、僕らも隠れていたからだが。
誰かが殺されてから動かせば良い
――――――――――我ながら甘いこったよ。
市ごと。
街ごと。
人脈ごと。
丸ごと薙ぎはらうのが当たり前
・・・・・・・・・・隠れても無駄。
知らなかったからな。
思い知らされたが。
殺される前に。
最初に殺って来た青龍。
必要は無い。
限度も無い。
何も要らない。
当たり前に市門を砕く。
まっすぐ王城に入る。
手早く城内を確かめた。
誰かを捜していたのやら。
ここまで無言だってんだから。
訪ねて。
尋ねず。
来て。
帰る。
ここまでは大港湾都市と同じ。
僕らには魔女が居た。
参事会が手配した殺され役、ではなく。
煽てられ、媚びる態で青龍の前に出た事務屋。
何故か同行した魔女には此方が慌てた。
商いの才が無く参事会の中で立身を目指す奴とは違う。
序盤で切る予定に無い良札。
役が崩れて上がれなくなる。
切り札扱いではなかったが。
後日、切り札になる前に、僕らを救ってくれた、一回目。
青龍の女将軍に要求したんだ。
失せろ、と命じられた後に。
命令に逆らって魅せた。
自分たちはどうしたらいいのか、と。
獲物が得られ無かった権力者へ。
殺す価値も無いと見逃された一味から。
わざわざ進み出て勝手な願望を突き付ける。
うん。
正気じゃない。
彼女はマトモじゃない。
我が家運を託せるくらいに狂ってる。
僕らは救われた。
青龍による太守領の支配が宣言され。
青龍の貴族が支配者として来ると決まり。
今後の日程まで決定されたのだから。
苦難であれ。
不安であれ。
日常であれ。
見通しが付いてればこそ、耐えられるもの。
僕らには常に期限があり限度があった。
大港湾都市の全員に与えられ無かった。
求めれば別だった、のかもしれないが。
その結果。
――――――――――青龍の癇に触ってしまう。
大港湾都市が秩序を取り戻した後。
投機により秩序が破綻していく中。
都市参事会は分裂し対策は遅れる。
鎮圧から制圧、では済まないと気が付いたからだ。
――――――――――内戦決定――――――――――
今、生き残っている船主の氏族。
攻撃する側。
今、此処にいない他の氏族たち。
投機してる側。
人数と経験者、集団慣れした船主たち。
市民多数を捲き込んで纏りが無い多氏族。
誰を何処まで何時どうやって殺せば片がつくのか?
船主たちは先ず、敵を纏めるところから。
参事会で投機の規制を打ち出す。
あくまでも非暴力で。
賛否を別けて敵味方を絞り込んでいく。
温度差と人間関係。
人数と武装と組織。
中心となる者たち。
勝敗は決まっている。
武力で圧倒しているのだから。
敵のアタリさえ付けばいい。
後は順番と分担を決めるだけ。
四月頭から始め、半ばには殺る。
――――――――――半月待ってはくれなかった。
三月半ばから起きた投機。
大港湾都市は商いの中心。
沿岸部一帯に波及しだす。
現物を伴わず、証文より口伝えが先行。
取引すらされずに思惑だけ走り抜けた。
戦火が遠退き生まれた余裕が吸われる。
正常な取引が停滞。
それは物流の停止。
余剰と不足が固定。
物が在るのに飢えが起こり金が在るのに何も買えない。
自給出来ない都市部。
商品作物に特化した村々。
鉱山や工房などが盛んな地域。
大陸最大の豊かさを誇る沿岸部でなければ起こらない。
豊かさの源泉が最も打撃を受ける。
豊かさとはさが付くように信用だ。
豊かさが失われたら不信だけ残る。
原因を殺し尽くしても、解決どころか悪化するだけ。
それは視られていた。
それが気に触った。
それを赦さなかった。
ちょうど投機価格が頂点を極めた刻だっただろう。
後は暴落する。
物が安くなり出回るか?
いや棄てられる。
実態が無いからな?
運賃が出ない程に下がる。
誰がそれを運ぶ?
運ばなければ不足のまま。
いずれまた値が上がり
・・・・・・・・・・そーいうのが嫌いな龍がいた。
帝国から奪った莫大な財貨。
穀物。
鉱物。
加工品。
製品。
動産だけで山じゃ済まない。
それらの集積地は商いの中心地に、元々帝国が設えていた。
青龍は財貨を持て余していた。
別に要らないからだ。
だが戦利品を棄てる訳にはいかない。
勝者が敗者から受け取る義務がある。
青龍は自他の名誉に煩い。
誰の命にも拘らないってのに。
だから財貨を気に触った連中に叩き付けた。
小麦を中心とした必需品。
要は、帝国軍の兵站物資。
青龍が起こした大暴落。
従前の定額でのみ売る。
参事会に販売を即時命令。
躊躇た者たちは殺された。
市場価格なんぞ全て無視。
青龍の決めた価格が全て。
青龍が帝国資産を奪うのは皆が観た。
在庫を抱えているのは皆が知ってる。
青龍が気に添わぬ者を殺すのも観た。
それ以前に邪魔なら都市ごと皆殺し。
価格を決めるのは青龍。
販売を決めるのは青龍。
投機は即死。
ただし債権証文は構われなかった。
青龍は特に、構わない、と言い添えた。
わざわざ言った意味は、死刑宣告。
投機に投じられた金は返らない。
投機に関わった者同士が追及する。
投機による債権は全て紙くずだ。
参事会の商業調停は全ての債権債務を認める。
取引を円滑に進める為。
例外は取引を阻害する刻。
あるいは権力者の強制。
なるほど十万人を一晩で殺した青龍ほどの権力者はいまい。
一人一人の生殺与奪を握っている。
その権力者が何もするなと御命令。
普段通りに売り買い貸し借りする。
債権者は債務者に押し掛け、参事会は衛兵で支援。
幸いにして内戦覚悟の私兵たちが大勢備えていた。
参事会は、債務超過者の議事参加を認めていない。
債務債権に関係無い彼らなら調停に相応しい。
もちろん有り金全て家財土地までなにもかも。
債権債務者の私兵は武装解除し平和裏に進む。
まあ投機に限れば売る方も買う方も仲介する方も空取引。
誰もが債務者で債権者で取立人。
皆が必死に精算し合って告発し合う。
調停場所の参事会は当事者全てから何もかも記録が押し付けられた訳だ。
誰が頚を括ろうが証文がある。
誰が手首を切ろうが帳簿がある。
誰が心中しようが金額はある。
関わった全ての者を把握。
自殺させ。
奴隷に売り。
没収して。
競売に掛け。
投機資産は消滅させた。
青龍に命じられたからじゃない。
誰も彼もが己の利益の為だけに。
青龍も忘れているんじゃないか。
その後、大港湾都市生き残り氏族への、命令は無かった。
・・・・・・・・・・今朝までは。
―――――――ちょっと来い―――――――