第47☆
(……なんか、本当にすみません)
僕、秀早紀 桜 は心の中で謝った。
世界樹の中腹で泣いていたエルフの男性を、彼が持っていたロープを使って僕の体に巻きつけて一緒に地面に降りたのだが、シカトしていたエルフっぽい男性が、まさか号泣しているとは思わなかった。
泣きながら、『美味い。美味いよぉ』と僕の背中でシャリシャリとリンゴを食べている音を聞くと、なんか、本当に申し訳なくなった。
(って、そういえばエルフってこのゲームにいないんじゃなかったけ?)
改めてその男性を見てみると、とがった耳をヘニョンと垂れさせ、金色の髪に蜘蛛の巣やらなんやら付けてボロボロになっていた。
それで泣きながら、目や鼻から色々な液体を出しているので、正直見るに堪えない様相になっている。
けど、とがった耳に金髪。
やっぱりエルフっぽい。
「……情けないと思うか? エルフが木登り出来ないなんて」
あ、自分で言い始めた。やっぱりエルフなのか。
「いえ、人によって得手、不得手があるので、情けないなんて思いませんよ」
どちらかというと、こんなに泣くまで放置してしまった僕を情けないと思う。
いや、だって初めに勢いでシカトしたら、なんか気まずいくなったし、高飛車な態度で、いかにもシカトしてくれーって感じだったから……
色々口に出さない言いわけを頭で言う僕。
やっぱりこの場で一番情けないのは僕だろう。
「そうか、優しいのだな、少年。3回も無視された時は、少年の事を悪魔の使いかと思ったが……」
体育座りのまま、足に顔をうずめるエルフ。
「いやー……」
うっ! 気まずい。
「まぁ、ソレはいい。結果として助けてくれたのだからな。しかし、降ろして貰って何なんだが、私はこの樹の頂上に用があったのだよ」
と、エルフの男性。
「この樹の頂上にある、知恵の実の王。親友の病気を治すために、どうしてもソレが必要なのだ」
エルフの男性は、悲しげな表情で、体育座りのまま、世界樹の頂上を見ていた。
樹の真ん中ぐらいの所でガクガク震えていて何しているかと思ってたら、そんな事情があったのか。
「……本当にすみません」
「いや、少年が気にすることではない。木登り出来ないエルフが悪い……フ…フフ……フフフ。こんな事だから、里から追い出される。親友も救えない……ウフフフフ」
あ、ネクラになってる。どうしよう。これだと、高飛車な態度の方がマシだぞ。
このボロボロエルフに元気になって貰おうと、アイテムボックスを探る僕。
(何か、元気が出るモノ……あ!)
良いモノを見つけた僕。
このゲームの世界で元気と言えばSPで、僕のアイテムの中で一番SPを回復させるモノと言えば……
「ほら、そんなに落ち込まないで、この金色に光るリンゴでも食べてください。元気が出ますよ?」
ピカピカ光る黄金のリンゴをエルフに見せる僕。
2個しかないけど、色々傷つけてしまった事に対する謝罪の意味も込めて、エルフに渡そうと思う。
しかし、そのエルフは、黄金のリンゴを見たまま固まって動かない。
「あ……もしかして、コレ食べれないんじゃとか思ってます? 大丈夫、効果の所を見ても食べ物って書いてありますから」
なんか、他にもグチャグチャ書いてあったなーとか思いつつ、笑いながらエルフに黄金リンゴを受け取るように見せていると、エルフはガクガクと肩を震わせ始めた。
マズイ、怒らせたか。
「し、し……」
「しょーーーーおおーーねぇーーーーーん」
「ぎゃーーーーーー」
ガバッとボロボロで汚いエルフに僕は抱きつかれた。
なんだ? 今日はそんな日なのか?
―――――――――――………………
「ありがとう。コレで親友を救える薬を作れるよ」
ニコニコ笑顔のエルフ。元気が戻ったようだ。
「はぁ、良かったっすね」
ニガニガ笑顔の僕。エルフに付いていた蜘蛛の巣やら何やらがくっ付いて、ボロボロである。早くログアウトしたい。
「さてと……少年は、冒険者で……錬金術を使っているのかな?」
と、エルフは、彼が持っていたカバンから色々取り出しつつ僕に聞いてきた。
「え、ええ。分かるんですか?」
首をかしげる僕。
「ああ、錬金術を使う者の魔力は独特だからね。全てを混ぜる、黒のような輝きを放つのさ。まぁ君の色は、他の職業も混ざっているのかな? 黒というより、群青色に近いがね」
「え! マジですか! やった!」
喜ぶ僕。僕の魔力は群青色なのか。完璧ではないか。僕には見えないけど。
「……君が何で喜んでいるのか分からないが、まぁもし魔力を見たくなったら、【魔目】のスターでも習得すると良い。他者や、モノに込められた魔力を見ることが出来るようになる」
そして彼は、明らかに彼が持っていたカバンよりも大きい、赤く輝くバスタブのようなモノを取り出した。
何だコレ?
「君も錬金術を使っているなら名前くらい聞いたことがあるだろう。これが、かの有名な【賢者の石】さ」
と、若干ドヤ顔のエルフ。
「はあ!?」
驚く僕。いや、僕も小説とかマンガが好きだから、【賢者の石】って名前くらい聞いたことあるけど、ソレって、もっと小さいモノだったり、石の形だったりで、バスタブみたいな【賢者の石】だなんて見たことが無い。
「【賢者の石】に決まった形はないからね。僕の知り合いは、杖の形にしていたし、師匠は弓にしていたなぁ」
そんな事を言いながら、色々なモノを次々と取り出すエルフ。
そのリュックサックみたいな、ランドセルくらいの大きさしかないカバンも凄いな。
「これは収納カバンさ。空間の魔法を使って、100種類まで物を入れることが出来る。君達冒険者が持つアイテムボックスと、似たようなモノさ」
とエルフ、さん。
「私としては、君達冒険者が持つアイテムボックスの方が優れていると思うがね。何もない所から物質を取り出すなんて……まぁ、ソレが一杯になったら、収納カバンを買うといい。コビット族の里なら、いいカバンが買えるだろう」
それから、僕はエルフさんに色々聞いた。高所恐怖症になった理由。親友との出会い。師匠の事。
エルフさんはNPCだろうけど、AIの‘過去’に関心を持つのがマナーだ。
なぜなら、彼らAIにとって、‘過去’は誇りだから。
そして、エルフさんの親友が、西の島で病気で苦しんでいると聞いた所で、エルフさんは準備を終えたのか、パンパンと手を叩き、カバンから離れ、赤い賢者の……バスタブの前に立った。
「そういえば、コレから何をするんですか」
僕達の周りには、キラキラ輝く水やら、重厚な光沢を放つ岩、紫色の水晶で出来た剣など、明らかに高価そうで、かつマトモじゃない品物がずらりと並べられている。
その中の人型のニンジンみたいなものが僕に手を振っている……マンドレイクって奴か?
「ああ、病気の親友のために、これから【万能の霊薬】、そうだな、エリクサーとか、不老長寿の薬とか言った方が分かりやすいかな? ソレを作るんだよ」
「へー」
「見ていると良い。君も錬金術師なら参考になるはずだ」
【万能の霊薬】か、どうやって作るんだろう?
確か、錬金術のゴールだっけ?
不老不死の薬を作ったり、鉄とかを金に変えるための学問が錬金術だったはずだ。
ソレを作るのが見れるなんて、ワクワクするな。
きっと、難しい呪文とか魔法陣とかを使って、高度で繊細な事を色々するんだろうな。
職人が何かモノを作るのを見るのが好きな僕は、エルフさんが【万能の霊薬】を作るのを楽しみに見ていた。
エルフさんは、まず、重厚な光沢を放つ岩を掴むと、ポイッと賢者のバスタブに放り込んだ。
どう見ても、雑に。
ガランゴロンと転がる岩。
「……え?」
なんか、想像と違う雑さに驚いていると、エルフさんはそこら中の材料をポンポンとバスタブに放り込む。
高価そうな物達がキラキラと輝きながら、賢者のバスタブに飛び込んでいく。
(え? いや、雑じゃね? もっと、こう。慎重さというか……あ、マンドレイクがキラキラ輝く液体を泳いでる)
鮮やかにバタフライで、銀色の液体の中を泳ぐマンドレイク。
気持ち良さそうだ。
ヒュンと音がしたかと思うと、紫色の水晶で出来た剣がバスタブに突き刺さった。
マンドレェエエエエイイイィクゥウ!!!!!
マンドレイクは上半身と下半身が真っ二つに分かれていた。
いや、もう雑とかそんなんじゃない。
最後の材料を入れ終わったエルフさんは、金色のリンゴを手に賢者のバスタブの前に立った。
その表情は真剣で、威圧さえ感じる。
ちょっと清々しさを感じるのはきっと気のせいだ。
(ああ、きっとコレからが大事なんだ。色々複雑な魔法とかを唱えてくれるぞ)
エルフさんは、金色リンゴを、様々な材料が入ったバスタブの上に掲げる。
エルフさんの体から風が巻き起こり、ソレが強大な魔力から来るものだと推察出来た。
目を閉じ、呼吸を整えるエルフさん。
そして、目を見開き唱えた。
「調合!」
ポンっと音を立てたかと思うと、エルフさんの手には、金色リンゴの代わりに、2本の赤と金色に装飾された瓶があった。
(……ガッカリだよぉお!!)
声に出せない言葉が僕の心で暴れる。
何だよ! 雑だし! 一言だし!
何を参考にしたらいいか分からない。
ただ僕のステータス画面に
《【万能の霊薬】の作り方を覚えました》とか表示されていた。
『現実よりもリアル』とか謳っているくせに、こんな所はゲームなんだな!
ぐむむ、と険しい表情を浮かべていた僕に、エルフさんは近づいてきた。
「参考になったかな? まぁ、人間の魔力では、コレが出来るようになるまで何回死ぬか分からないがね」
ハッハッハと笑うエルフさん。
ソーデスね。
「ほら、コレが【万能の霊薬】だ」
と僕に赤と金色の瓶の一本を渡すエルフさん。
中には、虹色に輝く液体が入っている。
「はぁー綺麗ですね」
思わず見とれる僕。これは、例えようにも例えられないな。見たことが無い色だ。
虹色の水と言えば、工業廃水とかを思い浮かべそうだけど、あんなのと全然違う。
なんか、自然と虹色なのだ。
「ああ、綺麗だろ? ソレは君にあげるよ」
「はぁ? い、いやこれお友達を助けるためのモノでしょ?」
思わず拒否する。コレは受け取れない。高そうだし。いくらするんだ。コレ。
「ああ、友人には一本あれば十分だろう。コレには、君のリンゴも使ってるんだし、当然のお返しさ。そうだ。ついでにコレもあげよう」
とエルフさんは、僕がエルフさんを降ろす時に使ったロープのようなモノを僕に差し出した。銀色に輝くロープの先に、金色に輝く鉤爪が付いている。
「え……? コレは?」
「コレは、【エルフの鉤爪】エルフ族が、木々に登るときに使う、聖銀の糸で出来たロープの付いた鉤爪さ。私は、もう樹に登る事はないし、君が貰ってくれると私は嬉しい」
「でも、こんな薬まで貰って、それに……」
受け取れない僕。ゲームだし、コレはイベントなんだろうと頭では思っても、簡単にうんとは言えない。日本人の謙虚さがモロに出る。それに、シカトとかしちゃったし。
「私はね、正直、100年も生きれない、知識も貧弱な人間を下等な生き物だと思っていたんだよ」
エルフさんは、微笑みながら語り出す。
「友人が、【下等な生き物なんていない。皆尊く、素晴らしんだ】なんて言って、人間のために頑張っているのを馬鹿らしいと思っていたしね。しかしね、世界樹の中腹で孤独を味わい、君に無視されて思ったんだよ。所詮私も、親友のために樹に登ることも出来ない小さな生き物じゃないか、とね。私は師匠から医学を、弱いモノを助ける術を学んでいたはずなんだが、どこかでエルフの高慢さが残っていたようだ」
「君が、知恵の実の王を持っていた時、本当に驚いたのだよ。その実は、エルフの貴族でも一部の選ばれし者しか手に入れられないモノだったからね」
「知恵の実の王を持つ人間と、震える事しか出来ないエルフ。どっちか下等なんだか……どちらにしても、ソレは君に持っていて欲しんだ。私はどうせ、もう木登りはしないし」
エルフさんは僕の手に強引に【エルフの鉤爪】を握らせた。
これは、受け取るしかないだろう。
そして、エルフさんは片手でひょいと賢者のバスタブを持ち、カバンの中に入れる。
「そろそろ私は行くよ。親友の病気を治さないと」
エルフさんはニカリと気持ちの良い笑顔を浮かべた。コウテイさんといい勝負だ。
「あ、そういえば、お名前はなんて言うんですか?」
大切な事を聞き忘れていた僕。
人の名前は大切だ。
「ああ、そうか。私の名は、アスクだ。君の名前は?」
「サクです」
「サク、か。君とはきっとまた会うだろう。そんな気がする。今度会うときは親友を紹介するよ」
「それは楽しみです。じゃあ、また」
僕は、今度はちゃんとアスクさんに言った。
「ああ、また」
そう言って、エルフさんは、アスクさんは西へと去っていった。
僕の手には、赤と金色の小瓶と、銀色のロープ。そして、
(【黄金の竹槍(翁)】、か。コレでもしかして、あの川と岩壁を越えられるんじゃないか)
もうログアウトの時間である。
この続きは明日にしよう。
しかし、色々濃い一日だった。澤木さんに笑われ、変態に追われ、エルフと仲良くなって。
(明日はもっとシンプルが良いな。さすがに疲れた)
僕は12☆Worldをログアウトした。
プレイヤー名 サク
レベル 17
HP 217/217
MP 2/85
SP 340/340 max710
頭 なし
体 布の服
右腕 なし
左腕 なし
腰 麻のベルト
脚部 布のズボン
足 韋駄天B-1212
アクセサリー 猫のお守り
武器 皮のムチ
【装備スター】
職業 旅人 Lv13
職業 錬金術師 Lv13
職業 何も持たざる者 Lv☆
調理 Lv12
走り Lv23
ジャンプ Lv12
聴覚UP Lv8
視覚UP Lv12
嗅覚UP Lv6
味覚UP Lv14
触覚UP Lv11
調薬 Lv8
【控えスター】
武器 ムチ Lv7
暴食 Lv☆
2112年 7月6日(水) 12☆World 二日目終了
09/15 サブタイトルとスター一覧を修正。




