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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第一章「進駐軍/精神年齢十二歳」

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11/1010

幕間:自由と民主主義のために

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


『幹事長』:日本の連合与党最大政党幹事長。国際連合の再創設者にして実質的指導者。国連中心主義者。


『合衆国大統領』:元合衆国軍統合参謀本部議長/合衆国駐日大使。女性初の大統領候補と目されていた。国際連合軍の実質的指導者。



「この数字はどう算出したのかね」


戦闘前の航空偵察写真で整然と並ぶ彼らの頭数は数えられます。

戦闘後は数えられませんから複数個所から破片をサンプリングし、単位面積当たりの平均人数をわりだしました。

戦闘後の航空偵察写真から有意な計測範囲を特定し平均数をかけますと82%になるわけです。


「相当数が脱出したのかな」


7%のお話でしたら行方不明者です。

戦場全域は砲撃射程だけで管制可能であり、周辺に対人地雷を散布して封鎖しました。

密度から見て戦場に参加して離脱するのは不可能です。


「この損害は」


掃討戦にて戦意を失わなかった魔法騎士とその配下のみによるものです。


「たいしたものだ」


まさに。

戦果それ自体ではなく意欲を保ち続けることができたことがよい意味で異常です。


「・・・時間か。失礼するよ。後で読ませてもらおう。追加の質問はメッセンジャーを送る」





幹事長私邸は不夜城のごとく。

戦時宣伝とエネルギー節約を兼ねた灯火管制により暗い街。

屋敷と呼ぶべき和風の邸宅は庭までライトアップされ人が行き来する。

3km圏内の路上は青いヘルメットの国連軍兵士と白く『UN』とペイントされたM1戦車が封鎖。近くの河川敷が臨時のヘリポートになっている。


「こちらへ」


スーツの女性に案内されリムジンから邸内へ。

門前のテントから人影が飛び出して来た。

浅黒かったり白かったり黒かったり、老若男女取り混ぜて、警官に抑えられている。

青ベレーを被った警官の背には《県警》。


「海外特派員協会の方々です」

とスーツの女性。

「封鎖エリア外の取材村ではお気に召さないらしく・・・」


取材村では連合与党広報と国連報道官が毎日会見し事務局作成資料が配られている。

党と国連運営ゆえに内外所属を問わず自称他称を問わずジャーナリストたちに解放されていた。

会見はネット配信され資料も自由にダウンロードできる。


当然、国内メディアには不評。記者クラブ専用資料が官庁から配布される。


「時々忍び込んできたり、カメラや集音マイクを投げ込んできたり、ご近所や警備の方々を籠絡したり、情報開示申請をあげたり、発表資料の矛盾に食い下がったり」

女性は苦笑した。


なんと非常識!


『取材』とは何か?

官庁役所が血税と権力を駆使しかき集めた情報から官僚役人が発表用に加工した資料を無償で与えられる事。


『報道』とは何か?

官僚役人に指導を受け同業者とすり合わせ当たり障りがないように加工した内容をいつでも差し換える覚悟で自社媒体に流す事。


日本の立派な報道産業なら100年以上前から常識だというのに!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・血管が切れそうになる。


「日本のフリージャーナリストもいらっしゃいましたよ」

明らかに日本人ではない女性が気遣うように言い添えた。


「指の数くらいでしょうか?」

つい苛立ちを口にしてしまった。


「さすがジャーナリストのお嬢様ですね。3~4人です」

片手であまる。指が。


「こちらへ」


門をくぐった。ざわめきが聞こえる。

「・・・戦死集計完了、戦傷に・・・」

「・・・は街宣雛型・・・」

「・・・選挙区割・・・」

「・・・〆は・・・」

戦死戦傷者を確認、居住地の連立与党支部に速報している。


その名前を組み込んだ演説文が作られ、明日朝には全国各地で街頭演説に使われるだろう。

案内を受けながら胸が悪くなるのを感じた。神聖化する気はないが、人の死を何だと思っているのか、と。


「初日は事実のみ、名前を使うのは告知後ですね」

女性が訂正する。そんなに読みやすい顔だったとか・・・反省して引き締める。


「役人より先に地方議員が訪問します。地域の有力者と一緒に・・・口封じではありませんよ」

また読まれた。

「党派を問わずに民生委員、町内会、世話好きな隣人・・・直接のケアは皆さんにお願いしております。議員は一歩下がって皆さんをフォローします」


「選挙の為に?」


女性がニコリと笑った。

直接フォローするより間接におこなった方が関わる有権者、つまり票が増える、か。

「こちらへ」


戦場に家族がいる有権者など稀だ。

大半は安全な傍観者。

だからこそ同情と共感の下地が出来る。

遺族、戦傷者のケアを通じて追従すべき模範例を示し、その過程で地域社会に確固たる支持層をしたてる。野党に比べて末端支持基盤が弱い与党連合には福音だろう。


(・・・戦争が大衆を国民とする・・・)


状況によって粘土細工のように形を変える人の意識。こね回す権利を当然のように争う官僚と政治家。

ますます気分が悪くなった。


「どうぞ」

ジャケットを渡された。ビニールに包まれた新品。


雨戸が開き冷気に当てられた。

座敷は襖が取り払われ、人の背くらいあろうかという黒い筐体が並んでいる。

慌ててビニールを破りジャケットを着込む。ファンが轟音を鳴らし、締め切った室内は寒気に覆われていた。

長い長い迷宮、いや墓所のよう。畳に黒い墓石ではホラーか。

隔壁じみた扉をくぐり抜けた。


途端に寒さが引いた。傍らの男がジャケットを受け取った。


一階部分は先程通り抜けた墓所以外、襖が取り払われ、ほぼ広間。

モニターが並ぶ一角、3D投影された大陸全図と選挙区割された日本列島が中央、座卓や簡易テーブルや箱や畳にノートPCを置いて操作している男女多数。

黄色いテープが通路を示しているらしく、スーツやジーンズ、軍服が走り抜ける。

部屋全体に英語や北京語、ペルシャ語にロシア語、正体不明な言葉が飛び交う。


国連軍の外軸か。


いつのまにか背後に銃を構えた外国人。

「気になさらず」


階段の上がり口でこちらに敬礼する人影は、軍服を着ている。それは日本人だ。10mほど向こう、廊下の陰で銃を構えた人影。銃口は此方を向いていた。

邸内を進む。


二階は仕切られているが申し訳程度だ。


「・・・メール電話禁止!紙か本人!」

「召喚期限が過ぎたら?召喚決定と同時にMPを呼べ!役人なら先日付で国連軍出向!名前はお前が書くんだよ!」

「・・・追悼集会は・・・少し減らしましょう・・・国連軍支援にアクセルかけすぎ・・・・・・夏に暴動が起きちゃいますよ、ブレーキを・・・そう、ネット参加推奨・・・です、戦場に燃料をもたらすためとかなんとか・・・」

「・・・先生、証人喚問の日程決まりました・・・はい、帰れません。議院運営委員会は24時間開催です。今日も明日も明後日も」

「出向後の脱走は軍法会議です。前の通りをご確認ください。財務省前はグルカ兵ですね。またお邪魔しますか」

「反戦集会が5千以下じゃいけません。・・・後援会、親戚の親戚もお願いを、失礼・・・アイドルを買って来て。明日までに千、都内で可能?・・・先生、わかりました、区の予算で行きましょう。年末まで・・・」


襖の向こうから声が聞こえる。日本語ばかり?

「OH!」

反対側から出て来たのはサリーをまとった女性・・・国連事務総長だ。

先導の女性が黙礼して三階へ。


気がつけば必ず二人以上が武器を構えてわたしをみている。次々と敷居や廊下をくぐり抜け、わたしを見張る人影も交代していく。

見える範囲でも肌の色は様々。共通点が増えてくる。

軍服と武装。

必ず一人が銃口を向けてくる。


(いったいどこまで歩くのかしら)


実際に歩いた距離以上に疲れるのは精神的に。

また階段を上がった先で部屋に通された。



「いらっしゃい」


和服の男性が迎えた。窓際で夜風を受け、好々爺といった風情で人懐っこい笑いを浮かべている。


「ありがとう。時間をいただくよ」

立ち上がり迎えに寄ってきた。慌てて駆け寄り一礼してしまった。


「Очень приятно!」

部屋の中央に胡座をかいた白人女性の声。ライダースーツでまだ若い。父の調べでは20代だ。


「まずは紹介させてほしい」


室内を見回した


「知っています」


6人とも顔と名前と肩書きも。

「ならば名前は省こう。儀礼に付き合ってくれ」

こちらの頷きを確認して皆を見回した。


「合衆国大統領」

幹事長と同じように窓枠に腰掛けていた細身の女性。階級章のない米軍制服を着た女性。プラチナブロンドを後ろにまとめている。鋭い視線は将軍、というより女王、いや女帝。

史上初の『女性』米軍統合参謀本部議長。家柄を買われ、退役後は駐日大使。大使から繰り上がりで曾祖父の野望がかなったのは不本意だろう。

米国史上初の女性大統領本命候補だったのだから。


「中華人民共和国兼中華民国国連大使」

折り目正しいスーツの青年。畳に正座していたが、立ち上がり一礼する。

米国と同じように大使から繰り上がった現国家主席の息子だ。この世代でなくては在日華僑、大陸系、台湾系をまとめられなかっただろう。

上海閥を率いる一族は日本や台湾を縄張りにしており、大使館は警備兵から下働きまで第一次国共内戦時代まで遡れる上下関係にある。

留学中は幹事長私邸に住んでいるから、ここは自宅でもあるわけか。


「ロシア連邦大統領代行」

「父上のレポートは秀逸でしたね」

背の高い白人女性が胡座をかいたままグラスを掲げた。中身は一見オレンジジュース、ウォッカが入っていると思うのは偏見かも。

深紅の髪をハーフアップにまとめ、ライダースーツの上半分を腰にまき厚手のTシャツ姿だ。

流暢な日本語。当然か。KGBから続く、ロシア対外情報庁の対日担当者だというからには。


「レポートの結論は事実でしたか」

「安保理で決めますよ」

にっこり。

本来の序列で大統領代理に就任するはずだった駐日大使は病死した。異世界転移から10日以内にロシア大使館の首脳陣は後に続く。若い文化広報官独りを残して。


「英国首相」

チャーチル来たる。駐日大使就任時にスポーツ紙の見出しを飾った。

アームチェアにふんぞり返るブルドックのような顔つきの老人。こちらに視線をむけようともしなかった。


「仏大統領」

品の良い婦人、30代か。椅子から立ち上がり、握手してくる。大統領の愛人というプロフィールはお国柄だ。


「安全保障理事会ですか」


緊張していなかったと言えば嘘になる。緊張が高まれば高まるほどマシになる自分に感謝。


「人類社会の意志よ」

米国大統領が物憂げに見回した。


「ワシはオブザーバーに過ぎんよ」

「ではワタシも」

英仏首脳陣が手を上げた。


「韜晦はご自由に」

幹事長がこちらを振り向いた。座布団と椅子が後ろから示された。自分は座布団に正座する。


「お悔やみ申し上げる」


びっくりしてこちらも頭を下げた。当たり前の一言なのに。米、中、仏、英、露の順に各国首脳が弔意を告げた。

英国首相が付け加えた。


「惜しい人を無くした。日本人ジャーナリストなど絶滅危惧種だからね」


「発生危惧種だろう」


続いた米国大統領はいまにも『精神年齢12歳』と言い出しそうだ。


「アサンジ独りにしてやられたあなた方からみれは日本は天国?」


仏大統領の笑顔に英国首相のしかめ面。


「ポロニウムが御所望で」


露大統領が混ぜっ返す。


「天国より住みにくい場所はない。ワシントンのクソ共には似合いだがな」

吐き捨てながら米国大統領がこちらを見た。


「日本の官庁が一週間かけたリポートだ」

ペラ紙を渡された。熟読12秒。


「まとめる事を覚えたんですね」

99%無意味だが。


「原文は質量10倍あるがな」

英訳は米大使館、いや、在日米軍か。

「・・・ですか」


異世界転移後の日本が保有する物質が枯渇するまでの推計。

食糧は1~1年半。

燃料は4~6ヶ月。

金属は半年~1年。

弾薬は大規模戦闘1回分。

etc.

巷で報道されている数字。


その行為が、何を意図しているかは明確だ。



「・・・正式な書類、ですか」

「世界銀行の経済予測並みだ。基礎数値も前提も根拠もない」


60年代に『このまま推移すれば』と『ソビエト連邦が世界経済を制する』と予測したのは実話ジョーク。

80年代には『このまま推移すれば』と『中華人民共和国が世界経済を制する』と予測した。


「やめてくださいよ」

と笑う中国国連大使。


何も間違っていない。

『このまま推移する』根拠がなく、情報非公開社会の『公式数値』を使って単純計算しただけだ。


それと同じ。


官庁のレポートは概ねウソではない。


決算書に例えれば、検察官の都合次第で『粉飾決算』と見なされない余地はある、くらいに。


転移し地球人類社会と隔絶した今、


『転移前の人類産業との連携』


を前提に、


『日本列島の生産力を最大稼働させた場合の消費』


という条件が記載されていないだけだ。


結論に合わせて数値情報を集めているなどご愛嬌。



「数字は何も証明しない。しかし納得させる」

英国首相が嗤う。

「統計学が詐欺師の口上になったのはいつ以来かしらね」

一人を除いて安保理メンバーがため息をついた。


米国大統領は表情を変えない。

「正しい数値を知ってるね?」

肯かざるをえない。



食糧。

気象条件にもよるが自給可能。多少献立を変える必要はある。


燃料。

自家用車も民間機もTV放送もネオンも省けば15年は余裕だ。

ただし地殻のデータが無くなった以上、原子炉は順次停止する必要があるが。

すでに『海外資源とのコスト比較』の観点から閉山した炭鉱は再開された。

太陽光、風力、潮力などなど『相対的コスト高』で導入されていなかった代替技術を普及させれば自給も視野に入る。


素材。

金属など鉱物は30~40年以上。一般社会を維持するならほぼリサイクル出来る。

石油由来素材は代替可能。

『国際競争力』を無視すればレアメタル関係にも支障はない。



「弾薬は知りません」

公開されていないから。

それ以外は官公庁企業の公開情報で判断出来る。

「教えていただけますか」


「在日米軍とは兵站警備部隊であり、日本は本国を含む米軍最大の補給物質集積拠点だ。日米欧の傭兵である我々が全世界をカバーする為に本土以上に兵站物質が蓄えてある」

米国大統領、と言うより米軍司令官の視線。


「第三次世界大戦に耐え得る物量だ」


具体的には?と訊く前に。


「15~20万の兵、作戦機一千、第七艦隊+αが同程度の敵と半年間全面戦闘可能な弾薬、燃料、兵器に予備部品」


露大統領が笑い出す。

「冷戦時代の遺産ですか?ソビエトの近場に最重要兵站拠点とは!」

核で焼き払えばほんの数分で米軍は作戦能力を失う。


「そうなれば地球を焼き払うだけだ」

米大統領が返す。


ためらいもなく。

気負いもなく。

決断もない。

アメリカ人にとっての核兵器は『威力が大きな爆弾』でしかない。

平然と続ける。


「・・・後は致死量100億人分の化学兵器、生物兵器が天然痘、ポツ」


「現状はわかりました」


付き合っていられない。


「充分な物質に余りある戦備、ならばこちからも質問です」

常任理事国代表が注目。


「なぜです」


幹事長を見た。



「なぜ、戦争を始めたんです」

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