着いたら負け
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばして本文へ進んでください。
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
【登場人物/一人称】
『俺』
地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》
?歳/男性
:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。
【用語】
『国際連合』:連合国(United Nations)の意図的な誤訳。異世界転移後、ニューヨーク本部と連絡が途絶したために東京ドームに本部を移転。「従来通り」に「加盟各国の代表」が参集し日本列島に居住する「人類の総意を代表する組織」として活動中。
『国際連合軍』:国連憲章第7章に基づき編成される人類の盾であり、剣(総会決議より)。異世界に派遣された国連特使の消息不明に伴い行われた国連総会の決定に基づき、武力制裁(平和創造活動)を執行中。
『自衛隊』:日本の軍事的防衛組織。ほぼすべての実戦部隊が国連軍に派遣出向中。
『在日米軍』:日米安全保障条約に基づき日本に駐留する合衆国軍。赤坂の元アメリカ大使館に移転した合衆国政府の指揮を受け、第七艦隊他合衆国全部隊とともに国連軍に参加中。
兎角に人の世は住みにくい
チヌークは征く。
いやいや、行く。
いってしまうのである。
そして世知辛い世の中は俺に回想三昧を許してくれない。ありもしない未来より、今と過去を大事にする「手堅い」発想をどうしてみんな認めないやら。
「HEY!!『どうしてこうなったort』ってツラだな!オイ!」
怒鳴りかけてくるのは飛行中ヘリの中だから正しいと言える。
だがしかし。
顔に溶け込む濃いグラサンはどうなのか?目視警戒中だってのにどうなのか?しかも真面目な俺の警戒を邪魔してるのはどうなのか?さっきまでヘッドホンをとらなかったクセに。
ヘリの轟音を打ち消すくらいのミュージック。声がデカいのは難聴だからじゃないかと気になる。しかもラップじゃない。クラシックなのがもっと気になる。しかも選曲がワルキューレ騎行なのが一番気になる!
「女子供が撃てるのは動きが遅いから」とか言い出したらどうしよう…サーフィンは経験ないんだ俺は!
「HEY!ブラザー!!○○に△△△突っ込まれて××××に目覚めたか!」
間違った方向にフレンドリーなのは事実階級が同じだからだろう。もちろん兄弟じゃない。モンゴロイド一直線の我が家系が一度でも混ざれば、あそこまで濃くはならない。
「少尉…」
「ブラザー!!!!!俺のことはブラザーだろ!第一UNスラングはケツの座りがワリー!HA!HA!HA!」
これでコイツはアメリカ海兵隊少尉なのだ。公式にはアフリカ系らしいが、自分を平気で○グロと呼ぶ。政治的に正しくない出世頭。いい加減に名や階級で呼んでは訂正させるのが面倒になってきた。
「ここは敵地上空だぞ!!警戒を…」
「ダメだ…死にたくない…みんなで死のう!!!当てつけてやるんだ!!!!!!!!!!」
スーツを着込んだ七三分けのメガネが意味不明な供述を繰り返しており、絶叫。
おめーに話してねーよ。一人で死ね。
「OH!!YAEE!!!!シュは望みたり!MAYBE!!汝が罪を犯す前に我がコルトが贖罪の炎をSHOOT!!!A~MEN!」
今どき貴重なアルマーニのスーツを着込んだメガネ。45口径を口に突っ込まれて泣いている。
「やめー!メイビーってなんだ!神の声をもう一度聞いてこい!!!」
このアメ公は本職の従軍神父である。牧師ではない。
どこまでマイノリティなんだか。
しかも三年前にニカラグアで洗礼を受け、宗派がカトリックながら「解放の神学」。
どこまでマイノリティなんだ!
ガチィッ!!!
「フガーひゃみはせふ!はぁふぇえて!!」
神父!迷わずに撃ったなてめー!!狭い機内で!跳弾でケガしたらどうする!俺が!!!
「南無阿弥陀物」
小声でお経をつぶやきながらコルトの撃鉄を押さえた係長。
引き金を絞るよりはやく撃鉄だけ押さえこんだ早技は真剣白刃取りなみだ。プロのワザに驚く。だが間違いなく地方公務員。
東久留米市市役所の係長である。
コルトをくわえたまま器用に泣き喚く被害妄想メガネより、この係長の方が怖い。
胸元のネームプレート、の写真を見る。
ふくよかで気弱そうな…ぶっちゃけデブのイジメられっ子が目を伏せて媚びるように笑ってる(ような感じ)ムカつく写真。
ネームプレートを付けた顔を見る。
痩身細身。上背はあるが圧迫感を感じさせない。澄んだ目は心の安定を映し、瞳の奥には苦悩が宿り、縁無き衆生を見つめる仏僧の目線。
実際、出発直前に得度した僧侶だ(浄土宗らしい)。
どう見ても別人だろ。身長以外共通点無いじゃん。他人のネームプレートつけた坊さんじゃん。
だが、本人だ。自ら進んで出征日に基地にきた。DNA鑑定もしたらしい。
写真の男(?)は普通の市役所勤め。どんな経緯かしらんが(見当はつく)職場割り当ての人員として「名誉ある」国連職員に志願。あくまでも自発的に、だ。
あれだな
「志願者は挙手で決めます。挙手はさん、にー、いち、でハイ!」
「いいですかー。さん、にー、いち、でハイ!ですからね」
「さん、にー、いち、ハイ!志願しないひと!」
と言われて周り全員が挙手してるタイプ。
「自発的」に志願してからが大変だったらしい。
普通の軍属は後方地帯、ほとんどが国内勤務だから危険はないに等しいが…本人に話を聞くと任地を聞く前から今にいたるまで「最前線で地雷を担いで戦う」と思い込んだ(込んでる)のだ。
悩み苦しみ引きこもり、血を吐きながら気が狂わんばかりに救いを求めた。特攻隊並みの自発的志願だね、こりゃ。
その甲斐あって50kg体重が減り、めでたくクラスチェンジ。係長がレベル上げると僧侶なんだって初めて聞いたわ!
「HO!ブッティストってのはスゲーな!!」
コルトの銃口をアルマーニの裾で拭いながら、神父が言う。
「タスケテクダサイタスケテクダサイタスケテクダサイタスケテクダサイ…」
メガネ男の虚ろな瞳を見つめる係長。そって手を取る。
「我らの滅する場所はBTのキャタピラの下にあります。あと少しですからね」
【BT戦車】
懐かしのソビエト連邦軍戦車。著名なT34登場直前の車両だが第二次世界大戦前から初期にかけて活躍。
ノモンハンかよ!って突っ込むのはやぼだろう。そう思ってりゃ、死に場所は当分見つからない。意外に長生きするかもな。
これが「軍政司令部」の面子だ。
司令官:俺
監察官:神父
文民:坊さん
一つ言えること。
いつでも葬式があげられる。
「…シニタクナイシニタクナイシニタクナイ…」
ノイズは慣れると気にならない。
さておき。
後は一個普通科混成分隊10名。軽戦闘車両、カーゴ(トラック)一台ずつ。糧食弾薬燃料装備品が30t余り(過重量分は明日届く…俺たちが無事なら)。
ヘリ?積み卸しが終わったらすぐ帰るよ。チヌークは貴重なんだ。
で、任務はね。
まず、帝国太守府の確保。
太守府って何か?
太守領の首府。占領地の政治的経済的中心のことさ。
数万の人口がいる城塞都市らしいよ 。
もう一度、軍政司令部の戦力を読み上げようかな?
太守領ってのが帝国の行政単位でね。府から半径60km圏内で経済的にまとまりのある地域、で決めるらしいんだ。これ太守領は120kmの円が基本。君は円形好き?
まあ俺の赴任先は円形じゃないけどね。
領域全体の人口?さあ?
もう一度、軍政司令部の戦力を読み上げようかな?かな?
「死ね」って言ってるよね?これ?俺や真面目な普通科隊員たちには殺される理由なんてねーぞ!
「そろそろ着くぞ。ポイントは?」
機長が声をかけてきた。クソッ!補給基地から二時間。300km見当か。歩いて帰るにゃ遠すぎる。
「燃料に余裕があれば都市周りを一周してもらえますか?」
控えめにお願い。決して任地着を遅らせたい訳じゃない。
「了解」
パイザーで見えないが、呆れた視線を感じる。気がする。指揮端末をさりげなく操作してポイント確認。ローカルネットで送信。
「HEY!ブラザー!リーコンからだ!」
神父がヘッドセット(接触式)を渡してきた。あわてて喉元にはる。誰だって?
「もしもし、わたくし軍政司令部司令官の…」
あ、分隊への指示忘れてた。
『秘話確認を』
神父がPCの画面でグリーン(分隊準備よし)とステータス(秘話中)を指差した。声に出さずに礼を言う。
『いえ、任務ですので礼には及びません』
やべ!骨振動が伝わった。声を上げなくても振動で音を拾うイヤフォンマイクは便利なのか不便なのか。
「君は?」
こころもち上官らしく。
『レコン1、そばに2、市内に3』
事前偵察で配置済みの偵察隊だ。1、2、3人。彼らを忘れてたのだが気づかれてないよね。指示も思いつかない。こういう時は相手にしゃべらせる。
「報告を」
『着地ポイントクリア、1、2は離れて監視、3は市内に待機』
たった3人で遙か遠く僻地の敵地まで…しかもスパイ紛いの潜入作戦。泣けてくらあ!
「お疲れさん、すぐに向かう」あのパイロットにお願い取り消し…無理「あー市街地を偵察してから」
『了解。3に市内の反応を確認させます』
偵察隊には直接指示出来ない。顔も知らない1経由だ。理由は知らんけど。
「以上」
市内の反応?窓から外を見る。
どひゃーーーーーーー!
すぐ下を屋根?が流れて行く。
ぶつかるぶつかるぶつかる!!!!!機体下部にはカーゴつるしてんだよ!!!あんな石だか土だかわからん建物に触れたら!!!!!
機体が回転する。
やべ!!やっちゃったか?パラシュート!!!!!ペイルアウト!
青。白。輝き。
気がついたら空を見ていた。
「HA!HA!HA!肝を冷やしたろうぜ!」
俺が。
「ソマリアよりゃましだな」
グリーン・チヌーク・ダウンなんて映画になるの?マジかよ!
っていうか、どこがどの程度マシ?
「HO!河がでかい、せいぜい三階建て、道も広い、スラムっぽい場所が狭い…ク〇溜めのメインは外壁周りだな」
窓にがぶりよる。
「…シンデレラ城?」
綺麗な城が見えた。
「ストップ!召喚状が来てからじゃクレジット組めねえぞ?」
なんの話だ。まあ、版権元は本土に健在だが。
「着いたぞ」
パイロットのドスが効いた声。いや、俺にそう聞こえるだけだね。うん。PTSDで後送してくれないかな。
『レコン1、ヘリ視認。降着ポイント赤、現地代表安全距離待機』
草原の一角が赤くなっている。我が1番機上昇。なにも言わずに2番機が降下。銃眼から周りを威嚇しながらホバリング、吊していた軽戦闘車両を接地直前に切り離し。距離をとり接地。扉が開き普通科隊員が慌てて出てくる。頭を上げたり下げたり、慌てて方向転換したり。俺みたいな素人にも練度がわかる。
『分隊曹長より隊長へ。車両確保。降着地点確保』
隊内通信が流れると同時に二番機上昇、一番機が降下。機体からカーゴを切り離し、今度は完全に着陸。あ、きっと隊員やリーコンを収容して飛び立つんだね。
あれ?だれもこないな(棒)。燃料不足かな?故障かな?
でも二番機があるから大丈夫。え?降りないと乗り換え不可能だって?諦めたら試合終了だよ?
「YA!こりゃ伝説のアヒョリか!流石だぜ」
「三昧」
「帰してくださいよ~僕は悪くないんです~」
聞こえない聞こえない。
「降りろ」
Sir!Yes,Sir!
機長に最敬礼。いや、反射的に。何を思ったのか皆が機長を見た。
神父は十字を切り、坊さんは合掌、メガネはひざまずく。
俺は駆け足にならぬように、背後に気を配り、あわてず急いで機体後部へ。流れるような動作で貨物を避ける様はダンスのように優雅にして華麗。
開いた後部扉から春の風と緑の香り。
そして、異世界への第一歩を踏み出した。
事を確認せざるを得ないか検討を…。
「拠点確保は1時間以内にな。無駄な燃料はないが呼べば対地支援してやる」
ハイスミマセン。