第41☆
僕は格闘技の経験なんてほとんどない。
たまに、マキとかサキにフラれたのは僕の所為だと勘違いして暴走した奴を追い返す時に喧嘩をするくらいだ。
けど、その喧嘩。
僕はほとんど負けた事が無い。
それはそうだろう。
中学生、高校生くらいの、というか素人同士の喧嘩なんて、技術もなにも無いタダの腕力勝負。
体と心を鍛えている方が勝つ。
女にフラれた事を他人の所為にする軟弱者に僕が負ける要素は無い。
僕はひたすら走ってきた。
走る為に、体中を鍛えて来たのだ。
全身。くまなく。心まで。
たまに心は折れる事があるけど。
それでも常人よりも鍛えている事は確かで、特に走り続けてきた脚力には自信がある。
多分、僕の蹴りは、当たり所が良ければ腕の骨くらい折れるだろう。
そんな蹴りを、吹き飛ばされて、起き上がろうとしている鎧武者に喰らわす。
時速50㎞を超えるスピードの勢いをそのまま乗せた前蹴り。
鎧武者はまた20メートル程吹き飛ばされて、石造りの壁にぶつかる。
僕は追い打ちをかける。
追いかけてくる悪質なストーカーを撃退する方法。
執拗までに。ねちっこく。
懺悔をし。悔い改める程に。
心身に異常が出来るまで。トラウマが出来るまで。
「蹴り続ける」
相手は槍を持ち、鎧を着ている異常な殺人鬼。
デスゲームであると聞かされた以上、手を抜く……足を抜く事は出来ない。
何度も、何度も。
以前テレビで見た、ハンマーで金属を打ち、形を変える鍛冶職人のように、力強く鎧を蹴り続ける。
変えるように。鎧の中身を。
二度と僕に対して、いや、誰に対しても、このような仕打ちをして来ないように。
「おおおおあああああああああ――……!!!!」
―――――――――……………
僕は鎧武者から足を離し、距離を空ける。
どれくらい蹴り続けたのか。
鎧武者の体は石で出来た道を砕き、10㎝ほど地面にめり込んでいる。
人の体がこれほど蹴られたら、普通は死ぬ。もしくは重傷だろう。
いくら僕がまだ高校生でも、それくらいの事は分かる。
けど途中で僕は止めなかった。
なぜなら確信があったから。
鎧武者は生きている。
石と地面にめり込んで、まるで死体のようだった鎧武者が、起き上がった。
鎧武者は僕を突きたそうにこちらを見ている。
(効いてない……!)
歯ぎしりをしながら、鎧武者に突かれますか? という問いにはもちろんNOを出し、鎧武者の突きをかわす僕。
(……なんで?)
苛立ちに近い疑問が頭を支配する。
あれほど蹴り続けたのに、鎧に外傷は全くない。
少しくらい凹んでも良いだろう。材質が何か知らないが。
それくらいの力で蹴った自信がある。
なのに。
そんな力で蹴り続けたのに。
その最中に鎧武者から聞こえた言葉は、苦悶の声でも、慈悲を願う声でもなく。
『良いケツゥ♪ 良いケツゥ♪ 良いケツゥ♪ や ら な い か?』
というリズムの良い声だった。
僕の蹴りに合わせて言ってきたモンだから余計に腹が立つ!
この怒りをあのクソ武者にぶつけたいが、方法がまったく分からない。
何で蹴りが効かないんだ?
時間もあまりない。正直マキが心配だ。
早くマキの所へ行きたいが、ソレにはこの鎧武者が邪魔すぎる。
自動追尾する鎖なんて、恐い。
(どうにかして倒さないと……!)
槍を避け、鎧を蹴って、終わらない攻防を繰り返す僕と鎧武者。
住宅街にしては比較的広い場所で僕と鎧武者は戦っていたのだが、その騒ぎを聞きつけたのか、周囲に人々が集まり出した。
鎧武者の攻撃に慣れてきて、余裕が出来たのか、周囲にいるギャラリーの声が僕の耳に入ってくる。
「おい見ろよ。ノゲイラの奴またやっているぜ」
「ああ、アイツも相変わらずだな。しかし戦っている武道家のスター持ち中々やるなぁ。ノゲイラの攻撃全てかわしてカウンターで蹴っているぜ。あんな技あったか?」
「いや、無かったと思うが……格闘技の経験者なのかもな。現実で。もしくは【ハヤブサの目】持ちか。動体視力を向上させるからな。【ハヤブサの目】は。視覚アップのスターでも上がるけど……アレ、視覚に関しては全ての能力を向上させるらしいからな。まぁ倍率が低くて、【ハヤブサの目】や【鷹の目】とか、特化型のスターを覚えた方がいいけどな」
「なるほどな。相変わらずの博識ぶりで……ところで、これどれくらい戦ってるんだ?」
「んー15分くらいじゃねーか?」
「すげーな。よくSPが持つぜ」
「だな。ノゲイラの方は【マスター】を使っているんだろうけど、多分、あっちの武道家の方は、旅人と併用で……」
けっこう的外れな意見だな、と思いつつ。
まず、僕は格闘技の経験は無いし、武道家のスターも持っていない。
意外と人って本質が見えていないだな。博識って友人に言われる人でも……とか考えてふと気付く。
(あれ? 武道家のスター? そういえば、これってゲームで、ダメージって……)
僕は鎧武者のガラ空きボディに蹴りを叩きこんで、チラリと腰に付けているモノを見る。
皮のムチ。
僕の武器スター。
鎧武者は僕に蹴られた事などまるで無かった事のように、ムクリと立ち上がり突きを繰り出してくる。
おそらく50発以上蹴っているのに、だ。
(コレは……そうなんだろうな。多分)
ゲームのシステム。
武器はその武器のスターを装備していないと武器としての効力を発揮されない。
それは、何も身につけない、素手も同様だ。
素手で有効なダメージを与えるためには、武道家でそれ用のスターを習得しなくてはならない。
鎧武者を蹴った時に激しく飛んでいくから、大ダメージを与えているように見えていたけど、コレはゲームだ。
見た目と効果が違うなんて起こりえるだろう。
(だったら……)
鎧武者にダメージを与える方法を思考する僕。
こんな思考が出来るほど、今の僕には鎧武者との戦いに余裕がある。
美しかった鎧武者の突きも見慣れすぎてしまい、僕にとって、今では単調な動作を繰り返すただのロボットになっているのだ。
美人は3日で飽きるというが、鎧武者の美しい突きのパターンも全て把握してしまった。
ってこの鎧武者の突きは上 中 下の方向に突いてくる3パターンのみだが。
体をひねってかわし、先ほどと寸分違わぬ所に蹴りを置く。
「ウホォーー」
鎧武者の体は5メートル程吹き飛んだが、全然堪えていない。
(えー……っと。うん。コレだな)
自分が出来る事を考え、周囲の環境を考え、鎧武者を懲らしめる方法を思いつく僕。
こんな時はスラスラと良いアイデアを考えつくモノだから人って不思議。
この思考の速さを、社会の時間に使えれば、澤木さんに笑われずに済んだモノを。
僕は出来ることをする。
僕が出来ることは、陸上だ。
ギャラリーをジャンプスターで飛び越え、僕は走りだす。
「ウホォ? 良いケツゥウ!!」
ガシャガシャと鎧武者が走って追いかけてくる。
さすがに、僕と鎧武者の試合を見ていた人も、この武者には関わりたくないようで、鎧武者のために必死に道を空ける。
まるで海を広げて道を作ったモーゼのようだ。
(えーと……この近くの……あった!)
僕は鎧武者との距離を気にしつつ、目的の場所を目指す。
(殺す気はないけど……これ以上追いかけてくる気を無くさないとな)
僕は細い路地を駆け抜けた。




