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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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ミストレス/Mistress

人はいつ傷つくのだろうか。


恐ろしいことをする前におこなうことを思ったとき?

恐ろしいことをしながらまさにそれを感じながら?

恐ろしいことをした後で何をしたか理解したとき?


人はなぜ傷つくのだろうか。


恐ろしいことをした相手に共感するから?

恐ろしいことをした相手からわが身の危険を連想して?

恐ろしいことをしたときはこのように傷つかねばならないと躾けられたから?


無いということは証明できない。

有るということは証明できる。

ならばどなたか証明していただけまいか。


人は傷ついているので『ある』、と。




【太守府/王城/王乃間/中央大テーブル窓側】


あたしは声を殺し、気配を殺しすぎないようにする。


青龍の貴族が二人。

昨日来訪した貴族。

今日訪れた女貴族。

そして、あたし達。


お茶を用意したメイド長は扉口で困っている。


「楽にしてちょうだい」


と青龍の女貴族。メイド長の視線。青龍の貴族が頷く。

妹分たちは青龍の貴族の後ろに。

あたしは椅子を二人にしつらえる。

慌てて駆け寄るメイドを制して青龍の貴族と女貴族は自分で椅子を出した。


広い王の間の一角で膝詰めのサークル。


メイドが5人、側に付き茶皿を構える。主人の視界からはずれないように、そしてさえぎらないように。戸口から部屋を見張る青龍の騎士長に必ず動きが見えるように。

メイド長は茶菓子を差し出す。


「よく出来た従卒ね」


女貴族が褒める。当たり前に受け入れ、にこやかなまま表情も動かさない。口先だけ、ではないが、空っぽに感じるのは何故だろう。




【太守府/王城/王乃間/サークル窓側】


「脱♪童貞さつじんおめでとう!」

「この場では不適切です」


俺が頭痛を感じたのは当然だろう。

三佐は優秀で頼りになる上司だ。

仕事の邪魔はしないし、仕事の指示は論理的だし、仕事の邪魔者を穏便に排除する政治力もある。

理想の上司、いや上官だ。最近に限れば恨む筋が無いわけでもなくもなくまああるのだが。

さて、周囲の反応はというと・・・・・・。


お嬢、フリーズ。

魔法少女はキョトンとしている。

二歳の差は伊達じゃない、か。

おかんエルフは微動だにしない。


うん、知ってた。あ、にらんだ。


ガタッ!


皆が、一斉に動いた。


「異常なし」


三佐が俺にかがみこんで、覗き込む。

三佐に反応した魔女っ娘シスターズの二人はエルフっ子(おかんはマズいか?)と俺を二度見。


「でもありませんよ」


違和感が。


「違和感?」


俺は頷いた。ついさっき、だ。

八人を殺させてから。


行うときに手が震えるという。

行っているときには無我夢中であるという。

行った後で繰り返し繰り返し思い出すという。


理由をつけようと、周囲の関係に包まれても、医学の粋を尽くしても。

異常な発汗、動悸、痙攣、視野狭窄、フラッシュバック。

永遠に続く罪悪感と焦燥感。


・・・・・・・・そう聞いていたのだが?


「そんなものよ」


三佐に合わせて皆、座った。


「それで良いんですか」

「もっと大変な事だと教わったわよね」


フィクションだといわんばかりだ。


「剣なら、手なら、感じたでしょうけど」


殺人、それ自体は重要ではない?


「リアルな人形を最高の演出で切り裂く」

破壊。


「豆粒のような目標にミサイルを打ち込む」

殺人。


それを感じるかどうか。

ならば、感じさせないテクニックがあればどうなる?

罪悪感を感じない状況を設えて『血や死体』の匂いや見た目に慣れさせてしまえば?

物理的な接触を避け間接的に『操作』させれば?


重要なのは『殺人』それ自体じゃない。

それがもたらす五感の刺激。


とうの昔に、誰かが気が付いていたわけか。


三佐は皆まで言わなかった。

多くの兵士が体験しているのだろう。

最大の禁忌。

繰り返し繰り返し繰り返し植え付けられた。


殺生戎。

汝殺すなかれ。

人命は地球より重い。


本当ならなぜ繰り返す?

一度で十分ではないか?

二度三度でダメなら繰り返す意味がないのでは?


『繰り返される過ち』

繰り返されるなら、それは、重大なのか?

繰り返されるなら、それは、過ちなのか?


ああ、そうか。


『こんなもの』だから、か。


だから、後天的に、『禁忌』を仕込む。

不自然なほどに強引に。洗脳と言えるほど強烈に。

あまり、完結している社会の中で、『乱用』させないように。


心のうちからあふれ出る気持ではない。


単なる政策。


「一生知りたくありませんね」

「知ってしまったけど、感じなければ大丈夫よ」


三佐は笑った。迎え入れるように。


「それに」

魔女っ娘シスターズの小さい二人を見た。

「そのろくでもない感覚、あなたで止められたら十分じゃない」


十分じゃない。

が、損切りは致し方ない。

と、考えるに吝かではない。


・・・・・・・・・・・・つくづく、嫌な上官だ。

とはいえ、繊細な部下のメンタルケアは目的じゃあるまい。

おまけ、の、ついでに、簡単でかつ気が向いたからやっただけだろう。

こちとら上官の一言二言で調子にのるほど、柔じゃない。




【太守府/王城/王乃間/サークル壁側】


あたし達が見ている前で駆け引き。


「本題に入りなさい」


と胸を張る青龍の女貴族。

あたし達がいていいのかしら。

今更だけど。


「何しに来たの」


と重ねて一方的に尋ねる青龍の女貴族。

逆だろうという応えを無言で示す青龍の貴族。

傍若無人で傲岸不遜、唯我独尊な態度が変わった、とは見えないけれど、押されている。

権威に従っているというより・・・苦手?とか?


「質問は答えられるかたちでね♪」


先手先手と攻めながら、相手に切り出させる女貴族。

上手下手、ではなく、青龍の貴族に輪をかけた、同種ね。これは。


「ため息一つで幸せが一歩遠のくのよ」


すごく、珍しいものを見た。

ため息、つくんだ・・・。




【太守府/王城/王乃間/サークル窓側】


俺は頭をひねる。

暇とはほど遠い三佐がわざわざ直接やって来た、ならば電子化してはいけない用件。

俺に質問させると言うことは、伝達ではなく漏洩の形をとりたいのだろう。

着任翌日のココで本隊が介入すべき問題は生じていない、多少人が死んだが瑕瑾とも思うまい、たぶん、だといいなあ、ならば・・・。


「本国の様子は如何です」


人払いは死亡フラグ。

メイドさんたちがいる以上、戦況に触れたら口実になる。


「ここでもニュースは聞けるでしょう」


・・・求められないところを見れば考え過ぎか?


「新聞もTVも中学生で卒業しました」


良く考えるなら、公式に出来ない情報を与えてくれる、ということになる。


「あれはあれで興味深いファンタジーよ?」


悪く考えるなら、情報を与えて俺を操り責任回避の為に非公式を装う、と。


「官僚の創造力より笑えるものはいくらもありますよ」


カードを引くべきか?


「最近も絶好調よ」


先に切られた!これ本題だったのかよ!!


「ここですか」


三佐が頷いた。うんざりだ。


「あれだけダメ出しされて懲りないとは」


選挙で。


「意見が否定されたのではなく、人物が否定されたのだ・・・って考えることも可能よ」


掲げさせた政策の問題ではなく、掲げた候補者が悪かった。


「なんでも可能ですな。考えるだけなら」


自ら考え自ら評価し他から責任を問われない。そんな自己完結型集団がある。なんと恐ろしい!どれだけ害をまき散らしても懲戒解雇どころか依頼退職も望めないなんて!ニートになれずお先真っ暗である。

ウチの国の中だけどね?


「責任を取らない人間は責任を負いたがるから、こまるわね」


あーあるある。歴史上の有名どころだと参謀本部とか。あ、あれも、軍事官僚か。

で、背負われてるのは、勝手に背負われちゃったのは。

日本を守る責任、か。


「無数の情報を生み出して自由に使えれば、大抵の人間は『鏡』を創って閉じこもる」


引きこもりとインターネットの関係。

あーそうか、ネット以前にそういう環境に出会えたのは連中だけか。

本質的に同じだ。


「真顔で『我々がいないと国家が行き詰まる』って言える、いえ、思える人々よ」


まあ『私は神の子です』って言い切った人も歴史には数多いし。

隔離されないですんだ事例は少ない・・・あ、少数事例がリアルに今、野放しになってるのね。

考えてみりゃすごいよな。

どこの世界に

『自分が世界を支えている』

ってマジレスできる人間がいるのだろう。

ウチの国だけどね?

地方自治体に国家事業が委託されている時点で『許認可出すだけなら、君たちいらないから』って気付よ!って話だけどね。

他人の金を握る人間ほど、それを自分と同一視するのはなぜだろう?


「公僕とは『己(=公)の僕 (しもべ)』ですか」


自家中毒だな。俺も公僕だけに。

早くニートになって探求しよう。

うん。




【太守府/王城/王乃間/サークル壁側】


あたしの前で赤裸々に語られる青龍の世界。

彼らが言う『カンリョウ』とは祭祀階級のようだ。すると・・・。


「ご質問?」


青龍の女貴族が促してきた。

だからそのまま訊いた。『神殿と貴族の争いか?』と。

まじまじと見る。あたしを。

青龍の貴族も見ていた。


「なるほど」

「そうね」


青龍の貴族が、あたしを見たのは初めてだろう。あの娘の家族としてではなくではなく、あたしを。


「ならば我々は神権政治末期に位置するわけだ」

「形骸化した虚構が崩れ行く瞬間、何世代にも渡る流血と混乱」


真面目に真剣にそう考えているのがわかる。

だからこそ違和感。

愉しそうに言うこと?


「本当は20年ばかりかけて、何度も政権を交代させて、膿を捨て去る計画だったのにね・・・」


物悲しそうに嘆いた女貴族。


「選挙十回分を一年でこなすとなれば、ウチはお終いよ」


あたしを覗き込む。にっこりとほほ笑んだ。


「ってまあ、外、地球外からの視線は大切ね」

「まったくだ。この子のおかげで見えた」


あたしを見る貴族。

・・・・・・・・・って、子?子、扱い?あたしが?

女貴族がワインを干す。


「前例に倣うでしょうね・・・民意を集約するシステムを破壊して、世論を創造して、行き詰まれば戦争を起こし、そして生き残る・・・一度成功した手口よ」

「また、特捜部、ですか」

「今の東京地検特捜部長は背筋金入りよ?数ある冤罪事件をことごとく指揮しながら無罪判決と自殺者の山を顧みず、出世コースを駆けあがり続けてるし」


トクソウブ・・・宗教権威を盾に誰でも自由に罪に問える集団・・・帝国の異端審問官と同じ組織のようだ。


「だから在日米軍が詰めてる。滞在中の大統領護衛を理由にね・・・数が少なくて使いどころがないエイブラムスで威圧して」


ザイニチベイグンと言うのは異教徒による傭兵団か。

王が神殿と対決するときに、異教徒やドワーフ、エルフの傭兵を動員するのはよくあること。

いずこもおなじ、か。


「反米派は日本が乗っ取られたと騒いでるけど」

「どこにあるんです?米国は?ただいま異世界中なのですが」

「あるわよ?日本人の心の中に」

「覇権大国、 軍事大国、陰謀大国・・・ツチノコなみですな」

「UMA『アメリカ』は日本でも便利グッズよ。『世界を指導しなくてはならない!』なんて本をだす少数派と違って、アメリカ人全般は世界の面倒なんか見る気はないでしょうけど」


そういうことにしたほうが『指導されたことにしたい連中にとって』便利だからね。

と舌をだす女貴族。

お気の毒、という口調。

何処でも傭兵は嫌われ者か。




【太守府/王城/王乃間/サークル窓側】


俺自身にも意外なことだ。

俺たちの世界を全く知らないはずのエルフっ子が、瞬く間に理解している。

・・・つまりそういうことか。

俺たちはの千年間は、ほんの十数分の会話に等しい。

喜ぶべきか、悲しむべきか。


三佐はどうだ?


「テキサスだけが世界だと信じて生きる人はいくらでもいるのに」


いやいやいや。覇権国家(笑)とはいえ、どんだけテキサス人を舐めるのかと。


「Oh my God!」


いたのか神父。生きて。


「ナゲカワシー!世界の果てはテキサスにアリマセン!」


まあなあ。


「内陸部で海がザーザー雪崩落ちるワケアリマセン!」


は?

衛星写真で確認済みとかなんとか、いやいやいや。

魔女っ娘シスターズが唖然としている。

おい!

中世の住民に呆れられてっぞ!


こちらの世界の帝国は惑星規模の征服戦争中。

魔法で高速通信が出来る。

なにより竜で空から見下ろせる。


ハイ!


地球外現地世界の方々。

星の形をご存知です!!

引っ込めファンダメンタリスト!

つーか、カトリックでソレ珍しいだろ!

進化論をバチカンが認めた情報が届いてないんか?


ほんとーに覇権(笑)国家(爆)だなオメーら!


三佐が魔女っ娘シスターズにお茶を勧めた。


みちゃいけません。


ってヤツだな。




【太守府/王城/王乃間/サークル壁側】


「幹事長は・・・」

「現国連の創設者、常任理事全員が個人的友人・・・国連内部では独裁者扱いね。『その』国連決議によりブルーベレーの都区内自由行動が承認。地元の県警や駐屯地から国連に派遣出向した警官や自衛官が青い帽子かぶって永田町を警備してるわよ?」


あたしは話を咀嚼する。


青龍の中心であるニッポンでは権力抗争が進んでいる。


末期的宗教権威を奉じる勢力。

新興の共和制貴族。


貴族が台頭しては神殿に迫害され、再び台頭して神殿の力を削り、互いに長い抗争を繰り返していたようだ。

そして再び貴族が台頭した時に起きた今回の戦争。

赤龍との戦争を指導することになった貴族の指導者は、新たに青龍帝国軍を編成する事で軍権を手中にしたと。


「首相が仲介して主な省庁、天下り法人、経団連に雇われ学者が『国連異世界暫定統治機構』を創る予定・・・通称『植民地省』」


おかしそうに嘲笑う女貴族。


「新しい砂場をやるから本土からうせろ、ですか」


青龍にとってはあたしたちの世界がほとほと無価値らしい。


「だから、やっかい事だと言ったでしょ」


ますます愉しそうな女貴族。


「さしずめセシル・ローズが見本ですか?21世紀に?派遣社員を一銭五厘の使い捨て兵として、奴隷と搾取の暗黒大陸を創るわけだ」


貴族は砂を噛んだような表情だ。


「出来るらしいわ。戦争を学ばない大きな子供達はそう思ってる。大人は義務教育をスキップしたアホを大陸で溺死させる気でしょうね」

「我々はどうなります。使い捨ての素人を使う戦いなど知らない。自衛官も各国軍人も素人のお守りをして真っ先に死ぬハメになる」


女貴族は鷹揚に頷いた。

失敗を前提に大事業を起こし、処分すべき反対派を押し込める。

ありがちな政治はべつにかまわない。あたしたちの問題は・・・。


「ここも阿呆どもの砂場ですか?」


それだ。強大な青龍、その歴史的政治変動。足元の私たちが無縁でいられるハズがない。だが、あたしたちにできることはない。


「あなたはどうするの?」


青龍の貴族、この男、それ次第。


「なにもしません」


女貴族はなお問いかける。


「なにも?」

「なにも」



【太守府/王城/王乃間/サークル青龍の貴族の背後】


わたしは本を読むときの感じがしています。

よくわからない言葉がたくさんあっても、判る言葉を継ぎ足して、他の本と読み比べるといつの間にかわかるようになる。


そうこうしているうちに、御主人様と女貴族さんは、お互いに頷きます。


「終わり。今日は、ね」


クスクス笑いこちらを見て、え?わたしですか。


「雑談でもしましょう。夕食まで、あなたたちもね」


そう言って見回した。わたし、ちいねえさま、ねえ様、メイド長さんとメイドさんたち。


「知りたい事もあるんじゃない?」


ご主人様のお顔・・・頷かれます。

なら。


「みなさまは、何者ですか」


ご主人様がなんであれ、わたしはわたし。

それでも、知りたい気持ちを抑えられなかった。


「その、あの、まるで・・・空から見ているようなおはなしです」




【太守府/王城/王乃間/サークル壁側】


あたしは幾百年見て来た。王族、貴族、神官、平民、奴隷。

王や神官たちにとってですら、今このとき、目の前だけしか存在していない。

自他の姿を、世界を、過去から未来に続く流れの一部として理解し実感している者がどれだけいただろう。


その者は種族を超え『賢者』とよばれる。




【太守府/王城/王乃間/サークル青龍の貴族の背後】


わたくしも夢中になっていました。


解らない言葉ばかりで、理解できるなどととても言えはしないけれど、工房を回り職人たちの話を聞くときのような興奮。

参事の娘、お父様の愛情、お兄様の強面、ポシェットの金貨。

それを盾に強引に押しかけて。

それでも相手にしてくれない御爺や御婆たちにまとわりつき。

強請って、邪魔して、困らせて。

やっと話を聞き出して。


「あなた文系、史学崩れよね?」

女貴族がご領主さまに話をむけました。


「崩れてません・・・中世では自分の村から一歩も出ないで生涯をおくるのが標準です。時間軸で見れば広くとって親と子の三世代」

???

わたくしは・・・うん、港までは行ってますから。


「その世界観は推して知るべし」

「あーあれね。世界がT字形に三分割されてアジアとヨーロッパとアフリカだっけ?」


・・・?


「そこまで退行したのはキリスト教世界だけで・・・まあ、貴族なら領地とその周りに自分の家系、王族なら国とその周りに貴族たちの家系、それくらいしか存在しませんよ」


わたくしは・・・そっか、ご領主さまは、そっか、『せかい』からいらっしゃったのね。


「だから、惑星規模の空間と人類史の時間を暗黙の前提にしている我々が奇異にみえるんでしょうね」

「星と人、始まりから終わりまでなんて考え付きません」


ねえ様が、つぶやくように。




【太守府/王城/王乃間/サークル壁側】


あたしの失言。


「ソレがわかる、っていうことは貴女も同類よね?」


あたしに向けて微笑んだ青龍の女貴族。


「質問で返すのを許してね」


女貴族のダメ押し。

答えを得る権利も答えを与えない権利もない。

あたしには。


「あたしは、ただの年寄りです」

人より長く生きた変わり者。森の外を彷徨くエルフ。長く生きれば見えるものがある。

珍しくも、自分を語ることに不快感がない。

やっぱり、当てられたかな。


「やっぱりエルフは見かけより長命なのね」


青龍の世界にもエルフは居るのか・・・いや、いたのか。


「私たちは、貴女たちの世界からみて・・・千年くらい長生きした世界。誰もが人の始まりと世界の果てを知ってはいる世界。ただそれだけの世界・・・長く生きれば見えるものがあるでしょう?」



「世界に始まりがあって、終わりがある。皆が『知ってはいる』世界。それがどうでもいい世界」

「よくありません」


青龍の貴族がつぶやいた。


「彼は期待の変わり種」

「では貴女は何者ですか」


あたしは黙っていられなかった。女貴族が頷き、だが答えない。


「貴女の言葉は伝聞ではない。世界の行く末を動かしているのか、動かすことに協力しているのか・・・」


あたしは夢中で言いつのり、青龍の貴族を見た。


「さてな」

「嘘はないけど、知ってもいるクセに」


青龍の貴族を茶化した女貴族があたしに向き直った。


「この戦争を始めたの、父なのよ」

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