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「その3、囲い湧き出る少女達」

「おやや、ワタル、今日は随分とのんびりだったねぇ?またなにかおもしろい事でもあったのかなぁ?んん、制服が濡れてる」


 教室に入るといの一番に気がついたクラスメートが抱きついてくる。


「んふふ、相変わらず香しいなワタル。その薄肌の下に流れる血液は、あぁ体の芯から瘞いてしまうなぁ」


「近づくな気持ち悪い」


 背丈だけで言えば小学生にしか見えない少女を俺はひき剥がす。

 青眼、金髪たしか出身がイギリスだと言っていた。


「気持ち悪いとは言ってくれるなぁ、歴戦のヴァンパイヤハンターの誰もが恐れるこのパチトート13世にそこまでの苦言を吐けるのは君くらいであるよ。んふふ、だからワタルの血は甘美であるのかなぁ?」


 甘ったるい声ですり寄ってくるこの少女、自称ではない本物の吸血鬼である。

俺の中に流れる血が特別に美味いらしく纏わりつかれているのだ。


「ホント寄ってくんなお前、迷惑だって何回言えば気が済むんだよ。このクラスにまで転校してきやがって、1300歳なんだろう、高校なんてくるなよ」


「ワタルが我の物にならぬからだろぉ?だから仕方なくこちらから赴いてきたのであるぞ?それに存外この学校も気にいったしなぁ」


「誰が吸血鬼の物なんかになるか、スクールライフ楽しむのは構わないが俺にちょっかいをだしてくんな!」


「んふふ、このぉ」


 まるで駄々をこねる子供を見るかのようにほほ笑む姿がスゲーむかつく。

 見た目少女の婆さんめ。


「そんな事より、なにかあったのだろうぉ?びしょびしょであるぞ?ってあぁワタルぅぅ」


 ヴァンパイヤ少女を振りほどき俺は自分の席に向かう。

 そう、朝の少女達等まだいいほうなのだ。気合いの入ったファンタジーエピソードの関係者は俺の学校、あるいわクラスにまで転校してきて巻き込もうとしてくる。

 無論その気合いの入った者は一人や二人ではない。まだ一年とちょっとしかたってない高校生活で俺のクラスへの転入者は30を超える。そこから先は数えるのも嫌だ。


「おはようございます弥様、今朝もご機嫌でなによりです」


 次に声をかけてきたのは、頭からアンテナの生えた少女。


「……ご機嫌でないっての」


 数メートル先の目的地にもすんなり辿りつけないのだからな。


「了解しました。制服に大量の水分を吸収させてのご登校はご機嫌ではない。新しいデータとして記憶しておきます。補足事項として制服に大量の水分を吸収させてのご登校とはいったいどのような心理状態なのか説明していただきたいのですが。そうすれば対話能力のさらなる改善が可能です」


「うっさい」


「はい、うっさいと言われた時は対話を中断し、音声を停止。実行します」


 そう言ってロボ、正確にアンドロイドらしいが。とにかく人工少女は沈黙する。

 もうすぐ、もうすぐで俺の席だ。


「ハァイ、弥ちゃん。今日は週に一度のメディカルチェックの日よ」


 つけない!辿りつけないぞ!


「も、もうやりませんよ。この前で最後だって言ったじゃないですか!」


「パルスマナの採取がこの前で最後なだけであって、検査はまだまだ続くわよ。次は分泌方法を探る為にマテリアルラインの選別するからね、大丈夫よ痛くないから、むしろ気持ちいいから!」


「そんな事を言ってるんじゃない!これ以上関わりたくないと何度も言っているだろ!」


「おやおや~?命の恩人にタメグチかー、あたしがっかりだわ。弥ちゃんは恩も返せない不届き者なのかなー?結社から助けたのはどこのだれだっけ?」


「くう、確かにその件は感謝しているけど……」


 マテリアス・ガイドの少女。マテリアス・ガイドとは魔術研究家と言う意味らしい。

 本来人間にはないマナ生成器官が俺の中にあるとかでそのむかし魔術結社に狙われたことがあり、そのときに助けてもらった。

 言うなれば命の恩人である。


「あの時のお礼であたしの研究を手伝ってくれる約束は?ついでにこれから先ずっと敬語ってのもね」


「けどこれ以上は……」


 恩はある。あるが、このままズルズルと接点を持ち続けるのはあまりにも危険だ。


「そうだ、ダメだ。これから先はもう協力はしません。敬語を使うぐらいならいくらでも使いますけど、魔法研究やら魔術結社には関わらない!」


「えぇー、そんな困るわよ」


「とにかくもう終わりですから。失礼します」


 膨れっ面の横を通り、やっと俺は自分の席に。


「すいません、勇者様、今時間ありますか?」


 あと一歩。あと一歩のところでまた少女に行く手を阻まれた

 悲しいけど比較的いつもどうりである。


「ない!暇一つない!」


 学校指定の制服を着ていない少女。

 銀髪で尖った耳、エルフ族であると自己紹介されたのはもう記憶に古い。こいつにいたってはクラスメートですらない。かってに学校に入ってくる不法侵入者だ。


「ありがとうございます。ではすぐに準備しますね」


「暇な時間はないって言ってるだろ!」


「よーし、この鞄の中を通ればわたしの世界、アメイジアに行けます、いざ勇者様まいりましょう!いざ!いざ!」


「人の話を聞け!といういより時間があるからってそんなホイホイ異世界に行ってられるか!」


 ポーチのような小ささの鞄をめいっぱい広げ押しつけてくるエルフを俺は抑え込む。


「もう!いったいいつになったら、勇者様はアメイジアを救ってくれるのですか!いいから早くはいってくださいよ、さあ、さあ!」


 出会った当初は謙虚で大人しい雰囲気であったが、俺が異世界に行くことを拒み続けているうちにだんだんキレキャラになってしまった。


「ぐぐぐぅ」


 だ、だめだ、強い、力が強い。さすが人外。


「ほら!早くわたしと共にアメイジアへ!!勇者様!!」


「痛たたたた、そんな小さな鞄に入れるか!痛い痛い痛い!ファスナーが噛んでる、皮膚を噛んでるぞ!」


 そこでチャイムが鳴り響く。


「ちっ、時間切れですか、次こそかならずアメイジアに連れて行きますからね、覚悟しておいてください」


 まるで去り際の悪党だな。エルフの少女は窓を勢いよく開け、飛び出していった。


「……あー、痛ってっ」


 ここは三階だが気にする必要はないだろう。

 ようやく自分の席につくことができた。濡れた制服が気持ち悪いが替えはない。

俺は帽子を机端にかけ、湿ったブレザーは椅子にかけた。


「はぁ、疲れた」


 家から教室に来る。それだけでもう食傷の極みだ。

 天はよほど大雑把なんだろう。役者の采配が悪すぎるのだ、俺にどうしろというのか。呪いだとすら思えてくる。なんでもかんでも押しつけられてもどうしようもない。

 変わりなんていくらでもいるだろうに。試しに道端で健全な高校生を捕まえて設定を説明して交渉してみればいい。喜んで引き受けてくれるだろう。


「おーい、お前ら自分の席つけ!」


 担任が教室に入ってきたようだ。


「もう朝のホームルーム……か……」


 ……。


 担任の後に続き入って来た者を見て俺はあぜんとした。

 教卓まで来て担任が口を開く。


「こら静かにしろー、毎度の事であるし見て分かると思うが、転校生を紹介する、ほら」


 と担任は隣に立つ少女に挨拶を促す。少女は頷き。


「皆さん、初めまして。私の名は虚空千咲こくうちさきと言う。これから君達のクラスメートとして、あわよくば良き友人として付き合っていきたいと考えている。どうぞよろしく頼む」


 布に包まれた長細い物体を持つ少女、虚空千咲の礼のこもった挨拶にクラスメート達が拍手で迎える。

 間違いなく化け物を一刀両断したあの勇ましい少女だった。


「ちなみにこの制服の事だが。すこしばたばたした状態で越してきたので学校指定の物が間に合わなかったのだ。しばらくはこの格好で過ごさせてもらう事になるが気にしないでほしい。ところで……」


 キョロキョロと教室内を見回す虚空千咲。

 目があった。

 い、いや大丈夫だ。あのとき帽子で顔は隠していたし気付くはずない。


「……先生、唐突で申し訳ないがこのクラスに日妻弥という者はいるだろうか」


 名指しだぁあああああ。俺は心の中で絶叫する。

 なぜだ、名前なんて名乗らなかったし、それ以前に在ったこともない。


「日妻君ならほら、そこの一番後ろの生徒だ」


 俺目当ての奴なんて珍しくもないというふうに担任は躊躇なくこちらを指さした。


「ほう……彼か……」


 見定めるような虚空の視線。


「ふむ、なるほど」


 なにに納得したのか虚空は俺の方へ歩いてくる。そして目の前でピタリと止まる。


「……」


「……」


 しばらく無言で見つめあう。辛抱できなくなったのは俺のほうだった。


「な、なにか用か?」


「ああ、すまない。ここまできて考え事をしてしまった。君に言いたい事が一つあっただけなんだ。たった一言」


「そ、そうなのか。ならさっさと頼むよ、皆待ってるからさ」


「……うむ、そうだな。では」


 虚空が何を言いに来たのかさっぱりわからない。なんの複線もなかったはずだ。

とにかくかわすぞ。どんなことを言われても否定して、スルーしろ。


「私、虚空千咲と、日妻弥は将来を共に歩む許婚だ。これから結婚を前提に付き合うことになるから、よろしく頼む」


 少女の言葉にさすがの俺も思考停止。


 あぁ、早く放課後にならないだろうか。桜田に会いたい。


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