第25☆
「なんか、とんでもない出来事に遭遇した気がする……後でマキに相談するか」
スターの習得には主に3つの方法があるそうだ。
お店で買う、スター取得条件をクリアする、イベントでNPCから貰う、だ。
今回のスターは後者だろう。
そして、マキいわく、スターをくれるイベントはそのイベント自体がレアで、イベントで貰えるスターも貴重で効果が良いモノが多いそうだ。
それはそうだろう。
通常の、基本スターでさえ買うのに12万Bもするくらいだ。
NPCがくれる特別なスターの価値は計り知れない。
マキもβテスト中に一度だけ遭遇したことがあるだけだそうだ。
おじさん、コウテイさんの事も気になるが、これは、初心者の僕が分かることではない。
僕は気持ちを切り替えて、当初の予定通り、東の森に来ていた。
フルーツリーの森に向かうためと、あるモノを採取するためと……
「とにかく、あのおじさんが何であれ、いっちょ走りますか!」
走るためである。
先ほども50キロほど走ったが、まだ僕には物足りない距離だった。
いや、ゲームの中の走るスピードが速すぎて、50キロも走った気がしないのだ。
現実では、僕がどんなに頑張っても出すことのできないスピードで、ゲームの僕は走る事が出来る。
そう考えると、ゲームの世界って楽だな。
レベルを上げれば簡単に速くなるんだもんな。
現実では、どんなに走っても、速くならない奴はならない。
努力と実力は比例しない。
まぁ、トップ選手はすべからく努力してるけどさ。
ストレッチをしつつ、周囲を見渡す僕。
昼間よりも人が多い気がする。
僕が見える範囲でも100人はいる。
夜だし、モンスターを倒すのを控えているのだろう。
夜になると、モンスターの討伐難易度が上がるらしい。
理由は、暗いから。
夜になるとモンスターの攻撃がよく見えないのだ。
「けど、こんなに鮮明に見えるのになー」
僕は森の方を見る。
むしろ昼間よりも良く見えた。
昼間、山の方にかかっていた霧がかかっていない。
100メートル程の巨木に、その手前にうっすらと昼間では見えなかった大きな岩壁。
そして、4000メートルクラスの山に、頂上で輝きを放つ群青色の大岩。
綺麗だ。
「やっぱあの大岩は間近でみたいなー」
と群青色のフェチの僕はつぶやく。
そしてストレッチをあらかた終えた僕は、思い出したようにスターの変更画面を開く。
「そうだ、せっかくだからおじさんから貰ったスターを……あれ?」
僕は自分のスター一覧を見て首をひねる。
そこには見覚えのないスターがあったから。
「【暴食】? なんだこれ?」
【暴食】特殊スター Lv☆
(効果)あらゆるモノを喰らい あらゆるモノを飲み込む事が出来るようになる。
……おそらく、先ほど餓死した時に習得条件を満たして手に入れたスターなんだろうけど、なんか暴食なんてカッコいい名前が付いてるわりに、コレって
「どうやって使うんだ?」
……いや、考えてもみてほしい。
あらゆるモノを喰らい~なんていかにもカッコいいし、強そうだけど、基本的に、SPを回復出来るモノは食べれるモノのはずだ。
ポーションを飲んでもSPは回復しないように、多分そこらへんの岩とかを、このスターを使って食べても、SPは回復しないだろう。
なぜなら、アイテムの効果に、SPを回復すると表記されていないから。
SPを回復出来ないモノを食べる必要は、このゲームには無い。
ってか、例え岩とか砂を食ってSPを回復できるようになっていたとしても、僕は食べない。食べたくない。
先ほどの餓死で、僕の嫌いな食べ物ナンバーワンの座は 砂 になっている。
ぶっちぎりだ。ダントツの一位。
類似している岩とかも同様だ。
ではモンスターを倒すのに使えばいいかというと、そうでもない。
僕に、モンスターに喰らいつく度胸があったら、多分ムチなんて武器スターを選んで無いだろう。
「名前を見て期待しただけに、残念だな」
僕は肩を落とす。
暴食って! カッコいいだろう! ワイルドだろう? 確か7大欲の1つだっけ?
なのにこんな効果。
この分だと、おじさんから貰ったスターも期待できないかもしれない。
おじさんから貰ったスター【何も持たざる者】の効果を見る僕。
【何も持たざる者】特殊職業スター Lv☆
(効果)あらゆるモノを持てるようになる。さらに、あらゆるモノを装備する事が可能になり、その効果を最大限発揮させることが出来るようになる。
「あれ? これって……」
僕は効果の欄を良く見る。
「あらゆるモノを装備することが可能……なに!?」
僕は目を見開く。
「つまり、コレがあればわざわざ武器スターを買わなくても済むって事だよな?」
さっそくマキが出してきた課題をクリアしてしまった僕。いや、正確にはあとは槍か剣を買わないといけないのだが。
それでも、コレはほとんどクリアしたようなモノだ。
せっかく錬金術師の実力を見せようと思っていたのに、少しやる気が削がれた気分なったが、まぁいい。
「……いや、まぁ金策は必要か。食料も買う必要があるし。服も変えたい。お金はあればあるだけ良いよな」
ニ度と餓死はしないと心に決めている僕。
金は何に使うか分からない。
目的は無くなったが、当初の予定通り、金策を行うためにあるモノを探しつつ走る事にする。
目的と手段が混ざるのは僕の得意技だ。
調薬のスターとムチのスターを外し、【何も持たざる者】のスターと【暴食】のスターを装備する僕。
【暴食】は使えないと思っているけど、名前がカッコいいし、付けておきたい。
走って採取している間は、調薬は使わないしね。
ムチも【何も持たざる者】があれば必要ない。
「さて、走るかね」
準備を終えた僕は駆け出した。




