そこにあるということ
ありきたりな話を始めよう。
浦島太郎、リップ・ヴァーン・ウィンクル、桃源郷、神隠し…他色々。
「忽然と人が消える」なんて話はたくさんある。伝承、伝承から生まれる創作、事例と言える記録。夜逃げや拉致じゃない。
だから「大勢の前で消える」話に絞ろうか。いわゆる「集団幻覚」や類似品を除いた「超常現象」に限っても数多い。
人が消える。
人々が消える。
村がまるごと消える。
街がそのまま消える。
興味がある人は自分で調べてくれ。俺は「今」忙しいから話を急ぐ…「今」だけだよ…だよね?…「そうだ」と言えよ!…ごめん…なにしろ…まあ、このまま読んでいけば判るよ。
今は「忽然と消えて異世界に出現する」なんて「珍しい」が「よくある事」だとわかってくれればいい。
いや今は「わからなくていい」か。
20(検閲削除)年になれば世界中が理解することだ。理解する「あちら」が残っていればいいが。
で、まあ「わかった」としても普通は「他人事」だよな。俺よりマシだとは思うが、キミも忙しいだろう?「そんなこと」に悩むなんて杞憂もいいところだ。だけど「空が落ちてこないか」心配出来るっていうのは良いよ。
でもない?
まあ、いいや。
ところでキミ、大地震ってどのくらいの頻度で起こるか知ってるかい?
え?ああ、急いで話してるんだが、周り道じゃない、今最短で話してる。な?わかってくれ。すぐに我慢しなくてよくなるから。
続き、な。
マグニチュード8とか9とかっていうヤツ解るだろう?日本人なら馴染みのネタだ。
頻度は数十年に一度?揺り戻しが数ヶ月後にあるかもしれないから二回?良く知ってるね。俺なんか災害救助に出るまで知らなかった。マジ、ゴメンナサイ、だ。
あー大地震の話。マグニチュード8とか9とかに出くわす可能性は、さっきの話なら一生に二回?揺り戻し入れれば四回くらいでOK?ひっかけ疑ってる?
まあいいや。俺はそう思ってた、って話。
「大震災」クラスの地震が「年平均十数回」起きてるなんて知りたくなかったよ。「聞いてないよ~」って言ったら「地質学者以外には話題にもならない」と返された。
何でかと言えば簡単。
「誰も被害を受けないから」
大震災大地震で被害者ゼロ。コレが標準、スタンダード、多数例。
正確には被災してるかもしれない。動植物や技術文明から離れている人達が。
キミにペンギンやサボテン、ワリヤ族の友人がいるかな?居なけりゃ気にしなくていい。
もうタネはわかるよな?
問「年間十数回の大震災大地震で被害者ゼロなのは何故?」
答「地球が空き地でいっぱいだから」
大震災大地震の被災範囲、地球儀をサインペンでつつけばわかる。そこ、縮尺による、とか言わない。
な?
地球儀に適当にダートを投げて都市に当たる確率は低いだろう?
友人知人が誰もいない、目撃者すらいない場所で「何か」が起きてる。誰も起きてると知らない。「知らない」「知られない」それは「起きてない」ということ。
話が 長い?悪い、もっともだ。
何が言いたいかというと、だから、コレも日本が初めてっていう訳じゃないだろうなってこと。
一人一人が出くわしたように、同じくらいの範囲で時々起きて、たまたまペンギンの次は日本人の順番だった、とね。
だけなんだろうな~。まったく。
あ、離陸時間だ。また、な。
20(検閲削除)年。冬。未明。東京都(検閲削除)。
「先生、文が。解凍済みです」
……。
「主席、院内総務、大統領の順に通話。常任幹事召集。先生方を非常呼集、20人ばかり議員をつけろ」
……。
「三方不通です。システム正常、追調査中。幹事会は1時間後に」
「国内支部は確認出来ました。全日待機を。資料はこちらに」
「赤坂からお電話です」
「出る」
日本標準時零時にそれは起きた。時刻に意味があるのかないのかは、わからない。だが、眠らない、正確な機械が複数台「瞬間」を捉えていた。
いや、無理か。
時の流れを含む「全て」の事象はアナログ。デジタルデータはどこまでも精度を上げられるが、絶対に「そのもの」にはなれない。
「それ」が起きた瞬間がデジタルデータの隙間に落ちていても不思議じゃない。ともあれ動画を含むデータは最初から今に至るまでネット配信されている。
最初に確信したのは国立天文台だった。
どちらも「晴れ」。満天の星空。
星座が変わった。プログラムは一斉にエラー通知。観測対象を見失ったからだ。
同時にネットでデータ配信。ほとんどが配信不能のエラー。一カ所を除く海外の天文台や天文学者と連絡不可能。
自己診断。サーバーは正常。迂回を求めたが公民問わず連絡がとれた全施設が同じ状況だった。
技術者たちは必死に対処するが、現実否定に過ぎない。観測機器は全く正常、通信機器は通常動作。
彼らを尻目に数少ない学者が考え始めた。都内の望遠鏡でも天体の概要は掴める。
目視確認と一致、機器は正常だ。 ならば観測結果は正しい。
星座が変わった。
いや、宇宙が変わるより地球が変わる可能性が高い。
いやいや地球が変わったなら、海外との通信途絶が起こるか?
ならば地球が変わるより可能性が高いのは…。
ともあれ、それはそれ。考えながらも国内の天文台や天文学者は一心不乱に空を観測し始めた。
次に気がついたのは政治家。
海外の国家中枢、その人物に私的な繋がりをもつ同一クラスの人物。
常に互いを監視している。監視が途切れれば最大級のアラートが静かに駆け巡る。
公式な繋がりは不安定で儚い。
まあ、どうでもいい。
非公式な繋がりは決して切れない。
ラインが断たれたということは「人物が消えた」ということ。
自分と同じクラス、人類社会の主要中枢が皆一斉に消える?そんな「何か」が起きたとして日本だけが無事?有り得ない。
ならば…。
ともあれ、それはそれ。
機会を逃さずに権力闘争にとりかかる。
通信途絶として広まり対処(無駄なことに)された事象。官僚の大半は「異常」という認識すらなく、「故障」と思い出入り業者を締め上げるだけだった。
「故障の事実」を周囲に認めさせることに費やされたのが十日。
「故障」を正式発表する省庁を決める会議に費やされ部署や担当者を協議するに至らなかったのが十日。
「最初から事実を理解していた」(ただし事実は暫定的なものとする)と周知徹底するのに十日。
ただし「事象確認後即日対応を開始した」と報道はされたけれど。
最後に確信不要で何も気がつかずに動き出したのは…。
衛星の大半と通信途絶。
在日米軍は隊員兵員の非常呼集。自衛隊中堅幹部は互いに連絡を取り合う。
在日米軍は本国との通信途絶を確認するとデフコン2を発動。基地を封鎖、寄港中の第七艦隊が緊急出航。
航空自衛隊の各基地は防空司令部や在日米軍の一部と目配せをして偵察機を飛ばし始めた。
海上自衛隊は遊弋中の第一護衛艦隊に続き第二、潜水艦艦隊が緊急出航。
陸上自衛隊は出動準備に入り、離島部では武装が完了。
D-Day。
夜が明けるはるか前。
自衛隊基地、駐屯地に地元選出議員と米軍将校がやって来た事は発表されなかったので報道されなかった。
日本近海(検閲削除)。
ロシア太平洋艦隊戦略原潜(検閲削除)は規定通り(検閲削除)発射準備に入った。だが慣性(検閲削除)誘導装置が目標を認識できず、規定通りに予備待機体制に入った。
12時間。いろいろあった。
そして7日後。
衆参両院本会議で議案可決。
「日本国施政領域並びに周辺地域が非地球外環境に転移していた事を承認する決議案」
世に言う零号決議だ。
こうして日本列島は別な惑星に移動した。
法律的に。




