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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」
31/994

バックストーリー/Back Story/half an hour

大陸の人口密集地帯から北へ遠い太守領。


惑星の全周は地球に等しい。広大な空き地に播かれた一滴。それは異世界の知性体が住まう領域。


北は針葉樹林帯。

南は広葉樹林帯。

西は山脈。

東は大海。


人々の主な先祖は南から流れ着いた海洋民族なのだろう。


この土地は肥沃な大地に山脈から溢れる河を持つ。

平野に広がる川が豊かな実りを約束した。

世界の果てでも価値貴き小麦。

余りある収穫。

港には船。

南に下る。北に上る。

幾百年変わらぬように見えた。


十年前。


支配者となる赤龍は海に関心が無かった。

この土地に攻め込む際、わざわざ南の森林を切り裂いて、王都に突入したくらいnに。


王国貴族は自らの常識に従い、港と山路を堅め帝国を待ち受けた。

故に、騎士も兵も一戦たりと出来ず、巫女と王を失い逃げ散った。


太守領と名を変えた邦。

見た目は変わらず全てが変わる。


赤龍。

海を嫌う、いや、むしろ知らぬし知る気もない。

彼らとて馬車と船の輸送効率を理解出来ぬ訳ではない。ほどなく森林の道は忘れられ、領外への道は船となる。

それでも苦手、無理解、意識外。


世界征服を常態とする永久戦争国家。


帝国が新領土に求めるのは兵站物質。

内陸部の街は加工品。

鉱山の資源。

農地の食糧。

広く散在する領民は、竜のエサ兼労働力。


比べれば、港は、それ自体は、視界に入りにくかった。

遠い戦場を支える全てが、そこから送り出されている限り。



恐ろしい恐ろしい支配者が価値を見いださない土地。半ば在るのを忘れた街。


化外の地にはバケモノが集う。



一人目。

お母さん。


拉致され軟禁されて連行された。

地球世界風に言えば、マフィアの頭目。

支配者の死角に育つ徒花。

困窮する農夫、狩り集められた人足、逃げ込んだ犯罪者。有象無象をエサに僅か十年で腫れ上がる。

荷揚げ荷降ろしを仕切る荒くれ者達は、いつしかまとまりまとめられ『盗賊ギルド』と呼ばれるようになる。


二人目。

お兄様。


オヤジ殿にたたき起こされて以来、妹が心配で夜も眠れぬ不眠症。

王都に拠ってたち、太守府に屹立する旧家。王家より古く太守より新しい信用の化身。

金銀宝石小麦に土地。

跡取りたる彼の裏書きは紙一枚を何にでも替える。

だからこその両替商。その信用は鳴り渡り、船とともに海を越える。



三人目。

お兄さん。

海へ、海へ、海へ。

回帰願望の半狂人。

陸に縛られない貿易商人。

陸で金に替える。

陸で人を雇う。

陸で権力を振るう。

海の上ではただ一人。

港から港、小麦から金銀、船から船へ言葉から種族へ。

何処にも居場所はないけれど、何処に居ようと思わない。

船は我が家で港は故郷。明日の朝日は別港。



弾き出された女。

踏み出した男。

飛び出す若者。


出くわした異世界。


結末はハッピーエンドに決まっている。


安全保障理事会が、それ以外認めるわけがないじゃないか?




【On time/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/前面】


「まったぁ?」


俺は戦慄した。

どこか、現実感がない。

護衛艦からここまでLCACで5分もかからない。

埠頭に乗り上げたココ。周りには現地の皆々様。

つい。

悪気は無かった。

気がつかなかった。


最悪。


大変申し訳ない事ながら、ドワーフ達のフリートークを聞いていたのである。

聞き入っていたのである。なんか悔しい。

いやいやいやいや。

重大なのは、その間に、え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待ってた。


頭目、盗賊ギルドの。

裕福さが極まった感じの商人。

あ、参事の若い方まで!太守府から港まで、早馬で5~6時間?ってことは、半日はかけて無理して来た訳だ。


そして、人人人。ややボロい。なんか潰れそうだな。

俺たちが、いや、違う、海自(あるいは元カノ)が、起こした騒動を鎮める為に、やつれたんだな~、ってわかる方々。


何分?じゃないな。

十何分?

いや、諦めよう。

何十分だよ!!!


俺は土下座の異世界解釈が頭をよぎったところだった。

これが本土なら営業職サラリーマン(絶賛自宅待機中)の友人たちに対処法アンケートをとるところだが。


が。

だが。


「まったぁ?」


である。

元カノである。

喧嘩売ってんのか!

「全然!今きたところ♪」とかいやいーのか!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女にしかできんな。




【On time/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕は必死で考える。


何が正解だ?

皆はどうする?

どう答えれは助かる?




【30分前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の後ろ】


あたしは腕をキメながら頷いた。青龍の道化は声も出ない。加減一つで顔色が変わる。

真っ黒だけど。

フリではない。

青龍も関節は、あたしたちと変わらないようだ。

あの娘に触ろうとするのだから、苦しめよう。

殺す前に。

ゆっくり。

じっくり。


うん?

何かを必死に示す。

解放要求なんて、無駄なことはするわけがないし。


まわり?


あたしが見まわすと、胸に抱いている子供、頭目の子が母に手を振った。




【29分前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕らが万全な訳がない。

いや、昨夜までは自信があった。完全とほど遠くとも、それなりに。


明日は整然と青龍を迎えよう。そして勝ち取る。


我が家業、貿易の再開。

それは、ある。

だが違う。


大半の同業者ら貿易の道が失われ(たように見える)死に体だ。

彼らの救い主となり港の主導権を握る。

それも、まあいい。


同業者を支配。

参事会の支配強化。

そんなモノはなにもかも捨て金だ。


青龍が支配する海に乗り出し、世界に挑む!


その第一歩。



――――――――――――――――――――今朝。全て吹き飛んだ。


暴動?内紛?戦争?


違う。


ただただ逃げ回り、逃げ場逃げ道を求めて殴り合い、おしのけあって潰し合う。誰も殺そうとしない。次々と死んでいく。

奪わず、襲わず、壊さずに。

踏み殺し、溺死して、突き破る。

船に逃げ込む人波と船から逃げ出す人波で、当の船が裏返る。


こんな争乱ははじめてだ。


しかし、何とかなった。

半日がかり。


ギルドの用心棒や商会の衛兵、配下の船員たちに武装をバラまき集まらせる。

部外者を殺し追い出し、船に埠頭と倉を確保。

頭目が青龍の名により命じ市民を家に押し込める。

帰れない市民は両替商がまとめる。

後は衛兵と用心棒が街路を虱潰し。


そろそろ、ご領主様においでを願う。街路掃除は夕方までかかる。

だが、これ以上待たせるのは危険過ぎた。

第一、昼だ。

朝から何刻も沖合でお待たせしている。青龍に我慢なんてありえない。

必要な場所は片付けた。

後は傘下の連中に任せておける。


皆を確かめた。

ギルド、両替商、僕ら船主。同業者の数は互角。



だが、青龍に与える印象は一番だ。


ギルドの手下は街中、両替商の衛兵は街外。

港は船乗り達が圧倒的多数。得物を離せないが、血まみれを着替えさせた。

チグハグではあるが仕方ない。


青龍の配下についた盗賊ギルドの頭目は、一頭地抜き出た。

が、部外者には部外者の強みがある。


第一印象!数で勝負!!



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――賭に破れた。


沖合の城、いや、海龍?から波を蹴立てて飛び出した。

轟音を轟かせ青龍から現れた海蛙?

青龍が従える化け物。


あっという間に、広く開いた埠頭に乗り上げる。


盗賊ギルド頭目。

両替商。

僕。


思わず逃げ崩れた。

三人以外。

僕が逃げずにすんだのは僥倖、いや、意識が飛んだからだ。

両替商は大切な妹が海蛙の背にいるからか。

頭目は曲がりなりにも青龍の配下に下ったから。


終わった。

一番目立った僕が、僕の配下が一番印象に残る。


無様に逃げ崩れる船乗りたちが。




【25分前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の右側】


わたしは、時々見回します。


ねえ様が指し示す先。

埠頭にたたずむ、お三方。

たいへん立派な衣装なので、たいへん目立ちます。

・・・・・・・・・寂しそう。


広い埠頭に。ポツンと。無彩色のカンバスに筆先の染料を置いたような。

みちゃ、いけないかも、しれません。


あ、また、女将軍さんがご主人様に!




【23分前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕の配下だけじゃない。


盗賊ギルドの用心棒も両替商の衛兵も皆逃げた。

逃げ崩れたお陰で開けた埠頭。

乗り上げた海蛙。

その背中には、青龍。

青龍の貴族を中心に談笑する一同。


時々、魔女がこちらを見る。

・・・・・・・・・・・・・・・何かを、知らせて、いる?


ん?んん?


青龍の騎士は明らかにこちらを見ている。

魔女はチラッチラッと青龍の貴族を見た。

だが、青龍の貴族は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見てない。


青龍は我々を無視したりはしない。

僅か三日で慣れた。

気がつかれない事に。

青龍以前以後で僕の感覚はまったく違う。

屈辱?まさか!


いや、それどころじゃない。


気が付かれていない!!!!!!!!!


なら、間に合うか?いや、猶予を与えられたなら、間に合わせる。




【20分前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の左側】


わたくしは、ほんの少し振り返り、眼を逸らしました。

とちらも目を離せ・・・まあ、ご領主様優先ですが、時々。


お兄様。埠頭に佇んでいらっしゃる。

なにしてなさるの。

いえ、港の分館を仕切ってくださるのですから、いらっしゃるわよね。

わたくしが来たのだし、ご領主様がいらっしゃるのだから。


でも。

なんでお一人?

わたくしには、一人歩きをお叱りなのに。


あ、わたくしに気がつかれたのかしら。

なにか、慌てていらしゃる、けど、微動だになされない。

何の遊びかしら?




【18分前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


青龍の海蛙の轟音が収まる。蛙に似ているが、羽がある。

ハハっ、名付けようがない。

蛙(?)の背、外周側の人影は鋭い視線を放っている。

僕がここを離れる訳にはいかない。


背後から、声。呼びかけ。僕に。そして頭目と両替商にも。

やっと来たか。

愚図、滓、塵!!!

振り返らない。あえて。


「青龍からは逃げられませんよ」


硬直する船長。

当たり前だ。

太守領を遥かに超えて空を行き交う。

目前で海を圧する。

陸に上がった船乗りがどこに逃げる。

獣かお前らは。


『千人斬り楽勝だよ?』


海蛙から響く――――――――――無言で下がる気配。走り出す。

どんな怒声より効く。

間に合うか、間に合ってくれ。




【15分前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の後ろ】


あたしは埠頭を気にし始めた妹達を制した。

青龍が敢えて間をとっている。

優しさ?

打算?


青龍達が上陸する場所に三人きり。

見知った港の権力者。広い広い埠頭にポツンと。


皆が逃げ出す中で胆力は立派だと思う。

部下に見捨てられたようにも見えるが、前後を忘れただけだろう。


青龍をはじめて見ればそうなる。


だが『みえる』のが大切。

権威の殻を取り落とせば、裸で立ち尽くすようなモノ。


このまま上陸する。

あの三人の権威が地に落ちる。

港の最有力者が無力になれば混乱が起きる。

いや、耳を澄ませば悲鳴と怒号。

混乱がまた、拡大する。

青龍は、それは望まない、ようだ。


今は。


だから、談笑するフリで時間を与えている。

埠頭の三人も、孤立してなお、動じない風を装う。

なにかしら、このお芝居は。


あらあら。背後の物陰から勇気か絶望を抱えた影が走り寄る。

三人の部下が動き始めたわね。


急げや急げ。


青龍の気が変われば、別な方法で港を静かにするかもしれない。

それはそれは、静かに静かに、なるだろう。


避けられるなら、避けたい。

妹分が悲しむことは。




【10分前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕の背後がやかましい。

囁き。

衣擦れ。

叱責命令。


黙れ静かに口を閉じろ殺すぞ。


逃げ出した連中が戻って来たのだ。物陰まで。

盗賊ギルドの用心棒。

港の衛兵。

武装した船乗りを率いる制服は船長。


僕は目の前から視線を逸らさない。

気が狂いそうな、焦燥感。

青龍が、貴族が振り向か・・・・・・魔女たちが何か叫ぶ・・・・・・なかった。


止まった。心臓、今、止まった。

助かった。感謝する。僕はキミの味方じゃないが、借りは返す。

貿易商の契約は口約束どころか気持ち一つ。

端商いとは違うんだ。


背後に立つ船長に身振りで示す。


あの旗。

その下にはエルフ、ドワーフ、獣人、などなど。

帝国最強の黒騎士団。


反対側。


青い旗。

青地に白く抜いた、星をのむ龍の意匠。

青龍。


帝国の最強兵団が、青龍に降った。それどころか、青龍についた。


見ればドワーフたちが青龍の貴族と談笑している。


船長は走り去り皆の間を駆け回る。指差して無言で皆の声を抑えながら。


皆に伝わる。

ざわつきが収まる。

船乗り、用心棒、衛兵、商人にギルドの頭たち。

息を殺して僕らの背後に集まり、列をつくる。


ため息一つで死ぬように。嗚咽を漏らす口と喉を自ら抑える。

抑えきれない奴が縛られて連れ去られた。


『皇帝のクビいらないから・・・・・・・・・・・・・・・とってこないよう』


――――――――――――――――――――急げ急げ急げ!




【5分前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の後ろ】


あたしたちは、埠頭をみていた。まあ、妹たちの視線は、7:3。青龍の貴族と埠頭。

あの娘はともかく、兄が来ているのに、いいのかしら、ね。


あ、転んだ。




【1分前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕は怒鳴りつけそうになった。緊張感が切れ始めた?マズい。

大勢が重なって転んだのはもっと、マズい。

耐えろ!声出すな!痛くても我慢だ!

気が付かれた!


青龍の貴族が魔女たちを制して振り返った――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あ、眼が合った、か?




【30秒前/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/青龍の貴族の左側】


わたくしは背後のざわめきに気が付きました。さっきまであんなに静かだったのに。

ご領主様は、史家さんの声に振り向かれました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで、お兄様は、人波に押されてるのかしら?

お祭り?

山車かしら?

青い帽子で顔を覆われたご領主様。

また、向き直られた。


首を傾げた女将軍さんが前に乗りだします。




【10秒前/港湾都市/埠頭/LCAC正面】


僕、両替商、頭目が振り返った。

一度だけだ!

見られた!

見たな!


背後の連中をにらみつける。

堪えろ転びきるな立て直せ!!!!!!!!!!




【冒頭に戻る】




【On time/港湾都市/埠頭/LCAC簡易上部デッキ/前面】


「まったぁ?」


「いえ」


盗賊ギルド、頭目。


「お気になさいませぬよう」


裾を摘まみ一礼。

商人、参事、埠頭中に並ぶ者たちが続いた。

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