第55☆
久々の更新です。ご心配をおかけしました。
以下、前回のあらすじ
森の中で少女の悲鳴を聞いた主人公は、颯爽と少女の元へと駆け付ける。
魔物が出たかと主人公は、身構えるが、コビット族の少女、カンナが悲鳴を上げた理由は、黒い邪神、つまりゴキ○リを見たためだった。
カンナを村へと送らなくては行けなくなった主人公だったが、黒いヤツは、大量に群れて、カンナの村へ行く道を塞いでいた。
その黒い川を越えるために、主人公は新スターの【調木】を使い、虫よけの煙が出るアイテムを大量に作ったのだった……
「おお! カンナ。よく無事に戻ってきた。森からまるで抜け毛のような煙が出ておったから、火事に巻き込まれたかと思って心配したぞ」
と、少しだけ白髪を残したおじいちゃんが、黄色と赤とピンクがタイル状に並べているようなデザインのワンピースを着て、虹色の布で出来た建物から出て来た。
ココはコビット族の村、アーク。
僕達が越えて来た、黒い閃光の川をまっすぐ東に進んだ所にある村だ。
人口は100名ほどで、色彩豊かな布が主な名産だそうだ。
その布で家も作っていて、熱に強く、レンガや木で出来た家よりも快適とか。
この村を越えた先に、僕の目標の一つ、ウルトラマリンの大岩がある。
「ご心配をかけて申し訳ありませんでした。はい、[桜の蜜]です」
あははと笑いながら、黄色いポーチを白髪のおじいちゃんに渡すカンナさん。
僕も笑いながらカンナさんの横に立っていた。
笑うしかないだろう。
僕達の後ろ、森の方では、正確には、黒い破壊光線の近くでは、白い煙がもうもうと立ち込めている。
けど、この煙は火事ではない。
では、何かと言うと、コレは、うん。
はい。
僕達のせいです。
ブラック・フォース・ブリザード(見ただけで死にたくなる)を越えるために、大量の虫よけ魔玉を、カンナさんと一緒にきゃーきゃー言いながら投げまくった結果です。
一歩踏み出すごとに魔玉を地面にぶつけて、白い煙で黒と光の皇帝の姿を見ないようにしてなんとか突破しました。
30秒しか煙を出さないはずの魔玉が、なぜ今も煙を発しているのか分からないが、結果として、山火事のような大量の煙が立ち込める事となりました、っと。
反省はしている。後悔なんてしない。
とにかく、そうやって地駆黒閃を越えた僕達は、カンナさんの村の村長さんへ[桜の蜜]を届けに来たのだ。
つまり、このカラフルなワンピースを着ているご老人が村長さんです。
ハゲたおじいちゃんがワンピースを着ている。
違和感を感じまくる組み合わせだが、実際見るとそこまで不快ではない。
おじいちゃんが小学校1年生くらいの大きさだからか、なんか可愛く見える。
これが成人男性。例えばノゲイラとかだったら殺意を覚えるんだろうけど。
「おお、よくやってくれた。先日の抜け毛のような事件で[桜の蜜]もだいぶ使ってしまったからのう。これで、村の若い衆も元気になるだろうて……おーい、タケル」
ニコニコと笑いながらカンナさんが持っていた黄色いポーチを預かり、人を呼んでポーチを持たせた村長さん。
村長さんに呼ばれて来た人は、背は小さいが見た目は20代の若くて健康的な男性だったのだが、村長さんやカンナさんのようなカラフルなワンピースを着ていた。
不思議と似合っている。着なれているからだろうか。
村長さんに呼ばれた、タケルさんは、僕達を見ると軽く一礼して、足早にどこかへ去っていった。
急いでいるようだ。
「さて……これでまずは一安心。そして、すみませぬな、旅のお方。挨拶が遅れて。私は、このアークの村で村長をしているジョンと申すモノです」
ジョン! まさかのジョン! 村長がジョン!
……いや、いるんだろうけど、なんか違う。
名前がしっくりこない感じだったが、挨拶をされたのだ。僕も返す。
「秀……ああ、えーとサクと言います」
つい、本名を名乗りそうになった僕。前もあったな。
AIも現実で使われている奴と遜色無いし、景色もリアルだから、ついゲームの中だということを忘れてしまう。
まぁ、RPGだから、コレくらいのめり込める方が楽しいか。
「サク様ですか、サク様は……[冒険者]の方ですな? 魂が、大地に根付く世界樹のような力強さに満ちてらっしゃる。あらゆる抜け毛が来ても、越えていけるような頼もしさを感じますなぁ。さすが、境界の岩壁を越えてきただけのことはある」
ふむふむと、関心したように頷くジョン。
冒険者って魂が違うのかーって思いつつ、いや、それよりも、なんかさっきから、村長の言葉が気になる。
抜け毛?
「抜け……ぶふ!?」
来た当初から思っていた、村長の謎な抜け毛を使った例えに対する疑問を口にした途端、カンナさんから思いっきりみぞおちにアッパーを喰らった。
膝から落ちる僕。
なんで!?
「……大丈夫ですかな? サク様? 抜け毛のような顔をされておりますが……」
「ああ、大丈夫みたいですよ。森で煙を吸い過ぎたみたいで、あはは」
と笑うカンナさん。
ぐ……訳が分からないよ。
痛みでお腹を押さえている僕に、カンナさんは耳打ちし始めた。
「(いい? 村長の前で抜け毛って言ったらダメだからね?)」
「(なんで?)」
本当に訳が分からない。村長自身が使っている言葉なのに。
「(村長、抜け毛にトラウマがあったらしくて、あの口癖はソレの裏返しなのよ)」
「(以前息子のタケルさんが指摘したら、本人は無自覚だったみたいで三日三晩『抜け毛がぁ~抜け毛がぁ~』ってうなされたの。それ以来、村長の前では、抜け毛って言葉は禁止なのよ。分かった?)」
「(……わかりました)」
正直よく分からなかったが、なんだろう。抜け毛のトラウマって。そんなに激しく抜けたのか? そら恐ろしいが。
「……大丈夫ですかな?」
抜け毛の村長……抜け毛のジョンが心配している。
無理して起き上がる僕。
「大丈夫です。ところで、この村の先に、群青色の岩に行くための道があると聞いたのですが」
歩きながら色々カンナさんに村の事を聞いていた僕。
アークの村は、あの山の頂上に燦然と輝く群青色の岩を、エリアス様と呼び、崇拝しているそうで、あの岩の所へ行くには、村からしか行けない決められた道を通るしかないそうだ。
ただ、その道は今通れないらしい。なぜなら、
「ええ、しかし今は通れません。エリアス様をお守りするアーク村の者として、情けない話ではありますが……その様子では、カンナからすでにお聞きしているようですな。今、村は抜け毛のような危機に瀕しています」
「この村の南西には、30年前に賢者様によって封印された凶悪な、抜け毛の権化とも言うべき魔物がおります。その魔物に掛けた封印が近年弱まっていましてなぁ、徐々に魔物が封印を押し広げ、この村に近づいて来ておるのです。先日も、畑への道を塞いでしまった封印を元に戻そうとして、村の若い男たちが皆大ケガを負いました」
「そこで、サク様を優秀な[冒険者]と見込んで頼みがあります。どうかこの村に迫る抜け毛のような危機から私たちを救ってはくださいませぬか? 封印をかけてくださった賢者様も、行方が知れず、私たちに打つ手は無いのです。畑への道が塞がれた影響で、魔蚕に食べさせる野菜も採れないので布を織ることもできず、私たちの明日の食料さえ心配しなくてはいけない状況ですから、大したお礼は出来ぬでしょうが、最大限のお礼はさせていただきます。どうか、どうかあの抜け毛を退治してくだされ。お願いいたします」
深々と頭を下げる村長。
拳が震えている。
本当に、ギリギリなのだろう。
必死さが伝わってくる。
抜け毛という言葉で全てが台無しだが。
絶望とか恐怖とかに置き換えればいいのかな?
まぁ、そんなことはさておき。
「分かりました。その魔物は、僕が退治しましょう」
了承する僕。
困った人を助けるのは当然だ。
ってかゲームだから助けないと話が進まないし、ソレにワクワクする。
だってそうだろう?
遂に、だ。
やっとゲームッぽくなってきた。
RPGの醍醐味。メインディッシュ。
ボス戦だ。




