第46☆
※このお話は12☆Worldです。
幻覚かと思われたアイツの登場。
「ヒッ!!」
突然生じた空を駆けあがっていく光に、私は情けなくも声を上げてしまう。
その淡い赤色の光は、そのまままっすぐ西へと飛んでいった。
「……誰か死んだのか」
あの光は、たしか冒険者が死んだ時に出てくる光だ。
冒険者。孤独な者を救う異世界からの旅人。
孤独な者、か。
「ウーロー……」
私はつい、一番の親友の名前を口にした。
賢く、勇敢で、弱き者、力なき者に味方する、正義の心に満ち溢れていた親友。
その名は、育ての親の名よりも、私の心に深く刻まれている。
高貴にして崇高。千代に生きるエルフ族に生まれた私は、幼い時、世界樹の樹から落ちてしまい、高所恐怖症になってしまった。
自然を敬い、木々と共に生きるエルフ族にとって、高所恐怖症になるということは、飛竜が翼を折られるのに等しいモノである。
そのような者を、高貴なエルフ族が仲間として認めるはずもなく、私はわずか10歳にして里を追われた。
10歳の子供が味わう、夜の森での孤独は、想像を絶するモノである。
孤独に恐怖して泣き叫ぶ私の前に、知恵の実を持って現れたのが、ウーローであった。
『大丈夫。とりあえずコレでも食べて、元気を出しなよ』
彼がそう言って差し出した知恵の実は、里で食べていたモノよりも甘く、美味しかった。
私はソレを食べるとすぐに泣きやんでしまった。現金なモノだと自分でも思う。
彼は、私が美味しそうに知恵の実を食べ終えるのを見た後、すぐに賢者ケイロの元に私を連れていってくれた。
ケイロは、良い人で、すぐに私を受け入れ弟子にしてくれた。
それから200年。私は、ウーローと共に様々な事をケイロから学び、大きくなった。
大人になった。立派なエルフに成長した。
「だから、泣くな」
私は自分に言い聞かせる。
ウーローが、親友が病気になって、私の前から去ったのは約30年前である。
『大丈夫』
そう言って去った彼の何かに耐えている表情が、目に焼き付いて離れない。
風の噂で、ウーローが魔物達の住む西の島にいると聞いた。
西の島で、苦しんでいると。
幸い、私を弟子にしてくれた賢者ケイロは、高名な医者でもあった。
彼に、ウーローを治す方法を聞くと、普通の方法では治す事は難しく、【万能の霊薬】が必要になるだろうと教えてくれた。
それから私は30年かけて、【万能の霊薬】の材料を探した。
いちじくの葉 聖銀の水 龍王石 百年桃 海主のゼリー 蓬莱の枝……
それら全てを集め、最後の材料を採るために私はここにいる。
世界樹の苗木。
わずか100メートル程の高さしかない、小さな世界樹のさらに中腹。
そこで私は震えているのだ。
何も出来ずに、ただ、震えて、泣いているのだ。
「情けない」
親友のために何も出来ない自分が情けなくて、涙が出て。
ただ涙を出している事が情けなくなって、涙が出て。
それの無限ループ。
「うううう……!」
【エルフの鉤爪】を使い、中腹まで登ったはいいが、ここから先は無理だった。
どんなに体を動かそうとしても、動かない。動こうとしてくれない。
もう限界だ。
誰か、誰か、
「助けてくれ」
ポツリとこぼれた孤独な言葉を
「大丈夫かニャ?」
拾ってくれる者がいた。
猫のしっぽをフリフリとさせた、人間の少年。
ここ数日。何度か、私の前を通り過ぎていった人間の少年だ。
その少年の手には、採れたての知恵の実が握られていた。あの日の親友のように。
「……とりあえず、食べるかニャ?」




