第72☆
一応注意。です。
この話には、今までで一番の変態が出ます。
読まれる方はお気をつけて読まれて下さい。
次話に今回の話のあらすじをつける予定です。
……どうしてこうなった。
「におい……は、旧かなで にほひ と書かれていて元々は色を示す言葉だった。いろはにほへと……色はにおへど……ってね。そういえば、色って、性的な事も色っていうじゃない。色気とか。昔、におい、嗅覚の実験で、見知らぬ男女50人に、汗が付いたTシャツの匂いを嗅がせたところ、良い匂いと答えた男女のペアは、遺伝的に病気になりにくい子供を生み出せる確率が高い事が分かったそうよ。この事から、におい、嗅覚は、人間の性的な部分に大きな役割を担っていると言われているの。昔の人は知っていたのかもね。においは最も性的な部分だって……つまり、何が言いたいかと言うと、私は男子高校生をクンクンペロペロしたいということなのよ」
ぺロリと持っている腕を舐めるカンダ。
「ひぃ!?」
とたん、僕は存在しない右腕に不快な感覚が走るのを感じた。
まさか、あの腕……
僕はカンダが持っている人間の腕と、下半身を見た。
間違いない。あの発展途上の大いなる可能性を秘めた、麒麟児のごときふくらはぎは、間違いなく僕のだ。
……って、ソレはけっこうどうでもいい事だ。
それよりも、なにあの人!?
見た目クールビューティーなお姉さまって感じで、出来ればお近づきになりたいって思っていたのに、まさか大変な変態なのか?
美人のお姉さまのあまりの行動に、思考が混乱しかける僕。
そんな僕の様子を知ってか知らずか、一心不乱に、僕の腕を舐めるカンダ。
カンダが持っている腕と下半身の切断面は、いかにも異界ですよといった図画工作が終わったあとのバケツみたいな色合いになっていた。
「ふむ……この味。やっぱりスポーツをしてるわね……運動量はかなりのモノだけど、誰かと戦うというよりも、むしろ自分と戦うような……陸上かな? しかも、短距離ではなく、中距離……専門は800メートルかしら? ペロペロ」
そう言いながら、僕の切り離した右腕の指を一本一本舐めていくカンダ。
「ひぃいいい!?」
ヤバい! この人恐い! いろんな意味で恐い!
「あら、可愛い悲鳴。やっぱり、男は10代よねー……ああ、美味しペロペロ」
指を舐められるという不快な感覚から逃れるため、切り離された右腕を動かすようにして頑張ってみるが、カンダが持っている僕の腕はピクリともしない。
ログアウトして逃れようとしても、目線操作は、舐められる不快感で集中出来なくて上手くいかない。
いちかばちか、左手で操作するか。
しかし、簡単に妨害される気もする。
どうにかしないと、と考えていると、僕の右腕をひとしきり舐めたのか、今度は僕の下半身に注目するカンダ。
「うん、綺麗な足……鍛えられた大腿筋に、引き締まったお尻……鼻に感じる汗の尿素が、極上の旨味を想像させる……いただきまー」
「やめんかド変態!」
本格的に身の危険を感じた僕は、無理やり上半身だけの体を起こして、左手で翁をカンダに向けて伸ばす。
が、カンダは慌てる様子も無く、ただ伸びてくる翁に向けて、左手に持っている金属の輪っかを向けた。
輪っかの中を通る翁。
すると、翁の穂先がカンダの後ろに現れた。
どれだけ伸ばしても、翁はカンダを素通りしていく。
この能力、もしかして……
「ちっ! だったら!」
今度は皮のムチを、横に振り抜く。
カンダの右手は僕の体を持っているから塞がっている。
輪っかでの防御は出来ないはずだ。
しかし、僕の振るったムチは空を切った。
「え?」
カンダの姿が消えている。
「超スピード、じゃないわよ」
後ろから、カンダの声。
「くっ!」
慌てて振りかえるも
「残念」
カンダの輪っかが僕の首を通った。
瞬間。
僕の目の前にはカンダの顔があった。
目は鋭いが、顔の造形は整っていて、やはり美人ではある。
「さて、その感じだと、私の能力がどんなのか、察しが付いているみたいね」
下を見てみると、僕の体は無かった。
切り離されているようだ。
首だけの僕。しかし死んでいない。
「瞬間移動の能力……か?」
声が出た。
胴体と切り離されているから、声は出せないかと思ったが、さすがにそこまでリアルではないようである。
おそらく、マスターの能力だから、だろう。
開発も胴体と頭を分断されて無事な状態なんて計算にいれていなかったのだろう。
「正解! まぁ、名前にワープって入っている時点で察しは付くでしょうけどね。私のマスター【瞬間の円盤】は、そのまんま、輪っかの上下にある物体を瞬間移動させる能力でね。攻撃力は無いし、移動も半径50メートルくらいじゃないと上手くいかないんだけど、応用すれば、こうやって、敵の体をバラバラにして戦闘不能にすることができるの」
そう言いながらカンダの顔が、ドンドン近づいてくる。
「少年のムチも、私が腰につけていた【瞬間の円盤】で避けたんだけど……ねえ、なんで、私がこんな能力にしたか分かる? 攻撃じゃなくて、ただ切り離す能力にした理由……」
鼻と鼻が触れそうになる。
カンダの目が僕の視界一杯に広がる。
僕はこの目を知っている……この目は
「それは、君みたいなスポーツ男子をクンクンペロペロするためよ!」
狩りをする豹のように、僕に食らいつこうとするカンダ。
いやだ! お婿に行けなくなる!
しかし、僕に抵抗する術は無い。
僕はただ、目を閉じる事しか出来なかった。
……
…………
変態に唇を奪われるという恐怖の時間は、いつまでたっても来なかった。
不思議に思って目を開けてみると、目の前には金色に輝く本があった。
なんだ?これ?
「……【断罪までの棺桶リスト(メギド・リスト)】! それにこのにおい!」
カンダが振りむいた先には、トールが立っていた。
「かなり離れていたんじゃな……まさか【ライニング】まで使うとはのう……そこまでじゃカンダ。それ以上は、さすがにGMの警告になる」
近づいてくるトール。
「はぁ!? なんでですか? 始まりはこの子の契約違反からでしょ? じゃあ問題ないじゃないですか。何しても良いでしょ! っていうかトールさん臭い! マスク! アロマ!」
そう言いながら、カンダさんは僕の髪に頭をうずめる。
フンス! フンス!と頭皮ごしに鼻息が当たる。
恐い! キモい!
「やめんかバカモノ!」
目にも止まらぬ……は言い過ぎだけども、かなりの速さで近づいたトールは、カンダの頭をはたくと同時に、僕の首を奪取する。
「痛っい! なにすんですか! 口臭オヤジ! その子の頭を返して下さい! そして息を止めるために死んでください! 神聖なスポーツ男子高校生の空気が汚染されているのが分かるでしょう?」
頭と鼻を押さえながらトールに抗議するカンダ。
「やれやれ……あまりの変態さに、腐女子ギルド【フカイモリ】から追い出されたという話はホントの様じゃのう」
呆れたように片手で顎をいじるトール。
「ふん! あんな見ているだけのストーカー集団、こっちから願い下げですよ! だいたい、スポーツ美少年が目の前にいるのに、拉致してクンクンペロペロしない馬鹿がドコにいるんですか? 何でも出来るマスターは、スポーツ少年を味わうためだけに存在しているというのに……」
ブツブツととんでもない事を言い出すカンダ。
変態だ。ぶっちぎりの変態である。
トールも苦笑いだ。
「お主、一回警察か病院に行った方が良いのう……とりあえず、この小僧に危害を加えるのはダメじゃ」
「危害じゃない! クンクンペロペロです! そしてトールさんの口臭は公害……口害です!」
言いたい放題のカンダさん。
トールさんはここまで言われてムカつかないのかな?と見てみると、ひきつった頬が震えていた。
やっぱりムカつくよな。
「クンクンペロペロも危害じゃ。と言うか、普通に犯罪じゃろ」
一度息を吐いて、落ち着くトールさん。大人だ。
「でも、私美人ですよ? 美人大学生のお姉さんにペロペロされるのって、全男子高校生の夢……よね?」
バチンと僕にウインクをするカンダ……変態。
いや、普通に気持ち悪いです。
夢は夢でも、悪夢です。という気持ちを伝えようと首を横に振ろうと思ったが上手く出来なかった。
首だけって嫌だ。
「美人でも夢でも犯罪じゃ……とにかく、さっき確認したところ、この小僧の契約書が無い事が分かった。先ほどの速力から見えても、街から50キロメートル離れたフルーツリーの森に自力で来た事は事実の様じゃ……じゃから、今この小僧に直接危害を加えれば、ギルドに重大な損害が生じる可能性がある。」
「知りませんよそんな事。私がなぜ【テンプル騎士団】に入ったか知っていますよね? 大手のギルドなら、団員のスポーツ男子学生をペロペロ出来ると思ったからですよ。けど、蓋を開けてみたら、ギルドにいるのはトールさんみたいな消費期限が切れているおじさんか、スポーツとは縁が無い、真面目だけが取り柄です!みたいな勘違いゲーマーだけじゃないですか。団長だけですよ。イケメンスポーツマン。しかも中々近づけないし……」
『ふふ……そのような事を言っては失礼ですよ。カンダさん』
今まで、ただ浮いていた金色の本から声が聞こえてきた。
落ちついた、しかし威厳のある声は、ある種のカリスマ性さえ感じさせる。
「……団長。団長からも言って下さいよ! トールさんの息が臭いって! そして男子高校生をペロペロしなさいって!」
金色の本に話しかける変態。
団長?
『私は別に臭いとは思いませんが……しかし、カンダさん。そこの少年に直接危害を加えてはいけないと指示をしたのは私です。ただでさえ、グレーゾーンな方法で採取ポイントの独占をしているのです。これ以上、下手な事で警察に目を付けられたくない』
「じゃあ、このまませっかくのスポーツ男子高校生を返すんですか?」
……良い流れのようだ。
このまま僕を逃がす方向に話してくれれば、ログアウト出来る。
と期待する僕。
しかし、
『……いや、自爆とはいえ、隊長のフレイさんがやられていますからね……このまま返すのは、他の団員に示しが付きません。そこでカンダさん。あなたのマスターで、危害を加えずにPKしてくれませんか?』
雲行きが怪しくなった。
危害を加えずにPK? どうする気だ?
「えー……危害を加えずに、ペロペロじゃダメなんですか?」
変態が抗議する。ペロペロがすでに危害のため、ソレは不可能だ。
『ダメです。ほら、早くしないと、【断罪までの棺桶リスト(メギド・リスト)】を発動しますよ?』
金色の本の輝きが増す。
しかし、変態は微動だにしない。
「いいですよ。スポーツ男子高校生をむやみに殺すくらいなら、死んだ方がマシです」
変態に舐められるくらいなら、死んだ方がマシだなと思う僕。
『……分かりました。今度、後輩のスポーツ科の学生を紹介しますよ。フットサルが趣味の奴です』
「了解! 団長の意向とあらば、このカンダ、いかなる命令も遂行いたします!」
ビシッと敬礼をする変態。
あっさり掌返しやがった!
「ゴメンね? そういうわけだから、とりあえず殺すね? 今度会ったら、丁寧にペロペロしてあげるから」
僕の体のパーツを一か所に集める変態。
「な、何をするつもりだ?」
PKされる。しかも危害を加えずに。気になるどころじゃない。
変態はニッコリと笑うと、幼い子を諭すように話した。
「【瞬間の円盤】で、高所にワープさせて、そのまま落とすの。50メートル以上の瞬間移動は、コントロールが効かないから、ドコに行くか分からないけど、大丈夫。多分即死だから」
全然大丈夫じゃない。なんとか止めないと行けない。
「そ、そんな事したら、普通にPKじゃないのか?」
当然の指摘をするも、首を振るトール。
「いや、カンダの【瞬間の円盤】は、設定上移動アイテム扱いじゃ。つまり、システムは、カンダがお主に攻撃を加えたのではなく、アイテムを使ってただ移動させたと判断する。じゃから、お主を【瞬間の円盤】で移動させて、落ちて死んでも、PKにはカウントされない」
なんだよソレ。
トールは、僕の体の上に、僕の首をそっと置く。
「じゃあね、少年」
変態が、カンダがフラフープくらいの大きさの輪っかを僕の上に置く。
「すまんのう」
ぼそりと聞こえたトールの声が、僕の耳に残った。
が、すぐに消えた。
いや、そんなモノを残しておく状況ではないのだ。
「ふざけるなよぉおおおおお!?」
高い!高い!高い!
高所に飛ばすと聞いたけど、ここまで高いのは聞いていない!
下を見ると、12☆Worldの世界全てが見える。
太極図のようにも見える、上下左右対称の東と西の島に、中央に発展した街。
陸地はここだけで、あとは全て海。
アップデート用に残しているのかもしれない。
広大に思えた島も、世界のほんの一部というわけか。
少し横を見ると、この世界が球体である事が確認できる。
青と黒。
空と宇宙の境目さえ、視認出来る
マジで高度何メートルだよ。
「ううううううううううううう」
腕を動かしてログアウトを心見るも、落下の強風で上手く動かせない。
目線操作出来るほど、視線を集中出来る状況でもない。
どうすることも出来ない。
僕はただ落ちていった。




