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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月6日(水) ポーション☆クサリ槍☆友情
47/85

第45☆

 

 「……ゲイ☆ボルグを返してくれ?」


 土下座していたノゲイラを起こした僕は、くわしい事情を聞いた(見た)


 『ああ。君が倒れたあと、ゲイ☆ボルグも一緒に消えたんだ。アイテムボックスの中にもないし。こんな現象は知らないが、君と一緒にゲイボルグは消えたんだ。だから君が持っているんだろ? アレは、貴重なユニーク武器なんだ。頼む! 返してくれ!』


 とノゲイラ。


 「ユニーク武器って……よく分かんないけど、僕ゲイ☆ボルグなんて持って……」


 アイテムボックスを見る僕。


 ゲイ☆ボルグってあれだよな。先ほど襲って来た時に持っていたクサリ槍のことだよな。


 盗賊でもあるまいし、他人のアイテムを僕が持っているわけ……


 「あった。なんであるんだ?」


 アイテムボックスからゲイ☆ボルグを取り出す。

 確かに、ノゲイラから没収しようと思っていたけど、アイテムの所有権まで所持するつもりはなかったのだが。

 ってかなんで殺された僕が 持っているんだろう?

 不思議に思って、僕の右手にあるゲイ☆ボルグをしげしげと眺めていたら、


 「ウホ! 良いケツ!」


 と叫びながらノゲイラが飛びかかってきた。


 「ひっ! 来るなぁ!」

 飛びかかってくる鎧武者を拒絶したいと僕は思った。

 すると、僕の意志を反映したのか、右手のゲイボルグが反応して、鎖でノゲイラの動きを封じ始めた。


 「ウホホ!? 良いケツゥ……!!」


 鎖に絡め捕られて地に伏せる鎧武者。なぜか亀甲縛りのようになっているが、そこは見ない。気持ち悪い。


 「ウホォォ……! 良い……良い……!」


 「気持ちよくなってんじゃねーよ!」


 「ウホォ!」


 思いっきり鎧武者を踏みつける。なんだこの変態。


 「けど、この武器……ゲイ☆ボルグって使いやすいんだな」


 使おうと意識して持ってみると、ものすごく手に馴染むのが分かる。

 羽のように軽いし、何をしたら、どう動くのか、武器が教えてくれる……気がする。


 試しに、鎧武者の体を10メートル程持ちあげて、叩き落としてみた。


 「ウホッォオオ!?」


 頭から地面に落ちるノゲイラ。

 足が地面から生える格好になっている。


 「出来た出来た。やっぱりコレは……【何も持たざる者】のおかげか」


 スターの画面を開く僕。


 【何も持たざる者】

 (効果)あらゆるモノを持てるようになる。さらに、あらゆるモノを装備する事が可能になり、その効果を最大限発揮させることが出来るようになる。


 いくら僕がゲームをあまりしない人物でも、レベルをカンストした時に貰えるような強力な武器が、槍のスターさえ持っていない僕に安々と扱えるモノではない事くらい分かる。


 「あらゆるモノを装備出来て、効果を最大限に発揮する、か。せっかくだし、実験してみるかな」



 そのために、ノゲイラを地面に突き刺したのだ。貴重なスターの効果検証なんて、見られたいモノじゃない。こんなPK野郎には。


 念のために、ノゲイラを縛っている鎖をさらに強く、雁字搦めにする。


 地面から


 「ウホォ……良ぃ……良ぃ……」と聞こえてきた気がしたが、聞こえないフリをする。


 「さてと、こんだけすれば動けないかな。じゃあまずは」


 【何も持たざる者】のスターを外す僕。

 すると


 「いってぇ! いや、痛くない? なんだこの感覚」


 思わずゲイ☆ボルグから手を離してしまった。

 手というか、神経が槍を掴む事を拒否したかのような、ヘンな感覚だ。


 「なんか、心臓も嫌な感じでバクバクしてるし、コレが、強い武器をムリヤリ持ったペナルティなのかな?」


 もう一度、地面に落ちたゲイ☆ボルグを掴もうとするが、槍の柄まであと1センチという所で、僕の指は動かなくなった。


 「ぐぐぐぐ……ダメだ。強力な磁石が反発しているのを無理やりくっつけようとしてるみたいだ。全然持てない」


 ゲイ☆ボルグを持つのを諦める僕。

 持てなくても、ノゲイラの拘束は解けないようで、まだしっかりと地面に生えている。


 「じゃあ、せっかくだし、専用のスターを持ってない状態で、武器を持つとどうなるのか試してみるか」


 ムチのスターを外す僕。

 そして、腰にある皮のムチを手にとってみる。


 「あれ? あんまり普段と変わらない? いや、少し重いかな?」


 ヒュンヒュンと振りまわしてみる。

 ちょっと違和感があるくらいで、問題ない。

 試しに、落ちている拳大の石をムチで掴んでみる。


 「よっ、と。うん出来た。意外と動かせるな」


 そういえば、プレイヤーの能力がゲームに反映されるとか言ってたけ。マキの奴。

 逆もまた然りとか。


 「じゃあ、僕、現実でもこれぐらいムチを振りまわせるのか」


 どうなんだろう。


 特技 ムチ


 うん。変態臭しかしない。

 スポーツでムチをしている人には本当に申し訳ないのだが。


 「そういえば、ムチのスポーツがあるんだよな。解説本でも買ってみるかな」


 実は、けっこうムチを振るのが楽しくなっている僕。

 マキには剣か槍を武器として使うように言われているが、マキと一緒にプレイする時以外はムチを使おうと思っている。


 「……そうだ。せっかくだし売っている武器でも買っておくか」


 プレイヤーストーンを起動して、仮想店舗から武器を探す。

 一通り見て、やはり剣が良いと思い、検索条件に【剣】と入れてまた探す。


 「槍はゲイ☆ボルグがあるしな」


 ええ。返す気はありません。

 セクハラしてきたし、反省の色が微塵も感じられないしな。


 けど、ゲイ☆ボルグを大っぴらに使えるかというと微妙である。

 マキの話や、昨日のギャラリーの様子を見ている限り、ノゲイラはかなりの有名人のようだ。

 てことはゲイ☆ボルグも有名だろう。

 そんな武器を僕が持っていたらどうなるか……

 うん。なんかチンピラに絡まれるイメージが簡単に出て来た。

 てなわけで、普通に売っている武器を見ているのだが


 「青銅の剣……銅の剣……うーん。イマイチだな。なんか、こうビビッと来るモノが……お!」


 武器を安い順で見ていたのだが、その最下層。現時点で高額な部類にあたる武器で僕の手が止まる。


 「刃殺【蒼鹿ノ角】か、かっけぇ」


 蒼という文字に引かれてサンプル映像を見た僕は思わず釘つけになる。


 形状でいえば、江戸時代を再現したドラマとかでよく見る十手に近い形をしているが、長い棒状の方は、日本刀のように片刃になっていて、鉤がある方はノコギリのようにギザギザしている。

 なにより持ち手の所を群青色の布で覆ってあるのがキュンキュンする。


 説明文には

 [【武器種別・短剣】《製作者 しか》攻撃力46 強度1200 ソードブレイカーのように、相手の武器破壊を目的とした頑強な武器。刃の方で斬ることも出来ます]

 と書かれていた。


 「ソードブレイカーとか、やだ。なにそれカッコいい」


 決めた!コレを買おう!

 そう思い、値段を見てみると。


 「7777B……だと?」


 ギリギリ買えない値段だった。先ほど受けとった売り上げが7200Bで、初期配布で500B。リンゴを売って210B貰い、新聞を200Bで買ったから、今の僕の所持金は7710B。

 ぐぐぐ……くやしい。


 「いや、リンゴを売れば良いんだ! 3つ! えーと売店はどこだ……」


 売店を探すためにキョロキョロと辺りを見回すと、ドドドドドと土煙りを上げて、何かが僕に近づいてくるのを見つけた。


 目を凝らして良く見てみると、ソレは鎧武者だった。


 「ウホ! 良いケツ!!」


 「ギャーーーー!」


 走ってきた勢いのまま僕に抱きつこうとした鎧武者の顔面に蹴りを入れる僕。

 吹き飛ばすことはできなかったが、鎧武者の進行を止めることは出来た。


 「な、なんでお前がココにいるんだよ」


 確かに、僕はノゲイラを埋めたはずだ。


 『窒息で死にました』


 そんな看板を掲げる、僕に足蹴にされている鎧武者。


 「ああそういう事」


 チラリと、先ほどまでノゲイラを埋めていた場所を見ると、ぽっかりと穴が開いているだけだった。


 死に戻りしたわけね。


 【何も持たざる者】のスターを装備して、ゲイ☆ボルグを構える僕。


 「で? 何の用だ?」


 『いや、だからソレを返してください』


 鎧武者が看板を掲げて必死に訴える。いつの間にか敬語だし。

 今更だが、ふっとある疑問が浮かぶ。


 「ていうか、僕がこんな事言うのおかしいけど、殺して奪えばいいだろ? 頼んでも返さないぞ?」


 『盗賊のスターなんて持ってないです』


 とノゲイラ。


 まぁ、マキの言葉で、なんとなく分かってたけど。

 ノゲイラのPKは、初心者を鍛えるためらしいし。盗賊のスターが無いとPKでアイテムを奪えない。逆に言えば、アイテムを奪う気がないなら盗賊のスターは要らない。


 でも、じゃあ、なんで僕はノゲイラのゲイ☆ボルグを奪えたんだろう?

 これも【何も持たざる者】の効果か?

 検証してみたいが、鎧武者が必死に『返してー』とアピールするのが目障りだ。土下座して、手を火が起こせるくらいこすり合わせ、十字を何回も切っている。


 僕は悪魔か!

 なんか悪い事している気分になる。

  (僕の方に正義はあると思うんだけど)

 必死に懇願されると、どうにも落ち着かない。コレが日本人の悪い癖か。頼まれると断れない。


 「はぁー……分かったよ。けど条件がある」


 ノゲイラが顔を上げ嬉しそうに『おお! なんとお優しい……』と敬うように看板を見せてくる。

 小躍りまで始めた。

 条件があると言ったぞ。僕。


 「PKした慰謝料として、その金色の竹槍をよこせ」


 ピシリとノゲイラの動きが止まる。


 やっぱり良い武器だったか。一通り仮想店舗の武器を見たが、金色の竹槍どころか、金を使った武器さえなかった。


 現実では金は柔らかい金属だから、武器にはあまり使われないが、ゲームだと強い武器は黄金だったりする。


 ノゲイラはまた土下座を始めた。


 『ソレばっかりは、ご勘弁を。この竹槍も貴重なモノなんです。思い出というか……槍が必要なら、代わりに、100000B以上の価値がある 【狐火の槍】をあげますから』


 とペコペコしながら代案を出すノゲイラ。


 僕は一歩も譲る気はない、けど、思い出とか言われるとちょっと弱いな。


 「思い出って何だよ」


 大切な友人からの贈り物とか? そんな話なら一歩譲るしかないが……


 《この【黄金の竹槍(翁)】は、第2の街でカジノのバニーガールをしているカグヤちゃんが、サイコロ勝負で勝った時にくれたモノなんです。カグヤちゃんの谷間からコレを出すためにいくら貢いだか……》


 「知るかボケー!!」


 ゲイ☆ボルグの柄の部分でノゲイラを思いっきり殴る。

 なんだその思い出! 

 てかコイツ、ゲイじゃなかったのか。


 《私はバイなんですよ。だからノー ゲイ ら なんです(笑)》


 「知らねーよ!」


 本当になんなんだ!

 この変態!


 「もう、このゲイ☆ボルグは返さない。じゃーなー」


 手を振って別れを告げる僕。


 去らせはしないとノゲイラは僕の足に抱きつき、ウホウホ必死に言っている。


 『お願いします! ソレは、ゲイ☆ボルグは貴重なモノなのです。槍スターをカンストした時のみ手に入るモノなんです。私にはもう手に入れる事は出来ないモノなんです。だから返して下さい!』


 「だから、その金色の竹槍と交換って言ってるだろ。ってかドサクサに紛れてケツを触んな!」


 僕はノゲイラの顎を蹴り抜いた。

 ウホァっと言いながら僕から手を離すノゲイラ。


 パッと見、僕が借金を取り立てているチンピラのように見えるけど、被害者だからね?


 セクハラ行為に、殺人。慰謝料何億だよ。


 「《選択》しろ。ノゲイラ。アメリカ人は《選択》する人種だろ? ゲイ☆ボルグか、金の竹槍か。どちらか決めろ」


 僕はゲイ☆ボルグを構えてノゲイラに迫る。


 ノゲイラは親切心でPKをしていたのかもしれないけど、親切がありがたいとは限らない。

 いや、ほとんどの善意からの暴力は、悪意からの暴力と大差はない。

 親切心だろうが、PKする時点で悪だ。少なくても、僕は許す気はない。


 ノゲイラは、説得は無理と判断したのか、必死に選んでいるようだ。その様子にウソ臭さは無さそうだし、ゲイ☆ボルグと、黄金の竹槍は、ほとんど同等の価値があるのだろう。


 「ウホォ……ウホォ……良いケツ!」


 ノゲイラは選択したのか、顔の前で指を忙しなく動かしている。


 すると、僕のステータス画面に《ノゲイラさんからトレードの申し入れがありました》と表示された。


 僕はトレードの内容を確認する。


 そこには

 《ノゲイラさんから、【男のブーメランパンツ(金)】とのトレードを提案されました。交換しますか?》

 と表示されていた。


 「……ゲイ☆ボルグ。コイツの骨を全身隈なく砕いた上で地中深くまで埋めてくれ。二度と見たくない」


 僕の意思をくみ取ったのか、ゲイ☆ボルグから殺意の鎖がノゲイラに向かって進行する。


 「ウホ! ウホ!」


 『冗談です! 冗談! イッツ アメリカンジョーオク!』


 牛を飲み込むアナコンダのごとくノゲイラを締め上げるゲイ☆ボルグに恐怖したのか、ノゲイラは必死に弁明をした。


 いや、最初からそんな冗談やるなよ。


 ゲイ☆ボルグの拘束を解いてやると、今度こそノゲイラは反省したのかガクガクと震えながらステータス画面を操作した。


 《ノゲイラさんから、【黄金の竹槍(翁)】とのトレードを提案されました。交換しますか?》

 と僕のステータス画面に表示され、黄金の竹槍をしっかりトレードに出している。


 僕はゲイ☆ボルグをトレードに出した。ゲイ☆ボルグが僕の手から消える。


 《トレードを終了します》と表示されたことからも、無事に交換は終わったようだ。


 ノゲイラはウホウホとつぶやきながら、肩を落としている。自業自得だろうに。


 『オキちゃんを大切にしてね』と看板を見せながら、ノゲイラは去っていった。


 ウホーウホーと叫びながら離れていくその光景は、ゴリラの別れのようで、感動は……しない。


 「悪い事したかな」

 ぽつりとつぶやく僕。

 けど、タダで返すには色々やられすぎた。


 ケツを触るな、ケツを!


 しかし、悪い事をした気分であるのは間違いなくて、ちょっと心が重い。


 「……そういえば、アイツは大丈夫かな」


 ふと、ある人物の事を思い出す。

 面白いから放置していたけど、そろそろ絡んだ方が良さそうだ。


 僕は森へ向けて走りだした。


9月9日9時更新の第45☆(4+5=9)


こんな偶然大好きです。


ルーズ「くだらんと言えばくだらんニャー」

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