第31☆
2112年 7月6日(水)
いつも通り、襲来してきた妹的小学生を撃退した僕は、朝食をとりつつモニターに映るテレビのニュースを見る。
真面目そうな、若いメガネをかけた少しイケメンの男性のキャスターと、美人のアナウンサーが、評論家をゲストに招いて、語り合っている。
内容はもちろん、昨日販売されたVRMMO 12☆World、ニボシの話題である。
『こんな事が許される訳ないじゃないですか! 12億の賞金がかかったゲームですって!? こんなのギャンブルと同じですよ! このゲームは子供もするんです! 即刻発売を中止すべきです!』
と評論家のメガネをかけた女性が騒ぐ。
『なんで、12億の賞金がかかっているゲームを子供たちがしちゃいけないのか、僕は理解に苦しみますね。今の世界で、お金を稼ぐ手段は限られています。『仕事が無い!』と、デモが起きるくらいですからね。こんな形であれ、お金を子供たちが意識するという面でも、僕は良いと思いますけどね』
と、短髪のちょっと悪い見た目のおじさんが自分の意見を言う。
『そもそも、子供がVR機を使える事が問題なんですよ。脳波をコントロールするVR機が脳にどのような影響を与えるのか、まだ十分な検証をされているとはとても言えませんから』
とインテリに見えるスーツを着た男性。
『その検証は、昨年の12月に南アフリカのプレトリア高等大学で安全であると結論づけられたじゃないで……』
『いや、あの論文はまだ、根拠としての説得力に……』
角刈りのゴツイ体格のおじさんの言葉をさえぎり、インテリ風の男性が否定する。
すると、メガネをかけた女性が
『そもそも、ゲーム自体が脳に悪影響なんですよ。これは100年以上前から言われ続けている事です』
と関係あるのか無いのかよくわからない話をしだして、
『いや、それは反論も沢山出ている論文で、ゲーム自体が脳に悪いというわけじゃ』
とインテリ風の男性。
しかし、メガネをかけた女性は聞いていないようで
『いーや。ゲームをすると頭が悪くなります! じゃないと、あんな幼い子が、あんな破廉恥な真似しないでしょう? 私はビックリしちゃいましたよ! 恥ずかしいったらない!! 話題だからって調べてみたら、出てきた検索結果は全部、女の子の下着を映したモノで……、コレは日本の恥になります! 良いですか? こんなモノを見て喜んでいるのは日本国民くらいで……』
『いや、ミカた……田山先生のおっしゃっている動画は、日本だけじゃなくて、むしろ世界の人が見ているモノですけどね』
『いーや、こんなモノ見ているのはバカな日本の……』
『とにかく!! その話題は、少し議題から逸れてしまうので、また後日話しましょう!』
と、女性の評論家、田山さん?の意見を遮って、ニュースキャスターの男性が、場をしきり直していた。
古臭い番組だなと思いつつ、
僕はチラリと、おそらく田山とかいう評論家が話題にしていたであろう動画の女子を見る。
その子は僕の前の席で、卵焼きに、食べる塩麹をかけていた。
「お前、ゲームのやりすぎで頭が悪くなったんだってさ」
と僕は、その女の子。マキに話しかける。
「そうだね。けど、もし私の頭が悪くなっているんだとしたら、それはゲームのせいじゃなくて、毎朝頭を締め付けるどこかの凶悪なお兄さんの所為だけどね」
とすでに色々な液体がかかっている卵焼きを口に入れるマキ。
すこしほっぺを膨らませて不機嫌だ。
「いや、毎朝キスをしようとさえしなければ、その凶悪なお兄さんも優しい人になると思うぞ」
と、僕も、特に何もかかっていない卵焼きを口に入れながら話す。
サキが作った卵焼きは、少し甘くて何も付けなくても美味しい。
サキは朝練に行っている。
ちなみに、僕は普段から朝練に行かない。
僕まで行くとマキが朝一人になるからな。
代わりに毎朝10キロ走っていたんだけど。
まぁ、足の骨折をしている今は、ゆっくりとお食事中だ。
マキは、先ほどの僕の言葉に何の反応も返さずご飯を口に運ぶ。
少し気まずいので、僕はまたモニターに視線を戻す。
評論家達の話し合いはひと段落したようで、次は12☆Worldの攻略についての特集のようだ。
☆12億をとるためにはどうすればいいの!?☆
というポップが付いた12☆Worldの地図の後ろで、女性アイドルギルド【11+1】のメンバー2人が何やら解説している。
「以上が、子守の森でのレベル上げにおススメな場所でした」
メガネをかけて、三つ編みにしたツインテールを特徴にしている11組の委員長こと飯野 りょう (いいの りょう)がぺこりと頭を下げる。
「へー。HPが回復する泉とかあるんですね」
ふむふむと頷くのは、正統派アイドルと言えばコレ! といった容姿のツインテールが人気である。11+1のセンター 前元 裕輝、えもゆー♪だ。
♪がポイント。
「はい。この辺りはモンスターの湧きも良く、レベル上げには最適ですね。スターフルやホシリンゴなどを倒せば、SPを回復できるアイテムも手に出来ますし」
と委員長。
「ほうほう。でも、この森には、12億を手に入れるために必要なクエストモンスターはいないんでしょう?」
と、真面目なフリをする11+1のイジられキャラ、肩までの長さのツインテールが特徴の明生陽子通称メン子が顎に手を当てて、まるでどこかの偉そうな老人のようにプラスに質問する。
「はい。そうですね。子守というくらいですから、ココには初心者用のモンスターしか出ません。クエストモンスターは、」
「このあたりの、子森の森を抜けた先の草原、愛見草原に、おそらくメインクエストに関係しているボスモンスター【憤土の牛】が出現します。このモンスターを倒すと牛の守玉がというアイテムが手に入ります」
「皆さんもご存じのとおり、12☆Worldは十二支をテーマにしたゲームですから、このヒントの12のシンとは十二支の事で、宝とはこのボスモンスターを倒した時に得られる守玉ではないかとなるわけです」
と、ホログラムで出来た、11+1の唯一のAI制御の人工メンバー。
メガネをかけた、足もとまで伸びた青緑色のツインテールがチャームポイントのプラスが淡々と解説する。
「へー☆。それで、その【憤土の牛】を倒すのには、どれくらいレベルを上げないといけないのかな?」
と、右ほほに☆のペインティングをしているハイテンション娘、耳までの長さのツインテールがぴょんぴょんと元気にはねる、兎耳山 飛翔 (とみやま ぴょん)、ぴょん☆ぴょんが、右手をピーンとあげてプラス先生に質問する。
「そうですね……だいたい、ソロならプレイヤーレベル50~60。12人パーティーなら一人30レベルといったところでしょうか?」
と質問に答えるプラス。
「えー!? 30!? 私たちまだ10レベルもないよーーーー!! 倒せるようになるのに、どれくらいかかるのーー!?」
「ふーん。アスカには無理でも、私なら倒せるもんねーー!!」
「何をーー!!」
と、双子のような外見の、実際には双子ではない11+1の元気印。
ツインテールがトレードマークの小学5年生コンビ、アスカとアヤナがごろごろとじゃれ出した。
「ちょっと! 止めなさい!」
と、11+1のリーダーで、ギルドのお母さん役のなっさんこと、菜馬瑠 千代が、自慢のツインテールを角のように逆立てる勢いで、アスカとアヤナを叱る。
しかし、それでも二人は止まらない。
アスカのツインテールと、アヤナの金髪のツインテールがスタジオ中を暴れまわる二人を止めようとするメンバーのツインテールと絡まって、集まっていき、いつしかそれは巨大なキングツインテールへと……
って、多すぎるだろツインテール!
一人ひとり微妙にツインテールの仕方が違うが、全員ツインテールって!!
変な幻覚を見たじゃないか!
実際は、11+1のメンバーがもつれて転がっていた。
あ! なんと!?
11+1で一番好きな、大人しい感じと清純さに癒される、キタカゼこと高校3年生の北森 風香のパンツが、こけた拍子で丸見えだ。ピンクのTバック。
……マジで!?
あの清純なキタカゼがTバック……だと!?
僕はその光景をすぐに心の動画倉庫に焼き付ける。
(視ろ! 見るでも観るでもなく視ろ! 心の奥底にまで永遠に刻み込むのだ!)
僕の右手は条件反射的に、ポケットの中へ入っていく。
「……いやらしい」
!?
ポケットに入っているカードを起動して、この映像を録画しようとしたが、ギリギリの所で止まってしまう。
(ぐ……なぜコイツがココにいるんだ? 神は僕を見放したとでも言うのか!?)
コイツとはもちろん僕の妹的存在のマキのことだ。
マキの言葉が、僕を神の時間から遠ざけた。
画面はすでにどうでもいい男のキャスターを映している。
チクショウ!
「いやらしいって?」
「ああ、サク兄ぃのことじゃないよ。サク兄ぃもいやらしいけどさ。まぁ今のはあのアイドルどもの事だね」
ぐ……まさか、僕の、右手の動きに気付いたのか!?
こいつ……さすが、忍者という事か。
なんて、そんな事はどうでもいい。
「なんで?」
何がいやらしい? パンツの事か?
だがしかし!
清純そうな子のああいったパンツはいやらしいのではなくありがたいのだ!
神だ! 神!!
「あいつら、昨日までさっきテレビで言ってた狩場を独占していたんだよ。まぁ、実際に独占していたのはファンの連中だけどね。で、自分たちが使わなくなったから教えて……レベルの話も……まぁ、コレくらいなら可愛いか」
マキは立ち上がって冷蔵庫に向かう。
そんな事あったんだ。狩り場の独占ってやつか? ……よくわからんな。
モンスターの出現数とか決まっているのか?レベルも……何かあるのか?
まぁ、そんな事より。
「可愛いかって……やっぱ、色々悪い事している奴とかいるのか?」
「まあね……12億がかかっているにしては、大人しい気もするけどね」
冷蔵庫からメープルシロップを取り出すマキ。
……何にかける気だ!?
「聖典騎士団 (テンプルナイト)って奴らは、他のプレイヤーを脅して、無理やりギルドに加入させたり、協力させたり。魔狩未知ってギルドは、ほかのギルドが弱られせたモンスターを横取りしたりね。色々だよ。」
マキはメープルシロップを卵焼きにかけ始めた。
ウゲェ、と思いつつ、マキの話を聞く。
「けどまぁ、PKする奴よりましか。」
「ん?PKってなんだ?」
僕は、マキの行為に引きつつ、聞きなれない単語に反応する。
PK? ピンク、パンツ、キタカゼ?
何その神単語!
「ああ、PKってのは、プレイヤー・キルの略称で、プレイヤーを殺して、アイテムとかを奪うプレイをする人の総称ね」
とマキ。
「な!?そんな奴がいるのか?」
少し憤慨する僕。人殺し。奪う。
僕の嫌いな言葉だ。
「まぁ、PKをするのに色々違いはあるけどね。私の知っている人には、PKをネタにしているある意味体を張っている人もいるし。」
「けど、これから色々な人が増えるだろうね。仕事が出来ない世の中だもん。生活は出来るけど、お金はあればあるだけ良いしね」
「まぁ、な。」
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。
この時間に、僕の家に来ると言えば




