第77☆
お待たせしました。6日目開始!
僕は頭を悩ませていた。
なんでこんな事になっているんだろう。
何が起きているのか。
だいたい分かる。
しかし、その過程がいまいち理解できない。
うん。
まずは状況を整理してみよう。
今の時間は朝の九時。
マキとの朝食を終えた僕は、ニボシにログインした。
場所は、始まりの町のプレイヤーストーンの前。
大きな岩の柱が三本並んでいる広場だ。
その広場の外側は、今黒い人影で埋まっている。
そして、その黒い人影の中心には、三人の男女がいた。
「あ、ここだよーサク兄ぃ!」
一人はマキ。僕の隣に住んでいる女の子。僕の姿を見つけるとうれしそうに手を振っている。
「初めまして……くっしゅ!」
そう良いながら礼儀正しく頭を下げる少年。髪の色は緑で、メガネをかけている。
真面目そうな少年だ。マキと同じくらいの年だろうか。
くしゃみをしてしまったのを恥ずかしそうにしている。
そんな、小学生のカップルを見て、僕は微笑ましい気持ちになる。
「こ、殺せぇえええええ!!」
……そう、その小学生カップルの間に、成人男性が叫び声を上げながら土下座さえしていなければ、だ。
その男性は、金髪の髪をぐしゃぐしゃにして、頭を振っている。
しかし、手の部分をよく見ると、クナイで地面に縫いつけられていた。
これで、身動きがとれないのだろう。
「それじゃあ、まだメンバーがそろってないけど、とりあえずコイツを紹介するね。コイツの名前はヤクシ。私たち星空12の中で、主にアイテム製造や、資金管理なんかをしているの。通称マッドメガネ」
とマキはメガネの少年を指さす。
「あははは。実際、リーダーのミカさんやサブリーシュンッ!……済みません。サブリーダーのレイカさんが働かないんで、僕が皆のまとめ役なんですションッ! よろしく。サクさん。お話は聞いていまッシュン!」
手を差し出すヤクシ。
とりあえず握手する。
「えーっと、コイツ、スゴい鼻炎持ちで、それで、会話途中でよくクシャミするけど気にしないでね」
「あははは。すみませんッシュン!」
うん。自己紹介。大切なことだ。しかし、だ。
「えーっと、サクです。ミカのリアルでの知り合いです。よろしく。んで、この、正座している人物の説明を聞いてもよろしいですかね?」
僕は土下座している金髪を指さす。
この金髪、僕たちが挨拶している間中、ずっとにらみながら「殺す……殺す……うがぁあああああ」と呻き続けていたのだ。
怖いなんてもんじゃない。
「あー……このクズの事? コイツ、なんだっけ、テンプラ騎士団……だったけ?そこの団長さん」
そんな事を、あっさりと言うマキ。
「ミカさん。テンプラじゃなくて、テンプレですよ。テンプレ騎士団」
ヤクシが、マキの間違いを正す。
「ぢがう……テンプルだ……間違えるなクソガキども……」
息も絶え絶えといった感じの様子で、呻く金髪。
「それで、このティンクル騎士団の団長が、なんでこんな場所で、土下座しているんだ?」
「ぢが……ぅうううううう」と金髪が呻き続けているが、とりあえず無視する。
「え? 昨日言っていたじゃん。このティンカーベル騎士団に無実の罪で追いかけ回されたあげく高所から落とされたって。だから、その制裁だよ」
ニコリと笑いながらこともなげに言うマキ。
「いや、確かに言ったけどさ……ていうか、どうやってこんな状態にしたんだ? 飯食って別れてからまだ一時間も経っていないだろ?」
僕たちを囲んでいる黒忍びたちから、「ミカたんとご飯……だと!?」と言った声が聞こえてくるが、聞こえないフリをする。
「んふー、サク兄ぃは私を舐めすぎだよ。そんなの、コイツ等のギルドに行って適当に暴れたあと、ノコノコと出てきた団長様を丁寧にボコボコにして拉致したに決まっているじゃないですか」
……あ、そう。
よく分からないが、それは一時間で出来ることなのだろうか。
昨日追いかけ回された感じだと、コイツ等相当人数いそうな感じだったけど。
「まぁ、それでいいとして、じゃあ、なんでこの団長様はこんなに苦しそうなんだ?」
息も絶え絶えといった感じで、団長さんは呪いの言葉をつぶやいている。
「それは、僕のックシュ! マスター「病的な化粧」ですね」
とヤクシ。謎の液体が入った瓶をフリフリしている。
「このマッドメガネのマスターはね。相手に液体を振りかけることで、毒とか麻痺とかの状態異常を利用して、現実での病気みたいな苦しさを相手に与える事ができるの」
とマキ。
なにそれ、怖い。
「今、このトップレス騎士団の団長さんの症状は、例えると、四〇度のインフルエンザにかかりックシュ! ながら、重度の偏頭痛と盲腸が同時に襲っている……みたいな感じッシュン!」
なにそれ、怖い。超怖い。
想像するだけで辛そうなんだけど。
っていうか、痛みとかは、制限されているんじゃなかったのか?
「このマッドメガネのマスターの良いところは、状態異常にかかった時の、ちょっとした体の不調を利用しているから、相手の感覚の制限に関係なく苦しめられる事なんだよね」
……ああ、そうですか。
状態異常になった事がないんで、その体調不良がどんなモノかわからないけどな。
「まぁ、分かった。けど、そろそろコイツ許してあげたらどうなんだ? なんか、見てて辛いんだけど。マ……ミカが僕の事を怒ってしてくれているってのはうれしいけどさ」
いくら怖い目に合わされたといっても、さすがに、苦しみに喘ぐ人のうめき声をずっと聞いてはいられない。
心が辛い。
「ダメだよ。私のサク兄ィに手を出したんだから、この程度で許しちゃ。それに、コイツ私たちに殺すっていうだけで、サク兄ぃに謝罪の言葉一つ言ってないんだよ? サク兄ぃが許しても、私が許せないんだよ!」
「それに、テンペスト騎士団については、ッション! ほかのプレイヤーからも苦情が来ていてですね。私たちが雇ったマッパーの人も妨害に合いましたし、色々制裁は必要ッショ!」
と小学生ズ。マキは苦しんでいる金髪を冷めた目で見下ろし、ヤクシはニヤリと笑っている。
なにこの子たち。怖い!
星空12……恐ろしい子!
そういえばヤクシは小学生なのだろうか。分からないが、どちらにしろ僕よりも年下なのは確実だろう。
そんな子供が制裁とか……大丈夫だろうか日本の未来。
大丈夫じゃないよな。
「うーん……けど制裁なら、こんなリンチみたいな事しなくても、警察がいるんだろ? そいつらに任せた方がいいんじゃないか?」
そんな僕のアドバイスを、マキを首を振って否定する。
「ダメだね。一応、ニボシにはゲーム内のトラブルを解決する目的で、警察の役目のNPCがいるけどさ、嫌なところまでリアルなんだよ。仕事をサボったり、同じ事しても、逮捕される人とされない人がいたり。それに賄賂とかまで受け取ったりするからね。このテッチャン騎士団は、採取場所の独占をフルーツリーの森以外でも行っていてさ、金だけは持ってるんだよ。だから、警察に渡しても、無罪か、煮干しを渡す罰金で済んじゃうと思うよ」
うーむ。そういえば、昨日そんな話を聞いた気もするな。
ルーズなんて、嫌なら戦えって言っていたし。
というか、そのルーズの言葉に従うなら、今のマキたちがしていることは、ニボシ内では正当な行為なのかな?
ゲームは所詮ゲーム。幻の世界……揉めたら戦う事が倫理、か。
「けど、確か過剰なPKなんかは、アウトって聞いた気がするけど、大丈夫なのか?」
「女子小学生だから大丈夫!」
「……あ、そう」
うーん。なんてザルなシステム。
まぁ、現実の警察もこんな感じか?
お偉いさんの息子だからって、好きな少女の自宅近くに派出所作ってそこに勤務する奴がいるくらいだし。
ソースはマキを狙っているストーカー警官だ。
国家権力怖い。
と、色々なモノに僕が恐怖していると、突然周りを囲んでいた黒忍たちが騒ぎ出した。
「うお!? なんだお前等! うぐあああああ」
「くっ!? 解けろ! 我が右腕に宿りし封い……ぎゃー……!」
「風が騒いでる……まさか! あの伝説の……どふぅ!?」
「ミカ様ー! ここは我々に任せてお逃げ……いやぁああああ!!」
爆発や雷や、水流や強風など、なんか色々なモノが黒忍たちを襲っていく。
黒忍たちの断末魔が終わった後、そこには黒忍の代わりに、6人の人影がいた。
「まさか団長を拉致するとはのう……噂に違わず、中々の強者のようじゃな」
と巨大なハンマーを持った男性。
「しかし、たった二人で我々に喧嘩を売るなんて、我らテン……、テン……騎士団を舐めているのかしら」
弓矢を持った、女性。
「名前くらい覚えておけよ。テンプン騎士団だ」
二本の長い剣を持った、背の高い男性。
「違う! テンプル騎士団じゃ! まったく……」
と、またハンマーを持った男性。
「まぁまぁ、トールさん落ち着いて。名前なんてどうでもいいじゃないですか」
そう言いながら、ハンマーの男性をなだめる、杖を持った女性。
「そうだ、問題は、目の前に小学生がいるという事だ……ふぅ」
盾を持った男性が、ブルリと震える。
「……ロリコン。だが、それでいい」
無手の少女が、つぶやく。
「よくないわ!」
聞き覚えある声と、聞き覚えのない声が聞こえる。
よく目をこらして、僕は、その中でも一番年齢を感じる男性をみる。
「……トール!」
昨日、僕を雷で追いつめた男性、トールがいた。
変態女……カンダはいないようだ。
少しだけ安心する。
「ほう……小僧もいるのか。くっくっく、なるほどのう、星空12の関係者だったか。昨日はスマンかったのう。お詫びに……」
トールの背後に、巨大な太鼓が現れる。
「戦うか?」
ビリッ!と空気が震えた気がした。
心拍数が上がっていく。
なんで、ニボシには戦いたがる奴が多いんだろう。
お詫びが戦いとか訳分からないんだが。
……ゲームだからか。
僕は、翁を取り出す。
「やるでおじゃるよ……! マロの新しい能力を見せてやるでおじゃる」
やる気満々の翁。
コイツもか。しょうがない。
「互角らしいし、やって……え?」
僕は、恐怖をなんとか飲み込んでトールと戦う決意を固めたのだが、そのトールが消えていた。
上半身のみ、弾け飛んでいる。
残ったトールの下半身の場所には、桜色の髪の少女がいた。
というか、マキがいた。
「やっぱ謝ってもゆるせないや」
クナイをクルクル回すマキを見ながら、僕は呆然としていた。
「マロの……新しい……能力……」
翁が、力の抜けた声でつぶやきながら、くにゃんと体を曲げた。
以前の話を読み返すと、テンプル騎士団って、「聖典騎士団」ってなってましたね。
……作者にも間違われるテンプル騎士団。
あ、あと、公募用に書いていた作品が、どうも20万文字を余裕で超えそうなんで、こっちにアップしたいと思います。
モテル力の使い方 http://ncode.syosetu.com/n7412bp/ という作品です。
もしかしたら5月中に消えるかもしれません。
GWの暇つぶしにどうぞ




