戦果確認 2
悟庸は森の中、流陽をあてどなく探した。
雪は、耐えられないほどの白さでどこまでも広がっていた。だが、何も見つけることはできなかった。
流陽の身体が雪原に転がっていれば、とっくの昔に見つけている。
自分が何を探そうとしているのか、分からなかった。何を見つけてしまうか、怖かった。
衣服の切れ端? 血痕?
そんなものは何も見つからなかった。
がくりと膝をつく。
冷たく、不快な湿気がブーツを通り抜けて、体に染み入ってくる。だが、そんなものでは足りない気分だった。
「流陽……」
ぐるぐると回って、結果、始めの地点に戻ってきたらしい。流陽の携帯が膝の先に転がっていた。
ふと気づいた。流陽の携帯の側面で、LEDライトが光っている。悟庸は震える手でそれを拾った。
録音メッセージが一件入っていた。
再生ボタンを押す。
『悟庸、メリークリスマス。あなたがこれを拾うことを見越して、携帯置いていくわ。どうせ、国内じゃ役に立たないし、こうすれば確実なメッセージも残していける』
その声は、瀕死の呻きでも、助けを求める声でもなかった。いつも通りの、早口ではきはきした口調。いつもの流陽の声だった。
流陽が無事だという、安堵のあまり、話の理解が追いついていなかった。少しして、流陽の言う意味を考える。
……見越して?
彼女は――自分の行動を予測したのか?
自分が彼女の行動を予測していたように、彼女も同じ事をやってのけたのか?
膝まで雪に埋めながら、悟庸はバカみたいにそこにひざまずいていた。
携帯から声が流れ続ける。
『サンタさんなら、墜落現場で難儀しているようだったから、私が助けを申し出たら喜んだわ。彼、この国には不慣れだし、彼のプランも大きく乱れていたからね』
はっと顔を上げる。
今まで、何故か眼に入らなかった足跡が伸びている。男物の本格的な冬季ブーツと、流陽のものだろう、ずっと小さな足跡が連れだって、暗い森の中へと続いている。
流陽が余所の男と二人きりだって?
条件反射的に、胸元を鷲掴みにされるような気持ちを覚えた。
それが可笑しかった。自分が望んでいたことではないか。
それに、お相手は外見年齢七十歳だかの、何か伝説的な存在だ。
『クリスマスは続行されるわ。簡単にクリスマスを止められると思った?』
携帯の声は挑戦的に言った。
流陽はクリスマスを続けるつもりなのだ。彼女の目的のために。そのために、サンタさんを救出した。
撃ち落とすことができるものは、救出することもできるという理論に従って。
理解を超えた現状にひるみながら、悟庸は考える。
いや、救出すると気軽に言ってもだ。
サンタさんなんて、存在、そんなにほいほい助けてしまえて、果たして、正しいのだろうか? 一個人が、そんな畏れ多いクリスマスの主役に貸しを作ってしまって。
それに、言葉の壁があるはずだ。サンタさんはノルウェーから来ているのだから、ノルウェー語を喋るのだろう。
流陽がノルウェー語なんか喋れるはずがない
『ヒューヴァー・ヨウルア! ノ・ヘイ・シッテン、ナハダーン』
携帯から異国語が流れた。
喋れるのか。
『あと、ミサイルを発射することを決意した貴方は、ターキー求めて駆けずり回っていただろう貴方より、ずっと素敵よ。じゃね』
ぷつん、と録音は終わった。