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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月7日(木) 七夕☆岩壁☆炎の羊
51/85

第49☆

 【黄金の竹槍(翁)】を肩にかける。


 僕の10メートル先には、幅15メートルはある川。


 落ちたら餓死する川だ。


 一昨日は、この川を長さが3メートルしかないムチを使って、冒険家のように渡ろうとして失敗した。


 けど今回は違う。


 今回はこの黄金の竹槍を使う。

 よく伸び。

 竹だからよくしなる。


 僕がコレからする事に最適のモノだ。



 「ふぅー……」


 僕は呼吸を整えて、精神を集中する。


 チャンスは一回。


 落ちたらまた砂地獄の可能性。


 どうもここ最近、悪い事は、一度あれば二度あるような流れになっている。


 天丼だ。


 その流れは断ち切らなくてはならない。


 ……もう二度と砂を食べたくないんだよぉ!!


 確固たる思いと共に僕は駆けだす。


 森の中だから、助走を取る為の距離は十分とは言えないが、何とかなるだろう。


 時速50キロ以上で走れるようになっているのだ。

 10メートルでも十分加速出来るはず。


 スピードが乗る。

 景色の色が混ざり、何も見えなくなっていく。


 地面。


 消えるまであと3メートル。


 「伸びろぉ!」


 右手にある黄金の竹槍は瞬時に伸び、川の中心。

 川の底に突き刺さる。


 十分に川底に固定された黄金の竹槍を掴み、地面の端を蹴って僕は大きく跳躍する。


 「うおぉおおおぉお!!」


 重力に逆らい、黄金の竹槍を掴んでいる僕の手に自分の体重の全てが掛かる。


 僕の体は掴んだ棒が立つにつれてドンドンと上昇していく。

 それに比例して、僕にかかる重力も大きくなっていく。


 (離すなぁ!)


 落ちたら餓死だ。溺死ではない。餓死をした。

 僕はこの川に落ちる事だけは出来ないのだ。


 僕の体が10メートル程の高さに到着した時、体が軽くなった。

 越えたのだ。山場を。


 (……そういえば、この先って行けるんだよな)


 ふと、今更ながらの疑問が僕の頭をよぎる。


 いや、以前、この川に落ちた後、どうやって皆はこの川を越えているのだろうと、ネットで調べてみた事があったのだが、その時は一切その情報が出てこなかった。

 てか、フルーツリーの森から先の攻略情報は、ドコを調べてもみつからなかった。


 200万人がプレイをしているゲーム。

 僕だけがフルーツリーの森に来て、その先へ進もうとしているなんてあるわけがない。

 僕ごときが初日でフルーツリーの森に来ていたのだ。


 いくらβテストで何のイベントもなかった東の森でも、調べる人物はいるはずだ。

 ならば、トップクラスのプレイヤー達は、もうすでにこの川を越えているはずである。


 ……この川が越えられる設定になっているなら。


 「……いや、まさかな」


 川の中心で、僕の体の動きが止まる。

 

 「……いやいや」


 一瞬の静着。


 その後、僕の体は、跳躍した際に望んだ場所へと落ちていく。


 (どうなる? どうなる? どうなる?)


 頭の中が不安と恐怖で一杯になる。


 もし、この先がまだ行けない設定になっているなら、僕はどうなるのだろう。


 見えない壁かなんかにぶち当たって、そのままズルズルと下へ、川へと落ちていき……


 「砂を食べるのは嫌だぁーーーー!!」


 目をギュっと閉じる。


 ――――――…………


 どうなった?


 僕はおそるおそる目を開けた。


 僕の視界にまず広がったのは、茶色い地面で、その次に、握りしめた黄金の竹槍。


 そして、十数キロ先に見える岩壁。


 「越えたああああああ!」


 両手を握りしめて拳を作り、ガッツポーズをとる僕。


 800m走で自己記録を上回った時よりも大きな感動が僕を包んだ。


 僕は越えたのだ。川を。


 超越したのだ。一度あった事は二度あるジンクスを。天丼を。

 僕は天丼を越えた男になった。


 「もう、何もこわくない」


 手頃な岩に右足を乗せてつぶやく僕。

 コレはストレッチだ。


 他意は無い。


 左足のアキレス腱を伸ばしているだけだ。


 準備は念入りにしなくてはならない。

 なぜなら、次はいよいよ本番。

 岩壁越えだからだ。


 陸上部


 竹の棒


 高い壁


 この三つがそろったのだ。


 ならばやることは一つしかない。


 「棒高跳だ」


 ストレッチを終えた僕は、駆ける 駆ける 駆ける


 木々を越え、岩を越え、ひたすらに走る。


 目指すは、100メートルを越える岩壁。


 通常の棒高跳の世界記録は7メートル程。

 100メートルの岩壁を棒高跳の要領で越えようなんて無茶な話だ、と思うだろう。


 しかし、案外そうでもない。


 100メートル走などの陸上競技は、通常、己の肉体に左右される。

 鍛え上げた肉体。その筋肉を最大限に発揮する動作。人間の体の限界を突きつめていった者が勝者となる。


 陸上競技の世界記録が更新されるという事は、人間の肉体が進化しているといっても良い。


 そんな陸上競技で、唯一例外と言ってもいい競技がある。


 それが、棒高跳だ。


 この競技は、人間の肉体の進化と共に、別の進化が起こることで、爆発的に記録が伸びる競技だ。


 それは、棒の進化。


 つまり、人間の技術力の進化によって、飛べる高さが変わってくる競技だ。

 だから、アメリカとかの先進国が、この種目強かったりするのだが。


 昔、それこそ、オリンピックが始まってすぐぐらいは、棒高跳には木が使われていたそうだ。

 その後、竹になり、鉄、グラスファイバー、カーボンとなり、今は……確か、生体素材とか何とかだったと思うが、とにかく、棒に使われる素材によって、棒高跳の記録は大きく違ってくるのだ。


 僕の手にあるのは【黄金の竹槍(翁)】

 

 伸縮自在の棒。

 一瞬で数百メートル伸びる棒だ。

 コレを使って跳ぶのだ。

 100メートルの岩壁だろうと跳べる可能性は十分ある。


 岩壁まであと10メートル。


 (そろそろか……!)


 僕は岩壁沿いに狙いを付けてる。

 「伸びろ!」


 空気を切り裂く音がして、【黄金の竹槍(翁)】が岩壁と地面の間に突き刺さる。



「うおおおおおおおお!!! 伸びろぉおおおおお!!」


 両手でしっかりと【黄金の竹槍(翁)】を握り、僕は叫ぶ。


 その叫びに呼応して、金色の竹槍はグングンと伸びていく。


 竹槍はしなり、僕の体を空へと連れていく。


 そういえば、棒高跳は、棒として竹を使用してから大きく記録が伸び始めたそうだ。


 【黄金の竹槍(翁)】


 この最高の竹は、棒高跳の記録を、人類が未だ到達できない次元へと高めてくれているだろう。


 「おおおおおおおおおお!!」


 イケる! 大丈夫だ! なぜなら


 「僕は天丼を越えたんだぁあああ!!」


 【黄金の竹槍(翁)】から手が離れる。


 僕の目の前には空と山。

 岩壁は無い。

 岩壁は僕の後ろだ。

 越えた。越えたのだ。


 僕は100メートルの高さの岩壁を飛び越えたのだ!


 ……

 …………

 ………………





 うん。飛び越えた。

 飛び越えてしまった。

 どうも、僕は竹槍を長く伸ばしすぎたようで、そして、この岩壁。

 実は相当狭いみたいだ。


 多分、幅5メートルくらい。


 で、ソレを飛び越えた。


 うん。文字通り。


 さっきも言ったけど、岩壁は僕の背後にあるわけだ。


 つまり、僕がコレから着地する予定の場所は、地面。


 100メートル下の、ゴツゴツとした、堅い堅い、地面。

 

 そこに着地する。いや、落ちる。


 「いやぁあああああああああああああああああああああああ……………………」


 ど、どうする?

 あ、あれか?

 アレをやるしかないのか?


 五点着地。だっけ?


 上手く足から降りて、衝撃を吸収する、軍のパラシュート部隊とかが使う着地法。


 マンガ知識だけど。


 やれるか?この僕に?

 それとも、アレか?


 受け身。

 柔道の基礎。


 体育知識だけど。

 どうする? どっちをする?




 っていうか


 どっちも無理です。


 グシャリ。


 ――――――…………



 気付けば、僕はプレイヤーストーンの目の前にいた。

 そういえば、12☆Worldを始めて、ずっと繰り返している事があったな。


 初日が餓死で、二日目は刺殺。

 で、今日が転落死……


 そうか、僕がしている天丼は、死ぬこと。か……


 どうやら、僕はこの世界のルールに抗えなかったようだ。


 「ふ、ふふふふふ」



 苦い思いを噛みしめながら僕はログアウトした。


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