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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月8日(金) パン戦争☆土の牛☆マスター
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第68☆

 「思い込む?」


 「そう、思い込む。思いこんで、思いを込める。それが……」


 「マスターだよっ!」


 マキが飛びながらクナイを下から上へ切り上げる。


 「ゴアァ!?」


 右わきに、マキのクナイを受けてよろめく、岩の巨人。


 「が、頑張れ【ゲート・ゴーレムEX-Z12】! なんとしても勝ってミカたんを吾輩の前に連れてこい!」


 門の上で叫ぶ、太ったトラ。



 なぜこのような状況になったのか。


 【憤土の牛】を倒した後、僕達は再び第2の街、【トラノモン】へ向けて出発した。


 道中、マキが僕が飲ませてあげたジュースのあまりの美味しさに、驚いたり (『なん……だと!?』と言っていた。このセリフを本気で言っている奴を僕は初めて見た)


 役立たずだった黒忍者達が再び現れて、『主を守れなかった責任、切腹で果たす所存!』と言いながら、チラチラ僕達を見ながら切腹し始めたのをスルーしたりなど、色々あったが、結果として僕達は無事に第2の街【トラノモン】の門の前まで来たのだった。


 で、ささっと街に入ってログアウトして現実でご飯を食べようと思った時、街の中から沢山の兵隊を連れて、頭に王冠を乗せた太った2足歩行のトラが出て来た。


 「ゴロゴロゴロ……また来たのか、ミカたん。そんなに吾輩に会いたいのなら、素直に嫁になればいいモノを」


 と、ポヨポヨとした顎を触りながら、分かりやすいセリフを吐く太ったトラ。


 「……なぁ、アレってもしかして」


 分かりたくもない予想を、マキに確かめる僕。


 「……うん。アレが、【トラノモン】の支配者で、十二支の一匹、【黄木の寅】まぁ、見ての通り……」


 太ったトラ、【黄木の寅】が指を鳴らす。


 すると【黄木の寅】の真下の地面が盛り上がり、岩で出来た大きな人が現れた。5メートルはあるだろうか。


 「ゴロゴロゴロ……さぁ、ミカたん。吾輩も、同じ事を何度も言うつもりは無い。ミカたんが吾輩と結婚するつもりが無い事を知っている。だから、吾輩が勝てば、ミカたんは吾輩のモノ。ミカたんが勝てば街に入れる!」


 そんな事を言いながら門の上に降りた【黄木の寅】。

 マキはため息と共に、言葉を続ける。


 「……女子小学生に求婚しながら、自分では一切戦わない、最低のクズ野郎だよ」


 やれやれといった感じで肩をすくめるマキ。


 「……勝てるのか?」


 【憤土の牛】と戦った疲れもあるはずだ。

 ログアウトする予定だったし、心配な僕。


 ゲームの中とはいえ、あんなクズに妹的存在を取られるのは嫌だしな。


 「大丈夫、大丈夫。強さはマチマチだけど、あのゴーレムはよくて、アビス・ケルベロスと同じくらいの強さだしね。せっかくだし、サク兄ィに教えてあげるよ……」


 巨大な岩男が、拳を振るう。

 マキはソレをかわしながら、言った。



 「マスターをね!」



 で、冒頭になるわけだが……



 マキはゴーレムの拳をかわし、的確にクナイでゴーレムを切り裂いていく。

 豆腐……とまではいかないにしても、包丁でスイカを切っているくらいにスパスパと切っている。


 「今、ゴーレムを切っているのが、マスターって奴なのか?」

 僕はマキに聞く。


 ちなみに、僕は今、闘いのエリアを示す、白い境界線の中の、線ギリギリの位置で、ほわちゃんと一緒に立ってマキの戦いを見ている。


 「んー……まぁコレも一応そうだけど……サク兄ィは、剣スターの【スラッシュ】って技知ってる?」


 ゴーレムの攻撃を、簡単に避けるマキ。

 動きが遅いため、僕でもかわせそうだが、大きさが大きさのため、僕が戦うと身がすくんで上手く動けないだろうな、とは思う。

 思いながら、マキの問いに答える。


 「知らないけど、名前的に、初歩的な技っぽいな」


 「そうだね。まぁ、剣って名前が付く武器なら、何でも使える一番最初の技なんだけど、SPを30消費して、通常攻撃よりも強力なタテ斬りを行えるって効果なんだよ」


 振り下ろされたゴーレムの右拳を避け、腕をクナイで切り裂くマキ。


 「ソレを、今から、マスターを使わずに、使って見るね」


 そういうと、マキは目をさっさっさと動かす。


 おそらく、目線操作で、技を選択しているのだろう。


 「……上級者は、技を選択しなくても、使えるんじゃなかったのかー?」


 以前マキに聞いた事を思い出す僕。


 「使えるけど、選択してから使わないと、私の場合、マスターになっちゃうからねー」


 と、マキは素早く3回瞬きをする。技を選択したようだ。


 すると、マキは急に、機械的にクナイを剣道で言う正眼の構えで持ち、一気に振り下ろした。


 おそらく、コレが、【スラッシュ】なのだろう。確かに、マキのその動きは、剣道の有段者が振り下ろしたような美しさであったが……気のせいだろうか、先ほどまで、マキがゴーレムを切り裂いていた斬撃の方が、迫力というか、気迫がこもっていた気がする。


 その僕の感想は正しかったようで、マキは、振り下ろしたクナイを、ゴーレムの右ひじにぶつけた。


 うん。


 ぶつけた。


 切り裂いた、ではなく、ガツンと、クナイは右ひじにぶつかり、ゴーレムには切り傷一つ付かなかった。


 通常の、マキの攻撃なら傷付いていたのに、である。


 おそらく、システムに完全に頼った攻撃と、思いがこもった攻撃、マスターでは、威力が大きく違う事を僕に伝えたかったのだろうが、マキは、【スラッシュ】を放ってから、なぜか一切動かない。


 「……どうした?」


 僕はマキに聞くと


 「……技後硬直あるの、忘れてた」


 テヘへと笑うマキ。

 そのまま、マキはゴーレムに掴まれた。


 「ってオイ! 大丈夫か!?」


 僕は上を見上げる。

 ゴーレムは、そのままマキを掴んで、門の上にいる太ったトラの前に連れて行く。


 「おおう……よくやった、【ゲート・ゴーレムEX-Z12】そのまま、ミカたんを握りしめ、HPを0にしろ」


 不快感を感じる笑い方をしながら、ゴーレムに命じるトラ。


 「ゴゴゴ……」


 トラの命令を受けて、マキを握る力を強くするゴーレム。


 「うあああああ!」


 マキの絶叫が響く。

 僕は、そんなマキのふくらはぎを見て、ただ立っていた。


 「ゴロゴロゴロ……こ、今度こそ、ミカたんと吾輩は、け、結婚するのだ! 精霊術師部隊! ミカたんの魂が出たら、復活場所を、吾輩の寝所に設定せよ! そ、そして……吾輩は……ミ、ミカたんと……チ、チィスを……ぐはぁ!?」


 「ああ!? 見た目と言動の割りに、意外とピュアな心をお持ちの寅さまが、ミカ様とキスをする事をご想像されて、お鼻血をお出しに!?」


 門の上で、鼻血を出しながら倒れたトラと、トラを介抱する部下達の話を、強化された聴覚で聞きながら、後ろにいる人物に声をかける僕。


 「……いつ入れ替わったんだ? マキ」


 僕の後ろにいたマキが、バレたか……と言いながら横に並ぶ。


 「なんで分かったの?」


 不思議そうに、顔を横に傾けるマキ。


 「……そんなの、ふくらはぎを見れば一発だろ……あのふくらはぎは……フミツキって言ったか?」


 先ほどの【憤土の牛】は焦っていて分からなかったが、冷静に見れば筋肉の形が違う。

 ハリもな。

 若干、フミツキの方が、マキよりもMっぽいふくらはぎをしている。


 よく聞けば、ゴーレムに握りしめられているマキから「ああああ気持ちぃいいい!!」と聞こえてくるしな。

 ドヤ顔をしていると、マキは全力で引いていた。


 「……まぁ、いいか。ただ、そのふくらはぎキャラは辞めた方がいいと忠告はするけど。その話は置いておいて、いつ入れ替わったって話なんだけど、正確に言えば、掴まれた後かな」


 とマキ。


 「……掴まれたあとに、どうやって入れ替わったんだ?」


 「【桜分身】は、分身体と本体を入れ替える事が出来るのさ。」


 と手をクロスさせながら言うマキ。


 「【桜分身】の媒体は私の髪の毛だからね。サク兄ィの服に付けていた私の髪の毛で私の分身を作って、その後入れ替わったのさ」


 マキのその説明に背筋がぞわっとした僕は、とりあえず一発拳骨をして、会話を続ける。


 「分身と入れ替わる……って、よくある忍者が攻撃されたら、実は偽物でしたーって奴か」


 服を着せた丸太を思い浮かべる僕。忍者なら、確かに分身と自分を入れ替えるくらい出来そうだ。


 「そうそう。それで、そのよくあるってイメージ出来る事がマスターでは重要でさ」


 マキは痛そうに頭を押さえている。


 「元々、【桜分身】は、【分身】ってスターの技だったんだけど、【分身】だと、一体しか分身体を作れなくてね……忍者なら、複数分身するし、分身と入れ替わる事が出来るでしょーって、思い込んで作ったんだよ」


 とマキ。


 「作ったって、そんな、技とか作れるのか?」


 半信半疑の僕。

 自由に技を作れるって、そんな事可能なのか?


 「結果的に、新しい技になるって感じかな。マスターは、思い込む事によって、システム的に設定されていない行動を、現象を、ゲーム上に再現させる技術だからね」


 マキは、また、【スラッシュ】を放った時と同じようにクナイを正眼に構える。


 しかし、先ほどと、明らかに違う。


 気迫や、威圧が、ピリピリと空気まで変えてしまっている。


 そのマキの迫力に気付いたのか、門の上でドタバタしていたトラが、僕達の方を指さす。


 「むむむ!? あそこに、ミカたんが!? ミカたんが2人!? ミカたんが、2人で、吾輩と手をつなぐ……両手にミカたん……ぶはぁ!??」


 「ああ!? 寅様が今度はお吐血を!?」


 余裕あるなー、と思いつつ。

 いや、間近で、マキのこの迫力を感じたら、あんなコント出来ないと思うのだが……


 マキは目を閉じながら、 言う。


 「イメージするんだよ。斬れる相手を、斬る自分を。システムで決められた【スラッシュ】はあの程度の威力だったけど、私の【スラッシュ】は違う。私の【スラッシュ】はゴーレムを切り裂くし、ゴーレムを越えて、あの門も切り裂くし、門も超えて、街さえ切り裂く。そう、思い込んで、思いを込めて……」


 マキが目を開くと同時に、クナイは振り下ろされた。


 マキのクナイから、見えない何かが放たれたかと思うと、地面に線が走る。


 地中深くまで切り裂いた線は、まっすぐと、ゴーレムの所まで続いており、その先にある門を、超える。


 その線がドコまで続いたか、僕の視力では分からなかった。

 ただ、街の中心にそびえていたお城のような建物にも、線が入っているのは見えた。

 おそらく、マキは街を切ったのだ。ゴーレムごと。

 システムに頼っていた時は、ゴーレムに傷一つ入れる事が出来なかった、【スラッシュ】で。


 数瞬、間を置いた後、崩れるゴーレム。


 自分のすぐ横を切り裂かれた太ったトラは、腰を抜かしているようだ。


 「んー……イマイチ」


 と首を傾けながら言うマキ。

 イマイチって……


 「やっぱり、【スラッシュ】を発展させたマスターって、忍者っぽくないんだよなぁ……」


 そんな事を言いながらクルリと振りかえるマキ。


 「まぁいいや。お腹空いたし、街に入ってログアウトしよっか」


 そう言いながらマキは僕の手を引く。


 (プレイヤーが思い込んだ事が再現される、マスター、か。……チートくさいし、実際ボスを一撃で倒せるから、公式チートなんだろうけど……ユウ先輩の作ったゲームだし、クリアするためには、それじゃどうしようも無い事をしないといけないんだろうな)


 腰を抜かしている、十二支の一匹【黄木の寅】を見る僕。


 金色に輝く王冠を付けてはいるが、ソレはどこか作りモノのように思えた。


 (……張り子の虎、ね。どっちにしても、僕には関係ない話か。ゲームをクリアするのは、この最強チートな妹的存在のギルドだろうし)


 けど、出来る限りの協力はしよう。そう思いながら僕は切り裂かれた街に入っていった。


4日目終了。

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