第50☆
「……ほんと、よく死ぬね」
マキが苦笑いしながら、ご飯を口に運ぶ。
今日のメニューはシンプルに肉と野菜の炒め物に、豚汁、トマトとチーズのカプレーゼだ。
うん、準備する気力が無かったです。
100メートルの高さからノーロープバンジーですよ?
しかもそのまま地面に激突。
人に抱きつくギリギリの所でしたよ。
ホント。
なんとかこらえて、マキと一緒にお食事中ですよ。
「まぁ、死んだらステータスも上がるし、いいじゃん」
トマトとモッツァレラチーズを口に運ぶマキ。それにはすでにゴマ油がかかっている。
「もっとも、ステータスとかレベルって、強さにはあんまり関係ないんだけどね、ニボシだと」
キャハハと笑うマキ。
「 じゃあ、よくないだろ!……てか、よくそのレベルやステータスがニボシだと関係ないって言うけど、それどういう意味だ?」
以前から思っていた疑問を口にする。
ゲームだろ? レベルやステータスの向上で強くならないなんておかしいだろ。
「関係ないんじゃないよ。あんまり、関係ないんだよ。ニボシは、VRMMORPGなんてジャンルに分類されるけど、やっている事はアクションだからね。プレイヤーの技量に左右されるし、VRだから、のうりょくも重要だしね。まぁ、序盤はステータスの高さでのゴリ押しでも行けるし、レベルによって装備出来ない武器とかあるから、強さに関係ないわけじゃないよ。ただ、トップに立つためには、のうりょくをドコまでコントロールするかにかかっているね」
豚汁をすすりながら、箸を持ちつつ人差し指で僕を指差すマキ。
なんでポーズを決めている。てか人に指を差すな!
「ぎゃん!」
ポカリとマキの頭を叩く僕。マキのしつけは僕の役目だ。
「痛い! 何すんの!」
「人に指を差すな! 前も言っただろ!」
「なんで人に指を差しちゃいけないのよ! 先生とかは、問題を当てる時、私達に指差しで指名するじゃん!」
ぐ……! そういえばなんでだろ? なんで人に指を差しちゃいけないんだ?
真摯にお兄ちゃんでありたい僕。
マキの疑問にはしっかり答えてあげたい。
けど、なんでだろ?
人に指を差されると、確かに不快な気持ちに……なる時と、ならない時があるな。
「それは、見下しているからよ」
うんうんと僕が悩んでいると、僕の後ろから声が聞こえてきた。この声は……
「サキか、帰っていたのか」
サキだ。マキのお姉ちゃん。僕に対して、女王様のような態度を取る奴だ。
制服姿で、部活帰りだからか、髪はゴムで簡単に一つにまとめたポニーテイルで、メイクはほとんどしていない。
しかしその人形のような白い肌は、そこら辺の気合いを入れてメイクをしている女性よりも綺麗に見えるから性質が悪い。
「ええ、今日はちょっと用事があってね」
人形のように無表情で答えるサキ。
こいつは基本無表情。ある条件で変わる時があるが、僕がソレを見る機会はもうないだろう。
「ふーん。そっか、お帰り」
聞き流す僕。用事って何だろうと思うが、いちいち聞かない。プライバシーだしな。
必要な事はちゃんと言うだろうし。
「サキ姉ぇお帰りー。ところで、見下しているって?」
肉野菜炒めを口に運びつつサキに問いかけるマキ。
たしかに、指を差すことがなんで?
やれやれと呆れたように、肩をすくめつつ、僕の隣に座るサキ。
マキ達の家のテーブルは4人掛けだ。茶色の少し高級感あるテーブル。
僕が幼い時張った、シールの跡なんかも残っている。
「さっき話していた内容よ。なんで人に指を差しちゃいけないのか。指を差すって行為には、目下のモノに対する指示とか、強制とかの意味が含まれるの。だから、見下したいと思った人以外に、指を差したりしない方がいいわね」
「ふーん。じゃあ、私はサク兄ぃを見下したいから、指を差していいのか」
マキはサキにご飯をつぎながら言った。
「なんでだよ!」
怒る僕。なぜ妹的存在に見下されなくてはならない。
「だって、さっきみたいなサク兄ぃの困った顔とかカワイイじゃん。見下せるなら見下したいよ。泣きそうな時の顔とかたまんないね」
豚汁を注ぎ、サキに渡しながら言うマキ。
「まぁ、それには全面的に賛成だけど」
ありがと、とマキにお礼を言いながら賛同するサキ。
「賛成なのかよ!」
なんだよ!この姉妹! 僕のせいか?僕が真摯に兄になりきれてなかったからか?
ってか真摯ってなんだ!
世の中分からない事が多すぎる!
「まぁ、どちらにしても、人に指を差すのはあまり良い行為とはいえないわね。見下すって事以外にも、呪い的な意味もあるって話だし」
豚汁を口に運びながら続けるサキ
「呪い?」
首をかしげる僕。なんで、指を差すのが呪いなんだ?
「ええ、呪いも、「死ね!」とか、「不幸になれ!」って思ってかけるでしょ?だから、ある種の指示や命令、強制のようなモノだとも言えるのよ。ほら、ゲームとか、ファンタジーの映画とかだと、呪文って、指先から出たりするし」
「指って人間の中で一番感覚神経が通っている部分だし、ソレを相手に向けるってのは、自分の意思を相手にムリヤリさせようとする本能的な動きなのかもね。だから、気安く人に指をさしちゃいけないのよ。意思の押し売りほどメンドクサイ物はないでしょ?」
と、テキパキと食事をすませつつ解説したサキ。
相変わらず、こんな知識どこから仕入れているのか謎だ。
「ごちそうさま」
両手を合わせて食事を終了するサキ。
早いな。まだ5分もたっていないぞ
サキは素早く食器を片づけて、2階へ向かっていった。
「なんか、慌ててたな」
用事って、部屋でするのか。
何をするんだろう。
そういえば、サキの部屋に、プレエク3があったな。
まさか、デートか?
VRを使ったデートは、カップルに人気のデートの一つだ。
世界一の夜景を見ることも、遊園地を貸し切りにすることも、月面から地球を見ることも、VRなら可能だ。
二人っきりになることもできるし、ファンと言う名のストーカーが多いサキがデートをするなら、VRが最適だろう。
(サキが、あのネズミとデート、か。……嫌だな)
嫉妬とかじゃなくて、あのネズミが身内にかかわっていると思うと、ムカムカする。
けど、僕にサキの彼氏をどうこう言う資格はない。
恋愛は自由だろう。
なんて事をぼーっと考えていると、何か視線を感じた。僕の正面からだ。
見ると、マキがうんうんと力を入れながら僕に人差し指を向けている。
「……さっき人に指を差すなって言ったばかりだろ。何してんだ?」
「私にキスしてーって呪いをかけているんだよ」
「アホか」
呆れて怒る気にもなれない僕は、窓から空を見た。
綺麗な天の川。
ココは田舎だから、星は良く見える。12☆Worldの夜空には敵わないが。
なんとなく、天の川に向けて指を差した。
呪いか。
なら、こう言わざるおえない。
「リア充爆発しろ」
言ったあとで、よくよく考えると、天の川のカップルは、一年に一度しか会えないのだから、別にリア充ではないのかと思い、そして、僕の家、半径500メートルの地点で張り込みをしているストーカー共からしたら、僕はリア充になることも失念していた。
人を呪わば穴二つ。
そのことを、この後に、僕は知ることになる。




