第59☆
4日目突入!!!!
「陣形が崩れました。このまままっすぐ進みます。勝利を我々の手に!」
「はっ!!」
「っく! マズイぞ! 右側の陣形が崩れた! 守りを固めろ!! 耐えるんだ!! 勝機は必ずくる! 今は耐えるんだ!!」
「オオォォォォ!!」
「ふむ……個々の能力が高い代わりに、戦略に工夫が無いのが残念ですね。崩れたら直す。敵の言葉を信じ。疑わない。素直過ぎて、裏があるのかと勘繰りたくなるほどです。まぁソレは無いでしょうが……敵右翼に人が集まります。左翼は引き、自陣右翼の防備に集まりなさい」
「……!? コレは……!! しまった! 罠だ!! コレは孔屋の罠だ!! 全員左側に集まれ! ココには……右側には……」
「タルタル南蛮パンがない!!!!」
……………
…………………………
言わなくても分かるだろうが、ココは数千年前の戦場とかではない。
ココは、僕の、秀早紀桜の通う高校。
私立 雲鐘学園の売店だ。
時間は12時。
お昼の時間。
雲鐘学園は、創始者の鐘小崎 優次郎が目指した、
学校の教育だけに頼らない。自立し、生きていける若者を支援する。
という方針のもと、全国から勉強以外に才能のある若者を集めている学校である。
勉強以外、ソレはスポーツだけではなく、音楽や絵画。コンピューターや調理、はたまたマーケティングから超能力まで、あらゆる才能を持つ生徒がこの学園に集まっている。
と、いっても僕がそうであるように、やはりスポーツの才能に優れている者が入学する事が多く、スポーツの才能を持つ者、スポーツ組と、ソレ以外の才能を持つ者、ギフト組を分けて校舎が建てられていて、その中心に、売店があるのだ。
さて、じゃあ冒頭のあれは何か、というと一言で言うなら戦争である。
……うん。
なんで学校で戦争してんだよって話ですね。
簡単に言うと、パンのためである。
雲鐘学園は、さっきも言ったとおり、スポーツをしている生徒が多い。
なので、必然と飢えた獣であるスポーツ組の学生が、学食や売店を占拠する形になるのだが、5年ほど前に異変が起きた。
売店で売られているパンが美味しくなったのだ。
圧倒的に。
超美味に。
これ、小麦じゃないだろ。大麦だろ。
なんて思うほど美味しくなったのだ。
いや、大麦だとビールが出来るが。
とにかく、コンビニで売っているパンなんて目じゃないくらい美味しくなったパンは、当然スポーツをしていない生徒も食べたいわけで。
特に、一日5食限定の、タルタル南蛮パンは、某料理評価ガイドが3つ星を付けるレベルの美味しさで、インターネットでの一度は食べたいパンランキングで堂々の一位に成るほどなのだ。
必然と、売店は混みだし、生徒間で乱闘が発生するのにさほど時間はかからなかった。
この事態を重く見た学校側は、
『乱闘が起きてんだー。じゃあせっかくだしゲームにしない?』
と思いたち、思いつき。
スポーツ組の学生と、ギフト組の学生が対立するような形での戦争ゲームを作りだしてしまった。
パン戦争という名のこのゲームの仕組みを言うと、まず、売店のあるロビーには、陸上のトラックのような半円状の形をしている、10メートル四方くらいの広さのエリアがあり、そこにホログラムでパンが表示されている。
生徒はそのパンのホログラムをカードにかざすことで、パンのデータを得る。
売店の売り場はスポーツ組の学生用とギフト組の学生用に別れていて、パンのデータを自分が属するエリアの売店に持っていくことで、本物のパンを購入出来る権利を得るのだ。
ただ、自分のエリアの売店は、相手側の校舎の方に用意されており、パンのデータはカードに読み込んでから30秒で消えてしまう。
つまり、どうやって相手を30秒足止めしてパンのデータを消すか、自分のパンのデータを守りつつ自分側の売店に行ってパンを購入するか、といったのがこのゲームの趣旨に成る。
もちろん、殴るや蹴るといった直接的な妨害行為は禁止だ。
が、その他の、例えば盾を持って相手を押し倒すとかなら認められている。
……うん。このゲームのために、柔らかい素材で出来た盾とアメフトの選手が着るようなプロテクターを学校は作ってしまっています。
そして月日が流れ。学生たちも売店戦争ゲームに慣れてしまい、パン戦争部なんて部活や、軍隊のような階級までできて、一度パンを戦争参加者全員で集め、再分配するルールまで出来る始末である。
プレエク3を作った会社の会長が理事長で、孫娘が生徒として通っているからといってやり過ぎ感は正直否めないのだが。
とまぁ、コレが学園の名物と成りつつあるパン戦争である。
人はパンのために争うのだ。マジで。
で、そんな戦争の戦況はどうなっているかと言うと、
「くそ! 最初、売店がある左側に人員を集中させ、過半数のタルタル南蛮パンを確実にゲットする[ランスの陣形] かと思わせ、流れるような規律ある行動で、右側に人員を移動させ、相手の陣形を崩す、[シーソーフェイク]を使って来たと思ったら……」
「それすらも、囮だったというわけだな」
「!? アナタ達は……!」
「どけ、野球部エース。 マルガリの小林。ココからは、右だ左だなど、浅はかな策略が入る余地は無い」
「戦争とは本来、男の肉体の強さを競うべきモノなのだ」
「鍛え上げた肉体に、一日6食 喰らう事で得たエネルギー」
「貴様らに耐えられるかな? 脳だけのギフト組」
「ア、アイツらは……」
「ラグビー部の……流聖のトライアタック!!」
「どけい!! 雑魚どもがぁ!!」
「うわぁあああ!! ラ、ラグビー部だぁ!!」
「……っつ!!? マズイです! 孔屋さん! ラグビー部3年。 佐藤 鈴木 高橋の3名。流聖のトライアタックが戦線に加わりました! 最前列で盾を構えていたホルスタイン愛好会! ホエー豚同盟! 軍鶏組合が戦線を離脱し始めています! スパイを送って確保していたタルタル南蛮パン5つもタイムアウトし、台に戻りました」
「……マズイですね。留年ギリギリの彼らが出張ってくるなんて」
「ここはオイラの出番かい?」
「ア、アナタは!」
「パーカッションの高木……アナタは今ティンパニの叩きすぎで腱鞘炎になっているはずでは?」
「へへっ。確かにオイラの腕には包帯が巻かれているが……こんなの何でもないさ。オイラの腕は、楽器を叩くためにあるんじゃない」
「……パンを食べるためにあるのさ」
「行くぞ!!! 流聖のトライアタックはオイラが押さえる!! パンのために!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
…………
……………………
…………………………………
正直、テニスコートくらいの広さのロビーに、百名近い生徒がいるから、5メートルくらいしか離れていない場所で見ていると会話くらいしか理解できない。
まぁ、想像するなら、スポーツ組がピンチになっていたら、ラグビー部がやってきて、逆にギフト組が追いつめられたが、腕を痛めているヘンな奴が出てきて、ギフト組の士気が高まったって所か。
ちなみに、人を掻きわけて、相手の陣地を目指すパン戦争は、そのゲーム性からラグビー部やアメフト部なんかが異様に強かったりする。
食べるし。あいつら。
けど、アレだな。
そろそろ、僕も動かないと行けないようだ。
この戦争。
一度パンの台から売店までの道が出来てしまうと、一気にパンが無くなってしまう。
カードは別に他人に譲渡しても、売店でパンは買えるからな。
バケツリレーのようにカードが渡っていて、パンを購入されていってしまうのだ。
僕は松葉杖を付きながら前に出る。戦争を遠巻きに見ていた生徒たちが道を空ける。
バレないように、ゆっくりと2つの売店の中央。
パンのデータに応じて、それぞれの売店にパンを置くために一時的にパンが置かれているパン倉庫を目指す。
「……!? あ、あれは?」
戦争で百名近い生徒が売店広場にいるが、その中でもひときわ背の高い流聖のトライアタックの1人、筋骨隆々の男性。鈴木先輩が声を上げる。
バレてしまったようだ。速いなぁ。
「そ、そんな馬鹿な……」
パンの孔明と呼ばれる同級生の孔屋が呻く。
「道を! 売店までの道を作れ! 急ぐんだ!!」
マルガリの小林が指示を出す。
「そんな……ウソだろ……?」
「まさか……」
戦争に参加していた生徒たちがどよめく。
僕の前に人はいない。倉庫まで僕を邪魔するモノは何もない。
戦争。
なんて大仰な名前がついてはいるが、パン戦争は、要はパンを買う行為でしかない。
その買う行為を楽しむためのゲームが戦争であり、ゲームにはある共通したルールがある。
人を傷つけてはいけない、というルールだ。
そのため、このパンを買うゲームには、ある抜け道が存在している。
僕は、倉庫まで行くと、パンを守護し運搬する役目を持っているAIのおばちゃん。
あいちゃんの前に立った。
「や……やめろ! 頼む!! やめてくれ!!」
背後から声が……この声は、確か流聖のトライアタック、高橋さんだ。
「何でも、どんな事でもするからよぉ……」
すすり泣く声も聞こえる。
百名近い男性の視線が僕に集まる。
怨念や、悔恨の重圧が僕の肩に乗る。
「……まぁ気にしないけど。おばちゃん! タルタル南蛮パン5つ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああ!!」
ロビーに響く絶叫。
僕はソレを聞かないようにして、おばちゃんからパンを受け取る。
つまり、コレが抜け道。
ケガとか病気とかで、戦争に参加出来ない生徒は、ゲームに参加せずに優先してパンを購入出来るのだ。
弱者は弱いが、弱いからこその特権があるのだ。
矛盾しているようだが、よくある事ではある。
昨日は、澤木さんに言われて一つだけだったが、サキやマキも食べたいから買ってこいと言われたので、5つ全部買うことにした。
「……あのやろう。ゆるさん! 今はケガをしているから許してやるが……」
「ああ、まさかタルタル南蛮パン全部買って行くなんてな! ケガをしているから見逃すがな!」
「しかもよく見るとアイツ、8組のサクラじゃないか。サキさんと仲の良い……ますます許せん! アイツがケガさえしていなければ……!」
「サクラ……? たしか、マキたんに、『サク兄ぃ』と呼ばせているクズ野郎だったよな?……なるほど、ケガが治ったら、俺が直々に成敗してくれる」
「アイツがサクラか……ユウ様のお気に入り……ケガが治った時がアイツの命日だな」
戦争を繰り広げていた広場から聞こえる批難の声。
うん。予想以上に怨みをかっている。
後半は、もうパンの事なんて関係無くなっていたが。
いつもの事と言えばいつもの事。
あの美人姉妹の兄貴分である以上、怨みはエブリディ ロープライスで色々な所から押し売りされてくる。
慣れた怨みを気にせず、パンを片手に持ちつつ、売店の出口に向かった。




