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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月6日(水) ポーション☆クサリ槍☆友情
45/85

第43☆

 

 「へー、そんな事があったんだー」


 にへにへと笑いながら、マキが笑顔で相槌を打つ。

 ココは僕の家のリビング。

 僕はソファに座っている。で、マキはどこにいるかというと


 「なんでお前、僕の膝の上にいるんだよ」


 僕の膝の上で、コアラのように抱きついていた。


 「え? またツライ事があったから、ボーナスタイムかなーって」


 「ツライって言うかムカついているんだよ! どけ!」


 ていっと女子小学生を放り投げる僕。


 「ぎゃん」


 と声を上げながら飛んでいった女子小学生は、クルリと空中で一回転してスタリと着地した。


 「忍かお前は」


 相変わらずの運動神経に、思わず呆れる。


 「うん。世界最強の忍だね」


 にっこりと笑顔のマキ。少々ドヤ顔が混じっているのが気に食わない。


 「ソレはゲームの中だけだろ」


 と僕が言うと、マキは指を左右に揺らしてチッチッチとドヤ顔とあきれ顔が混ざった顔で言う。むかつくなぁ。


 「12☆Worldは『現実を超えた』ゲームだからね。プレイヤーの能力がモロにゲームに反映されるし、逆もまた然りだよ」


 「つまり何が言いたいんだ?」


 「私は現実でも最強の忍、いやクノイチなのだよ」


 エヘンと胸を張るマキ。


 僕はその胸を揉む。ほとんど皮しかなくて、気持ちの良いものではない。


 「ギャーーーー」


 もんどり打って倒れるマキ。バタバタと暴れながら胸を押さえてる。


 「最強のクノイチがそれくらいで動揺してんじゃねーよ」


 呆れつつ、僕はレモンを手に取る。予告通り、今日の夕食はそうめんだ。


 「……ピリッと電流が走ったかと思うと、私の体に甘美な感覚が広がる。まだ若く敏感な胸から発生したその至福の電流は、私の脳を揺らし、股を……ぎゃーーーー」


 対象年齢を大きく超えようとした小学生の目にレモンの汁をかけてあげる。


 「目がーー目がーー」


 「大佐みたいな事言ってんじゃねーよ。ほら、ぎゅーー」


 「ぎゃーーーーー顔がー」


 顔面がレモン汁まみれになった妹的存在。

 クエン酸で少しはキレイになっただろうか。心とか。


 「うー……まだしみる。女性の顔は傷つけないんじゃなかったの?」


 顔を洗ってきたマキが涙目で訴える。


 「痴女は女性じゃねーよ。痴漢は漢じゃねーだろ?」


 「なんか良く分かったような、分からないような……まぁ、レモンパックと思えばいいか」


 「いや、それ間違った美容法だからな」


 レモンを使ったパックは、酸が強すぎて肌を傷つけるだけらしい。


 そう考えると、さっきのお仕置きは少しやりすぎたか。


 すぐに洗い流したし、マキはアキさんの影響もあって美容にも人一倍気を付けているから、大丈夫だと思うけどね。

 レモンパックは冗談だろう。


 黒蜜を手に席に着くマキ。


 それでそうめんを食べるんだろうなー。なんだかなー。

 まぁ、そんな事はどうでもよくて。


 「そういえば、なんだっけ? なんとかの、えー、牛。えー」


 額に手を当て考える僕。なんだっけ?


 「【憤土の牛】の事? ああ、ちゃんと倒したよ」


 初めは普通にめんつゆでそうめんを食べるマキは何でもないかのように話す。


 「おお。さすがだな。心配することもなかったか」


 感心する僕。さすが、トップクラスのプレイヤー。やるな。


 「心配してくれていたんだ。ありがと」


 ニコリとほほ笑むマキ。相変わらず、こんな時の女の子の感情が分からない。


 (素人が生意気に心配してんじゃねーよ)とか思っているのだろうか。


 いや、さすがにマキはそんな事思ってないか。生まれる前から知ってるしな。

 この顔は本当にうれしい時の顔で……少し悔しそうな顔だ。

 なんかあったか?


 「けど、心配ってさ。ルーズちゃんが言ったデスゲームって冗談があったからだよね」


 「うーん。まぁそうかな」


 普通に会話を続けるマキ。何も言わないならいいか。聞くべき話でもなさそうだ。

 マキとの会話を続ける事にする僕。


 「なんでそんな冗談信じるかなー。デスゲームなんてありえないでしょ。危険なモノはゲームとして販売できないって」


 「そりゃそうかもしれないけどさ。ログアウト出来ない状態にされてデスゲームとか言われたら信じるって」


 今思い出しても腹が立つ。手の込んだイタズラしやがって。わざわざ冗談のためにログアウト不能にするなんて。


 「え? 何言ってるの? 決闘状態になったらログアウトなんて出来る訳ないじゃん」


 つるりとそうめんを口に流しながらマキは言う。


 「へ? 決闘状態ってなに?」


 首をかしげる僕。なんだその状態。


 「サク兄ぃ、ノゲイラに攻撃したでしょ? ニボシでは別にPK行為を禁止してないからね。盗賊の能力とかPK前提だし。ただ、PKをしたモノ。しようとしたものにはペナルティがあるのさ」


 めんつゆにレモン汁を入れるマキ。


 「まず一つが、プレイヤーを攻撃した者は一定時間ログアウト不能。そして、PKした際には、街の警察NPCに指名手配されて、運営の公式掲示板に晒されるんだよ。でもコレは一方的に攻撃された、した場合でね」


 つるつるとそうめんをすするマキ。


 「お互いが攻撃しあうと、PKでは無く決闘していると判断されて、決着がつくまでお互いログアウトと、他のプレイヤーに連絡をとる事が出来なくなるのさ」


 「ふーん。僕がログアウト出来なくなった理由はそれか」


 そういえば、ノゲイラの奴を思いっきり蹴飛ばしたっけ。


 僕の蹴りにダメージ判定はほとんどないはずだが、攻撃は攻撃。

 戦う意思ありと判断されたのか。


 「でも、ノゲイラが相手で良かったね」


 柚子こしょうを片手にマキは言う。


 「どこが良いんだ? 変態に玩ばれたあげく、顔面に何か突き刺さって死んだんだぞ?」


 今思うと中々壮絶な死に方である。


 「まぁ、ノゲイラにそこまでさせたのはサク兄ぃが初めてだろうけど……普段のノゲイラは、優しく死なせてくれるんだよ……いや、逝かせてくれるんだよ?」


 「言いかえるな! ヤバい意味になるだろうが!」


 同じ意味の言葉なのに、意味が違って聞こえる。日本語! 恐ろしい子!!


 「あ、ちなみにノゲイラ。素顔は超イケメンです」


 「え! それなら良かった……じゃねーよ。なんだそのいらない情報!」


 いらない。本当にいらない。


 「まぁ、ノゲイラのPK行為ってさ、初心者プレイヤーの救済でもあるんだよね。私も戦って……勝った事があるけどさ。圧勝で」


 「アイツに勝ったのか……しかも圧勝。まぁいい。てか、なんでPKが救済行為なんだ?」


 「ほら、ニボシって、能力値の上昇は行動に左右されるって言ってたでしょ?」


 ああ、そんな事言っていたけ。そういえば。


 「攻撃を上げるには武器をモンスターに当てればいいから、攻撃面は初心者でもガンガン上がっていくんだけど、防御面、HPとか防御力は、モンスターの攻撃を受けないと上がらないから、初心者は鍛えきれない事が多くてさ」


 ビビっちゃうんだよ。とマキは両肩に手を置いてブルブルと震えてみせた。


 「まぁ攻撃だけ上げても、子守の森とか牛見草原の序盤くらいまではいけるんだけど、そこから先は素早いモンスターも増えてきてね。防御を上げて無い状態で行ったら、一撃で死んじゃうことも珍しくないね」


 「だから、ノゲイラは、初心者のプレイヤーに対して、PKという名の洗礼を与えて、HPと防御力の大切さを教えてあげると同時に、能力値も上げているのさ」


 「ふーん。じゃあ、僕が狙われたのって……」


 「初期装備でフラフラしてたからじゃない? 防御力1のメ○スみたいな格好でさ」


 「なるほどな」


 そういえば、街で僕みたいな格好をしている人は少なかった。


 みんなやっぱりあのダサい服すぐに脱ぐんだな。


 「まぁ、もし新しい装備を作りたいなら……ああ。いいか、コレは」


 「ん? どうしたんだ?」


 「あーあー。いや、コレは無しで。忘れて」


 気まずそうに、そうめんをすするマキ。

 何だろう?

 コレは聞き出すべきだろうか?


 いや、ココは


 「……そうか。ならいい」


 聞かない方がいいだろう。


 何か秘密を持つということは、大人になるということだ。

 いつまでも僕に何でも言うようでは困る。

 多少の隠し事は必要だ。

 


 つるつるとそうめんをすする音がリビングに響く。外からは虫達の声。


 (夏だな)


 そういえば、そろそろ近所で花火大会があるはずだ。


 花火大会は大好きだ。

 浴衣姿の女の子が見れるから。

 ワクワクだなー……あ。


 「足が折れてる」


 「え? どうしたのサク兄ぃ?」


 「あ、いや何でもない」


 思わず声に出してしまった。


 けど、そうだ。僕絶賛骨折中じゃん。

 これでは花火大会に行けない。

 浴衣姿の女性が見れない。

 急に気持ちが沈む僕。

 

 絶望的な虚無が僕を襲う。


 ああ。この胸の空白を埋めたい。

 そうめんをすすりながら、必死に誰かに抱きつきたい衝動を抑える。


 殺された仮想よりも、浴衣姿の女性を見れない現実の方が心を傷つける。

 人なんてそんなモノ。

 現実に絶望するのだ。


 そんな事を悟った夕食だった。


 今年は浴衣姿の女の子見れなかったなー


 ルーズ「引き籠ってゲームばかりしていたからニャ」


 だが後悔はない!ゲーム最高ーーひゃふー☆


 ルーズ「だめな奴ニャ」

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