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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月7日(木) 七夕☆岩壁☆炎の羊
59/85

第57☆

 さて、僕はこの状況をどのように理解したらいいのだろうか?


 昔のフランス人の名言を借りるなら、

 [あ、ありのままに今起こったことを話すぜ! 『僕の目の前で火柱が上がっていたと思ったら、何も燃えていなかった』

 何を言っているかわからねーと……]

 って所か。


 じりっと、1歩だけ後ろに下がる僕。


 催眠術……とかならいいけど、ソレは違うんだろうな。


 さらに2歩、後ろに下がる。


 [翁]が溶けている事は確実だし、熱いと感じたのは事実だ。

 催眠術、なんて、すでにゲームの中は催眠術にかかっているようなモノだし、ソレをゲームで実装していたら、さすがに訳が分からないだろう。


 「メェ~……ラァ~……」


 羊の声が聞こえる。

 背を仰け反らせ、ストレッチの続きをしている……のではない。


 「ラァ!!」


 僕が横に飛び出すと同時に、元いた場所が紅蓮の炎に包まれる。


 吐いたのだ。炎を、口から、あの羊が。


 「あっぶな! そして、熱っつ!!」


 ギリギリで炎をかわした僕に、熱気が掛かる。

 この熱さ、やっぱり炎が幻覚なんてオチではなさそうだ。


 ……いや、本当にややこしいけど。ゲームはすでに幻覚ですけど。


 「ってうわぁ!!」


 また横に跳ぶ僕。

 炎の羊からの第2波だ。草花がパチパチと燃えている。


 (くそ……! 落ち着け。別に避けれない攻撃じゃない)


 「メェ~……ラァア! ラアア! ラァアア!!」


 雄たけびと同時に、口から灼熱の炎を吐きだしまくる羊。



 「おおおおおおお!?」


 全力で横に走って、僕は炎を避けて行く。

 先ほどの火柱ほどではないが、僕の体を余裕で包み込むくらいの大きさの炎が向かってくる。


 超恐い。


 「ってか絶対コレ、メ○じゃねーだろ! こんなのメラ○―マだろ!」


 周囲の色を紅く染める羊の猛攻にツッコミを入れる僕

 ツッコミつつ、避けつつ、ちらりと、炎の、中で燃えている草に目をやる。


 (やっぱり、燃えて……黒くなっているよな)


 音が出て、黒く炭化して、現実よりもリアルが売りのこのゲームは、物が燃えるという現象もしっかりと再現している。


 (じゃあ、黒焦げになった地面を再現していないだけでしたー、なんてオチでもなさそうだ)


 と、いうことは。


 一つの仮説が先ほどから僕の頭をよぎっている。


 (確かめるしかないか)


 僕は地面に黄金の竹槍の柄の部分を突き刺し、大きく×の字を書いた。


 そこだけ地面がえぐれる。


 「ってうわぁ!!」


 書いた瞬間、羊の炎が飛んでくる。


 跳びのき、慌てて炎を避ける僕。


 (よし、あとは)


 僕は起き上がると、そのまま草原を走った。

 大きく、大きく、羊を中心に円を書くように。若草達を踏みしめて、走る。

 そんな僕に、羊は炎を吐き続ける。



 「恐い恐い恐い恐い!!」


 背後に強烈な熱を感じながら、僕は走る。


 スピードを調整しながら、早すぎず、遅すぎず、だ。


 そして、そんな恐怖と闘いながら走っている僕の目の前に、僕が元いた場所の光景が映り込んでくる。


 スピードを調整したおかげで、羊の周りを一周した頃には、元いた場所の炎が消えていた。


 消えていて、変わりに真新しい、キラキラと輝く草花が咲いている。


 (やっぱりか……)


 僕は、地面に書かれた×の字を見る。


 ×の字に書かれた、えぐれて土が見えていたはずの地面は、しっかりと草花が咲いていた。


 生えていなかったはずの場所に、咲いていた。新しい命が。


 僕は、カンナさんの言葉を思い出す。


 『草原を燃やす、もやしているそうです』



 2回、燃やすと言っていたのは気になっていたが、多分こういう事なのだろう。

 もえるという言葉には、燃えるともう一つ、萌えるという言葉がある。

 カンナさん萌えー、なんて思っていた僕だが、萌えるの本来の意味くらい知っている。

 萌えるの本来の意味は、草木が芽を出す事だ。


 『草原を燃やす、萌やしているそうです』


 つまり、カンナさんの言葉は、こうなるのだろう。



 そして、このことと、地面に新しい草花が咲いている事から、炎の羊の能力が【炎で燃やし、草花を新しく芽吹かせる】能力、燃やして萌やす能力である事が推測できる。


 この推測から、ある事が分かる。


(絶対勝てないじゃん)


 いや、考えてもみてほしい。

 燃やして、萌やす能力なんて簡単にまとめてみたが、要はこの羊は、お羊様は、生命を作る能力を持っているわけだ。


 生命を作る能力なんて、主人公か、ラスボス以上の最強のキャラが持つ能力だろ。

 何者であろうと到達できない、神の領域の能力だ。


 ゲームだし、生命を作る能力なんて大げさな事言うなよ、なんて声もするが、大切な事を忘れている。

 一つは、羊の炎の、燃やす能力だけでも、僕の現状最強の武器である、【黄金の竹槍(翁)】を溶かすほど強力であるということ、そしてもう一つは……


 「メェエエエエエ………!!」


 突如、羊の方から、気合いのこもった鳴き声が聞こえた。


 その声と同時に、羊の体から火柱が上がり、羊の周囲にキラキラと火の子が、いや、羊の体の炎だから、炎の抜け毛が、舞い上がる。


 「……なるほどね」


 あきらめにも似たため息が、僕の口から洩れる。


 正直、羊の能力が、燃やして萌やす能力だとアタリを付けていた時から、嫌な予感はしていた。


 羊の周りを大きくグルグルと回っていた時から、思っていたんだ。


 この草原に生えているのは、新しい草花しかないって。

 成長出来た植物がいないって。



 キラキラと舞っていた炎の羊の毛が、徐々にその高度を落としていく。


 そういえば、もう一つ考察が残っていたな。


 初めに羊が起こした巨大な火柱。あの技の正体。

 まぁ、その正体は今から見れそうであるが。


 輝いていた炎の毛、炎の抜け毛が、地面に着地する。


 瞬間、地面は紅に溶け、空へ向けて膨張した。


 灼熱の柱は、抜け毛の着地と共にその数を増し、隣の柱と融合して、巨大な炎の壁を作りだす。

 柱は壁となり、そして壁は合わさることで要塞を生み出した。

 羊を守るように、そして外敵を倒すように作られた灼熱の要塞は、炎の壁の厚さを、メラメラと増やしていき、僕を排除しようと、いや、この草原にある全てのモノを消滅させようと、広がり始めた。


 猛スピードで。


 「ふざけるなよぉおおおおおおお!!」


 全力で、限界の力で走る僕。

 炎の壁が迫って来たのだ。

 逃げる、逃げる。



 つまり、単純に、あの抜け毛が着弾すると、爆発を起こすようだ。

 そして、大量の抜け毛による広範囲、全範囲の攻撃。

 この攻撃は、おそらく結界内全てを燃やしつくすだろう。

 だって、草原の草が全部新しいんだもん。


 多分村長さんは、この抜け毛の全範囲攻撃でトラウマが出来たのだろう。

 てか僕もこれトラウマになるぞ。恐すぎる。


 炎の壁は、僕を飲み込もうと進んでくる。

 かなり速い。


 「くそ、こんなところにいられるか、僕は逃げるぞ! 僕には帰りを待っている人がいるんだぁあああああ!!」


 目線操作でステータス画面を開いてログアウトを選択するが、[ボスとの戦闘中は離脱できません]と表示されるだけだった。

 チクショウ!


 地面を蹴る足の、指の先まで全身に力を込めて、駆け抜ける僕。



 (死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ!!)

 

 まさに、必死の気持ちで走っていた僕の目の前に、入って来た入り口が見えた。


 助かった!と安堵した僕の目にカンナさんが映る。


 両手を胸の前で合わせて、目に涙を浮かべている、カンナさんが、映る。


 その瞬間、立ち止まる僕。


(……なんで逃げている?)


 くるりと振りかえって、炎の壁を見る。

 高くそびえる炎の要塞は、この場で立ち止り続けていれば、あと10秒もせずに僕の体を焼き尽くすだろう。


 高くそびえる。


 けど、よく見れば、その高さはせいぜい数十メートルだ。


 「……翁、行けるか?」

 僕の問いかけに、黄金の竹槍は、力強くブルッ!と震えて答えた。


 僕の決意を汲んでくれたのか、ドロドロに溶けていた穂先も元に戻っている。



 情けない。

 自分を叱責する。


 女性を待たせている男が、逃げて良い訳が無い。

 泣いている女性の前で、情けない姿を見せてしまって、言い訳も無い。


 「僕は逃げない」


 男は、女性の笑顔のために、命を賭けるべきだ。

 男は、女性のために戦うべきだ。

 帰りを待っている人がいるなら、なおさらだ。


 


 僕は、地面に[黄金の竹槍(翁)]を突き刺す。


 「伸びろ!!」


 痛いほどの衝撃を受けて、僕の体は上昇する。


 上へ行く。超えるために。炎の壁を。恐怖を。

 超えれるはずだ。僕なら。100メートルの岩壁さえ飛び越えた僕なら。


 翁の力で上昇した僕は、炎の壁を越えた。

 大きく。壁の上にいったのだ。


 しかし。

 物事には、大抵。

 どのような場合にも、大抵。


 当然の様に当てはまる事ではあるが、[上には上がいる]という言葉がある。


 炎の壁の上にいった僕にも、ソレは当然と、当てはまった。


 眼前に広がる光景に、言葉もない。

 ソレは、ちょうど炎の壁を死角として、地上にいる僕からは全く見えなかったのだが、炎の壁がなぜ発生したのかを考えれば、当然としてソコにあるべきモノではあった。



 天高くまで蔓延る、大量の抜け毛達だ。



 毛がドコまで飛ぶか。

 毛を糸とするなら、こんな話を聞いた事がある。

 蜘蛛クモついて、だ。


 蜘蛛は、巣立ちなどの時、糸を広げて、糸を風に乗せて移動するそうだ。


 その行動範囲は異様に広く、例えば、日本で新種の蜘蛛が見つかっても、アジア全ての蜘蛛を調べないと、新種かどうか分からないと言われるほどだそうだ。


 で、そこまで長距離を移動するのだから、もちろん高く蜘蛛は飛ぶそうで。


 高度4000メートルの高さで飛んでいる蜘蛛が発見された事もあるらしい。


 雲よりも高い場所にいる蜘蛛。

 なんてザラにある事のようだ。 


 さて、話を戻そう。思考を戻そう。


 で、この天高く蔓延る大量の抜け毛達はドコまで続いているのか。


 糸にのって飛ぶ蜘蛛が高度4000メートル。


 それよりもこの壁が、高いのか、低いのか分からないが、1000メートルは超えていそうだ。


 うん。


 「この壁は超えられない」


 壁の先が見えず、抜け毛はすぐそこにまで迫っていた。あきらめの言葉しか出てこない。


 せめてもの抵抗に、カンナさんがくれた[カーボ・コート]の中に隠れてみるが、ソレは無駄な徒労だった。


 抜け毛の壁に突っ込んだ僕の体に、炎の抜け毛が突き刺さる。


 内部に浸食した炎の抜け毛は、その体に貯め込んだエネルギーを一気に解放した。


 焼ける、というより消滅と言い換えていい破壊行為が、僕の全身で行われる。


 腕が消え、足が消え、燃えるを越えた、急激な燃焼、爆発が、僕の意識を刈り取っていく。




 最後に、花火の音を聞いたかと思うと、僕は、プレイヤーストーンの前にいた。


 爆発して死んだのだ。


 「…………………………帰ろう」


 僕は目線操作でログアウトを選択する。


 そして、決意した。


 「もう二度とやんないぞ! こんなゲーム!!」


 一日で味わった壮絶な2回の死は、ぼくの心にトラウマを植え込んだ。


 主人公のカッコいいセリフ<<<死亡フラグのセリフ


 ルーズ「優先度がおかしいニャー」

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