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窓の外

作者: 結城 伊吹

Ⅰ 4時30分


「おい、勝手に俺の消しゴム使うなよ」

「だから、ごめんだって。今日消しゴム忘れてきちゃったからさ」

すると、女子生徒の声がかかる

「そこの男子うるさい!」

男子は答える

「へいへい、ごめんね〜」


ただいまの時刻は午後4時半過ぎ。テスト期間中のこの学校は全校をあげて、授業後に1時間、全員が残って学習していくことになっている。しかし、今日の学習は半分を過ぎ、そろそろ終わろうとしている。


消しゴムを忘れた男子生徒は思う。

「どうやって消そうか、この机の巨大な落書き…」


同じ頃、真下の教室では窓際の席に物憂げな顔で外を見つめる女子生徒がいた。失恋でもしたのだろうか…

「どうしよう、消しゴム忘れた」

……。女子生徒は続けて思う

「調子に乗って、提出用のノートにイラスト書いちゃった。隣の人集中してるし、借りづらいなぁ…。どこからでもいいから、現れてよ消しゴム」


またまた同じ頃、例の男子生徒2人は小声で言い争っていた。

「マジで貸してよ、落書き書いたのは悪かったからさ」

「明日、消しゴム持ってきて消せばいいだろう」

「一晩中残しとけというのか‼こ、この巨大な青い国民的キャラクターを。恥ずかしい」

「だったらなんで書いたんだよ⁉」

「本当に貸して、お願いだから」

そう言ってこの男子生徒は消しゴムに手を伸ばす。

「だから、嫌だって!」

消しゴムを持つ男子生徒はとっさにその手を払いのけた。その瞬間、消しゴムは綺麗にその手を離れ、窓の外に飛んでいった。

「あぁっ‼」

「だから、そこの男子うるさーい!」

消しゴムは落ちていった。


Ⅱ 4時40分


「お願い、神様仏様。どうか消しゴムを」

真下の教室の女子生徒は目を瞑って神頼みまでし始めた。すると…

がんっ、とんとん、ぱた。

上の階から落ちてきた消しゴムが、偶然にも横の雨どいにぶつかり女子生徒の机に2バウンドして着地した。

「ん?」

音に気がついた女子生徒は、ゆっくり目を開ける。目の前には10分越しの念願だった消しゴムが。女子生徒は一瞬ポカンと口を開けたが、思考が追いついたのか

「わあ⁈ほ、本当に消しゴムが。神様のおかげ?ありがとう、神様!」

ひとしきり手を合わせて、誰にともなく礼を言うといそいそと消し始めた。


Ⅲ 4時45分


「なあ、落ちてったぞ…」

「ごめん、まさかこうなるとは思わなかった。多分、下の植木に落ちたと思うから後で拾いに行くよ。あと15分で終わるし」

消しゴムを落とした例の男子生徒2人は、微妙な空気になっていた。そんな2人に後ろの席の男子生徒がメモを渡してきた。にやけながら渡されたそれを開くと

『お前のことが好きだ 付き合ってくれ』

……。ますます微妙な空気になった2人のところに、そこそこの大きさの黒い虫が窓から飛び込んできた。消しゴムを忘れた男子生徒は言った。

「わっ、なんだよこの虫。気持ちわる」

そこで、机の角に止まったタイミングを見計らってさっきのメモで包み込んだ。

「これ、どうする?」

「窓から虫だけを逃がすか」

こうして虫だけ逃がそうとすると、メモを持った男子生徒は、勢い余ってメモごと窓から投げ捨ててしまった。

「わっ⁉」

「うるさいっ!2人とも、さっきから何やってるの?」


「わっ!」

一心不乱にイラストを消していた真下の教室の女子生徒の頭に、またも偶然入ってきたメモがぶつかった。

「今度は何?」

くしゃくしゃに丸められたそれを開くと、まず目に飛び込んできたのは黒い虫。

「げ、気持ち悪い」

その虫はすぐ窓の外に逃げていき、女子生徒は残った紙に何か書いてあるのを見つけた。

「何か書いてある。お前のことが…って、もしかして告白⁈誰から?」

女子生徒は一瞬びっくりしたが、冷静になって

「そんな重要なメモに、普通は虫なんて包まないよね」

しかし、女子生徒は顔のわからない誰かに想いをはせるのだった。


Ⅳ 4時55分


「いや、だからね。消しゴムが、黒い虫がメモに包まれて飛んでった」

「そんな説明じゃわかんないわ」

メモが投げ捨てられた後、消しゴムを忘れた男子生徒は、さっきから注意していた女子生徒に言い訳をしていた。そんな時、また後ろの席の男子生徒がメモを渡してきた。

「そんなのもらってる場合じゃないのに」

それを開いて見ると

『さっきのは冗談』

……。

「そりゃ、わかってるよっ‼」

と、手を振り上げた瞬間にメモが手を離れ、風に乗って窓の外に飛んでいった。

「げっ」


Ⅴ 5時00分


嬉しそうに窓の外を眺めていた真下の教室の女子生徒は、ひらひら落ちてくるメモを見つけた。うまく机の上に滑り落ちてきたメモを見た。……。

「冗談か〜!」

その直後、学校中に学習終了のチャイムが鳴り響いた。







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