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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月6日(水) ポーション☆クサリ槍☆友情
35/85

第33☆

 いつも通り、家の半径500メートル周囲を囲んでいる朝の時間担当のストーカー3人と、交番にいるストーカー警官に注意と言う名の挨拶をして、バスと電車を乗り継ぎ、学校に到着する。


 乗車率100パーセントの電車に乗ると、日本って遅れているよなって常々思う。


 足を骨折しているため、上手くバランスがとれず、上手に靴箱の中の上履きをとれなかった僕が頑張っていると、後ろから声をかけられた。


 この声は! と胸を弾ませながら後ろを振り向くと


 「おっす! おはよー」

 同じクラスで、女子サッカー部のエース。

 澤木 レナ(さわき れな)さんがそこにいた。


 明るくてクラスのムードメイカーである彼女は、誰にでも優しくて、クラスの男子からの人気ナンバーワンだ。


 「おはよう」

 と僕も返す。澤木さんの笑顔につられて、僕もつい笑顔になる。

 澤木さんはぴょんと軽く飛んで僕に近づくと、僕の代わりに上履きをとってくれた。

 しかもちゃんと左足のみ。

 さすが澤木さん。気がきく。


 「ありがとう」

 とお礼を言って、折れていない方の上履きを履く。

 ちなみに右足はほとんど地面に付けていないので汚れていません。


 「いいよいいよ。それよりも骨折かー。大変だね。部活にも出れないんだ?」

 と自分の上履きを履きつつ質問をする澤木さん。


 「うーん。部活に出れないのは、骨折が理由ってより……ね」

 苦笑いをしつつ答える僕。


 澤木さんも、僕が何を言いたいか分かったようだ。


 「あー、ネズミのせいか……あれはしょうがないね。あんな事されると、部活どころじゃないし」

 と澤木さん。


 「女子サッカーの人も見てたんだ」

 僕は苦笑いのまま答える。


 「そりゃねぇ……校庭のど真ん中で、額から血が出るように何度も土下座しながら地面に頭突きして、大声で 『サクラ先輩!! 申し訳ありませんでしたぁ!! こんな至らない僕をぉ!! どうか殺してくださぁい!!』 って絶叫していたらねぇ……」

 と澤木さんは同情しているような目で僕を見る。


 「うん……僕が部活に行くたびに、ネズミが大騒ぎを起こすから、ケガが治るまで部活には行けないよ」

 とうなだれながら答える僕。

 その行為が本当に誠意から来ているのであればまだいいが、明らかに悪意が見え隠れするのだ。

 人の注目を浴びるような謝罪。

 人の気分を害する謝罪。

 現に僕は部活に出れない状況にされている。


 しかし、見た目は謝っているだけなので、こちらも強く言えない。

 というか一度謝罪を止めるように言ったら、自殺騒動にまで発展したのだ。


 思いだしただけで気がめいる。

 僕は思わずため息をつく。


 「はっは。まぁ、元気だしなよ!」

 と右手を僕に差し出す澤木さん。


「ん? 何コレ? 握手?」


 と僕は首をかしげる。澤木さんの手を握れるなんてドキドキするんですけど。


 「違う! カバン! 大変でしょ? 持ってあげるよ」

 と澤木さん。


 「いや! いいよ。コレくらい平気だし。 女性に荷物を持たせるなんて、男してダメ! 絶対!」

 と断る僕。


 すると澤木さんはニンマリと笑い、

「ほうほう。さすがサクラくん。女子に荷物は持たせない……と、じゃあ、コレお願い」

 と澤木さんは、自分のカバンとスポーツバックを僕の首にかける。


「っちょ!? コレは違うな!?」


 澤木さんのバックは着替えやらなんやらでけっこう重い。

 重さで頭が下がる。

 しかも少し汗臭い。

 「あはははは。じゃあ、行こうか」

 と楽しそうに笑う澤木さん。

 いつもの朝の光景に僕は良い意味の苦笑いを浮かべた。


 廊下を歩きながら、澤木さんと会話する僕。


 「へー。サクくん。ニボシ持ってるんだ」

 スゴーイと澤木さん。

 持っているだけなのにスゴイと言われるのは良く分からないが。

 これも女性と男性の違いだろう。

 

 「うん、マキとサキが買ってくれてさ。ゲーム内なら走れるでしょ?ってさ」


 「ふむふむ。それで、やってみてどうだった?」


 「うん。それが思ったよりも良くてさ。動きとか感覚とかスゲェリアル。骨折してて暇だったし。良い練習になるね」


 はははと笑う。

 澤木さんのカバンを首にかけながら。

 地味にキツイ。


 「へー……なるほどね。なるほど……」

 そう言いながら澤木さんは上を見る。何か考えごとでもしてるのかな?

 「ん? どうかした?」

 僕は澤木さんに聞く。


 「へ? いや何でもないよ。ちょっと考えごとしていただけ。そうだサクくん。今度の日曜日はヒマかな?」

 と澤木さん。


 ……澤木さんからのお誘いだと!? 


 ……見ろ! マキ! 僕は暇じゃない!! 


 「ああ、暇だよ。何で?」

 と返す僕。

 え? 

 マキとの約束? 

 妹との約束なんて、兄貴にとってあって無いようなモノなのだ。

 幻、幻想だ。

 妹なんて、夢、幻の少女だ。


 「うん、その……あのさ……!」

 と澤木さんが何か言いかけていると


 「ちょっとまった」

 と静かな、しかし凛とした声が廊下に響く。


 長くて黒いストレートの髪を優雅になびかせながら登場したのは、サキだ。

 

 「ごめんなさい。サク兄ぃは、日曜日、妹と遊ぶ約束をしているの」

 にっこりと笑いながら僕と澤木さんの間に入るサキ。


 ……コイツ! 余計な事を!!


 「え? でもサクくん今暇って……」


 「サク兄ぃは勘違いしたんです。ねぇ? サク兄ぃ?」

 とサキはニコリと恐怖の笑顔を僕に向けてくる。


 コイツ……!! いや! 負けるな僕!


 「へ? 何言ってんだ? 僕はにちy」


 がっしりと口をサキの右手に抑えられた僕。


 さらにサキはその口を僕の耳元に持ってきて囁いた。


 「……裏切りモノには死を……社会的な」


 僕は背中から汗が大量に出るのを感じた。

 コイツ……!!!


 僕とサキはほとんど同じ家に住んでいると言ってもいい。

 だから、お互いの弱みなんて知りすぎているほど知っている。


 だが、厄介な事に、サキはその美しさからか、情報発信能力が半端ではない。

 女子にもストーカーと言う名の信者がいるしな!

 一度、中学生の時、サキが嫌った先生の悪口を言っただけで、その先生は教師を辞めた事がある。

 陸上部の元顧問だ。

 嫌いだったから別に良いけど!

 その先生の練習メニューがドリルと走り込みだけだったし。

 まぁ、そんな伝説を数えるとキリが無いほど持っている女性なのだ。


 お互い弱みは知っている。最後におねしょをした年齢とかな。サキは13歳だ。


 しかし、圧倒的格差のある情報発信能力。

 僕は正確に状況判断をし、適切な行動をとる。


 「……ああ! そうだ! そうだった!! そう言えば日曜日はマキと約束していたんだった!! ごめんね!」

 僕は悲しみの表情を隠すように笑顔を作った。

 ……チクショウ!!


 「そっか……残念だなー」

 と澤木さん。

 残念なのはコッチです!!


 次の日曜日はどうかと代案を出そうとしたが、チャイムがそれを止める。

 それを聞いて、僕達は慌てて教室に向かう。


 サキも早歩きで颯爽と去っていった。

 遅刻しても、担任がサキの信者なのでどうとでもなるのだろう。


 女性には勝てないと、今日も僕は実感したのだった。


ドラゴンクエストX発売記念! 連日更新!



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