表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月9日(金) 選択☆迷いのキノコ☆孤独竜
76/85

第74☆

 「グニャ!? ちょっと待つニャ? べにゃ!? ごめ! ウソニャ! ウソだからニャ!? ゆる……ギニャーーーーー……」


 クソ猫の悲鳴が森に響く。

 今までの様々なうっぷんを解消できた僕は、爽やかな笑顔のまま額の汗を拭った。


 「ふう、あとは生皮を剥ぐだけだな」


 購入したばかりの刃殺【蒼鹿ノ角】を手にする僕。


 「ふにゃーーー!?」


 とルーズは土下座の姿勢のまま全力で僕から距離を取った。


 「ゴメンなさいニャ! デスゲームというのはウソニャ! 許してニャーーー!!」


 必死に謝罪するルーズ。

 まぁ、このくらいで許してやるかと、刃殺【蒼鹿ノ角】をしまう。


 「じゃあ、今から色々質問するから、正直に答えろよ」


 ルーズは首を上下に動かして従う意思を見せる。


 「まず、なんでログアウト出来ない?」


 ルーズは、キリッとした真剣なまなざしで答えた。


 「……それは、開発者の1人、鐘小崎かねこさき ゆう様が、システムを乗っ取り、このゲームをデスゲームに……」


 「ゴキブリって、猫食べるかなー?」


 クソ猫のしっぽを持って、引きずりながら、黒と破壊の川に向かう僕。


 「ぎゃニャー!? ウソニャ! ウソですニャ! おちゃめなキャットジョークですニャー!? 本当は、ココがロストルームの森という、ログアウト不能の迷いの森だからですニャー!? だから地図も開けないし、ネットも通話もつなげる事が出来ないニャー!?」


 やっと正直に答えたようだ。

 システム画面を確認すると、確かに地図は見れないし、カードを使う事も出来ない。

 ユウ先輩が、ゲームの乗っ取りなんて、するはずが無いのだ。


 主に、メンドクサイという理由で。


 しかしログアウト不能の迷いの森、か。

 メンドクサイものを作るのは好きだからな、あの人。

 ソレで人が苦心するのを見てほくそ笑むタイプだ。


 「ロストルームの森……ね。で、どうやったらココから出られる?」


 しっぽを持ちあげて、ルーズを宙吊りにする。


 「ニャー……それはさすがに言えないニャー。攻略情報になってしまうのニャ」


 苦笑いをするルーズ。


 「そうか。そう言えば、ネコって虫を捕まえることがあるよな。良かったな、お腹いっぱい食べられるぞ」


 満面の笑みでブラック・リバーへ歩みを進める僕。


 「ヒントニャ! ヒント! このゴキブリ達はドコから来たニャ!?」


 泣きわめきながら、答えるルーズ。

 なるほどね。アイツらは、火星……違う。

 マリンの森から来たんだから、この川を遡っていけば、この森から抜ける事が出来るのか。


 「よし。じゃあ次の質問だ。なんで僕の所に来た?」


 再度ルーズを持ちあげる僕。

 

 ルーズは涙目になっていた。

 そんなに嫌か。

 ゴキブリ。黒き油王。

 僕も嫌だ。


 「にゃあ、ソレは、今日、広場で変質者が現れたと通報があったからですニャ」


 「変質者? ソレが僕となんの関係があるんだ?」


 なぜ僕の所に来たのかを聞いたのだ。変質者なんて、僕には関係ないだろ。


 「その変質者は、初期の防具に、黒い外套を纏っていて『美少女……痛み』とつぶやいていたそうですニャ」


 止まる僕。

 うん? 自分の服装を見る。

 初期の防具に、黒い外套。

 えーと。


 「ソレに、その変質者の武器が皮のムチだったそうですニャ。ムチを持ちながら、『美少女……痛み』とつぶやく変質者。私は、監視人も務めていますので、度が過ぎた変質者の動向はチェックしないといけないのですが、サク様はご存じではないですかニャ?」


 ルーズが二コリを微笑む。


 「い、いや、知らないなぁ。そんな変態、この世にいるのか。見つけたら懲らしめないとな。ハッハッハ」


 僕は笑いながら目をそらす。

 なんとなく、そう、なんとなく、ルーズをそっと、優しく地面に降ろしてあげる。


 「……そうですニャー。もし、その変態が本当にムチの特性を活かしてゲーム内の未成年の女の子に危害を加えるつもりニャら、監視人の役目として、警察を出動させて、逮捕して貰い、掲示板に晒さないといけないのニャ。けど、サク様が知らないならそれで良いですニャ」


 掴まれていたしっぽに息を吹きかけるルーズ。

 痛かったらしい。


 「そ、そうだ。知らない。そんな痛い奴はしならいぞ」


 ちょっと噛みつつ、ササッと指を動かして、皮のムチをアイテムボックスに戻す僕。

 大丈夫。僕は痛いヤツでは無いはずだ。


 「だ、大体だな、そんないるかどうかも分からない変質者よりも、重大な事があるだろ。さっき監視者って言ったよな? 警察に通報するって。テンプル騎士団って奴らが、フルーツリーの森を占拠しているのは、どうすんだよ! あっちの方が問題だろ!」


 始めは気まずさから話題を変えるために言ったのだったが、話すうちに感情が本気になっていった。


 そうだ。テンプル騎士団はあのままじゃいけないだろ。

 変質者よりも何百倍も大変だ。うん。


 「うーん。そうですかニャ? 変質者の方がよっぽど問題だと思うんですけどニャ」


 「なんでだよ!?」


 おもわずツッコむ僕。

 僕の身の安全に関する事だ。ツッコんで当り前だろう。


 ……いや、変質者とかじゃなくて、テンプル騎士団に危害を加えられた人としての意見である。


 「だって、テンプル騎士団の人達が行っているのは、契約書に基づく権利の行使ですニャ。12億も懸っているゲームで、プレイヤーの人達の間で取り決められた約束事に、ニャー達NPCは強く介入出来ないですニャ」


 と肩をすくめるルーズ。


 「けど、さっき僕は契約もしていないのに、追いかけまわされたぞ? 最終的に首だけにされて、高度数千メートルから落とされたんだぞ? ソレは問題だろ!?」


 しかしルーズは肩をすくめたまま、首を横に振った。


 「ソレも大した事じゃないですニャー」


 「なんでだよ!?」


 「だって、まずサク様は死んでいませんし、HPにダメージが入っていませんニャ」


 「うぐ!?」


 まぁ、確かに。

 トールの攻撃は避けていたし、カンダの【瞬間の円盤(ワープ・フープ・アルティメット)】はダメージ判定が無いと言っていた。

 パッと見、僕は危害を加えられていないのだ。


 「た、ただ僕は恐い目にあったぞ! 精神的に大きく傷つけられた! これは問題だろう!」


 しかし、ルーズは大きくため息を着いた。


 「ソレも私たちが関与するほど大きな問題じゃないですニャ。ほとんど同じ強さの人同士の争いに口を出してもしょうがないですニャー」


 「はぁ!?」


 何言ってんだ?


 カンダやトールと僕が同じ強さ?

 あんなに一方的にやられたのにか?

 そもそもなんで同じくらいの強さなら問題ないんだ?


 「そうですニャー。サク様は、私がつけた12☆Worldの戦闘力ランキング。通称ルーズ・ランキングで700位前後に入る、実力者ですニャー」


 「そこまで高くない!? そしてそのネーミングはヤバいんじゃないのか!?」


 大丈夫か? なんか、ゴキブリが近くにいるし……大丈夫……だよな?


 「ニャー……サク様が何を問題視しているか分かりかねますが。ちなみに【音を裂く雷神】トール様は……」


 「大丈夫かー!?」


 アカン。なんかアカン気がする。


 「……とにかく、トール様も、カンダ様も、実力的にサク様と大差は無いですニャ」


 とルーズ。

 僕は色々納得出来ないのでルーズに詰め寄る。


 「けど、さっきも言ったけど、僕はその2人と戦ってボロ負けしたぞ。同じ強さなわけないだろ」


 「戦った? 誰がですニャ?」


 ルーズは首を傾けて、呆れたように僕を見る。


 「あれは、戦ったのでは無くて、ビビって逃げていただけですニャ。超感覚UPで、本能的な危機感が増大されていたとはいえ、正面から、堂々と戦えば、十分に勝機があったはずですニャ。その証拠に、トール様の攻撃を、サク様は避ける事が出来ていたですニャ?」

 トールとの戦いを思い返す僕。

 いや、確かに避けれてはいたけどさ。


 「今回の件に関しては、サク様が真っ当にトール様達と戦っていれば、ココまでの出来ごとでは無かったと判断しますニャ。相手も、一対一で戦っていましたしニャ。勘違いしているかもしれませんが、12☆Worldは別にプレイヤー同士のPKを禁止しているわけではないですニャ。強者が弱者を一方的に、執拗にPKしたり、明らかに虐げる目的での過剰なPKや攻撃は介入しますが、実力が伯仲している者同士の揉め事でのPKなんて、罰金程度で解決する些細な問題ですニャ」


 とルーズ。


 「けど、僕に戦う意思なんてなかったぞ。ソレをムリヤリ……」


 「向こうにはあったですニャ。理由も、あったですニャ。仲間をやられたという、真っ当な理由が。それとも、フレイ様の件についてまで考えますかニャ? フレイ様からしたら、サク様は契約違反者以外の何物でもないですニャー。乗りモノ無しで、フルーツリーの森に行く事なんて、今の段階では難しいからですニャ」


 ルーズが僕の目を見る。



 「片方から見て正当性があって、もう片方から見たら間違っている、誤解なんてのはありふれた話ですニャ。その誤解を解決する方法が、殺し合い、なんてのも、当たり前のように起こっている話ですニャ。ソレを、戦う意思が無いなんてワガママで、許されると思っているのですかニャ?」


 あまりに、真剣な、急所を刺すようなルーズの視線に、僕は思わず目を背けてしまう。

 ……なんだよ。


 「だいたい、何をそんなにビビっているんですニャ?」


 「へ?」


 「サク様。ココはゲームですニャ。どんなにリアルに近くても、痛みが生じても、不快な思いになっても、ソレは所詮、夢、幻の話ですニャ。コレは、与える方、与えられた方どちらにも言える事ですニャ」


 ルーズの語気が強く成っている気がした。


 「だから、あの時サク様は、運営に報告や、ログアウトなんてせずに、トール様達を殺して問題解決しても、別に良かったですニャ」


 「いや、それは……どうなんだ? さすがに、倫理的に」


 暴力で物事を解決するって。



 「倫理というなら、揉めたら戦う事がココにおける倫理ですニャ。相手を殺す事が、倫理ですニャ。ゲームにおいて、この世界において、……私たちにとって、死ぬという事は、暖かいお日様の当たる場所でお昼寝するくらい、当たり前で、ありふれた事ですニャ。命を失うという事は、それくらい日常で、命とは、それほど価値のないモノですニャ」


 ルーズの語尾が、少しだけ震えている気がした。


 「……ルーズ?」


 「……ムービング・コックローチの進行方向と逆に進めば、確かにこの森から出られますニャ。しかし、彼らの進む方向に行けば……少しは私の言葉の意味も分かると思いますニャ」


 それでは失礼しますニャと言いながら、ルーズは消えた。


 「戦う……死……命の価値、ね」


 テンプル騎士団の件については、まだ言いたい事もあったが、まぁ、確かに、何か実害があった訳でもない。

 恐い思いや、気持ち悪い目にあったが、何が何でも許せないと思うほど強い憎悪でも無いのは確かだ。

 報告も、他の人が困っているんじゃないかなーって感じだったしな。


 それよりも、ルーズの言葉が気になる。

 言葉というより、話したときのルーズの表情か。

 悲しさと悔しさに、諦めを振りかけたような、そんな表情だった。


 「……行ってみるか」


 僕は、黒き神達の進む方向へ向かう事にした。


 ロストルームの森。

 迷いのキノコの森の、最深部に向かって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ