第62☆
「はぁ~~……」
「もう!そんなにため息ばかりつかないでよ!」
マキに引きずられながら、西の門へ向かう僕。
体は完璧に進む意思を放棄しているのだが、マキはソレをモノともせずに普通に僕を引きずっている。
男子高校生を、女子小学生が引きずっているのだ。
さすがゲーム。現実の筋力とか無視している。
そうなんだよねー。
現実では、運動神経も良い方で、僕の方がマキより肉体的に強いが、ゲームでは僕はただの雑魚なのだ。
小学生に斬首されるくらい、弱い存在なのだ。
「これから凶悪なモンスターが大量にいる場所に行くんだろう? 負けて死んで殺されて……もう、ため息しか出ねーよ」
「もう、そんなにビビる必要もないのに……私とパーティーを組んだから大丈夫だって!」
ズルズルと引きずられる僕。
「パーティーを組んでもな……」
マキが言っていた、パーティーの効果を思い出す。
1人の時と違い、複数の人とモンスターを倒したりする時は、そのメンバー内でパーティー設定をするそうだ。
パーティを組めば、協力してモンスターを倒せるし、モンスターを倒したときなどに得られる経験値とBも若干ボーナスが加えられて、メンバー全員に分配されるそうだ。
ドロップアイテムは、レアドロップ以外はメンバー全員同じものがアイテムボックスに自動的に入るらしい。
まだ、細かい点は色々あるが、要は、パーティーを組んだところで、パーティメンバーの能力が上がるわけでもないし、モンスターの恐怖は変わらないという事だ。
ああ、嫌だ。空が青い。
女子小学生に引きずられながら空を見る僕。
マキは呆れたのか、首を横に振る。
「はぁ、しょうがない。もっと後に見せようと思っていたけど、そんなサク兄ぃのテンションが上がるモノを今見せてあげよう」
門をくぐり、街の外に出たマキは、白色の笛を取りだした。
「何する気だよ……」
「へっへーん、ちょっと待ってて」
するとマキは、すうっと息を吸い込み、
ピィーーーー!!
と高らかに笛を吹き鳴らした。
すると、草原の方から、ドタドタと土煙を上げながら何かが近づいてくる。
「な、なんだ?」
「じゃじゃーん、コレが第2の街、トラノモンで買う事が出来る乗りモノモンスター。ホワイト・ラプトルのほわちゃんです」
ズザーと地面を抉りながら僕達の前に停止したのは、純白の羽毛に覆われた、2足歩行の恐竜だった。
僕と目と目が会うので、高さは2メートルくらいだが、全長は4メートルといったところか。
口には手綱を付けられ、背中には人が乗りやすいように鞍が備えられている。
「すっげぇ……」
ソレ以外の言葉が出ない僕。なんだろうこの感覚。興奮……とは違う、多分、感動に近い感情が僕の心を覆っている。
だってそうだろ?
恐竜に憧れない男子がこの世にいるだろうか?
いや、いない。
しかも、乗りモノ専用のモンスターだからか、ラプトルなんて肉食の恐竜なのに、恐怖とかを感じない。
頭を下げたくなるほどの気品ささえ感じるのだ。
「さぁ、乗って乗って」
マキが僕の背中を押して、乗るように促す。
「え? コレ乗れんの?」
困惑する僕。
恐怖を感じない、といってもいきなり乗れと言われると抵抗がある。
それに、
「確か、モンスターに乗るのに、騎士のスターが必要とかじゃなかったけ?」
「私が騎士を持ってるから大丈夫」
大丈夫なのか。
1人でも持っていたら大丈夫って、なんか意外と適当だな。
と思いつつ、マキに進められるままに、ホワイト・ラプトルのほわちゃんに乗り込もうとして、人に囲まれた。
先ほどマキに虐殺された人達と同じ、黒い忍装束を着た人達だ。10人ほどいる。
復活したのか、と思いつつ、その人たちの服装を見ると、全員同じようで、良く見ると装備が人によって少し違う。
その中でも一番装備が豪華で、強そうな男性が、僕達に声をかけて、正確にはマキに話しかけて来た。
「ミカ様! お待ち下さい! そのような下賤な輩と一緒に行どぐれるらあ!?」
そして、その強そうな人は一瞬にしてマキの持っているクナイで胸を貫かれた。
……グロい。
「隊長!! しっかりしてください」
「そんな……隊長が一瞬で……」
「さすがミカ様!……ゴクリ」
「隊長……少し嬉しそうな顔をして……俺も貫かれたい!」
マキに貫かれた男性の元に集まる黒忍達。
1人か2人、ヘンタイがいるようだ。
まぁ、小学生のおっかけをしている時点で全員ヘンタイだが。
「言ったはずでしょ? 今日、人と会うから、その人と会っている間は半径500メートル以内に近づいたら、殺すって」
マキが黒忍達に、忠告している。
一応、今更ながら、ミカってマキのゲームでの名前です。念のため。
「確かにお聞きしましたが、男性と会うなぁあっふ!」
マキに詰め寄った瞬間、肩から腰にかけて、バッサリと切られる黒忍。
どこか幸せそうな顔をしながら地面に倒れて行く。
多分、貫かれたいとか言っていた奴だ。
「くっ……鉄壁のコウジでさえも一瞬で!」
「ミカ様の斬撃を少しでも多く味わいたいと、日夜防御を上げる修行を積んでいるのに……!」
「コウジ……なんて幸せそうな顔なんだ……俺もすぐに行くぞ!」
「まて!隊長の言葉を忘れたのか! 自分が殺されたら、ミカさまをお守りするために、私たちだけでも生き残れと!」
「そんな……! ミカ様に殺されては行けないなんて!!」
とか何とか言っている黒忍達を後目に、ほわちゃんに乗りこむ僕達。
「……あれ良いのか?」
「いいのいいの」
とマキ言いながらは上機嫌で僕の腕の中にいる。
僕がほわちゃんの鞍にまたがり、マキをお姫様だっこのように支えている形だ。
これでも問題なく乗れているのだから、さすがゲームといったところか。
もしくはこのほわちゃんが非常に優秀なのか。
手綱を握らなくても、ドンドン進んでいく。マキが何の指示も出していないから、おそらく、ちゃんとマキの進みたい方向へ進んでいるのだろう。
「そう言えば、気になってたんだけど、あんなにPKして大丈夫なのか? 前、PKすると警察に追われるとか何とか言っていたけど」
「大丈夫。大丈夫。私はか弱い女子小学生だからねー。成人男性がPKをしたときと比べて、PKを罰せられる確率は低いんだよ。女子小学生に悪人はいないんだって。ホント、弱いって得だね」
ニヤリと笑うマキの顔は、正直嫌悪感を覚える種類の顔だ。
僕も、昼間に弱さを利用して、パンを手に入れたから何も言えないけどな!
「まぁ、あんなヘンタイ達はほっといて、さっさと進もうよ。色々教えてあげるからさ。手とり足とり……ね?」
マキは、おそらくセクシーさ、というものを意識していたのだろ。
なまめかしく動かしたかった手を……それは、ただゆっくり動いているだけの手なのだが、その手を僕の顔に近づける。
その手を受けて、僕はマキのみぞおちに手刀叩きこむ。
「くっは……!」
肺から漏れた空気が、口から飛び出すマキ。
そのままマキはお腹を押さえていた。
痛がっている。という事は、やはり新しいスターの効果が効いているようだ。
「……こ、この胸の苦しみ……コレが恋?」
なんて言っている妹的存在に、もう一度手刀を食らわせて、僕達は西の島の最初のステージ。子守の森へ向けて進んでいった。




