第80☆
すみません。
遅くなりすぎました。
申し訳ないです。
「っく!」
体をのけぞり、ひねり、足を上げ、曲げ、あらゆる方向から迫る輪っかを避け続けるマキ。
「あはははは。なかなかやるわね」
ケタケタ笑いながらマキの右手をいじるカンダ。
「けど、そろそろ限界よね?」
カンダの言うとおり、千を越える輪っかの大群を避け続けるのは無理だ。
物理的に、肉体的に。
今まさに、マキの四方八方360度すべてが『瞬間の円盤』に囲まれ、同時に襲いかかろうとしている。
「ミカ!」
あっと言う間に、マキの体が銀色のわっかに覆われ、見えなくなった。
「はい、これで邪魔者もいなくなったし、さっそくサクくんをぺろぺろしないと……」
カンダが、こちらに向かって歩いてくる。
「……逃げないの?」
「いや、まぁ、よく考えたら、ここゲームだし、舐められるくらい別にいいかなぁ……って、所詮ここはゲームの世界。本物なんていないわけで」
カンダは、驚いたように、目を丸くする。
「へぇ……」
「それに、カンダさん美人だし、むしろ嬉しいような……」
「あら、それは……くは?」
くねくねと、うれしそうに動かしていたカンダの体がぐらりと揺れる。
その胴体に握り拳大の風穴が開いていた。
「なんで……アンタが……」
驚いたような目をしながら、カンダは振り返る。
その視線の先にはマキ。
どうやら、僕の囮作戦は、成功したようだ。
いつだったか、マキは言っていた。
”アレ”は私じゃない。
この言葉を、僕はゲームの仮想的なことを言っているのかと思ったが、実際は少し違った。
マキは、僕たちが見ている、このゲームの存在さえも、本物ではないのだ。
今まで、戦っていたのは、マキの分身。
ムツキ……だっけか。
『忍って、忍者でしょ? それが、堂々と、本体を見せるのって、なんか違うじゃん』とは、マキの台詞。
だから、マキは常に自身を隠している。
分身が作り出す影の中。
それがマキの居場所なんだとか。
『まぁ、サク兄とデート中は、本物だけどね』
とか言っていたから、さっきまでカンダと戦っていたのは、マキの本物だが、カンダの攻撃が当たる瞬間に入れ替わっていたのだ。
忍者って万能。
ジャパニーズニンジャ、イェーイ。
「く……そ……」
悔しそうにつぶやきながら、カンダの体が、崩れ落ちる。
胴体に、穴が空いているのだ。
完全に、マキの勝ちだろう。
僕は、マキに手振る。
「おーい、やったなぁー」
しかし、マキは、手を振り返さず、ただこちらを睨んでいる。
口元が動いているので、何か、ブツブツ言っているようだ。
「……美人って……このヘンタイが美人って……私も言われたことないのに、美人って……」
…………聞こえなかったことにしよう。
とりあえず、マキの元へ向かおうとしたとき、僕は見た。
「!? マキ! 後ろ!」
僕の声に反応して、マキが振り返る。
そこには、カンダが立っている。
鬼の形相で、カンダはマキを睨んでいた。
「このクソガキィ!」
完全に、油断していた。
マキも反応が遅れている。
カンダの輪っかが、マキの首に迫り……
その動きが止まった。
「…………え?」
何が起きた?
まるで、時間が止まったかのように、カンダはピクリとも動かない。
よく見ると、カンダは透明な何かで覆われている。
氷? か?
「……ありがとう。助かったわ」
マキが見ている方向を、僕も見る。
そこには、蒼く輝く髪の少女がいた。
パチンと、少女は指を鳴らす。
すると、カンダの体は、バラバラと崩れ落ちていった。
「…………」
少女は、マキに近づいていく。
「油断しちゃだめ……HPが0になっても、動く事が出来るアイテムはあるんだから……」
「そうだね、気を付ける」
マキと少女は、親しげに、話をしている。
その光景に、僕はどこか既視感を覚えた。
「ッ……ツクシュ。レイカさん。任せていたお仕事は終わりましたッシュン!」
ヤクシが、蒼い髪の少女に話しかける。
レイカ……マキの仲間か。
確か、星空12でマキの同じくらい人気の女の子だ。
その人気の女の子が、ヤクシに、丸めた紙を投げつけた。
「…………泣いていいですか?」
ヤクシが僕を見ていた。
まぁ、いきなり紙を投げつけられたら、辛いわな。
泣いていいかは、知らんけど。
ヤクシは、袖で涙を拭きながら、レイカが投げつけた紙を広げて、内容を確認する。
「……うん。テナガザル騎士団が独占で稼いだアイテムを全部回収出来たようでッシュン。とりあえず、コレは僕たちで管理しようッシュン」
ヤクシが、レイカが投げつけた紙を懐に入れる。そのとき、広場に笛の音が響いた。
「タイホニャ、タイホニャーーーーーー!!」
そんな声が聞こえて、その方向を向くと、広場の入り口に二足歩行のデブ猫が、警察官のコスプレをして立っていた。




