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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月8日(金) パン戦争☆土の牛☆マスター
63/85

第61☆

 学校を終え、家に帰った僕。

 怒涛の平日を終え、明日から土曜 日曜の2連休であるというのに、気持ちは晴れない。


 マキとの約束。


 12☆Worldの西の島に二人で行く。

 安全地帯のボス。東の島のファイヤー・シープでさえあの強さなのだ。

 モンスターが生息する西の島とか正直恐怖でしかない。


 「けど、まぁ、行くしかないよな……」


 約束したのは事実だ。

 それに、マキを応援したい気持ちが無いわけではない。

 意を決して、プレエク3を被る僕。

 せめて今日は死にませんように!

 祈る気持ちで僕は12☆Worldへと旅立った。









 「……くそ、くそ!」


 地面をダンダンと音を鳴らしながら、まさしく地団太を踏む、赤い髪の少年。

 その顔は怒りで、自身の髪と同じく燃えそうなほど赤くなっていた。


 「なんだよ! ふざけるなよ! 2対1で15分間生き残れたらギルドに入れてやるなんて条件、クリアできる訳ないだろ! しかも、『ファンクラブなら、12000B払えば入会出来るから』なんて言いやがって! 俺はファンになりたいんじゃないんだ! 一緒に! あの子と一緒にいたいんだよ! あの子の力になりたいんだよ!」


 ダンダンと、地面を踏むつける少年。しかしそこには何も無い。地面を踏んだ所で、意味は無いのだ。


 そんな少年に近づく影。


 金色に輝くパーマに、毒沼のような丸い紫色の鼻。肌は銀色に塗られて光り輝き、星を散りばめたその服は、銅の色で鈍く輝いていた。


 その風体はまさしくピエロ。


 フラフラと、プラプラと体を揺らし、鼻歌を歌ってる。

 紅く星型にペイントされた右側の顔の目を開き、12と書かれた左側の顔の目は閉じ、ウインクしながら、ピエロは赤い髪の少年の後ろに立っていた。


 「力が欲しいかい☆」


 「お前は……!」


 振りかえった少年は、そのピエロを知っていた。


「確か、12☆Worldの初日に、俺に話しかけてきた、ヘンタイピエロ!」


 「やれやれ☆ ヘンタイピエロとは、他者とは違うという意味で、実に光栄な称号ではあるが、ヒトの名前はしっかり覚えておくものだよ☆ やれやれ☆ 本当にやれやれだ☆ しかし、寛容なボクは、もう一度名乗る事にしよう☆ このボクに2度も名乗らせるなんて、グラウンドキャニオンでさえ出来ないことなのに、ソレをさせるなんて、少年はすでにアリゾナ州を越えた事になるのか☆ コレは驚きだ! なんと、ボクは一つの州を! 我が愛する母国アメリカの国旗の☆一つを越えし者の前に立っているのか☆ なんと!? ボクはあまりの恐怖と光栄さにコーラをこぼしてしまうよ☆」


 ドコから取り出したのか。


 えいと、赤い髪の少年にLサイズくらいの大きさの紙コップに入っているコーラをかけるピエロ。


 赤い髪の少年はソレをギリギリでかわす。


 「うお!? あぶねぇ! 何すんだ! このキモピエロ!」


 「キモピエロ? さらに称号が増えたね☆ 嬉しすぎて、アイスクリームの雨を降らしてしまいそうだ」


 「な、なんだ!?」


 ストロベリー チョコレート ミント バニラ ……大量のアイスが赤い髪の少年を襲う。


 あっと言う間に、少年はアイスクリームに埋め尽くされてしまった。


 「むぐ、うがぁ、ぷあぁ! クソ! 何なんだよ! お前!」


 「何って? 君には以前名乗ったはずだよ☆ ボクは混沌のアイドル ドルドル・M・ナック☆ 弱者に力を与える。正義への伝道師さ☆」


 横ピースをしながら答えるピエロ。

 若干、その所作に苛立ちながらも、少年はこの謎のピエロの言動を整理する。


 「……弱者に力を与える。確か、前、スターのレベルの上げ方を教えてくれるって言ってたよな? 本当に、お前の教えを受ければ、スターのレベルを上げて……俺は強くなれるのか!?」


 アイスにまみれた少年の顔から見えるその目は、ワラにもしがみつこうとしている、必死な意思が宿っていた。


 少年は強くなりたかった。


 銀髪の少女。彼女に少年は憧れた。

 画像という、現実とはかけ離れた、まさしく3次元と2次元の距離での憧れであったが、その憧れの横に……いや、その憧れよりも強くなり、憧れを手にしたかった。

 しかし、


 「いや、無理☆」


 そんな少年の期待と希望は簡単に否定されてしまう。


 HAHAHAと笑うピエロ。


 「……っ! ふざけんな!」


 手や足を怒りのまま一心不乱に動かし、いや、動かそうとする少年。


 期待を裏切る行為は、人を大きく傷つける。


 その痛みの代償を、ピエロに払わせようとするが、少年にまとわりついているアイスが動きを封じている。


 「まぁまぁ、落ち着きたまえ少年☆ 頭を冷やして……ああ、少年はすでに、アイスで冷え切っているのか☆ HAHA ソーリーソーリー」


 腹を抱えて笑うピエロ。

 その言動全てが少年を苛立たせる。


 「クソが! ふざけてんじゃねぇぞ!」


 叫ぶ少年。もう、声しかピエロにぶつけるモノが無い。


 「……ふざける? 誰がふざけているのかな?」


 パチンとピエロが指を鳴らす。

 すると、少年の周りにあった色とりどりのアイスが、姿を変え、鳥に変わる。


 「なんだ!?」


 赤、青、白、アイスから姿を変えた無数の色の鳥達は、バサバサと少年の周りから飛び去っていった。


 「……なんだコレ? こんな技もあるのか? ニボシに」


 目の前で起きた、理解不能の現象に混乱する少年。


 「……まったく☆ コレだから最近の若い子は……やれやれとしか言えないね。こんな事も知らずに、ニボシを、このシコウのゲームを楽しもうとするなんて。調べれば、ネットどころか、説明書にまで載っていることなのに☆」


 手を大げさに広げて、首を横に振るピエロ。

 陽気さを感じるそのしぐさが、急に変わる。


 空間の空気が、変わる。


 少年は、この空気を、感じた事があった。

 夏場の、急な大雨。ゲリラ豪雨。

 アレが発生する前の、息のつまるような、空気。

 圧力と脅威が迫る、空気。


 体の力が、自然と、ストンと抜ける。

 動けない。と少年は理解した。


 ズイっと座り込んだ少年の前に現れたピエロは、少年の頭を掴み、少年の右目に指を向ける。


 「ゲームを舐めるな小僧。何も知らず、無知のまま暴れるな。反吐が出る」


 ソレはまさしく呪いの言葉を発しているような声だった。

 

 「ひぃ!?」


 ピエロの人差し指が、黒く色を変え、まるで銃口のように変化する。


 「どんな事でさえ、ソレが例え娯楽のカタマリのようなゲームでさえも、トップにいる連中は努力をしているんだ。俺のピエロが、ただふざけてやっていたと思ったのか? 説明書さえ読まない餓鬼が、そんな連中の仲間入り出来ると思っているのか?」


 少年は限界だった。


 「……もう一度聞こうか? 誰がふざけていた?」


 「……ボクです。ごめんなさい。許してください」


 泣きながら謝る赤い髪の少年。

 先ほどまでの、紙よりも薄い傲慢さはどこかへ吹き飛んでいった。


 「……良いよ☆ ボクはアイドルだからね♪ 素直な子供には優しいのさ☆」


 また急に態度を温和に変えたピエロは、少年の頭を掴んでいた手で、少年を優しく撫でる。

 銃口に変えていた指からポンっとキャンディーを出す。


 「ひっ!」


 銃弾が発射されたと勘違いした少年は思わず悲鳴を上げる。


 「HAHAHA☆ それでもお食べ☆ 本来なら、ヨーヨーをしながら、ドーナッツの穴についての感想文800字を音読しなくてはいけないのだがね……アイスまみれにしたお詫びに、君に教えよう。このシコウのゲーム……12☆Worldの『マスター』を、ね☆」


 そして、赤い髪の少年と、ピエロは立ち去って行った。


 僕の目の前。


 秀早紀 桜の目の前から。


 (いや、いや! 何アレ!? 恐かったんだけど! ログインしたら、暴れているガキがいて、気付いたら、なんか冷たいモノに押しつぶされたし! ぶっちゃけ帰りたい! 現実に!)


 さきほど決したばかりの意が、すでにボロボロに成っている。

 マキとは、西の島に向かう出口の手前の広場で待ち合わせしているのだが……


 (帰る……訳にはいかないよな。ただでさえ、ふくらはぎ先輩、なんてあだ名を付けられそうな状況なのに、マキの機嫌を損ねて、ロリコン要素もプラスされては僕の人生は終わりだ)


 ふくらはぎの張り方から、金銅さんを関西出身だと見抜いた瞬間。

 金銅さんは体を心持僕から遠ざけ、カードで何かしらの操作をした後、


 『それでは、私はこの辺で、パンごちそうさまです!! ふくら……ふくらはぎ先輩!ありがとうございました!』


 と、わざわざ、言いなおそうとしたのを止めて、ふくらはぎ先輩で僕の名前を固定したのだ。

 あの前髪後輩は!

 どう考えても、月曜日が恐怖だ。

 ふくらはぎ先輩なんてあだ名はまだいい。

 妖怪ふくらはぎとか付けられてたらどうしよう。

 いや、名前のサクラと合わせて、さくらはぎとか……


 色々、浮かびたくないモノが浮かんでくる。


 てか、ふくらはぎで出身地方当てるのって、普通じゃないのか。

 別に県を当てた訳じゃあるまいし……場所が違えばふくらはぎも違うだろう!


 とか思いつつ、西の門へ向かう僕。


 そこで、僕はさらに帰りたくなる。


 200万本売れたゲーム。

 その攻略をするために、西の門は、当然大勢の人が行きかっているのだが、その一角に、異様に人が集まっていた。



 っていうか、異様な人が集まっていた。


 黒い色の忍装束を身にまとった男性がぐるりと円になっていて……その中心にピンク色のツインテールをしている忍の格好をした少女がいる。

 うん。あの異様な忍集団の中心にいる少女が、僕が待ち合わせをしている、妹的存在のマキだろう。


 (…………マジで!? え!? あんな目立つ奴に、僕は今から話しかけないといけないのか!? どうしよう……本当に帰りたい)


 よくよく耳をすませば、『ミカたーん』『ミカたーん』

 と言いながらハァハァしている息使いがあの忍集団とその周りから聞こえてくる。


 その声を聞いて、一瞬この忍達をぶっ飛ばしたくなったが、自重する。


 敵のいない東の島のボスに一撃でやられるくらいだ。

 僕が攻撃した所で、コイツらに勝てると思えない。

 それに、一応、言動はキモいが、マキを守るために行動しているようである。

 見ていたら、マキに近づこうとした男性プレイヤーを追い払っているからな。


 (けど、どうすればいいんだ? マキに話しかけようとすれば、あの忍たちに止められるんだろ? もう、帰って良いんじゃないか?)


 帰る前提で思考する僕。

 正直、色々面倒くさいのだ。


 (考えてもしょうがないか……ここは、手早くすませよう)


 悩むのも面倒だったので、【翁】を地面に刺して、黒い忍を飛び越える僕。

 そしてマキに一言、伝統の言葉

 

 「ヘイヘイそこの彼じゃ……」


 言葉を最後まで発する事が出来なかった。

 口には鉄の味が広がり、視界には紅く染まった銀色の刃が、僕の体から生えているのが見える。


 体から力が抜け、膝から地面に落ちた瞬間。

 僕の視界は180°回転を始める。

 クルクルと回る世界に、クナイを持った忍装束の少女が驚愕の表情を浮かべているのを確認する。


 なるほど。


 黒い装束の男たちに全身を貫かれた後、マキに首を撥ねられたのか。


 死に戻りして、状況を理解した僕。


 「ふっふっふっふ……」


 まだ、体には、刃の冷たさと、切られた熱い痛みが残っている。

 こんなゲーム。2度としないと心に決めて、僕はログアウトをし……


 「サク兄ぃいごめんなさぁああーいぃいい!」


 「ぐはぁ!」


 強烈な衝撃を受けて、倒れる僕。


 「ねぇねぇねぇ!? 痛くない!? 痛くない!? 痛くない!? ゴメンね!? ゴメンね!? ゴメンね!?」


 謝罪をしながら、僕の体をゆすりまくるマキ。

 ガンガンガンと頭が地面にぶつかる


 「痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! やめんかぁ!!」


 マキを掴んで放り投げる僕。

 投げられた事など無かった事のように着地したマキは、また僕に突進してきた。

 頭を掴み、マキを止める。


 「お前は謝罪をしにきたのか? 殺しにきたのか?」


 まだ僕に接近しようとするマキをとりあえずなだめ、正座させる。

 マキはゴメンなさいと半泣きでブツブツとつぶやいている。


 「まぁ、今回はいきなり接近した僕が悪かったけどさ……」


 いきなり男性が近寄ったら、警戒して当然だろう。

 かといって、殺される覚えもないが。

 頭を抱える。

 ばっちり、今日も死んでしまった。

 しかも妹みたいな奴に殺されるという経験。

 正直、このままゲームを止めて、シフォンケーキでも作りたい気分だ。

 メレンゲを泡立てたい。一心不乱に。

 どうするかな……と悩んでいると、西の方から、ドタドタと足音が聞こえてきた。


 見ていると、黒い忍の集団が、全速力で駆けよって来ている。


 「ミカ様ー! ごぶげら!?」


 先頭を走っていた男性の額に、クナイ突き刺さった。

 何事かと見てみると、マキの手には大量のクナイが……


 「……お前らのせいだーーーー!」


 マキの手から放たれる大量のクナイ。


 次々と黒い忍装束の男性達を打倒していく。


 「ミカさま? 何を……ぐへぁ!!」


 「この! この! サク兄ぃの仇―!!」


 十数秒後、広場は大量の忍の死体で溢れていた。


 「……マキ?」


 「よし!」


 ポンと手を打つマキ。

 そのまま僕の手を取り東へ向かおうとする。


 「……いや、何がよし……」


 「サク兄ぃを殺した奴も倒したし、コレで心おきなく西の島に行けるね!」


 ……コイツ! 全部を黒忍に押し付けようとしてやがる!


 「おま……ちょっと……」


 クルリと振りかえりマキは僕を見る。


 「大丈夫! サク兄ぃは私が守るから!」


 ニコリと笑いながら、そんな事を言うマキ。


 そのまま僕はズルズルと連れて行かれた。

 反抗する意思など無かった。

 だって、目の前で大量殺人がおこなわれたんだよ?

 僕の手を引いているのはその犯人なんだよ?

 コレから始まる大冒険に、戦々恐々としながら、僕は西の島へと向かうのだった。


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