第51☆
「本当に、その条件で俺はアンタ達……いや、レイカさんと一緒に冒険出来るのか? ギルドに入れるのか?」
赤い髪の少年が、緑色の髪を七三に分けた真面目そうなメガネの少年に聞く。
「ええ。ッハックシュ! 我々の仲間になる資格を、ックシュ! 強さを見せてくれさえすれックシュ! 我々は何人たりとも受け入れックシュ! あ゛―、安心してください」
と鼻をすすりながらニコリと笑うメガネの少年。
「……大丈夫かアンタ」
赤い髪の少年がメガネの少年を心配すると、
「ああ、大丈ッショ! はは、現実でも鼻炎持ちで苦労してますッション! けど、ゲームでもッション!! なるなんて、12☆Worldってリアルッション!!」
ハハハと苦笑いするメガネの少年
「……まぁいい。じゃあさっさと連れて行け。メンバー2名との決闘で15分間生き残る。やってやるよ!」
「ふふ、元気が良いッション! 羨ましいです。ではこちらへどうぞ」
メガネの少年と、赤い髪の少年は広場を出ていった。
という光景が、僕の、秀早紀 桜の目の前の階段で繰り広げられていたのを聞きつつ、僕はプレイヤーストーンを起動して、武器の出品一覧を見ていた。
「……やっぱり、刃殺【蒼鹿ノ角】はないか。直接お店に行くしかないな」
しかさんが出店しているお店の場所を地図に表示して、僕は広場を出た。
広場から、軽めのランニング(それでも、現実の僕の全速力、時速30kmくらい)で、10分ほど南東に向けて走った。
(ここらへんのはずなんだけど……)
中央の街の南側は、高級住宅街と言うだけあって、綺麗に整理された町並みで、木々や花々が景色を彩っている。
しかし、そこに、人の気配はほとんどない。
一軒、10万B~という高額の物件が並ぶこの南のエリアを利用する人は、まだ少ないようだ。
南のエリアは、展望台や、図書館、教会を中心に、東と西の二つのエリアに分かれる。
西側は、ゲームを攻略する攻略組と言われるプレイヤーがギルドの拠点を構える事が多く、東側は生産組と呼ばれる、武器や防具、アイテムなどを販売するプレイヤーが多いそうだ。
まぁ、西にモンスターが出て、東で生産に使うアイテムが手に入るので、こうなるのは当然と言えば当然だろう。
さて、そんな中でしかさんのお店は、南東から、西に近い、ほぼ真南の所にある。
攻略組の人達が、装備を買いに来やすいようにとの考えからだろう。
しかし、そのような場所は、もちろん高級住宅街の中でもさらに高級に分類される所である。
そんな高い場所にお店を構えている事からも、しかさんが一流の生産組であることが伺える。
「……ここらへんのはずなんだけどなぁ」
地図を見ながら、辺りをキョロキョロと見回すボク。
すると、正面に、人の気配を見つけた。
だいたい、100メートルくらい先の角を右に曲がった所に、人がいる気がする。
僕は、その人にお店の場所を尋ねようと、角を曲がった。
そこには、人がいた。
うん。いた。めっちゃいた。
僕の目の前には、道いっぱいの人 人 人。
数十人が、ズラリと整列していて、その列の先の方を見ると、角を左に曲がった先にも、行列が出来ているようだった。
「ハァーイ。ボクも並ぶなら整理券を受け取ってね」
列の最後尾にいた、胸元が見える赤いレオタード姿に、鹿のような角を生やした金髪のお姉さんが、語尾にハートが浮かんでいそうな甘い声で、僕に話しかけて来た。
顔が異様に整っているから、おそらくNPCだろう。
「……えっと、これ、皆なんで並んでいるんですか?」
整理券を受け取りつつ、鹿のお姉さんに尋ねた。鹿のお姉さんって時点で、なんとなく察しが付くが。
「あらん? そんな事も知らないでココに来たの? 今日は、私たちのご主人さま。天才クリエイター しか様のお店、ディアホースのオープンの日なの。しか様の武具はデザイン性、性能、共にとても優れていて、一流のトッププレイヤーにもファンが多いのよぉ」
うっとりとした顔で語る鹿のお姉さん。
「けど、しか様のお店は会員制でね。今日だけはオープニングセールとして、限定120名様まで、来店してくれた皆さんにアイテムを販売するんだけど、明日からは、しか様の武器や防具を持っている人、レアで良質な素材の提供者。もしくはその人達が紹介したにしか商売をしなくなるのよ。だから皆、こうやって並んでいるの。わかった?」
じゃあね、と笑いながら、鹿のお姉さんは僕の後ろに並んだ人に整理券を配る為に去っていった。
しかさんってそんなに人気の人だったのか、と僕は関心しながらお姉さんの話を聞いていた。
(なら、なおさら、しかさんの武器、刃殺【蒼鹿ノ角】を手に入れないとな。いや、こうなったら何でもいいから手に入れないと……)
と僕は決心して、整理券を見た。
そこには
整理番号7649番 と書かれていた。
僕は諦めた。




