第81☆
「あいつら名前なんだけっか……テ……テン?……ああもういいニャ。とりあえず、その騎士団に対するPKと、窃盗の容疑で、貴様等をタイホニャー!」
警官の格好をしたデブ猫が、マキ達に近づいていく。
僕も、マキのところへ駆け寄った。
「また、めんどくさいのがきたわね……」
「あいつメインクッショ! テンシンハン騎士団に賄賂をもらっていた警官……けっこうやばいかもしれないッショ!」
マキとヤクシが、ひそひそと話をする。
「いいかニャ? そこを動くニャ…………?」
ぐふぐふ笑いながら近づいてきた警官猫メインクが、突然その歩みを止める。
というか、止められている。
メインクの周囲は、透明な氷で覆われていた。
「……以外と手が早いんですね」
僕は思わず敬語で話しかけながら、青い髪の少女。
レイカを見た。
レイカは恥ずかしそうにうつむきながら、両手で杖を握りしめている。
「…………何するニャーーーーーーーーー!!」
パリンと音を立てて、メインクの周囲を覆っていた氷が割れる。
レイカの氷を割ったのか。
以外とすごいな、このデブ猫。
「まったく、この世界の法律、正義である我々ケーサツに攻撃を加えるとは、ケーサツ隊副隊長メインクの名にかけて、必ず……」
「悲しい飴状の雨」
バシャンっと、メインクの頭上に、如何にも毒々しい色をした液体が降りかかる。
その液体を振りかけたと思われるヤクシは、ただ、ニヤニヤと笑っていた。
「…………」
ぶるぶると、体をふるえさせて、降りかかった液体と落とそうとするメインクだが、全然落ちない。
よく見てみると、液体は糸を引いていた。
おそらく、ヤクシがメインクにかけた液体は、粘着性の高い、納豆のような液体なのだろう。
とりあえず、手で顔にかかっている液体をおとしたメインクは、明らかに憤怒の感情を持っていた。
「ふ……にゃっにゃっ……お前等……絶対許さないニャ……掲示板にお前等の悪行をさらし、必ず社会的な抹殺を……」
「スラッーーーシュ!!」
そう、声が聞こえたかと思うと、メインクの体の中心、上から下にかけて、まっすぐ赤い線が走った。
その声を発した少女……マキは、満足げに、鼻息を鳴らしている。
ぐらりと、メインクの体が、二つに別れて、崩れ落ちる……と思ったら、メインクの手を動き、崩れる体を自分で閉じて、くっつけた。
……グロ!
「ふーっ!ふっー!貴様等ーーーーーーーーーー!!」
メインクが、叫ぶ。
まぁ、凍らされ、液体をかけられ、ぶった切られたら、ブチ切れて当然だろう。
「……ていうか、なんでお前等アイツを攻撃してるの?」
警官だろ?アイツ。
「え? どうせ何言っても無駄だろうし、ここは試しに実力行使してみようと」
とマキ。クナイを両手に持って臨戦態勢だ。
……いつの間にか、両手が戻っている。
まぁ、カンダを倒したし、そのときに戻ったのだろう。
「警官を倒したことのあるプレイヤーは今の所いないッショ! 倒したら何かイベントがあるかもしれないッショ!」
とヤクシ。
両手に毒々しい液体を球体状にして持っている。
「……勝てるのか?」
ああいう、プレイヤーに罰を与えるタイプの敵って、結構強いんじゃ?
「……たぶん」
と、小さな声で、レイカが答えた。
「……ふーん」
僕は、チラリと、デブ猫メインクの方をみる。
「……あれでも勝てるの?」
ミシ ビキ
パンパンの洋服がちぎれていくような音が、メインクから聞こえてくる。
始め、僕の腰くらいの大きさだったメインクの体は、徐々に大きくなっており、虎とかライオンくらい大きさになっていて、それでも巨大化は止まらずに、ドンドン大きくなっていく。
「……たぶん」
とレイカ。
声に抑揚が無くて、なおかつ声が小さいので、感情が読めない。
「はぁああああああ……小さなクソネズミがぁあああこの世界を統べる力で……ギタギタにしてやるにゃん……」
メキメキと、大きくなったメインクは、さらにその体の大きさを増し、小さなアパートくらいになった。
大きくなっただけでなく、体の周りから、ドス黒い、オーラのような物も出しており、明らかに強そうでやばそうな感じである。
「……たぶん、ムリ」
「だよね!? 強そうだよね?」
感情の無い声であっさり言ったレイカに、思わず詰め寄る僕。
「貴様ーーーー!レイカ様に近寄るなぁあああ!!」
「うお!?」
いきなり、白い外套に、笑っている表情のマスク……よく、トランプのジョーカーとかに使われている感じの奴を付けた男が、僕に氷の固まりを投げつけて来た。
「レイカ様とお近づきになりたいならば、我々レイカ様ファン倶楽部『レイ闘誇』に許可をとって頂きたい!」
白い外套マスクは後ろに同じ格好をした……若干僕に氷を投げつけてきた奴の方が、衣装が豪華だが、そんな、マスクを付けた男達を引き連れて、歩いてくる。
どっかで見たような光景だ。
そんなマスク男たちは、くるりと振り返り、巨大化したメインクの方を向く。
「我ら、『レイ闘誇』レイカ様に近づく全ての困難を払いのけ、そして破壊する者。さぁ、邪悪なる者よ、我らの魔術によって、その身を止めるがいい」
なんか、長ったらしい台詞を吐いて、指をビシッとメインクに指したマスク男
「ああ? 邪魔だにゃ」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そんなマスク男達は、すぐにメインクが振るった猫パンチに飛ばされていった。
どっかで見たような光景だ。
「さて……覚悟はいいかニャ?」
巨大なメインクがニヤリと笑いながら、左手を挙げた。




