応えのある謎/Why is a raven like a writing desk?
【用語】
『バカ女』
:太守領を実質的に統治する参事会の議長。最有力氏族五家の筆頭だったが絶賛没落中。それでも氏族内で最も重視される惣領娘であり女系社会の異世界では彼女が産んだ子供が氏族を引き継ぐ立場なのだが、御付きのメイドをたった一人連れて独りで他氏族当主の元へ亡命中。
元々考えなしで祖父母に甘やかされたダメ人間扱いだったが祖父母が失脚、その最中に異世界からの侵略者の支配者の前に誰にも判らない理由で立ちはだかり屋内で催涙ガス浸けにされた後で馬の水場に放り込まれ吊り上げられて対面した直後に異世界からの侵略者の支配者にタメ口を利いて同席した昔馴染みに殴り伏せられている。
………その後も殺されずに活躍?しました。
百万文字ぶりくらいに再登場したキャラクターの回想に登場した二百万文字くらい前に登場したキャラクターって新キャラ扱いでもいいかもしれない。
なお第一話の伏線が八百万文字くらい後に回収されたらふと言っていいのやら?
インタビューの基本。
話す。
視る。
聴く。
問い続けます。
主導権を決して手離さないで。
反応させるために刺激を与える。
無視、黙秘、無反応も反応です。
だから視ます。
むしろ無視の方が雄弁ですね。
黙秘が巧くいかないのはこのため。
動物は判断できずとも反応します。
聞くのは無駄。
自白剤を使う場合はともかく。
主観や主張から何も得られません。
本心ですらない願望は無意味です。
警察の尋問と真逆。
諜報機関の手法。
罪人を決めたいのか?
罪を見つけたいのか?
そう考えれば判りやすいですね。
必要なのは事実の確認です。
相手に何かを認めさせても時間の無駄。
現実への影響は在りません。
自称ではないジャーナリズムとは、こういうもの。
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣/青龍の水飛竜横下/若い参事】
僕の妹が、判るに徹し解るを捨てる。
・・・・・・・・・・体験しないとわからない。
話すのは大港湾都市の皆々様。
信じられていない前提で語る。
青龍の女を前に嘘を吐けない。
僕には解っている、とは判るまいが。
―――――――――体験してると知られぬ優位。
街を壊す。
人を殺す。
その延長に邦は滅ぼされる。
判りやすい。
街は残る。
人は死ぬ。
その先には何が在るのやら。
解らんわな。
眼孔。
鼻孔。
口腔。
灼浸く臭い。
僕はその痕跡しか知らずに済んだ。
――――――――――バカ女と違って。
ドワーフに同情したのは産まれて初めてだった。
青龍に殺された者たちに同情する日が来るとは。
穿たれ裂かれ潰されるのとは違う感触なんだよ。
バカ女が楽しそうに語った惨劇。
・・・・・・・・・・体験しているくせに。
山塊の中下を隅々縦横無尽に走る坑道広堂。
が終わった穴を埋めずに補強する地下都市。
ドワーフにしか判らない余所者からは迷宮。
隅々まで、半日と掛けずに掃討。
――――――――――満たされた煙獣。
決戦もなく、いきなり掃討から。
数こそ少ないが、太守領最強。
ドワーフの戦士も鉱夫も。
なにもかも。
誰も彼も。
ひとまとめ。
殺されはしても、殺さないであげた。
――――――――――青龍らしい。
殺す刻は皆殺し。
例外はない。
殺してもいい刻は?
生き残っても構わない。
そこから先は解り易い。
そりゃ降伏するだろう。
ドワーフが斧を捧げるわな。
むしろ遅すぎて驚いた。
それが太守領で起きたこと。
これが太守領以外で起きた。
大港湾都市の煙獣は地を舐めた。
上ではなく下へ、下へ。
陸風が海へ向かう。
それに連れて海へ海へ。
煙獣は陽が昇るに併せ海上へと移動して居座った。
煙の獣だけに、風には弱い、か。
それは覚えて置くべきこと。
海へ逃げた者たち皆が溺れる。
海面に出ると喰われる。
泳ぎに長けても息継ぎは要る。
そも煙獣に舐められて、まともに泳げはしないか。
青龍は入れ替わり陸に上がった。
それが青龍、初めての出現。
煙獣に全てやらせて。
邪魔な領民を掃き出して。
道を塞がぬように追い立て。
煙獣を使ったのは何故?
死体で街を埋めたら歩き難い。
死体は歩かないからな。
殺さなければ逃げる。
その先で溺れても。
青龍には関心がないこと。
終わった後、市内は空いていた。
所々で死体はあったが。
転落、転倒、窒息は主に屋内で。
踏み潰された死体は平たく。
刺殺した死体は道の端。
街路はとても歩きやすかった、訳だな。
街とは、そういうモノだ。
人さえ居なければ。
だから殺さなかった訳か。
――――――――――敢えて――――――――――
結果として殺してもいい。
生き残ってもかまわない。
青龍には生死が要らない。
海亀に載った青龍。
溺死者の海を軽々と乗り越えたそうな。
占領時に、それを観る生者は居なかったが。
溺死者の回収にあたった人足たちが観ていた。
舟が死体に遮られる中を跳び回る、青龍の海亀。
煙獣に追われた人々、大港湾都市の住民。
陸に落ち延び。
海に落ち溺れ。
半分が殺された。
南北二つの大港湾都市。
それぞれ十万人は住んで居た。
一晩で両市の半分が溺死。
死体の大半は、すぐに引き揚げられたか。
死体と同じ数の人手が余っていたからな。
差配したのは船主たち。
死体が浮かぶ港に詳しい。
船乗り以外の組織は壊滅。
元々、港湾都市の有力者。
衝撃を受けた者は、大きな声に従うもんだ。
都市が麻痺して仕事が無いのは好都合。
恐怖に麻痺して意思が無いのも好都合。
何が正しいかなんて問う奴はいない。
死体処理の報酬。
死者の寝倉からの回収物。
一ヶ所に一纏め。
全員で概ね平等に分けた。
等しくする意味。
互いに互いを見張り合う。
怠けようがない。
死体の山の中で怠けたら。
誰も気にしない。
山の高さなど観ていない。
市門を抑えてしまえば個々の盗みは防げる。
海は死体で溢れて港側からは持ち出せない。
回収物は門前に並べられ、目分量で分けた。
衛兵の代わりに動員されたのは船乗りたち。
船の上での裁き方。
強請ればすぐ殺す。
元々海賊避けに武装してる。
避けない族と殺り慣れてる。
裁断すること、されること。
船乗りほど慣れてる奴らはいない。
従わせられれば、皆やるべきことは知っている。
死体を埋めて腐らせる馬鹿はいない。
肉を埋めるのは保存の為。
死体を保存する馬鹿はいない。
鳥獣任せに出来る数じゃない。
塵を早めに片付ける手法。
まあ、量が多いが、それだけだ。
帝国統治下。
大量の死体処理は皆が慣れたもの。
海陸風の強風に当てる。
血を抜けば簡単に乾くもの。
大河大洋が真っ赤に染まる。
帝国の死体処理技術は秀逸。
海風を利用した炉を作った。
人が減り燃料は余っていた。
半月ほどで済んだとか。
なるほど、道理。
青龍の巣に来る空から観えた通り。
青龍の水飛竜は、わざわざ港を回ってくれた。
南の大港。
航路が空いてる訳だ。
海水は赤くも無い。
船の数は多いくらい。
見慣れた帆船も見慣れぬ数。
青龍の海竜が入って居るからな。
その分、泊地が狭くなっている。
船団が詰まってもいるのだろう。
見た目だけではあるまい。
交易が留まっているから、船が出ない。
青龍に帆留めされていた交易中の船団。
整備しか出来ない外港には居られない。
青龍に航海が許されたから母港へ戻る。
だから実際に数も増えている。
船主たちは財産の把握が簡単に出来た。
僕らの商談に、すぐ答えられるわけだ。
ならば気になるのは、その先。
誰が殺された。
「代わりが効く者だけだ」
真っ先に海に落ちたのは港に住む者たち。
陸風は陽の出から始まる。
煙獣が現れたのは夜半過ぎ
早いうちなら陸側に居る。
波間に浮かぶと煙獣の毒気が抜けた。
船上にも出る職人職工。
泳げない奴はいない。
陸に戻れないとわかる。
海上で一息ついて、動いた。
沖の島へ。
大港から外側へ。
夜の海とは言えど海の中は元々視えない。
常に等しく助かった。
都市に住む数が一番、多いのが人足たち。
一番、大勢殺された。
体格と腕力。
そのまま、錯乱。
長屋に雑魚寝している連中。
ただ逃げるだけで、互いに互いを殺してしまう。
すぐに跳び出してしまえば。
押し合い。
圧し合い。
踏み合い。
潰し合い。
地上で倒れれば息が詰まる。
団塊となって海に落ち、その上から落ち続ける。
海中に圧し込まれ溺れ死ぬ。
泳ぎの得意には依らず。
潰れた身体で突堤が伸びた。
海は泳げても人を泳げない。
海を埋めながら更に逃げた。
潰して潰れて沈むまで。
死体の山上を走って逃げる。
後から逃げる者たちに圧される。
重さで足場が崩れて沈み踏まれる。
海に跳び込んだ者は、夜明けまでには皆、殺された。
陸へ逃げられた者は、沈まないから殺されなかった。
それが半分いたのはツイていた。
港の方が開けているんだけどな。
行き止まりと思い付いたのやら。
単に道なりに押し出されたのか。
港は蔵や積み荷で道なりとはいかない。
街道や石壁建物に沿って進めば市門だ。
見えないまま押し合えば道を辿るのか。
何度か繰り返さなきゃ判らんか。
南北の大港湾都市ではそうなった。
勝手に半壊した僕らのとこよりマシ。
街や工房は無事だったんだからな。
大港湾都市の人口が半分消えた。
人足たちだ。
生き残りは人足相手の商人職人。
派生する役。
連中も仕事が無くなったわけだ。
都合が良い。
その連中に代わりをさせるかな。
まあ、問題でしかない。
交易は再開したばかり。
出荷入荷は戻ってない。
当面、荷は少なくすぐには増えない。
小麦の出荷も例年通りにはいくまい。
自分で乗り降り出来る貨客には、人足は要らない。
農民の帰還を急いだところで限度がある。
今年の収穫が例年通りにいくのかは微妙。
それまでは積み降ろし自体が少ない。
今後の積荷の回復は、早くて来年。
ならば数の不足を補う時間は十分だ。
慣らす時間はあり、補う人数が居る。
経験が要る人足頭の類い。
大陸全体の船荷が減るんだ。
港の間で融通するのは出来る。
むしろ航路全体に伝手を通せる、最高の商機!
船の補修も足りそうだ。
技持ちが生きてるから。
造船や控えるしかあるまい。
なにもかもは無理。
力仕事だけなら良いが。
勝手を覚えさせる時間。
時間と金は余計に要る。
何年後かに造船の注文が集まり過ぎるだろう。
それと判っていれば、なんということはない。
顔を売って置けば小遣い稼ぎにはなりそうだ。
それだけか?
それだけだな。
なるほど。
代わりは効く。
ならば疑問は初めに戻る。
竜の巣に集められた皆々様。
代わりが利かなかった皆。
何故、大港湾の有力氏族も、半減しているんだ?




