第38☆
僕は、街の中央広場に来ていた。
始めて12☆Worldをプレイした時に、200万人のプレイヤーの怒号におっかなびっくりしたあの場所だ。
広さは、半径1キロくらい。
超広い。
広場は全面、白い石畳で覆われている。
中央は広場から階段状になっていて、20メートルほど高くなっている。
なんか、ピラミッドみたいだ。
そこに巨大な石柱が3本並んでいる。
10メートルくらいの高さだろうか。
一メートル置きに切れ目が入っていて、ブロックを積んだようになっている。
広場には所々、噴水やら銅像やら出店が見える。
噴水から流れ出た水は、東西南北の4方向に流れて、近くの川に向かうようである。
北の方に海があるので、川は最終的にそこへ向かうのだろう。
あ、猫の像がある。
白い大理石のようなモノで出来ている、3メートル程の高さの像だ。
足元にお皿が置いてある。
ふーん。ルーズ……? だっけ?
アイツに会うときはここにカレーを置けばいいのか。
像の周りに煮干しが散乱していているけど、猫だからか?
とりあえず、自分のプレイヤーストーンの所に向かう。
地図に自分のプレイヤーストーンの位置が表示されるから迷うことは無い。
僕のプレイヤーストーンは、中央の石柱の近くにある。
石柱から階段を3段降りた所だ。
プレーヤーストーンは1メートル間隔で規則正しく広場に並んでいる。
良く見ると所々抜けているプレイヤーストーンがある。
移動したのか。
プレイヤーストーンは、拠点さえ買えば、移動できる。
マキ達みたいに最高級な拠点を買えば、100万Bとかするが、別に1人用の小さいのなら1000βからあるらしい。
現実のお金で100円。買う人は買うだろう。
僕は自分のプレイヤーストーンに触り、起動する。
ここで出来る事は、パーティーの設定や、道具の売り買いなどだ。
今回はポーションを売りに来たので、道具の売買を選択する。
すると、プレイヤーストーンからホログラムで出来た画面が映し出される。
12☆Worldでは、アイテムをプレイヤーに売るのに2つの方法がある。
店舗を出して、お客と直接会って取引するか、プレイヤーストーンを使って、情報だけを提示して売るか、だ。
簡単に言えば、フリーマーケットで売るか、ネット通信で売るかみたいなモノだ。
僕は、お店も無いので、とりあえずプレイヤーストーンを使ってポーションを売る。
まずは、店舗名を付けるそうだ。
後々、お店を構えた時に分かりやすくするためだろうか?
店舗名……出品している他の人を見ると、そのままプレイヤー名を使っている人が多いようだが……。
僕の名前、桜。
サクラ……桜肉……馬……馬鹿。
誰がバカだ!!
……はっ! 自分にツッコンでしまった。セルフツッコミだ。恥ずかしい。
まぁ、けど馬と鹿。
両方とも好きな動物だ。足が速いし。
じゃあ……
「ディアホースっと」
鹿のdeerと、馬のhorseでディアホースだ。
ディアは親愛なるという意味のdearとも掛かっているし、中々カッコいいじゃないか。
店舗名を選択して空中に表示されているOKボタンを三回瞬きで選択すると、
【この名前は現在、他のユーザー様が使われておりますのでお使いになれません】
と、表示されてしまった。
マジか。被った。
「うーん。じゃあ……」
桜を下手にいじると、中々ダサい名前になる。主に、経験的な意味で。
どうするかなーと悩んでいると、ふっ、と12☆Worldで一番馴染みの深いモノが浮かんだ。
「……ゴールデン☆アップル……っと」
OKボタンを選ぶと、承認された。
再度表示された確認のボタンを瞬きで選び、僕の店舗名が決まった。
ゴールデン☆アップル
自分の名前は関係ないけど、まぁいいか。
ホログラムに仮想の店舗が表示されたので、そこに、作ったポーション20個と、ポーションだけでは寂しいので、オレンジジュースとイチゴジュースをそれぞれ10本ずつ並べた。
価格はポーションが300B。ジュースを150Bにした。
仮想の世界で仮想の店舗とはこれいかに?
まぁ細かい事は気にしない。
またOKボタンを押して、ゴールデン☆アップルの商売が始まった。
そして、他の店舗の情報やアイテム、そういえばゼリー状のSP回復アイテムでもないかとプレイヤーストーンのホログラムをいじっていると、後ろから
「ウホ! 良いケツ!」
と声が聞こえた。
はぁ!? と思い後ろを振り返ると、そこには武者がいた。
うん。
コレは武者だ。
超武者だ。
10人いたら10人が武者だと答えるくらいこれは武者だ。
黒い和風の鎧が全身を覆い、翁の面を付け、子供の日とかで良く見るような兜には、額の所に【漢】と書いてある。
しかしその右手に握られているのは、どう見ても日本の槍ではなく、西洋のモノだった。
ランスとか、スピアとか?
けど、ただ先端に刃が付いているだけじゃなくて、なんか複雑な形をしている。
鎌みたいに曲がっている刃のようなモノが、刃と同じ方向に向いているモノと、逆方向に向いているモノが先端のまっすぐな刃に付いているのだ。
そして、持ち手の先の方に鎖がジャラジャラと連らなっている。
なんていう武器だろうか?
マキみたいに武器に詳しくないので分からない。
そんな武者が、僕より高い場所、3本の石柱がある場所から僕を見降ろしてる。
そして武者は僕をに向かって言葉を投げかけた。
「ウホ!! 良いケツ!! や ら な い か!?」
キャッチしたくない言葉と共に、武者が僕に降ってきた。




