冬の日。春の日。
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には【該当人物の位置】で区切ります。最初の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの一人称をできるだけ入れます。以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『俺』
地球側呼称《隊長/閣下/大尉/大尉殿》
現地呼称《青龍の貴族》
?歳/男性
:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。
『あたし』
現地側呼称《ねえ様》
?歳/女性
:異世界人。年上の少女
『わたし』
?歳/女性
:異世界人。少女。
『わたくし』
?歳/女性
:異世界人。少女。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《神父》
現地側呼称《道化》
?歳/男性
:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。
地球側呼称《曹長》
?歳/男性
:国際連合軍/陸上自衛隊曹長。
地球側呼称《坊さん/係長》
現地側呼称《僧侶》
?歳/男性
:国際連合出向中地方公務員。得度した僧侶。浄土宗らしい。軍政司令部文官。
【用語】
『青龍』:地球人に対する異世界人の呼び名。国際連合旗を見て「青地に白抜きでかたどった《星をのみほす龍の意匠》」と認識されたために生まれた呼称らしい。
『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。竜を使役し竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。
『参事会』:太守府を実質的に支配する大商人たちの集まり。
とてもすてきなあなたのくびをさんこかさねてはねましょう。
しつりょうでひとつ。
ねつりょうでふたつ。
みっつめはひみつ。
とてもすぐれたあなたのくびをさんどかさねてはねましょう。
ふゆにいっかい。
あきににかい。
さんかいめにはふゆかしら。
全高十数mのゴーレムの隊列が、ゆっくりと進んでくる。その数十m先には短槍歩兵が散開し地面を叩きながら先行。
上空後方には竜。
ゆっくりと回転しながら、少しずつ近づいて来る。
ゴーレムの足元には高さ1~2mの土竜。
その陰に騎馬の密集隊形。みな、二人乗りなのは魔法使いを載せているのだろう。
地平線に広がり、その隊列はまるで長城が迫ってくるようだ。
数百mまで接近したら突撃、詠唱開始。
魔法の射程圏に入ると同時に斉射。
後方の騎馬隊が魔法騎兵を追い抜き突入。
同時に飛竜が後方に先乗りし火炎掃射。ただし敵が飛竜を繰り出せば制空を優先。
ゴーレムは投擲も出来るが、命中率が悪いので対装甲近接戦闘に使うつもりだ。
もちろん、魔法の射程圏に入るまでの盾でもあるだろう。
と考えているであろうことが見て取れた。
「やっぱり、優秀ね」
傍らの三佐が呟いた。それに答えながら首を振る制服。
「こちらの射程を1km程度とみてます」
帝国軍は2km程の距離で陣形を組み始めた。彼らがこれまで遭遇している陸上兵器は戦車までだ。
昨日まで敗走を続けながら見るべきは見ている。
「真似できる?」
例えば。
宇宙人に突如攻撃され師団規模部隊が壊滅四散。
初めて遭遇した正体不明の兵器や戦術。
敗走を続け数を減らし続けながら性質や戦術を確認し報告出来るだろうか?
確認しえた個々人から情報を集約し全軍の作戦に取り入れられるだろうか?
「無理です」
肩をすくめたのは将捕だ。
帝国。
彼らは敵を知り、策を練り、戦力を全て集め、完全に統制する。
愚直で柔軟性に富み、勇敢で有能だ。
「彼らが世界を征服するのは当たり前ね」
中世レベルの技術文明で100km単位の撤退戦をやり遂げ、30万の陣容を再編成。敗残兵も再組織化し今日の会戦に到るまで僅か1ヶ月。
竜と魔法より、それこそが驚異。
例えこちらが邪魔しなかったとしても、だ。
「とっても残念」
二人は広い平原を見渡した。奥行き十数kmの平野。
遮蔽物がほとんどなく指揮官が全軍を把握出来る。
ゴーレムの巨体、竜の高度、魔法の射程、圧倒的な数の差を活かすべく彼等が選んだ戦場。
常道にして王道。
正当な軍略は戦史の見本ですらある。
「凡庸な私たちには想像も出来なかった」
ただ跡を追っただけ。
二人の周りを囲むホログラフィー。
帝国軍前衛戦列の背後にて隊伍を組む、弓兵、長槍兵、走り回る伝令。
あらゆる電子機器を持たず、人力を持って有機的に機能する30万の軍隊。
見惚れてしまう。
しかして、彼らはまだ、物量に対抗した経験がない。これまでは彼らこそが物量を味方とし、数段古い戦術を、あるいは戦術すら持たない相手を殲滅してきたのだから。
こんどは、経験を伝える事も出来ない。
対峙する国際連合旗。
周りを囲む英数字。
MLRS、203、155、155/W48、M388(Davy Crockett)。
F15、F16、F2、T4、AC130。
冷戦期のデットストック。
「時間は残酷」
頭上を通過する飛翔体。
「たかだか千年の差、ですか」
「私たちには、それしかない」
自慢にもならないけれど。
「それ以外なら彼らのほうが上ね」
将官は双眼鏡を置いた。
「秀でた個人、優れた組織、強い社会」
上空で。
地上で。
空中で。
「凡庸な私たちが滅ぼしてしまった」
轟音。
冬の終わり。
帝国西方総軍消滅。
兵員30万の82%が死亡したものと推定される。
確認された負傷者は4856人。
捕虜は35864人だった。
なお、一部兵器については使用されていない。
【春】
俺は自慢じゃないが危険には敏感だ。
俺の。
虎口の中にいるくらいは気がつく。えーっとか思わない。議論は後だ。
今、問題なのは、両サイドの火炎放射器だ。
米軍謹製、射程100mの逸品。第三世界で「治安維持」に大活躍。装備している正規兵はめったに使わない。記録上は。
代わりに民間軍事会社(別名Social Shredder)・・・分かり易く言えば最下級の傭兵に大ウケ!軍ですら勤まらず、社会復帰も出来ない、典型的なアレ(非公式名「社会員数外」)が高給(最後まで生きてればね)に惹かれてヒャッハーする時に使う。
いやいや。問題は他にもある。
ミニミ?『配置完了、ベルト装着』ってオイ!フルか!!フル連射か!!!軽装甲車に連射グレネード?チヌーク2号機銃座に20mm?『破砕弾用意!』ってなに?その面制圧的名称?
自主性に満ち足りた軍隊という悪夢がここに!
なんでキミ達は殺る気マンマンなの!虐殺か?虐殺だな?
しかもさ、みんな俺見てる?何故?今まで君たちを指揮してたのは曹長だろ?
それだ!困ったらまず曹長!
曹長!なんとか・・・・・・「御命令を」・・・・・・・・・なんでやねん!!!処置なしか!!!お手上げか!!!
どうしてこうなった!!!!!
【太守府広場中央/青龍の貴族と魔法使いの間】
あたしだけじやない。
参事。
衛兵。
職人。
雑役。
腕を振り上げた青龍の貴族。
皆がその両手を見る。
ここ十年絶えていた音楽祭の指揮者のよう。
身振りに合わせ、視線を周囲に走らせながら蒼備えの騎士達が構えを変えた。
これから奏でられるのは腕に構える、鋼の塊。
竜殺し。
あたしは貴族の傍らでその眼を覗く。
なにもない。
なにも見ていない。
意思もなく、感情もなく、葛藤もない。
虫を潰す人間の方がまだしも情がある。
震える自分に気がついた。
【太守府広場/参事会正面】
マズい不味い拙い。
間違いなく、俺のせいにされる。俺のせいかもしれないが。俺のせいかなー。
いやいや。
刑務所ならまだしも隠蔽される。俺達は最初から「いなかった」ことにされる。
俺には判る!!俺ならそうするから!!!
考えろ !今こそ考えろ!
神よ!!
「ハレルヤー!」
上・・・・・・いや、あれは不味い。
仏様!
「南無三」
後・・・・・・うん、ダメだ。
タスケテ―――!
【太守府広場中央/魔法使いと青龍の貴族の間】
あたしたちはあっけにとられた。
蒼備えの騎士たちも(面貌ではっきりはわからないけれど)。
広場の皆が見る。
青龍の貴族が掲げた手を。
そして、彼の前に伏す、あの娘を。
皆に利用され。
皆に嘲られ。
皆に無視された。
あの娘を。
「お赦しください」
乞うあの娘を青龍の貴族は見下ろした。
黒い瞳。
あの娘を見る瞳。
今までなにも見ていなかった眼。
あの娘を見てる。
だけど。
騎士達を抑える手が振り下ろされたら終わりの始まり。
【太守府広場中央/魔法使いの右】
わたくしはとっさに固まっていた体に気がつき、気合いを入れます。
あの娘が震えながら歩き出し、青龍の貴族とお父様たちの間に進んだときに、凍り付いてしまいました。
よし!
「我等の身で乞います。御慈悲を!」
(お、お父様!)
あの娘の後ろに進み出た姿。蒼備えの騎士達が槍を向ける。
「お父様!」
気がついたら、わたくしはお父様の胸に飛び込んでいた。お父様はわたくしを背に回すと、あの娘の後ろに続き跪く。
「ご承知の通り罪は我等に。我等参事の命をお召しください。我等に騙されたこの娘、そして願わくば他の皆をお赦しください」
わたくしはお父様の脇で震える。
「ゎた・・・ぐしも、ヒッ、罰を・・・こはぁ・・・とぉさ、ウっ、いっしょで・・・しにます」
わたくし自身、何を言ってるかわかりません。
相対し、しようとして初めてわかる。いつの間にか包み込まれていた青龍の力。それを解り、なお対峙するなど無理。わたくしには無理。
ねえ様がこちらに歩み寄りました。
途中、青龍の貴族と騎士に一礼。あの娘の傍らに立ちます。
貴族が掲げていた手の平を返します。騎士達が槍を下げました。
そして、わたくしたちの背後に視線を投げます。
「・・・私が領主様を欺こうといたしました」
「・・・ワシもです」
「・・・わ・・・」
「・・・認めます・・・」
四人が進み出た。あの娘に何もかも押し付ける密談をしていた人達。太守領で一番力を持つ参事たち。
「願わくば我等の命で購えるだけの者に慈悲を賜れますように」
一番若い参事が身を伏せ、皆が続く。
わたくしは青龍の貴族、その黒い瞳から眼をそらせません。
恐ろしく、そして・・・まるで、まるで魅入られたように。
【太守府広場中央/魔法使いの左】
青龍の貴族は皆の最前で地に伏したあの娘に近づいた。
あたしは立ち尽くす。なにが起きても不思議じゃない。何が起きるか判らない。あの娘の近くで動きやすい姿勢。力を抜き感覚を研ぎ澄ます。
幸いに蒼備えはまるであたしを気にしていない。
帝国兵ならあたしを斬るだろうに、青龍は騎士も計り知れない。
他の皆は蒼備えしか見ていない。
青龍の貴族があの娘の前に立った。あの娘は余計に縮こまった。
間。
貴族があたしに目配せ。
(・・・ごらんなさい)
あたしは誰にも聞こえないようにあの娘に助言。蒼備えには気がつかれたかもかもしれない。
恐る恐る貴族を見上げたあの娘は、確かめるようにゆっくり立ち上がった。
黒い眼差しを受ける紅い瞳。
「従うか」
「お仕えいたします」
あの娘は静かに跪く。
「始まる前から、終わりの先まで、我と我が身のすべてを捧げます」
あたしは驚いた。そして青龍の貴族は参事達を見た。
「この娘は貴様等の代表だな?」
皆、慌てふためいて頷く。
「いつからだ?」
いつ?今?違う?皆、戸惑いながら青龍の貴族に睨まれぬよう目を伏せた。
「遥か前だ」
帝国が逃れ青龍がやって来る遥か前?
龍が吠えた。
『親が死んでから』
あたしは硬直した。
「そうだ、それからずっとだ。そうだな?」
参事もその背後の連中も、広場中の人々が必死に頷いた。
「よかろう」
『出迎え大儀!』
龍の放口と共に翼音が高まり始めた。龍が飛び立つ。
・・・・・・つまりは「無かった」事になる。
あの娘は青龍侵攻以前から太守領の代表である。
青龍の貴族が確認し、参事以下皆がそれを認めた。
故に偽者を出して青龍を騙そうとした事実はない。
だから、誰も、罪はない。
参事達はそれに気がついたらしい。泣き笑いを浮かべて頷いた。広場の市民にも安堵が広がる。
あたしにはどうでも良いが。
それよりも。
青龍の流儀。
例えば帝国なら最終的には、大半に赦しを与えただろう。
領主は帝国の名で背命と侮蔑の罪を問う。
首謀者である参事と魔法使い、その血族を竜の餌にして市の罪は「皇帝陛下の慈悲をもって」赦すだろう・・・莫大な貢納と引き換えに。
青龍は赦さない。
罪と罰は不可分。
それでは生じる罰で大勢が傷つく。
だから解釈により罪を「無かった」ことにする。
すぎるほどの潔癖さ。
限界まで突き詰めることで現実を守る論理性。
なるほど。
一言でいえば「極端」なのか。
そして青龍は貴族の権能が強いようだ。叛逆への対処を一貴族の裁断に委ねるのだから。
あとは・・・。
《この娘は貴様等の代表だな?遥か前。親が死んでから》
なにを知っている?
《みんなを助けてください》
なぜあの娘の願いを叶えた?
【太守府広場/参事会正面】
俺が知る訳ない。
何がしたかったのか?
どこかの誰かが知っているのだろう。
だが、その誰かは、俺じゃない。
俺が何したかったか俺がしるわけないだろ!!!!!!
いや、ほんと、すいません。反省してます。二度としないようにがんばります。
でも、助かった。すごく助かった。
アドリブでごまかせた。
【太守府広場/青龍の貴族の傍】
わたしは親友に抱きしめられ茫然としていたのだと思う。
『みんなを助けてください』
きっとご主人様はわたしの願いを覚えていたわけでは、ましてや叶えたわけではない、と思う。
ただ、なにか、理由があったのだろう。
でも皆を助けていただけた。
それで十分。
それに。
わたしがお仕えするのはそういうことじゃない。
どういうことかは判らないけれど、なにかを得ることができたから、できるから、じゃないと思う。
ご主人様に駆け寄った青龍の騎士。ご主人様は制すると参事の人達に向かって歩き始めた。
わたしもついていく。参事の人達は平伏したままだ。そのまま進む。眼に映っていないように。慌てて道を空けた。
ご主人様は参事会前で立ち止まった。
わたしはその背中越しに前を・・・。
(!)
千切れた遺体。ご主人様を狙った人。わたしは震えながら慌ててローブを・・・。
(・・・ご主人様?)
青龍の外套がかけられた。
わたしは見上げる。
自分を狙った暗殺者をいたわるように遺体を隠したご主人様を。
その静かな瞳に浮かぶのは憐憫ではない。もちろん怒りも嫌悪もない。
謎めいた、微笑?
わたしは・・・。
【太守府広場/参事会正面入り口前】
俺はため息をつきたかった。
千切れた胴体。はみ出す内臓。室内で飛び散ったのか血が少ないのがせめてもだ。後方勤務なら死体は数字だけ扱えばいいはずなのに。とんだ貧乏クジだ。テンパったままだから、ため息つけないけどね。
あ!この子ついて来てるよ。とっさに隠した俺ナイス!見ちゃったかな?教育上よくないよね。
上手くない。血に触れる訳にはいかないから上着も無くしたし・・・私物じゃないけどさ。
「身元を知らせてください。家族がいても咎めぬようにお願いします」
おっさん・・・参事か・・・に指示してる。連座が当たり前の時代か・・・まあ数百年分先に来てるハズの俺たちにも加害者の身内を責める薄汚さは残ってるからな・・・胸が悪くなるところだった。
ポンポン。
つい手が出る・・・・・・え???
【太守府広場/魔法使いの左】
あの娘は真っ赤になりうつむいた。慣れていないのだ。
青龍の貴族がむしろ戸惑っている。
傍らのあたしに眼を向けた。
「禁忌なのか?」
遥か南には頭に触れるのが侮辱になる部族もいたが・・・いや、そういえば、まったく違う世界と考えるべきなのだ。青龍の地は。
「ちが・・・す・・・ただ・・・」
あの娘がさらに真っ赤になり、一生懸命かぶりをふる。言葉が出ないらしい。
青龍の貴族は戸惑いから困惑へ。
らちがあかない。
「この娘が慣れていないだけです。褒められ、頭を撫でられることに」
飲み込めないようだ。青龍は、いや多分この貴族は考え過ぎるタイプだ。
「子供の頭を撫でるのは、この辺りでは一般的ですから、安心してください」
虐殺の準備は淡々と進める青龍にとって、相手を侮辱するのはためらわれるらしい。
【太守府広場/魔法使いの右】
わたくしはアタフタしているあの娘に声をかけます。
「褒められたのよ。良かったじゃない」
わたくしには青龍の貴族が何を喜んだのか判らない。
あの娘は何を喜ぶのか判ったようね。
すこし、ほんの少し、わたくしも、判るようになるのかな・・・・・・・・・あら?
・・・・・・うん。きっと意味はありません。
職人や船乗り、行商人の話を聞きたくなるのと同じこと。
嬉しそうに耳まで真っ赤にしているあの娘は、いつのまにか青龍の貴族にぴったりとよりそっていました。
ねえ様がわたくしを見て、声をたてず、少し意地悪そうに笑います。
「・・・別に良いけれど」




