第42☆
右の道 左の道。
グネグネと、カクカクと裏道を走る僕。
普通なら道に迷って目的の場所を見失いそうだが、ステータス画面で地図を表示しているから大丈夫。
僕はチラリと後ろを見て、鎧武者がしっかりと付いて来ているのを確認する。
僕と鎧武者の距離はかなり近い。
だいたい2メートル後ろくらいに武者はいる。
槍で突かれるか、突かれないかギリギリの距離。けど鎖での自動追尾は使うまでもない距離。それを意識して走る。
(……そろそろかな)
左の狭い道を曲がった僕の目の前に、急にそれは現れた。
道を分断するように流れている幅5メートル程の水路のような川。
川の前に特にフェンスのようなモノは無いので、幅跳びの要領で軽々と飛び越える僕。
スタッと着地をしてクルリと振り返る。
「ウホォ!」
一呼吸遅れて鎧武者も、跳躍する。
高く、高く。
この鎧武者、高くジャンプするのが好きなようだ。
好都合な事に。狙い通りだ。
皮のムチをひゅるりと振り、鎧武者の右足に巻きつける僕。
さっき鎧武者にされたように。
「落ちろ!」
グン! と腕を引き、鎧武者を川へと導く。
空中でこのような事をされては、どうしようもない。
鎧武者はなすすべも無く落ちていく。
いや、何かしてきた。
「ウホォ!!」
鎧武者は手にしていた槍を僕目がけて投げて来たのだ。
けど、そんな苦し紛れの攻撃が当たるわけがない。
槍は僕の後ろの壁に突き刺さっただけであった。
「ウホオオオォォ!!?」
水しぶきを揚げながら川に落ちていく鎧武者。
鎧武者の足を引いた瞬間に手首を返して、ムチの拘束を解いていたので、僕が鎧武者に巻き込まれて一緒に落ちて行くなんてマヌケな事も無い。
「終わった……」
ふっと肩の力を抜く僕。
僕を襲った鎧武者……ノゲイラだっけか。
鎧を着ている以上、簡単に川から出ることは出来ないだろう。
鎧を外せば、泳ぐ事も出来るだろうが。
(よじ登って岸に上がるのは無理だろうな)
川の岸辺は、垂直な2メートルくらいの壁になっている。
壁を登るスターと、泳ぎのスターを持っていたら、脱出出来た可能性もあるが、二つともマイナーに分類するスターだし、持っている確立は少ないだろう。
現に、鎧武者は沈んだままだ。
(溺れて……そういえば溺れて死ぬのかな? 僕は結局餓死だったけど……けどまぁ、どっちにしても自業自得だよな。人を急に襲うのが悪い……ゲームで人を殺すなんて……PKだっけか? ただの迷惑行為だろ?)
自分の命を狙ってきた変態を助けようと思うほど、僕はお人よしじゃない。
だいたい、僕は昨日溺死しかけたのだ。
ちょっと川に飛び込むのは勇気がいる。
助けようとして尻を撫でられたりしても嫌だしな。
それに、早くマキの所へ行きたい。安否を確認したい。
(……まぁ、本当にヤバそうだったら助けるか)
……訂正。お人よしだった。すまん、マキ。
さすがに、デスゲームだと聞かされて人が死ぬのを見るのは嫌だった。
「まぁ、タダじゃ助けないけどね」
僕は壁に刺さっている鎧武者が使っていた槍の元へ向かう。
とりあえず、この武器は回収しておこうと思ったのだ。
人のモノを盗んだりするのは嫌だが、殺人鬼からその凶器を取り上げるのは話が別だろう?
助けた瞬間刺される危険性もあるし。
助けてしばらくした後、刺しに来られても困る。
コレは没収だ。
ノゲイラが反省したら返そう。
「マキから槍を買えって言われていたしな」
それに、よく考えると僕はマキがどこにいるか知らない。西の方へは足を踏み入れた事もないのだ。案内役が必要だ。
色々考えると、やっぱりノゲイラは助けた方が良さそうだ。
槍を壁から引き抜き、そろそろ水面に上がって来ないとヤバいぞ?と思いながらノゲイラが沈んだ方を見る。
ぶくぶくと泡が出ていて、まだノゲイラは水の中にいるようだ。
モーゼのように、水を割ることはできないようだ。
人の群れではできていたのに。
なんて思いつつ、水面を見ていると、何か伸びているのに気付く。
それはロープのようなモノで、ちょうどノゲイラが落ちた所から、まっすぐ僕の方に伸びてきていて……
……それは鎖だった。
「……!? マズっ……!!」
気付いた時は手遅れだった。
慌てて後ろに下がって川から距離をとるが、僕が回収したノゲイラの槍……ゲイ☆ボルグから伸びた鎖が、飢えたヘビのように僕に絡みつき、締め上げていく。
ゲイ☆ボルグを持っている右腕以外、動かせなくなる。
槍から手を離しておけよ。僕。
「グ……ガッ!?」
ギリギリと巻きつく鎖によって、口から苦しみの声が漏れる。
肉は潰れ、骨が悲鳴を上げている。
「う……ぎぃ!?」
締め付けが強くなった……
いや、違う。
締め付ける力では無く、僕を引く力が大きくなっている。
川の方へ。僕の体は引きずられている。
「ぐぐぐがぁ……!!」
落ちるのは嫌だ。
昨日溺死の恐怖を体験したばかりだ。
川にだけは落ちたくない。
右手に持っているゲイボルグを地面に刺し、鎖の力に抗う。
しかし、そうすることで、僕の体は動かなくなるわけで。
僕の体が川に近づかなくなるという事は、僕を川に引き込もうとしていたモノが近づいてくる事になるわけで。
ザバ ザバ
と、水しぶきの音が聞こえたかと思うと、そこには水まみれの武者がいた。
川に落ちた。落ち武者だ。
「ウホォ…… ウホォ…… 良いケツ…… 良いケツ……」
息を乱しながら、落ちた武者。ノゲイラが僕に近づく。
「 や ら な い か ! ? 」
突如、バーン! と高くジャンプしたノゲイラは、僕に向かって飛び込んできた。
びしょ濡れの武者が、アブナイ言葉と共に、身動きがほとんど取れない状態の自分に落ちてくる状況は、僕の生存本能を起こすには十分すぎて。
「ひぃいいい!!?」
無我夢中で、僕は突きだした。
「ウホォ……?」
右腕を。
右手に持っていたモノを。
つまり
槍を。
「ウホォ……? ウホホォ……?」
僕が突きだした槍は、しっかりとノゲイラの全身を覆っていた鎧を貫き、胸部を貫通していた。
明らかな中心。
明確な致命傷。
ガクリと槍を通して、ノゲイラの体から力が抜けた感覚が伝わる。
「え……? あ……ぁ……」
僕の右手に、しっとりとした温かい液体が流れる。
冷たいとも、熱いとも思わないその液体は、僕の体温と同じ温度で。
温かい体から流れていた、生き物の重要な構成物質で。
ソレは、十分すぎるほどリアルだった。
「あ……あああ……」
僕は思わず右手から槍を離す。
その場から離れたい衝動に駆られるが、僕の体は動かない。
鎖のせいじゃない。
震えている。
体が。
がくがくと。
不規則に。
「そんな……そんな……」
違う。コレは違う。
確かに僕は、ノゲイラを蹴ったが、ソレは違う。
アレはノゲイラが僕をおちょくっていたし、余裕があった。
そうだ。そもそも、ノゲイラが僕の命を狙ったんだ。
というか、コレ、ゲームだったよな? じゃじゃあ、アレ?
でも、確か、ソレはゲームでの死は現実での死の話って……
アレ? ソレって? ドレ?
アレもコレもソレもアレもコレもソレもアレもコレもソレもソレもアレもコレもソアレもソレもアレもコレもアレもコレもソレもアレもコレもソレもアレもコレもソレもアコレもソレもアレもコレもソレもアレもコレもソレもアレもコレもソレもアレもコレも……
チガウ。
「……僕は、殺して無い」
僕は現実を拒否した。
顔を右手で覆い。
何も見ないようにして叫ぶ。
「僕は、誰も! 何も! 殺していない!!」
右手に、温かい液体の感触がドロドロと伝わる。
その感覚が徐々に大きくなっていく。
「僕は……僕は……!」
目の中にまで、生き物の赤が広まり、世界を真っ赤に変える。
あの日のタータンのように。
赤は、絶望の色だ。僕にとって。
心の動揺を抑えきれなくなった僕は、勢いよく右手を顔から離そうとした。
右手で、鎖を引きちぎろうとでもしていたのだろうか。
自分でもよくわからなかったが、ただ、その右手は離れなかった。
刺さっていたのだ。
何かが。
右手に。
右手を貫いて顔面に。抜けないくらい、奥深く。
明らかな中心。
明確な致命傷。
ガクリと僕の膝が崩れる。
「……え?」
倒れる瞬間に、僕が見たのは、死んだはずのノゲイラが グッ!っと右手の親指を立てて、僕にサムズアップしている赤い光景で。
左手には、何か金色のモノを握っているようで、その先が僕の額に向かっていた。
そのとき思った事が、
(あぁ……生きていたんだ……良かった……)
だった僕は、やっぱりお人よしなのだろうか。
……いや、違うか。
あのホッとした感じは、お母さんにイタズラがバレなかった時と同じだ。
僕はお人よしでは無い。
……それに、今の僕は、殺意に満ちている。
「あのクソ猫がぁぁぁああああああああああああああ!!!」
ここは始まりの広場。
僕はそこで、自分のプレイヤーストーンの前にいる。
プレイヤーストーンの前で、肩をワナワナ震わせながら立っている。
そう。
僕は死んでいない。
顔面に何か突き刺さったのにだ。
理由は簡単。
以前にも一度あった事だ。
デスゲームというのは……
「ウソつきやがったなぁあああ! ルーズゥウウウ!!!!!!」
溢れ出た怒号と共に、僕の体が消え始める。
コレは、死でも何でもない。
タダの、【時間設定】でのログアウトだ。
《設定した時間になりました。ログアウトします》ときちんと目の前に表示されている。
「必ず! 必ず! ギタギタにしてやるぞぉおおおおおお!!」
新たな目標と共に、僕は12☆Worldをログアウトした。
その寸前になんか、幻聴が聞こえた気がした。
『ニャハニャハハー、天丼は基本だニャー』っと猫の声のような……
許さない……! 絶対にな!!
サクラの12☆World内での目標
☆マキのためにお金を稼ぐ(なるべく大金)
☆フルーツリーの川を超えて、山頂にある群青色の大岩を手に入れる
☆ルーズをボコボコにする New!
というわけで、デスゲームではありませんでした。
12☆Worldは永遠にデスゲームではありません。
ルーズ「デスゲームが良かったニャー。流行りなのニャー」
うるさい! 流行りに流されるな!
ルーズ「流行りのVRMMOモノを書いているくせにニャ……」
うっ……! だ、大丈夫だ。流行りといっても、他の小説とは違うはずだ。
ルーズ「違う=面白いじゃないけどニャ」
……orz
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作者のやる気が上がります。
ルーズ「やる気が上がれば、私の出番も増えるのニャー。デスゲームにするのニャー」
デスゲームにはなりません!




