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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月8日(金) パン戦争☆土の牛☆マスター
67/85

第65☆

 「ふむふむ……コレは中々……」


 「ふむふむ……コレは中々……」


 「鍛えられたスターだな!」


 「綺麗な色のブルーだな!」





 「……何してんの?」


 ココは、アビス・ケルベロスを倒した場所からさらに森の奥へと進んだところにある。子籠のネズミ……ミズネの小屋である。

 部屋の中は、何かの魔術でも行われるかのような、怪しいモノであふれていたが、ほとんどのモノが青色だったのは素晴らしい。


 そこで僕達は、僕、サクラと、青色のネズミ、ミズネは、お互いの顔に手をやって、まじまじと見つめ合っていたのだ。


 「……何って、こやつのスターの成長度を見ておったのだろうが!」


 「……何って、青色の生き物がいたら、とりあえず愛でるだろうが!」


 何を言っているんだ。全く。

 常識外れの我が妹的存在に呆れつつ、ミズネの毛の色を良く見る僕。


 「少し、青が空色に近いが……しかし素晴らしい……青色の生き物とは」


 「少し、成長度合いにバラつきはあるものの……しかし素晴らしい……このスターをここまで育てるとは……さすがは正式な冒険者じゃな」


 僕とミズネはお互いに頷く。


 「……もう、いいからさ。さっさとサク兄ぃのスターを合成してよ。15個もスター持ってるなんて勿体無いでしょ」

 と、呆れたような顔をして言うマキ。


 「ちゅっちゅっちゅ……分かった分かった……しかし、やはり、飽きんのう……()どもの成長は……」


 そう言いながら、ミズネは奥の部屋へと消えていった……


 「ああぁ……待って! ミズネ……あああぁぁぁ」


 消え入りそうな声を出す僕。

 そんな……青色の生き物が消えていった……

 膝を着き、落ち込む僕。

 新言語、orzのポーズだ。

 ああ、新言語のテスト勉強しないと。ノシってなんだっけ。

 と現実逃避をする僕。


 「いや……落ち込みすぎでしょ……あんな青色ネズミ相手に」


 聞き捨てならない言葉言い放つ女子小学生。

 コイツ。今なんて言った?


 「バッカ野郎!! 青色は素晴らしいんだぞ! そんな素晴らしい青色の体を持つ事がどれだけ素晴らしいか……いいか! 青色はなぁ! ツライ事があった時に上を見ればいつでも僕達に勇気をくれるし、今年生まれた国民的なロボットも青だし、精神を落ち着かせるから、今の陸上競技場の色はほとんど青だ! 僕は青色に包まれたくて、陸上部に入っていると言っても過言ではない!!」


 「いや、ソレは過言でしょ。普通に、走るのが好きだからじゃん」


 とマキ。

 まぁ、そうだけど。


 「さらに言うと、青よりも、やや濃いめの群青色とかの方が好きでしょサク兄ぃ。そんなに、キャラ付け頑張んなくても良いよ」


 「最近。濃いキャラばっかりだったからな……」


 ノゲイラとか、パン戦争の面々とか……あんなの見ると、ちょっと頑張ってみようと思います。


 「まぁ、青色の話は置いておいて……国民的ロボットの新しい声については置いておいて……」


 「私は、前の声の方が好きだなぁ」


 「僕は、3代目……あの、お母さんとも、お兄さんとも、友達とも違う、2人の微妙な関係を表現出来ているのは、3代目のみだ……ってソレはどうでも良くて」


 脱線しそうな話を戻す。


 「まず、ココは何だ? スターの強化とか言っていたけど、今から何をするつもりだ?」


 「……ココはミズネの小屋。βテスターなら知っているけど、スターの合成と強化をしてくれる場所でね。サク兄ぃのレベルなら色々出来そうだから、アビス・ケルベロスと戦うついでに、連れてきました」

 とマキ。


 「アビス・ケルベロスと戦えていないけどな……」

 と睨む僕。


 ビクリとするマキ。そのまま、置いてあった椅子に座る。

 「……まぁ、まぁまぁ……はは。その話も置いておいて……ココで、スターのレベルが単体で21以上なら、上級のスターに強化されたり、複数のスターの規定レベルを超えていたら合成して新しいスターにして貰えるんだよ。サク兄ぃのスターは規定レベルを超えているモノが多そうだったし、スターの数も15個もあって、装備出来ていないスターもあったから、もったいないと思ってね」


 「なるほどねぇ……」


 まぁ、納得するかと、相槌を打つ僕。


 「……なぁ、もしかして、僕ってレベルが高い方なのか?」


 僕は、今までの会話から気になっていた事を尋ねる。


 「うん。そう言ってるじゃん。ちなみに私たちのギルドの平均は、レベル25くらいだよ」

 「はぁ!?」


 驚く僕。

 いや、だって、マキのギルドはトップクラスのギルドだ。そのメンバーの平均よりもレベルが高い……いやいや


 「いや、でもおかしくないか。僕は今までモンスターとか一匹も倒してないし、ただ走って、殺されて、反吐吐いているだけだぞ?」


 「殺されて、反吐吐いている……ってのが大事なんだよ」

 とマキ。


 ん、なんでだ?


 「サク兄ィはさ……デスリウォードって知ってる?」


 マキの問いに、首をかしげる僕。なんだっけ……なんか聞いたことあるような……


 「デスは死で、リウォードってのが、見返りって意味なんだけどさ。要は、死んだら、キャラクターのパラメータが上がる措置の事を言うんだよ」


 ああ。と思いだす僕。そう言えばニボシの特集で、そんな事言っていたような……

そんな僕の様子を見て、解説を続けるマキ。


 「昔の、今みたいにVR機を使って体験しないタイプのゲームだと、デスペナルティって言って、逆に、死んだらステータスが下がるとかの罰則があったみたいだけどさ」


 「今の、このVR機を使ったゲームだと、死ぬ体験がリアル過ぎて、それでさらに罰則まであると、死んだ途端ゲームを辞める人が沢山出てきてさ。ゲーム会社も困ったんだよ」


 「そこで現れたのが、デスリウォード制度。死んだり、プレイヤーに過度のストレスがかかると、その度合いに応じて、プレイヤーのステータスや、レベルが上がるんだよ」


 と解説を終えるマキ。

 さすがゲーマー。なぜこんな制度が出来たかまで、バッチリ解説している。


 「じゃあ、僕のレベルがお前らよりも高かったり、SPが700超えているのも……」


 「んー……サク兄ぃのSPが高いのは、どっちかっていうと、運営が放置しているバグのせいっぽいけど。普通、砂とか食べないし。運営……あの雌狐は、クズだし。けど、レベルに関しては、デスリウォードのおかげだと思っていいだろうね」


 「て、事はだ。お前に殺されまくった黒忍も、僕並みにレベルが高いのか?」


 と、突然思った疑問を聞く僕。

 さらに言うと、じゃあマキはあの黒忍のレベル上げを手伝っていることになるのかと思っていると、顔を横にフリ、否定を表現するマキ。


 「んーにゃ。アイツらのレベルはほとんど上がってないよ」


 「ん? なんでだ?」


 「だって、ストレスを感じてないから。デスリウォードは、ゲームをプレイして、ストレスを感じてしまった事に対する、償いのような意味が強いからね……殺されて喜んでいるようなヤツや、自分でわざと死ぬようなヤツは、大してレベルも上がんないのさ。逆に、強いストレスを受けながら死んで行くと、レベルも大きく上がる」


 ふーん。なるほどね……


 「つまり、僕のレベルが高いのは、触覚UPスターとか付けた状態で、嫌々ながら、絶望に飲まれながら、強烈なストレスを感じながら死んでいったから……か」


 「そうゆうこと」

 と、ややテンション高めに答えるマキ。


 その結論と共に、ある決意が僕に芽生える……


 (絶対、二度と触覚UPと味覚UPは装備しない!!)


 いくらレベルが上がりやすくても、あんな目に会うのはもうゴメンだ。

 僕の中で去っていく触覚UPのスターと味覚UPのスター。


 さようなら!

 あの空に!

 青い空に!

 還るといい!!





 「まぁ、でも結局レベルが高くて、ステータスが高くても、【マスター】を使えなきゃ意味無いんだけどね」

 とマキ。


 「そういえば、その【マスター】って良く聞くけど、なんだそれ?」

 ログインした時にいた、ピエロもそんな事言っていたような……


「それは……」


 「ちゅっちゅっちゅ……待たせたのう……準備出来たぞ」

 と、マキの言葉を遮って現れた、青色のネズミ様。ミズネ様。


 「お帰りぃー!!」


 と思わずミズネに抱きつく僕。

 ちょっと薬の匂いがする。


 「や、やめんかボケェ!!」


 「ごふぅ!」


 と杖で殴り飛ばされる僕。


 「サク兄ィに何するんじゃボケェ!!」


 ミズネに襲いかかるマキ。


 抱きつかれたネズミと、殴られた男子高校生と、クナイを片手に襲いかかる女子小学生。

 ちょっとしたカオスが10分ほど繰り広げられました。



 「……えー……では、今からサクのスターの合成を行う」


 マキに襲われて、ボロボロになったミズネが僕の額に手を当てる。


 「……よろしくお願いします」


 マキからミズネをかばい、ボロボロになった僕が了承する。

 今、僕はなにやら複雑な模様の書かれた魔法陣のような場所の上で正座している。

 その僕の後ろで、マキが睨みを利かせている。


 恐い。


 「……なんかすみませんでした」


 「いや、いいよ」


 ウンとお互い頷く僕とミズネ。


 「……コホン」


 とマキの咳払いが聞こえた。

 ビクリと震えた僕達は、さっさとスター合成を行う事にする。


 「で、では行くぞ」


 「は、はい。お願いします」


 魔法陣がピカーと光り、僕を温かな空気が包む。

 そして光が一層強く輝いたかと思うと、急に光は輝くのを止めた。


 「……コレで終了じゃ。聴覚UP Lv22 視覚UP Lv21 触覚UP Lv41 嗅覚UP Lv13 味覚UP Lv16 は、合計レベルが100を超えていたから合成して、超感覚UP Lv1に。調薬 Lv23 調理 Lv21 調木Lv18は、合計レベルが60を超えていたから合成して、錬金術 Lv1に変化したぞ。あと、合成して10個のスターに足りんくなったから、子 Lv1のスターもおまけしといた」


 とミズネ。


 「……そう言えば、合成してどんなスターになるか聞いていなかったけど、効果は何なんだ」


 自分でも不注意だなと思う僕。

 いや、マキが暴れて聞く暇が無かったと言い訳しておこう。


 「超感覚UPは、全ての感覚を鋭く、鋭敏にしてくれるスターじゃ。五感UPのスター全てを一つにして、強化した感じじゃな。錬金術は、調薬 調木 調理 に加えて、調金の効果も合わせて一つにした、錬金術師の基礎にして、全てのスターじゃ。子は、ただの穴埋めじゃから、何の効果も無い」


 と準備した道具を片づけながら説明してくれたミズネ。


 「ふーん……なるほどね」


 効果を聞いて、新しくなったスターの評価をする僕。

 とりあえず、錬金術はありがたい。

 調金は、まだ金属の素材を持っていなかったから取っていなかったけど、いずれ取ろうと思っていたスターだ。

 ソレが、一つになって使えるようになったのは、とても便利だ。


 けど、問題は、超感覚UPのスターだ。つまり、コレを装備して、攻撃を喰らったりすると、今まで以上の苦しみが生じるということである。


 僕はスターの装備欄を選び、さっそく超感覚UPのスターを外そうと、目線操作をするが……


 「ん? あれ? 外れない?」


 いくら目線で動かしても、超感覚UPのスターは動かない。


 「え……手でも動かないんだけど、どうして?」


 動かないスターに苦戦していると、ミズネは呆れたように僕に言った。


 「なにやっとるんじゃ……スターの装備規定は10個じゃ。それより多くても少なくてもダメ。じゃから、わしは、わざわざ子のスターまでくれてやったのじゃぞ」


 ミズネの言葉を受けて固まる僕。

 ソレってつまり……


 「超感覚UPのスターは外せない……って事か?」


 ミズネは大きく頷いた。


 そんな……


 触覚UPと味覚UPのスターが手を振りながら僕の元へと駆け寄ってくる。





 ただいまー僕達帰ってきたよぉ……


 あははははー帰ってくるなぁ……




 「ふへへへ……ふへへへ……」


 僕の意識は空へと旅立った。


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