第60☆
売店の広場から出た僕は、階段で震えている少女を見つけた。
その子は、高等部1年生の赤色のバッジを付けていたが、高校生にしてはかなり小柄だ。
小学生、と言われれば信じてしまうだろう。
髪型は、後ろ髪と同様に、前髪も肩くらいまで伸ばしていて、顔を全て隠してしまっている。
一昨日、パン戦争を見てあっけにとられていた娘だ。
名前は……
「金銅さん……?」
「うひゃい!?」
僕が呼びかけると、両肩をビクリとすくめて奇声を上げる金銅 白兎さん。
いや、正面から声をかけたのにビックリするなよ。
前髪のせいでよく見えていないだろ。
とか思いつつ。
最近転校してきたらしい金銅さん。
せっかくなので、このタルタル南蛮パンの味を知ってもらいたいと思い、男性が、女性に声をかける時の伝統的セリフを言ってみた。
「ヘイヘイそこの彼女! よかったら僕と一緒にお茶しない?」
「……お茶持ってないですよね?」
髪の間から、刺すような視線で斬れるような言葉を言う金銅さん。
おお、こんな目も出来るのか、さすがだな、と感動しつつ、袋からタルタル南蛮パンを放り投げる。
「え? うわたぁ?」
髪の間から、かろうじて視界を確保していた金銅さんは、突如投げられたパンをお手玉しながら、なんとかキャッチした。
「え……これって……」
「あげるよ。学食も異様に混むし、昼飯ないんだろ? 5つも買ったから、一つあまるし、コレは一度食べたほうがいい」
「え……? でも……」
金銅さんは困惑しているようだ。
「あとで、体で払えとか言ってくるつもりですか?」
思わずこけそうになる僕。思わず叫ぶ。
「そんなこと言うか!!」
「体で払わせるつもりなら、気を付けてくださいね……二度と生殖活動出来なくなりますから」
「何するつもりだよ!! ってかそんなつもりは無い!」
前髪伸ばして、いかにも大人しいです私って外見のくせに、意外と言動がアグレッシブな金銅さん。
「噂には聞いていますよ……スポーツ組2年生のサクラ先輩は女性のふくらはぎでさえ興奮出来る魔獣だと」
「何その噂!?」
驚愕の事実である。そんな噂……誰が流した? 思い当たる人物は2名ほどいるが……
「サキちゃんが言っていました。趣味は、女子のソックスを頭の中で色々変化して妄想することですよね?」
「何言ってんだアイツ!?」
ビンゴ。やっぱりサキである。アイツ……なんて事を……
「ふくらはぎを見ただけで、その子の性癖が分かるんでしたっけ?」
「持ってねーよ! そんな特技!」
人物を見分けられるだけだ! あとは、そいつが100メートルを何秒で走れるかわかるくらいだ。
「タルタル南蛮パンにも、何か性的な意味が……」
「あるか!」
「キラキラ光る甘酢あんに、白濁色のタルタルソース……なるほど、そんな意味が……」
「なにを理解したの!? あるの? 南蛮パンに性的な意味があるの!?」
性的なタルタル南蛮パンを想像しつつ、階段を登る僕。
頭の中でパンがアハーンとか言っている。
「とにかく、俺は獣じゃないし、パンをあげたのにもヘンな意味は無い。普通、パンを買うときは、女子はクラスの男子に頼んだりしてるんだよ。金銅さんは転校したてだから色々困っていると思っての善意からの行動だ。僕も今はパシリの途中だし」
澤木さんに、貰ったクジが当たった事を報告すると
『ふむふむ。じゃあ、ハッピー気分のサクラくんは、今日も私のためにパンを買ってきてくれるんだね』
と、にこやかに言われたのだ。
おれマジ召使い。
「はぁ……パシリで興奮できるなんて、噂以上の猛者ですね」
「誰が興奮してるって言ったよ!?」
まぁ、澤木さんのために動いているのは少し良い気持ちだが……違う違う!
興奮はしていない!
頭をブンブン振りながら、廊下を進む。
僕に色々辛辣な言葉を言っているが、金銅さん。
トコトコと僕の後を付いてくる。
「まぁ、くれると言うならいただきますか……この後、私がパンを食べる姿を先輩に想像されて、興奮されるのは身の毛もよだつ思いではありますが……」
「興奮なんてしねーよ! パンを食べる女子高生で興奮できるほど男子高校生の妄想力は高くねーよ!」
「え? でも、まずこの私の柔らかそうな口が、パンを咥えようと大きく開くじゃないですか。そして、大きくて立派なパンを口に含んだ瞬間。飛び出たタルタルソースと甘酢あんが私の顔を汚すんです。そして、口に含んだパンをくちゅくちゅと咀嚼して、ごっくんと飲み込んだ私が言うんですよ『もぉー、汚れちゃったよぉー』」
「ああ、それなら興奮……できるかぁ!!」
とかなんとか、そんな会話をしている間に、僕のクラスの前まで来てしまった。
「ホント、見た目と言動のギャップが激しいな、金銅さん」
「先輩こそ。 上半身と下半身がギャップですよ?」
「どういう意味!?」
え? 割れてるの? 上半身と下半身で割れてるの?
一大事だ。 それが事実なら確実に僕は死んでいる。
「大丈夫です。上半身と下半身の行動にギャップがあるだけですから」
「そう言う意味!?」
一大事だ。それが事実なら、確実に僕は抹殺されている。社会的に。
「なんか、 本当、関西人って感じだな」
僕は呆れながらつぶやく。
関西人はボケの文化とは聞いたけど、ココまでぶっ飛んでいるとは思わなかった。
「……私、関西出身って言いましたっけ」
金銅さんが怪訝そうな顔で僕を見てくる。
「へ? そんなの、話を聞かなくても、ふくらはぎを見れば分かるじゃん」
何を当り前な事を聞いているんだ。と思っていたら、
「……へぇ~~………」
と言いながら、金銅さんが後ずさりを始めた。
…………アレ?
次からゲームパートです。




