ココロのカタチ/Post Traumatic Stress Disorder.
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。
次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『俺』
地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》
現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様/我が君》
?歳/男性
:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。軍政官なのでいつも陸上自衛隊制服(常服)着用。元々訓練以外で戦闘服を着たことがない。
『あたくし』
地球側呼称/現地側呼称《メイド長》
?歳/女性
:太守府王城に奉公する女性たちの長。ストロベリーブロンド、碧眼、白肌。異世界でも地球世界でも一般的な、ロングスカートに長袖で露出が少ない普通のメイド服を身にまとう。まだ年若いが、老人の執事長とともに王城の家政を取り仕切る。なお、前太守時代から奉公している者たちは全員、国際連合現地雇用者(軍属とは別)となり日本の労働法が適用される。
初登場は「第11部 大人のような、子供のような。」
「吊り橋効果」
という理論を知っているかな?
「生理的な興奮状態、命の危機や肉体の危機にたいするソレを恋愛におけるソレと混同する」
その結果、
「危険な環境で出会った者同士は恋愛感情を抱きやすい」
とする爆笑仮説。
だってそうだろう?
「恋愛における生理的な興奮状態」
「生命肉体の危機に対する興奮状態」
混同するもなにも、どんな違いがあるんだい?
種族維持本能がもたらす同一の反応じゃないか?
まあ、一度として検証がなされたことがない、ロマンチックな風説だけどね。
「恋を恋と認めたくない」
なんて、可愛らしいじゃないか。
【太守領中央/太守府/王城内郭/上層階/開放浴場前脱衣場】
おもむろに開かれた扉を抜けて、俺は湯気の中に進んだ。
朝の陽光に、朧気に浮かぶ岩風呂、的な温泉。
ローマ風の浴場というより、半露天風呂。
城の内郭内側、中庭にたいして解放され、明るい日差しと寒い風を取り込んでいる。内郭対面の同階層から上は壁になっている為に、覗かれはしない。
見下ろせば広い中庭であり、植え込みが整備され、その間にお湯と水が流れている。湯沸かし器要らず水道要らずだなこの城は。
城の外郭と内郭の間は真っ平らな馬場や演習場なんだが、内郭の中庭は凝っている。真っ平らな部分は攻城戦の時に部隊を移動させたり並べたりするスペースだからだろう。
内郭、いわば本丸の中庭がそういうことを考えない遊びに満ちているのは、此処まで攻め込まれたらお終いだからか。
王城屋上部分にヘリだって降ろせるスペースがあるもんな。
帝国だったら、飛竜を使ってそこから脱出か。
だから中庭は完全に趣味の領域。
王城は各所に浴場がある。
奉公人専用の浴場は建物下層に。
メイドさんたち、執事さんたち、下男下女など各々専用。
業務内容によっては、さらに専用浴場が設けられたりするとか。
まあ、いくらお城を磨いても、城内で働く人間が不潔じゃ話にならない。
よって日々の入浴は義務になっている。
とはいえ、ボイラーもポンプもガスも電気もない世界。
湯圧水圧が高く量が多いから、城の隅々、こんな上層階にも湯が行き渡る。
温泉地でなきゃ絶対に出来ないが。
異世界大陸の標準では、風呂は週一回くらいが都市一般住民の基準。
季節によっては水浴が1日おき。
体を濡らした布で拭うのが毎日なら、きれい好き。
赴任先がこの邦でよかった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、この邦だって、全域が温泉地じゃないけどな。
温泉脈から外れたところ、この間うろうろしてきた農村部は、異世界標準ぐらいだろう。まあ水はたくさんあったから、俺たちはシスターズ&Colorful含めてドラム缶風呂に入っていたけどね。
だが、太守府、そして王城は温泉地。
奉公人以外にも、騎士団用や役人用、もちろん太守の家族専用の浴場もある。
利用者不在につき、閉鎖中だが。
俺たち軍政部隊が利用しているのは、ゲスト用入浴設備。
太守が来客、同クラスから上役まで、を迎える為の施設。
王城の中では、つまり、この邦の中ではトップクラスの温泉だ。
接待用と考えれば、太守自身の浴場と同程度以上なのはわかるだろう。当然、この邦で一番偉い人が王城に住んでいた、王国時代の設備ではない。
だからこの岩風呂的なデザインや、斜め上を見あげれば空を見上げることができる開放型は、帝国の好みなのだろう。
その一つが、この解放型温泉と言うわけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、俺が敢えて選んだ訳じゃないけどね?
軍政司令部近くの、ゲスト用の風呂で十分だったのですが。
あそこも風呂屋くらいの広さがあるし。
狭くてもいいが、この世界の技術だと、むしろユニットバスのようなコンパクト化は難しい。
だからどの風呂も、大きい広いプールみたい。
シスターズ&Colorfulが泳いだりしないかと気にする必要もなく、みんな行儀がいいけどね。まあ、年齢二ケタの子供が温水プールくらいの広さがあるとはいえ、風呂場では泳がないか。
でまあココが、今日俺が入り込んだのが、俺たちが利用する最大規模の風呂。
何故か、司令官専用に誰かが決めた、謎浴場。
メイドさんたちの導きに従っていたら着きました。
まあ、風呂は風呂。
司令部からあまり離れてなけりゃ、何処でもいい。
もっと狭い、風呂屋くらいの浴場も、司令官専用と兵士たち様に別れている。
俺は他人と入浴するのが嫌いな方じゃない。っていうか、自衛官がそれじゃやってられないのはご理解いただける通り。
事務職とはいえ、演習にもいくし訓練もするし、一応は兵隊さんだからね。野外で風呂に入ったからと言って、兵数に数えられる存在になるわけじゃないのもお察しの通り。
それはさておいても、兵士たちと裸の付き合いもいいとは思う。
実際、この邦に着くまではそうしていた。
その考えは変わっていないが、ここに来てからは、独りで風呂に入らないから仕方がない。さすがに女の子たちを連れて、兵士たちと裸の付き合いってわけにはいかない。
銭湯準拠で考えても、年頃の子が多いからね。
しかたがないね。
そうした都合を抜きにして、俺独りで入りたくないことも無いのだが、当然のようについてこられると、俺の方が間違っているのかなぁ、と感じてしまって今日にいたる。
まあ、常に一緒の子守役だから当然といえば当然か。
しかし、今日はやっと大の字になって風呂を純粋に楽しめそうだ。
泳いでもいいかもしれない。
あの子たちといると、目が離せないからな。
先にあがっててもいいというのに、なぜか湯あたりするまで我慢して入っていたりするし。背中を流してくれようとするのは、なんかしみじみします。
妻もいないのに子供を持った感覚?
とりあえず、お嬢さんをください!
とか言われたらショットガンパーティーだな。
うちの部隊にもあるよ?
モスバーグ M500が。
例によって米軍装備だけれど。
もちろん、背中を流すだけにして欲しい。
自分の体に泡立てて洗おうとするのはやめてください。
だれの入知恵かだいたいわかるけれど、俺は巨人じゃないから子供とは言え何人がかりでこられると埋まってしまうだけだし。
今までは風呂場の外で様子を見ていたエルフっ子まで、今月から一緒に浴場の中には入るようになったので、よけい困るのだが。
いや、体は大人だしね?
基本、エルフっ子は背中を向けているが、耳がやっぱり俺を自動追尾。
素知らぬふりをして突然振り返ると、目が合って真っ赤になってアワアワするのが大変面白いです。
・・・・・・・・・・・・・・・・すべって、つんのめってしまい、大変な格好になったところを目撃してしまい申し訳ありませんでした。
今は俺一人。
洗い場的なスペースでは足首くらいまでの深さでお湯が流れていて、半身浴も可能。
しかし、凄い湯気だ。
5月とはいえ、朝晩は冷える。
温泉との寒暖差は当然か。
寒暖差があれば当然、湯気が濃くなるわけで。
メガネだったら曇っていたな。
風呂場ではかけないか?
【太守領中央/太守府/王城内郭/上層階/開放浴場/衣裳廊下】
あたくしは、我が事のように喜びを隠せません。
してやったり、と申し上げる訳には参りませんけれども、微笑みで伝えます。
あらあら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぽ~~っとしていますが、今は赦してさしあげましょう。
御領主様付きに、敢えて据えましたメイド五名。
前太守さま失墜後、城勤めの者たちが被った迫害。
とりわけ、傷つけられた、五名。
家から見捨てられ、暴漢たちに蹂躙され、誰からも見捨てられた娘たち。
あたくしは、その当時、城を守るのみ。
恥ずかしながら、気が回りませんでした。
予想は外れ、王城に押しかける者はなし。最も危険と思えばこそ、執事長様、あたくしのみにて預かりましたのに。
里下がりを許した者たちは、それぞれの家に守られるものとばかり。せめて親兄弟があてにならぬ時は、城に戻るように伝えるべきでした。
・・・・・・・・・・・・・・通り一遍に考えてしまったことが、悔やまれますわ。
しかして、娘たちは御領主様に巡り遇いまして御座います。
御領主様がその手、文字通り、御手にて暴漢を引き裂いたこと。
娘たちを救い、城に戻されたこと。
それは、あたくしの考え不足。
それを五名が戻ることで、思い知ることとなりました。
後ろ盾たる家を失い、寄る辺なき身となった五名。
肢体も心も傷つけられて跡を残してしまった五名。
幸いに、御領主様が再度皆を召し抱えられました。
故に身分は保たれ、日々の糧に不自由はありません。
肢体の傷は青龍の御技と、後に魔法を持って癒やされました。
それでも、気持ちの痛みは残ります。
五名とも
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男を恐れるように、なりました。
一時のことか、これからもなのか。
いずれにせよ、城勤めに男手は不可欠。
執事から下男、職人まで何処にでもおります。
故に、一般的な役目には付けられませんわ。
その時
――――――――――あたくしは、思い起こしました。
娘たちを治療した、青龍の騎士さま。
薬法師を兼ねる方は、男性でした、と。
娘たちが恐れるのは、この邦の、であるのかも知れず。
連れていくと、予想通り。
緊張はしても、錯乱も失神もいたしません。
緊張なら、誰もが青龍の皆さまには感じるもの。
五名も、男と見る前に、青龍、と身構えるのでしょう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違和感は、なし。
そして、青龍の騎士さま方、とりわけ青龍の殿方は、あたくしたちを含めて、この邦の女に触れるどころか、近付きさえいたしません。こちらから近付くことすら禁じられております。
なればこそ、緊張以上の結果に至ることも無く、日々の務めをはたせますわ。
かくして、五名を御領主様付きといたしました。
しかしながら
――――――――――――――――――――問題の根は、残念ながら残っておりますが。
あたくしは、もう一歩、踏み込んでみることといたしました。
御領主様と戯れる側の皆さま。
それを悪戯っぽい目で愉しまれておらるる青龍の公女様。
――――――――――御領主様のみ、禁の下に非ざる――――――――――
ならば。
そして、あるいは、その根を、御領主様に取り払っていただけるかも。
勝手ながらそう謀っているのでございます。
【太守領中央/太守府/王城内郭/上層階/開放浴場】
俺はいつの間にか真っ裸で湯気の中、いや、湯の傍らに立つ。
裸だと?
誰得という話以前に、俺全裸。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしい。
い・つ・の・ま・に・か
――――――――――――――――――――え?
昨晩、ってか、昨日真っ昼間から、制服のまま寝倒した。
起きたとき、幸いに服は着ていた。
上着は無かったが。
上にいたエルフっ子だって、着衣でしたよ?
幸いにかつ残念に。
多少乱れて肌が覗いてましたけどね?
注目し過ぎていたなんて誤解です。
ある程度、節度ある、適切な注目をしていただけです。
――――――――――さて置き。
俺は寝倒して、ヨレヨレの制服で、廊下を闊歩してしまったのか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かっこわる~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!
そして、いま、全裸。
いや、風呂だし。
それは正しい。
男に着エロなんか無い!!!!!!!!!!
断言する。
キチンと着ているか、全裸か。
男子たるものかくあれかし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女性の意見は知らんが。
ともあれ、問題は、いつ、脱いだのか??????????
回廊では間違いなく、着ていた。
でなければアムネスティガールズが大騒ぎしていたことだろう。
ふと振り向く。
メイドさん、軍政司令部担当の、五名。
手に持つは、緑の、白の
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の服。
そして真っ赤な頬。
みんなコーカソイド、白人種に近いから、紅潮すると判りやすい。
皆さん、手が塞がっている。
俺の服、靴下まで五名で分担してるからね。
だから、眼を隠せないのは、判る。
視線が斜め下なのも、判る。
キミたちが背を向けないなら、俺が向けよう。
そっかー。
いわゆるあれだ。
歩きながら服を脱がされるというあれ。
ファンタジーの王侯貴族がやってるやつ。
俺もいつの間にか、身につけたらしい。
歩きながら脱がされるってドウヨ??????
っていうか、あれは布を巻き付けたような衣装にしか出来ないとばかり思ってました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体を洗う前に浸かってはいけない。
わかるよ、わかりますよ?
だが、仕方がない。
穴がないから仕方がない。
流れる温泉プールみたいなものだから、いいじゃないか。
――――――――――――――――――――俺は、浴槽に跳び込んだ。
【太守領中央/太守府/王城内郭/上層階/開放浴場/衣裳廊下】
あたくしの目論見通り、のびのびとメイドを務める五名。
御領主様ご帰還後は、ますます活気がついてまいりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やはり、五名にとっては、御領主様こそが信頼に能うのでしょうね。
あたくしは、我が身の不明を恥いる次第。
そして、勝手ながら御領主様に感謝させていただきますわ。
故にこそ、今朝、五名に試練を与えてみました。
あたくしが、見守りながら。
事前に繰り返し繰り返し、御領主様の服、その仕組みを確かめて。御領主様、恐れながら、男性として見て、接する事が出来るかどうか。
常に側についている女方々とお戯れだけに、御領主様に男性を感じないことはできません。
それをより、はっきりと与えることで、五名が耐えきれるかどうか。
まあ、新しい役割への挑戦。
この場にては緊張のあまり青龍の方、として見て、男性を意識しないこともあり得ましたが。
それはそれで。
まあ、杞憂に御座いました。
五名とも
――――――――――見惚れておりますし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・ソコばかり見るのは、緊張以前ですわね。
耐える耐えない、ということではなかったようですわ。
この娘たちにとって、御領主様だけが、恐怖ではなく男性として映るのでしょうか。
若いメイドは、王城付きの方々の中から、良き縁を探す事が多いもの。
一時のことであれ。
里下がり以後を見据えるのであれ。
役付きとして末永い御奉公を望むのであれ。
これはこの城にて、ではなく、城における普遍の摂理ですわ。
であれば、領主の目に留まりたい、と願うは贅沢ではあれども自然なこと。
それは皆が認める箔になるモノ。
邦中から集まった娘たち。
中堅以上の家柄。
抜きん出た美しさ。
賢さと健康な肢体。
その中から、選ばれる、そは誉。
貴族騎士様の子をなして戻れば、家なり村なりで歓迎されるのは間違いありません。
氏族を高める新しい血。
村に吹き込む新しい血。
そしてもしかしたら、新しい伝手。
であればこそ、城に奉公した娘たちはまず、慎重に慎重に時間をかけて自分が望める範囲を見極めて、その中で一番優れた殿方を狙うものです。
大抵はおひとり。
自分がどの方に見初められたのか、誰にでもはっきりとわかるようにいたします。
さもなくば、箔にも伝手にもなりませぬ。
相応に歓迎はされましょうが。
サガ、と評するのはあながち間違いでは御座いません。
もちろん、あくまでも一般例にて。
御領主様、その側の方々とひき比べれば、あくまでも一時の戯れ相手として、ですけれども。
それに今となっては、どの娘も自分の家と距離をとっておりますから、いずれその在り方は変わりましょうが。
・・・・・なにぶん、先の変転にて、皆が思い知りました故。
在り方が一気に覆されますと、伝手も血も意味がありませぬ。
メイドの出身家、街の中堅どころの家々など、何ほどの庇護も与えてくれませぬ。
五名ほどの苦痛屈辱をへずとも、多かれ少なかれ、みなが依るべきものを見直しておりますわ。
それは執事もメイドも、下男下女も同じこと。
あたくしたちは、街から浮いております。
・・・・・・・・・・・・そんな、当たり前のこと。
そして、新しいカタチを、否応なく与えられましてございます。
青龍の盟約にて、あたくしたちの待遇は保証されておりますし。
給金と、生活の費えと、丸一日が余るほどのお休み。
里に下がる、ありていに申し上げれば役目を免ぜられるときは、破格のこころざしをいただけます。免ぜられたいなどと思う者もなく、誰も体験しておりませんが、誰も疑い致しません。
なれば皆、己が軸足を、とうに移していることに気がつきましょう。
右足は青龍の影に。
左足は己が陰に。
カタチが崩れれば何一つ残らない。
カタチを与えられても保証はされない。
カタチは絶対に守り続けなくてはならない。
あたくしたちが。
青龍の僧侶様がおっしゃる通り。
――――――――――ご自由に――――――――――
なればこそ、世が世ならば考えられないことが、当たり前になってしまいますわ。
・・・・・・・・・・・・それもまた、致し方ないことかもしれません。
ただ、あたくしたちの御領主様は、特別な方。
当たり前、として片付ける訳にはいきませんわね。
青龍の血はあまりにも畏れ多く、厳しい禁令と合わせても、旧来の城勤めの様に考える娘はおりませんでしたが。
この娘達が踏み出すのかも、知れません。
あたくし、どもも続くのでしょう、か。
しかも五名のメイドたち、あれは、処世を越えたモノが見えますわ。
理性ではなく、畏れ多いことに焦燥、いえ、あるいは、欲。
思い起こせば、城に戻された直後。
虚ろな目をしていた娘たち。
話を聴きながら、あたくしにはどうすることもできず。
・・・・・・・・・・・・・・・・その五名が、一時だけ生気を取り戻したことがございます。
御領主様が、目の前で、暴漢を素手で引きちぎった。
不快感と、呆れを含んだ眼差しで、屈強な人体を穿ち、引き裂き、骨と臓物と血を振りまき、死んだことにすら気づかぬような瑞々しい死体を、強く強く踏みにじる御領主様。
濁った悲鳴を上げる生き残りの女たちが、汚らわしいものを見るような御領主様の視線ひとつで、参事会の傭兵たちに繰り返し繰り返し、泣き声を出せなくなるまで蹴られ続ける。
※第18部分 <Rules of Engagement/ROE/交戦規程 >より
・・・・・・・・・・・・・・・その話をする時だけ、生き返っておりました。
血と、肉と、骨と、苦鳴と、悲鳴と、哀願の声を
・・・・・・・・・・・・・夢見るような瞳で語り続けました。
五名の娘は、恩と御奉公を踏み越えて
――――――――――――――――――――――主に懸想するメイドなど。
御領主様周りで過ごすのであれば、男性への恐れについては、問題ありませんね。
ですが、節度を守った戯れに、とどまれるのかどうかとなると
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・躾が必要、と考えざるを得ません。