第53☆
「やっぱ澤木さんええ人や~。最高や~」
僕は上機嫌で、森を歩く。
キャンペーンのコードでスター引換券を3枚手に入れた僕は、さっそく3つのスターと交換した。
ノゲイラとの戦いで欲しいと思った、スター二つと、これからあると便利そうだと思ったスター一つだ。
そして、今僕がいるのは、フルーツリーの森にある餓死の川(僕が命名)を越えた先にある、森の中だ。
さっきは、テンションが上がっていて、よく森の観察が出来ていなかったから、気分も良いので少し散策中である。
けど、地図にも、この場所はフルーツリーの森と表示されるし、採取出来るアイテムは、フルーツリーの森と大差は無い。
少し、出来の良い果物が多いくらいだ。
「っと、もう着いたか。岩の壁……どうやって登るかなー」
森を抜けた僕の目の前には、巨大な岩の壁がそびえ立っていた。
なんで、こんな巨大なモノを棒高跳で飛び越えようとしたのだろう。
自分でも不思議である。
「ハイテンションって恐い」
アイテムボックスから【美味しそうなミックスジュース(錬金)(ブドウ&リンゴ)200ml】を取り出して飲みつつ考える。
岩壁はゴツゴツしていて、頑丈そうではあるが、ロッククライミングの要領で登るのは難しそうだ。
たとえ猫のお守りを装備しても、厳しいだろう。
「んーやっぱり、アレを使ってみるのが一番かなー」
僕はジュースを飲みほして、あるアイテムを装備する。
【エルフの鉤爪】
[アイテム] エルフ族に代々伝わる道具。聖黄金で出来た鉤爪は持ち主の思う通り食い込み、その身を固定し、聖銀で出来たロープは持ち主の意思と能力を反映して自在に伸び縮みする。
昨日、エルフのアスクさんに貰ったモノだ。
キラキラと煌めく銀色のロープに、黄金で出来た鉤爪が付いている。
しかし、黄金の鉤爪は不思議と重さを感じることは無く、ロープはまるで滑らかな最高級の絹を触っている感覚だ。
「これで、アスクさんは50メートルくらいまで登ったんだよな」
ヒュンヒュンと鉤爪を回す僕。
高所恐怖症のアスクさんが、あそこまで登れたという事は、多分このロープ、50メートルは伸びるはずだ。
そうでないと、アスクさんはあそこまで登れていないだろう。
岩壁のなるべく高い位置。頂上を目指して僕は鉤爪投げた。
はじめは、ハンマー投げの要領で、体を回転させながら、雄たけびを発しつつ投げようかと思ったが、自重した。
陸上ネタで失敗したばかりだ。
僕が投げた鉤爪は、ぐんぐんと飛んでいく。
「すげー。めちゃくちゃ飛んで行く……」
自分で驚く僕。
エルフの鉤爪は、確かに重いはずなのに、手に重さを感じにくくて、投げたらどこまで飛んで行くのか自分でもよく分からなかった。
鉤爪は勢いを落とすことなく空を飛び続け、グングン上昇していく。
すでに岩壁の高さは越え、鉤爪は点になり、天へと登って行って……
「いやいや、十分だから! 戻ってこい!」
慌ててロープを引く僕。
なんか、このまま月まで飛んでいきそうな恐怖感があった。
ゲームだからってやりすぎだ。
鉤爪は残念そうに落ちてきて、岩壁の頂上付近に落下した。
ロープをクイックイッと引く僕。
しっかり鉤爪は岩壁に食い込み、固定されているようだ。
「……これ伸び縮みするんだよなー」
説明に書いてあった事を思い出す僕。
銀色のロープを体に巻きつけ、両手でしっかりと握った。
これで大丈夫かな?
「縮め!」
一言僕が発すると
「うわぁ!?」
ロープが急に縮んだ。
「ひぃいいいいい!?」
100メートルの高さを、恐ろしいほどのスピードで上がっていく。
「うわっ……た!?」
岩壁の頂上まで来たら、上に引く力が無くなり、ふわりと疑似的な無重力状態になった。
そして、そのまま、1メートルほど下の岩壁の頂上に着地する。
「はぁ……はぁ……」
僕はがくりと膝を着いた。
「こ……こ……」
膝ががくがくと震えている。
ロープの縮む力を利用して上昇するって、要はただの逆バンジーである。
100メートルの高さの逆バンジーなんて、遊園地にあれば一番の絶叫アトラクションだ。
竹槍の時は自分で持ってやっていたからまだ良かったけど、エルフの鉤爪での100メートル上昇はダメだ。
他者に委ねている感が大きすぎる。
つまり、僕が言いたい事は……
「恐かったーーーー!!」
僕は仰向けでその場に倒れ込んだ。
「よっと」
エルフの鉤爪を使い、とうとう岩壁の向こう側へ来た僕。
ロープを少しづつ伸ばして降りてきたから、時間はかかったが、無事に着地出来た。
……ノーロープバンジーの後に、逆バンジーをしたんだから、普通のバンジージャンプもしろだって?
断る! バンジーが好きな男など存在しない! だからどこかの部族の儀式で、度胸試しとしてやっているんだろ!
と内なる自分の声にツッコミつつ。
「……ここが岩壁の向こう側かー」
景色を見る。
フルーツリーの森とは違う、どこか禍々しい木々が生い茂っていて、その先に補正された道が見える。
道は山の中腹で3つに分かれている。ただ、その3つの道にいく前の道が、やけに黒いのは気になるが。
「アスクさんが言っていたし、やっぱり人がいるんだな」
マキに事前に聞いていた情報と違う事に少し疑問を感じつつも、僕は森を進んで行く。
「食べれそうな果物とかはないな。桐とか松とかばっかりだ」
試しに一つ、形の良い枝を折ってみる。
【百年魔桐(松)】[素材]100年以上魔力を吸収して成長した桐。帯びている魔力によって様々なモノに加工できる。対虫効果(大)対腐効果(大)
……(松)ってなんだ! 桐なのに松ってややこしいだろ!
と、アイテム欄に心の中でツッコんでいると
「キャーーーーーー!!」
と森の静寂を引き裂くような、少女の悲鳴が聞こえた。




