大人を知らない子供たち。子供しか知らない大人たち。
【AC-130スプーキーⅢ】
絶対的強者が圧倒的弱者を蹂躙する為に完成したシステムの究極型。
もともと積載量優先な輸送機に、対地攻撃兵器を山積み。
コンセプトはお察しの通り、圧倒的制空権最初から最後まで常時確保が前提のシンプルマシン。
最初から対抗し得る存在を考慮したことがない、戦後装備の代表作。
本作の根源テーマにストライク。
だがそれは、虐殺ではないので念のため。
スペックは重要ではないのでネット参照。軍用機のスペックが正しく公開されるかどうか。鼻で嗤う人にはオススメ。サイズはだいたいあってます。
チヌーク並みの名機「人類史上最も成功した輸送機」C-130がベース。
ただしあまりにも安定した高空機能と、莫大な積載能力故に得られた拡張性が仇になる。
様々なバリエーションがあるが最新機種に至るほどコンセプトが混乱。
対戦車戦闘や対空防御などで迷走し「部屋と敵はキチンと片付ける」と子供たちを叱る合衆国のグランマには極めて不評をかってしまった。
最低でも「キチンと殲滅」が基準な現合衆国大統領により改造された機体が、本作登場のスプーキーⅢ。
GAU-12 25mmガトリング砲5砲身二基。
Bofors 40mm/L70機関砲二基。
GBU-44/B バイパーストライク(超精密誘導爆弾)、GBU-39(精密誘導爆弾)、多数。
そして搭載された対地センサー各種に加え、通信範囲内にあるすべての索敵装置を網羅統合するリンクシステム。
現合衆国大統領も納得である。
なおベースとなった輸送機C-130は、世界中に輸出された世界最多生産輸送機。
型落ちの中古市場でも大人気。
「拳銃ならトカレフ、自動車ならランクル、輸送機ならハーキュリーズ」とされる。
もちろん、ヘリコプターならチヌーク。
異論は認めない。
第二次世界大戦という「あらゆる環境を資金や命を気にせずテストできる」場所で完成された技術や思想「のみ」を利用したC-130の改造機であるだけに、あらゆる意味で「まったく」冒険がない「陳腐」な機体。
合衆国海兵隊と現合衆国大統領は、一世代前の装備しか信用しないから仕方ない。
だから日本が人類史上最初で最後の購入者になるオスプレイが「要人」を載せたまま、国際連合武力制裁活動に伴う封鎖海域に次々水没中。なおオスプレイは異世界転移前から「棺桶」「保険会社の敵」「未亡人の強い味方」として親しまれている。異世界転移後「国連特使一行遭難事件」などの大活躍からすれば「オスプレイ送り」という用語が定着するのは時間の問題。
もちろん比喩ではない。
なお、合衆国軍の名誉の為に付言すれば、オスプレイを買ったのではなく、開発企業から債務交換で接収しただけである。四軍で押し付け合っているが、陸軍だけは断固拒否を貫いている。大陸軍で最大の票田を誇るので、議員なんぞには負けないのである。貧乏くじを引いた海空海兵隊では維持費と戦死補償だけで大赤字なので、オスプレイをリアルフィギュアとして運用。スペック暗記が好きで兵器大好き、戦争と戦場は「知ってるつもり」な方々に大ウケ。
もちろん比喩ではない。
絶望。
希望。
また、絶望。
そして、困惑。
逃げて。
逃げ場を失い。
助かって。
もろともに殺される。
(のかしら?)
の、ハズである。
彼女の理性は告げている。
人生終了のお知らせを。
苦痛に満々ちた最悪の死を。
の、ハズなのであるが。
彼女の本能が告げていた。
何も決まっていない。
生きるのかもしれない。
死ぬと決まっていない。
予感がした。
予定かも知れない。
もう、自分には戻れない。
だから彼女は、感情に頼ることにした。
だから困惑しているのだけれど。
(終わった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、思ったのに)
令嬢は、知らないうちに自分の手をギュッと手を握りしめていた。
そのまま二人を窺う。
青龍の騎士、軍曹。
青龍の学士、Dr.ライアン。
もちろん、令嬢には初めての体験。
人を、誰かの様子を窺うなんて、ありえなかった。
逃避行中でさえ、誰か一人に注意を払ったことなどない。
まずもって、見られることを意識する。
窺われることを自明として、それが相手に与える意味を工夫する。
それが令嬢に求められていること。
貴族であればこそ、かくあれかし。
だからこそ、窺われている相手には、見ていることがばればれだった。
「良い天気だ。風もない」
軍曹は外したフェイスカバーを覗いていた。
バイザー内部の、索敵情報をみている。
「ALL' s right with the World♪」
Dr.ライアンは常と変わらぬ寛ぎで、賑やかさを愉しんでいる。
怒声。
罵声。
悲鳴に怨嗟。
壁を打つ石。
砕ける煉瓦。
棒が鉄柵を叩く。
苦鳴と罵り断末魔。
たしかに、賑やかだ。
まだ敷地の中に侵入はされていない。
門の閂は鎖で固定され、館の門衛は盾をかざして投石から身を守っている。
だがもちろん、圧倒的な人波を恐れ、刺激しないように立っているだけだ。
悲鳴も苦鳴も暴徒の中から上がっている。
暴徒は自分たち同士で押し合い、つぶし合い。
柵を越えようとして上部の切っ先に貫かれ、石畳に落ちる。
後ろの暴徒たちから投げられた石が、前の暴徒たちの頭に降りそそぐ。
悲鳴も上がろうというものだ。
「今日は死ぬのに好い日和♪」
Dr.ライアン。
彼女が心からそう感じているのは確かだろう。
所詮、他人事、と言うわけだ。
「殺される側が、そう考えてくれるかな」
有り体に言えば最悪の一歩手前。
軍曹は窓外に心痛の目を向けた。
この角度だと群集が見えないのが救いだった。
「あらやだ♪考えられる訳ないじゃない?」
ほんとうに可笑しそうに、ジョークを聴いた風情で応えるDr.ライアン。
その笑いを含んだ声。
邪気を感じさせない朗らかさ。
だが、それはどういう意味なのか。
暴徒が現状に気がついていないから、ということか。
暴徒ごときに思考能力など在るわけ無い、ということか。
令嬢は、改めて確かめた。
時は絶望。
此処は最果て退路無し。
これから皆で殺される。
少なくとも三人は。
令嬢が仏教に触れることがあれば、一蓮托生、とでも思うだろうか。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺される、のよね)。
確かめた、ということは、確信が無くなっているということ。
つい先程まで、目尻に涙をためていたドレスの少女。
そして、どこか脱力した二人の侵略者。
大人二人。
大人という概念がある二人。
子供が泣くのは当たり前。
ましてや子供を責める街中の声、声、声。
驚きも慌てもしなかった。
椅子にかけたまま、方向転換。
外の気勢を受け流し、時々、令嬢を見るのはDr.ライアン。
それなりに気遣っている、のかもしれない。
十代の子供を相手にする時、気づかぬ振りが最善手。
令嬢とメイド、執事には、あえて視線むけないようにした軍曹。
傍らに立ち、銃を下げ、警戒は部下に任せている。
そして令嬢は、矜持にかけて涙を我慢して、そのつもりで
――――――――――二人の、間。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
帝国貴族令嬢。
彼女は、コンランしていた。
混乱のあまり、涙がひいたくらいに。
あとからこの時までを振り返ってみれば
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生々流転もいいところ)
僅か10分ほどの急展開。
Dr.ライアンに出会って、軍曹たちがやってきて、暴徒に館を囲まれて。
失望から希望、歓喜、結局は絶望。
そして?
なぜか絶望の先がある、ようにしか感じられない令嬢。
判っているけど解らない。
令嬢は、とっさに過程を振り返って、状況を確かめることにした。
このあたり机上の知見しかない、実務未経験者に特有な心理。
彼女は優等生タイプなのだろう。
令嬢は自己評価を交えて考える。
令嬢は無い知恵を絞り、全力をつくし、身の丈にあった結末に至った
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハズ。
結局、留保してしまうのも、未熟な証。
それはともかく。
まずDr.ライアンに出会うまで。
失望の連続。
続く続く逃避行。
減っていく同行者。
塞がれていく逃げ道。
潰されていく選択肢。
この街で行き場を無くして潜伏し、行き詰まったのが半月前。
それは袋小路、先が見えないどころか存在しない。
こうなっては仕方がない。
逃げられないなら、逃げない。
恐るべき侵略者に、降伏する。
と、素早く決断して――――――――――――――――――――――――――――――早々に躓いた、令嬢。
唯一の選択ををとるために、決断はできた。
でも手段がないと判明
――――――――――令嬢は独り静かに、失望を深めていた。
独りで悩むしかないが、悩みであって考えるわけではない。
考える余地のない苦境を、忘れられるわけもなく、持てあます。
当然、何一つ役に立たずに、ただただ苦しいだけ。
それでも、独りで抱え込む。
それは家臣にも臣下にも言えず、主が負うべき責めだから。
令嬢は臣の献身を疑うことはない。
実際、老練な爺がそこまで教える前だったのだ。
だが、他人を疑うことを知らずとも、自分を疑うことは知っていた。
もちろんこの場合、他人とは領民たちを含まない。
見知らぬ馬を信じたりはしない。
では?
令嬢は、どんな存在か?
力も知恵もない、容姿に優れただけの小娘。
それが令嬢自身の評価だった。
別な見方もあるかもしれないが、それを教える者はいない。
すくなくとも、異世界に国連軍が侵攻して以来、一人も居なくなった。
中世準拠の異世界。
この世界の人間、それに極めて近いが法律的に無確定な、人型生物。
最大多数種、エルフやドワーフに人獣獣人その他を除く、者たちの一般的常識。
年の頃、十を越えるかこえないかで大人、あるいは社会の一員となる。
村々ならば役目を与えられ、街々ならば奉公に出る。
数年で役割になれ、今後の人生に見通しをつける。
つまり歳の頃、十五前後が、一人前。
それが異世界人の9割以上の常識だ。
残り一割も、大きな差はない。
富裕層、貴族や騎士に豪商豪農網元親方などの子弟ならば。
数えて十歳。
躾、と称する訓練が始まる。
氏族の中枢ならば、その時点で大まかな人生が決定済。
十五前後で実務につき、社交界に入り人脈を広げる。
遅くとも二十までに、なにもかもが決まる。
精鋭として鍛えられるか。
駒として手入れされるか。
失敗作として捨てられるか。
そんな一割の中で、上から数えて一分ほど。
令嬢は、十五で修学の旅に出て、まだ一年。
人生を大まかに決められ、決する手前の未熟者。
それを守って盛り立てる、一人前の執事や同世代のメイドたち。
無条件に従い続ける訳がない。
そう考えるのは、自然な発想だろう。
しかしそれと知ってなお、無理を押さなくてはならない。
令嬢は臣下にとっては主、家臣にとっては主の代理人。
未熟ならばそれなりに、など許されない。
無欠の主として、片手の指にも足りぬ臣下家臣の上に立ち、君臨しなければならない。
それがどんな極限状態であっても、そうあることしか思わない。
たとえどれほど小さい身でも、見下さなくてはならない。
たとえどれほど弱い身でも、組み敷かねばならない。
たとえどれほど怯えていても、顧みてはならない。
令嬢は、貴族の在り方を、そう考えていた。
頭で考えているのであって、血肉に染みこんではいない。
だから、どこかぎこちない。
だから、かえって大胆だ。
このあたり、令嬢に仕える三人は、察していた、が。
察していることを、悟られないようにしていた。
だから互いに、相手のことばかり見ていて、自分を顧みることができなかった。
互いにそれしか出来ない辺り、似た者主従だったのだろう。
ただし越えられない出自の壁。
家臣臣下が気に病むのは、主の心身。
主が気に病むのは、君臣の形。
個々でも両者はすれ違う。
臣の統制がとれなくなれば、氏族帝国の恥さらし。
孤立し危機に向き合わざるを得ない小集団。
統制を失えば、むしろ命がないのだが。
それを考慮に入れない。
それが帝国、騎竜民族流。
征服地からとりたてられた新貴族、臣民、奉公人には解らない。
孤立しあう者たち。
各々の失望は、静かに安定し、絶望に至る
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハズだった。




