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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第一章「進駐軍/精神年齢十二歳」
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発想の転換(政治用語)


未開の遠隔地。

過大ノルマ。

非出世コース。


つまりは左遷。


この御時世。

腰掛けで就職したんじゃない。

奉職する覚悟だった。




自己実現?

今ある自分を再構築したがるなんぞ中二病だ。

大人がそんなバカなことを考えるものか。


使命感?

俺がやらなきゃ誰かやる。

社会の仕組みは義務教育で身につけてる。

俺はカウンセリングが必要なほど落ちぶれてない。


義務感?

バカバカしい。

義務と権利の等価交換なぞ単細胞奴隷志願者の戯言だ。

社会の為に生まれる奴が居てたまるか。

自己の利益の為にのみ生きる事がたまたま他人の為にもなるに過ぎない。

義務と責任なぞアイデンティティ確立に失敗した廃人がキメてりゃいい。




俺は自分の嗜好にあったスキルを磨き、適価で買い続けてくれる組織と契約しただけだ。何故そこにしたのかと言えば、(僅かばかりの)他の買い手には無い魅力があったからだ。


転勤はあっても倒産はない。

苦手な営業関係に飛ばされない。

普通の社会生活以上の危険も無い。


運悪く出世しても再就職の道もあるし、順当に無難に平凡に過ごせば余生に困らない貯えが期待できる。

基本的にデスクワークだが適度な運動が勤務中に出来る。



ビバ!安定!豊かで長生き!!

特別職国家公務員!




だから転勤が決まった時は大いに嘆息し慨嘆し失望し諦観した。

時節が良ければ辞めてるが

……今は我慢

……しかし、ささやかな抗議。



素直に従えば舐められる。

(舐められると次のハードルが上がって増える)

ノルマは敢えて果たさない。

(果たせば次のノルマが上がって増える)


従うが手こずらせる。

達成直前に手を止める。


ここ重要。

試験に出るよ。



サラリーマンの基本だからね?




《異議》

何故、自分が前線勤務なのか?経験も技術も心得もない。

《解》

前線勤務は戦闘員だけではない。君には実務経験があり幹部教育があり生真面目な性格がある。


……いや、事務経験と机上知識でなにをしろと。

生真面目っていうのは「脱走出来ない」ってことでしょう?



俺はなお言い募る。



《異議》

赴任先は味方部隊から100km以上離れた僻地じゃないですか!孤立無援の前線に、しかも指揮官として派遣など責任を果たせません!

《解》

僻地に過ぎて戦略的に無価値、故に帝国軍は一戦する事もなく放棄した。故に前線ではない。後方地帯だ。理想的PKO地域だな。必要なのは軍事ではなく軍政。故に事務経験に深い造詣をもつ君が適任だ。君自身の希望にもそう。

それとも十万単位の帝国軍と睨み合っている最前線が好みかね?戦死者リスト上位番付更新中だが。


脅しが入った。

PKO参加志望登録は「転移」前ですって!


ぶっちゃけ登録手当目当てです。


わかってるくせに!

だいたい会計と軍政ってこじつけでしょうが!


いくら前線将校が不足してるからって俺を最前線に送れ

……無いよね?



それでもなお言い募る。



《異議》

戦略的に無価値な場所に派兵すること自体が、最前線を危うくすると上申致します。

《解》

却下。

占領地の拡大は我が方の戦略方針である。


以上オワリ。


俺は敬礼して退出した。

泣いてなんかない。


なに、わかってるさ。

軍隊は命令と服従で成り立っている。

行動の説明こそあれ、目的の説明など必要ない。



ガス抜きに付き合うだけで三佐はマシな上官だ。


例え全身に漂う不平不満や背中に浮かべた哀愁と絶望を笑顔で流しても。



……脱走出来なかったから、有る意味最悪の上官か?


基地司令官相手なら殴って辞職した気がする。


え?

軍隊じゃないって?


細かいことはいーんだよ!

そうだよ!


陸上自衛隊三尉、それが俺だ。

目から汗が……。





回想終了。


ただいまヘリの中でーす。

武装ヘリですが、エスコートなんてありません。


いざとなったら側面のロケット弾と12.7mm機関砲でなんとかしろ、と。


一応二機編成ですがガチで目視警戒中。

敵はレーダーに映りにくいんですね。


パイロットに怒鳴られました。

大尉なのに三尉のパイロットに。


国連出向中の所属階級だから自衛隊では同格ってバレバレです。


しかもキルマーク15機分(匹?)つけた最前線帰り。

今は休暇配置中…前線で休暇って、どんだけ余裕無いんだウチら。



え?

国連知らない?


あれよあれ、連合国の超訳。

UN。

本部がニューヨーク。



わかるわかる。

言いたいよね。

俺も国連軍発足に一番驚いた。




零号決議直前に内閣は総辞職。

転移時の首相は緊急時、つまり転移直後にまったく事実を認識出来なかった事を責められ、与野党から追い込まれた。

そして辞任後、野党から提案があり挙国一致内閣が成立

……直後に崩壊。



与党は次期首相(転移後三代目)を即決し時の首相(転移後二代目)は「選挙管理内閣」を宣言、衆議院を解散する。


非難は上がったが、後から見れば害はなかった、らしい(俺の知る限り)。

参議院単独で議案を次々処理したのでむしろスピーディーだったかもしれない。


野党は非難の急先鋒だったが、不意打ちで選挙準備ゼロ。

しかも異常事態にテンションがブチ切れた原理主義者が「大日本帝国万歳」な公約を叩きつけた。



「異世界に転移しました」だけしか解らない状況で

「徴兵制施行」

「国軍創設」

「福祉予算の半分を国防予算に移行」

「国籍非保持者の完全登録制度新設」

「核武装」

「憲法改正」

(順番おかしくねーか?)


……うん、ひいた。皆ひいた。



彼等が大好きな(迷惑)俺たち自衛官が一番ひいた。


19世紀じゃあるまいしド素人のおもりやれってかよ!

名前変えるだけでドンだけ手間だ!事務の!!

身内に怒られるわ!

外国人に異世界のスパイでもいるんか!

今から創るんか!


などなど。


マニアと職業人の溝は次元の壁より広い。


「基本現状維持ながら経済統制強化」


にまとめた与党連合が圧勝した。

別に与党が熱狂的に支持された訳じゃない。

有権者は野党に「日本語でおK?」と言っただけだ。



余談だが野党は熱狂的支持者をもつ原理主義者だけが生き残り、穏健(常識)派は落選した。

「後十年は大丈夫」とは最大与党幹事長の言葉。




でまあ国連の話。


正直不安だった。

与党連合主流は「集団安全保障」なんて言葉を冷笑し、「戦争」を古語扱いする……という噂(知り合いいないし)の「国連中心主義者」だったからだ。


(統制経済志向はどうでも良かった)



まあ「不測の事態が起これば主義主張なんか捨てるさ。我々が時間を稼いでやればいい」と言うのが自衛官大方の見方だったけど。

(真反対の原理主義者への反発が支えている見解だ)



が、しかし。

連中はしたたかで主義主張を修正する気なぞ「まったく」無かった。

政治家って奴は……。





選挙後初の議会で首相が決まると、すぐに議案が可決された。


「156ヶ国政府の承認」


俗に言う「二号決議」ってやつだ。


何処の国を承認したと思う?


選挙前、まだ転移先世界に国家があるか不明だった。

多分あるだろう

……ってレベル。


だから従来国交がある、互いに認め合った国同士が関係を再確認しただけ。

米国、英国、仏国、露国、中華人民共和国

……などなど、彼等も転移していたのだ。


日本列島が丸ごと転移したのだから、日本国と国交がある国々も当然転移した。

中には日本と極めて悪い関係の国々もあったが


「すべての国々と『従来通り』に友好な関係を確認する」

と決議にはワザワザ明記してあった。



二号決議提出一時間前に赤坂の在日アメリカ大使館では駐日大使が大統領宣誓をしていた。


各国大使館もそうだったろう。

大使、公使、訪日中の政府高官ってパターンもあったな。


彼等は基本的に自国大使館を「領土」とし、日本在留の「国民」をもち、各々政府が機能停止した場合の法規定にのっとり「政府」樹立を発表した。


法的に怪しいケースもあったらしい。



まあ、みんな公式には


「……あ、あの日?したした。(大統領/国王/国家主席/その他)の(就任/即位/選出/その他)をしてたよ、うん」


と口を揃えて言っているし、国権の最高機関たる国会の決議で


「各国国内の成文慣習法により『合法的に』成立した各国政府」

と決まった「事実」に、ケンポウにチュウジツなジエイカンたるワタクシメが疑いを挟むわけがない、デスカ。



各国は決議直後に東京ドームで臨時国連総会を開催。

国連憲章改定、敵国条項を削除し安全保障理事会常任理事国に日本を招聘した。

そして148ヶ国が外交安全保障を国連に一任した。


ありとあらゆる法律や習慣は完全に守られた、と参議院で決まった。


たいていの連中は「妙なイベントだな」くらいに思っただろう。

自称専門家の与太話(在留外国人対策だとか、体外関係偽装だとか、世界最強?の在日米軍対策だとか)はみんなスルーした。


俺もだ。


転移各国政府が在日国民の軍歴保持者を集め始めたのが総選挙前だと知っていれば

……俺じゃやっぱり首を傾げるだけか。



それでも、不測の事態が起きなければ問題ない。


問題ない。


問題を起こさないようには、した。


ハズダヨネ。

ヤダナー、自衛官がキシャクラブのダイホンエイハッピョウを疑うなんて言うわけナイジャナイデスカ。




その頃には「こちらの世界」の様子が判ってきた。


日本列島が配置された場所の西側に大陸があり、コミュニケーションが可能な社会があり、国家があった。

……それまでは『判らなかった』らしい(参議院外務委員会議事録より)。



よって、世界に冠たる平和国家に暫定的に成立した国連は『こちらの世界』への呼びかけを行った。


どう呼びかけたのかは知らないが。



数回のやりとりの後に、国連特使が派遣された。


どんなやりとりだったか知らないが。



仰々しく官界の長老をかき集め、選抜されたキャリア官僚にワザワザ志願した企業家たち護衛の米軍を付けた外交団。


全滅。




『こちらの世界』

は外交という概念が未分化であり、外交官の保護など念頭にない。

しかも日本列島が向き合っている大陸は『帝国』が統一したばかりだった。


モンゴル帝国最盛期に近いドクトリンをもつ、同時代を突き抜けた技術、魔法と組織力と物量をもつ征服国家。



『話し合い』とは『降伏受諾』以外に有り得ない。


外交団が降伏を拒否したので処刑する。

彼らからすれば当たり前である。


護衛部隊が同行した以上、反撃する。

我々からすれば当たり前である。


戦争は始まってしまったのだ。



これは知らされた。

事後に。

なにもかも手遅れになってから状況が判明する。


ヨクアルヨネー。




言うまでもなく、平和憲法は自衛権を否定していない。

自衛の為に手に入る限りの武器組織を動員して戦うのは合憲だ。


平時の法律が非常時に無視される緊急避難は法理として常識。

(『無視の度合いが適切か?』は平時復帰後に審査されるが)


だから自衛隊(他)が戦う事は憲法学者でも認める。

(『その為に』普段から兵器を蓄えて専門組織維持するのは見解が別れる)


自衛隊が国土防衛の為に戦うだけなら、現状まったく問題ない。


その後は?




21世紀なら先進国相手に全面戦争が出来る国は無い。

当の先進国を含めて、だ。


1ヶ月と保たずに損益均衡点を過ぎる。

戦う理由を失えば周辺先進国の仲介で終戦(どちらも大損、負け)。

だから、自衛隊は防衛だけ考えていれば良かった。



だが21世紀の損益計算が異世界で通じるか?

12世紀チックな世界、竜と魔法に絶頂期モンゴル帝国を混ぜて煮詰めた相手に、通じるか?


幸いに、例によって、海があるから防衛の見込みはある。


だが。


竜と魔法、なによりユーラシア大陸を思わせる広大な領土と莫大な人口と資源を持つ相手と永久に向き合えるか?




21世紀風『紛争』プロトコルは使えない。


19世紀以前の『戦争』は相手を倒さないと片付かない。

相手側領土に攻め入り、たいていは首都を陥落させないと終わらない。


指導者の首が必要かもしれない。

それはもう『軍隊』の仕事だ。


そんなものは無い。


なら、どうする?


そう。

日本の誰かが思ったのだ。




「軍隊が無ければ国連軍を創れば良いじゃない」



国連憲章第7章に基づき、合法的に海外派兵出来る、「国連軍」編成の準備は完了した。





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